桃園家のおせち料理/一六◆6/pMjwqUTk




<年末、桃園家の台所にて>

あゆみ「ええっと、これで伊達巻きと田作りと黒豆が完成ね。あとは……」
せつな「お母さん、昆布巻き、巻き終わったわ」
ラブ 「あたしも、お煮染め用のレンコンとお芋、切り終わったよ」
あゆみ「ありがとう。二人が手伝ってくれて大助かりよ。じゃあラブ、次はこれをお願いね」
ラブ 「うっ……ニンジン……」

せつな「ニンジンも、おせち料理に使うの?」
あゆみ「ええ。大根と一緒に千切りにして、紅白なますにするの。あとは、梅の花の形に切って、お煮染めに入れるのよ。ニンジンの赤が彩りになって、とってもきれいなんだから」
せつな「へぇ、お花の形にするなんて素敵ね。それで、あのぉ、お母さ……」
ラブ 「よぉし。せつな! あたしが切り方を教えてあげるね」
せつな「……ええ、ありがとう、ラブ」

ラブ 「まず、ニンジンを輪切りにして、こうやって切り目を入れてぇ……」
せつな「なるほど。円周を五等分にするように切れ目を入れて、その切り目と切り目の間が一枚の花びらになるように、まぁるく切っていくのね」
あゆみ「そうそう。綺麗な梅の花になったわねぇ、せっちゃん。ラブも、包丁の使い方がホントに上手になったわ」
ラブ 「えっへん!」
せつな「嬉しい。ありがとう、お母さん」

あゆみ「それで? せっちゃん、さっき何を言いかけたの?」
せつな「……ううん、何でもないの」
ラブ 「そう言えばさ、お母さん。緑の野菜って、おせち料理にはあんまり使わないよね?」
あゆみ「そうねぇ。おせちにはやっぱり、日持ちがするものじゃないと。だからどうしても、野菜は根の物が多くなるわね」
せつな「じゃあ……」
あゆみ「ええ、ピーマンも使わないわよ、せっちゃん。うふふ。ひょっとして、さっきからそれが気になってたの?」
せつな「あ……いや、その……」

ラブ 「なぁんだ、せつなったら。あ、でもそう考えたら、ちょっとズルい。ニンジンはちゃぁんとおせちに入ってるのにぃ!」
せつな「それとこれとは、話が別よ」
あゆみ「コホン。二人とも、来年こそは好き嫌いしないのよ?」
せつな「はい」
ラブ 「はぁい」
あゆみ「うん、よろしい」

ラブ 「あ、でもさ、お母さん。お雑煮は長く置いておくわけじゃないから、緑の野菜、使えるよね? 根の物じゃなくて、葉の物も使えるんじゃない?」
あゆみ「(ギクッ)」
せつな「お雑煮って、汁物の中にお餅が入っているのよね? となると、白いお餅にぴったりの色と言ったら、やっぱり緑かしら」
ラブ 「うん! 彩りとしてぴったりなのはぁ……せーのっ!」
ラ&せ「ホ・ウ・レ・ン……」
あゆみ「そ、そうそう! 鏡餅を飾るお三方、出しておかなくっちゃ。お父さーん!」

ラブ 「もうっ! お母さんってば、ズルいよぉ」
せつな「クスッ、フフフフフ……」
ラブ 「アハハハ……」


――そして年が明け――


<元旦、桃園家のリビングにて>

圭太郎「おおっ! やっぱり我が家のおせちは、旨そうだなぁ!」
せつな「うわぁ、重箱に入って並べられると、一層鮮やかで、美味しそうね!」
あゆみ「でしょう? それぞれの料理にはね、一年の幸せを願う、いろんな意味があるのよ。はい、せっちゃん。黒豆、どうぞ」
せつな「ありがとう。……甘くて美味しい。このお料理にはどんな意味があるの?」

圭太郎「黒は、厄除けの色と言われていてね。健康であることを、「マメだ」とも言うことから、一年元気で過ごせますように、という願いが込められているんだよ」
ラブ 「なんかおせち料理の意味って、お父さんのオヤジギャグみたいなのも多いよね。「よろこぶ」に掛けて「昆布巻き」とか、「めでたい」に掛けて「鯛の尾頭付き」とかさ」
圭太郎「アハハ……それもそうだなぁ」

せつな「うふふ、ラブったら。そう……黒には、そんないい意味もあったのね」
あゆみ「ええ。せっちゃんが好きな赤も、魔除けの色と言われているわ。白は清めの色だから、紅白でおめでたい色、って言われているのよ。だからほら、昨日二人が作ってくれた紅白なますもそうだし、蒲鉾も、赤と白でしょう?」
せつな「ええ。紅白に並んだ蒲鉾って可愛いわね。でもこの色は赤と白って言うより、何だか……」

ラブ 「せつな! んふふふ~、これ見て!」
せつな「なぁに? ラブ。お皿の上に、紅白なますに海老、それから昆布巻きに黒豆??」
ラブ 「ほら、この色合い……(小声で)キュアパッションです!」
せつな「あ……そ、それよりも、こっちの方がそっくりよ!」
ラブ 「えっ、なになに? 蒲鉾ばっかりこんなにお皿に並べちゃって。そしてその上に、ほどいた伊達巻? ああ、改めて見ると、蒲鉾の赤って、赤というよりピンク……え、もしかして……あたし!?」
せつな「……。(コクリ)」

圭太郎「ん? ラブもせっちゃんも、何をコソコソやってるんだ?」
あゆみ「あら、二人とも顔が真っ赤よ? お屠蘇が回っちゃったのかしら」
ラブ 「あ……アハハ、アハ、アハハハ……。せつな! 年賀状が来てないか、見に行こうよ!」
せつな「そうね、ラブ!」
あゆみ「あらあら、二人揃って行かなくてもいいのに。どんだけ仲良いのかしら、あの子たち」

初春や 仲良きことは 美しきかな

~おわり~
最終更新:2015年01月07日 22:13