「罠と囮」/ねぎぼう




 ノーザからの招待状を受けて占い館に戻ったせつなは今、不幸のゲージと対峙していた。

「貴女が精一杯頑張って人々の不幸を溜めたゲージよ。忘れちゃったかしら?」
「忘れるわけがない、これは私のあやまちの証。なら、もっと早くこのゲージを破壊しに来るべきだったのよ!」

 せつなはキュアパッションに変身した。

「こんなところでゲージを破壊すればどうなるかわかっているのかしら」
「それは私が一番知っている。溢れだした不幸のエネルギーに飲み込まれ、きっと助からないわ。それなら助からないのはあやまちに染まった私一人だけでいい! アカルン!」
「キー!」

 空間移動を駆使した戦いをサポートするだけではなく、自らの命も支える赤い相棒。
その姿を見て一瞬表情を緩めてみせた。

(ありがとう、アカルン。こんな私に命を預けてくれて。でももうこれで……)

 アカルンが赤い鍵となり、リンクルンにセットされた。

「パッションハープ!」

 パッションハープを召喚したキュアパッションはあろうことか腰のリンクルンキャリーを外す。
 その変身が解け、せつなの姿に戻った。

「何をするキー!」
「お願いアカルン、ここから離れて!」
「そんなことはできないキー」
「いままで命をありがとう、でももう貴女も巻き込むわけにいかないの。私なら大丈夫」

 そういうと、掌の節をすり合わせる。

「スイッチ・オーバー!」

 イースに姿を変えるととも敵に対する憎悪の感情を身に纏う。
 それはアカルンを自分から遠ざけるため。

 アカルンはその憎悪に弾き跳ばされる様にゲージの間からリンクルンと共に消えていった。

「その姿で技を放とうとでもいうのかしら?」
「ええ、これが最後よ。ハピネスハリケーン!」

 羽根の吹雪を纏い、イースの姿で回転していく。

 ラブとの、仲間との、家族との思い出がまさに走馬灯の様に駆け巡る。

(みんな、ありがとう。これが私の償い……)

 無数の赤いダイヤがゲージに向かって一直線に突き進んでいった。

「お願い、ゲージを壊して!」

 ところが渾身の一撃もむなしく、蔓の壁によってダイヤが黒く染まるとすべてがイースに襲い掛かった。

「かかったわね、己の黒い力で身を滅ぼすのだから、ざまあないわね」

 黒いダイヤは次々とイースを切り裂き、ダメージを与える。

「そんな…… 最初からゲージを破壊させようと。ラブ……」

 誰も傷つけたくない。
 其れ故の窮余の技が裏目に出たのかは知る由もない。

 結果として本懐は遂げられず、イースは力尽きた。

 *****

 気が付くとせつなはイースの姿のままでゲージを覆う蔓に磔となっていた。

 朦朧とした中でノーザはソレワターセの実をウエスターとサウラーに渡し、
プリキュアの追討を命じるのが見えた。二人の士気はいつになく高いようであった。

「ウエスター君、サウラー君、これを持ってお行きなさい」
「はい!」

 二人がいなくなったのを見計らうと、ノーザはゲージに縛められているイースに向き直った。

「残念だったわね、イース」
「私はもうイースじゃないわ」
「そうだったかしら?『せっちゃん』」

 あゆみが、圭太郎が呼んでくれる大切な呼び名。
それが穢されていくように感じられた。

「その呼び方はやめて!」
「ふふふ、やはり堪えるようね。でも貴女はもう『せっちゃん』でもないわ」

 せつなにはやはりもう戻れない……そう思い知らされる。

「ウエスター君はずいぶん喜んでいたわね。でもね、そんな私達を裏切り、
メビウス様に徒をなしてきた。
残念だけど貴女には相応の罰をあたえないといけないわ。
でももう管理データは操作できないみたいだし、だから……」

 パチン!

 ノーザが指を鳴らすと、ゲージを覆っていた蔓がイースの身体に向かって更に伸びてきた。
 蔓はイースを締め上げ、蔓から生える棘がその身を責め苛む。

「ぐぐぐ…… たとえプリキュアになれなくても私は貴女には負けない。責めるだけ責めるがいいわ」
「貴女がナキサケーベのカードの苦痛に耐えてきたことはわかってるわ。そう、これは痛みだけじゃないのよ?」

 蔓は、その腋に、胸に、そしてホットパンツの隙間をくぐるようにイースを責める。
肌を突き刺す棘から乳液のようなものが染み出てきた。それは不幸のエキスをエマルジョンにしたもの。棘による傷口や粘膜からも染み込んでいく。

「うっ……」

 イースの身体を、痛みとは違ったじんじんする感覚が襲い掛かる。
 世に人の不幸は蜜の味とは言われるが、エマルジョンとして適度に薄められた不幸のエキスは、悦楽をもたらす言わば媚薬のような働きをする。
 身体を締め上げていた蔓は、次第にイースの敏感な場所を焦らしながらも掻くように攻めあげていった。

「あ、あっ……」
「どうかしら? 不幸の蜜の味は」
「こんなものには私は屈しないわ!」
「でも、貴女の身体はずいぶん悦んでいること。仲間は今貴女を助けようとして
精一杯頑張った末にボロボロになっているのにね」

 せつなを救うためソレワターセと必死で戦い、傷ついている3人がモニターに映し出される中、意志とは関係なくホットパンツの隙間から、破れ目から垂れてくる蜜が太腿を伝って落ちていく。

「そんな……」

 ノーザはイースの太腿に垂れた蜜をその指で拭い取る。
 ぞわっとする感触。
 しかし、それが皮肉にもイースの子宮の奥底をさらにじんとさせた。

 拭ったその指をひと舐めして、ノーザは満足そうに笑みを浮かべた。

「この不幸の蜜、貴女自身が集めてきたものだけに特別甘いわね」
「私が、集めてきた不幸……」
「幸せのプリキュアを名乗っておきながら不幸の蜜に溺れている……
貴女のせいで皆が不幸なっている中で、当の貴女はこのようにね」

 そういうと、胸の赤いダイヤを引きちぎった。
 イースの両胸が露わになると、不幸のエキスにより焦れてすっかり固くなっていた胸の宝石が二粒。

「ふふふ、いやらしい子。コリコリになっているわね」

 胸の尖りを、ノーザは弄ぶように爪の先でいたぶる。

 嬌声などあげまいと必死に歯を食いしばって耐えるイース。
 しかし、不幸のエキスという「媚薬」によって更に強力になった悦楽に耐えぬくのは過酷なことであった。
 次第に意識が真っ白に近づいていく。

 このような状況でいたぶられ続けるなら、もうアカルンに返した命。
 いっそのこと……

「自ら寿命を終わらせようなんて考えてないでしょうね?」

 イースは心を見透かされた気がした。

「それに貴女がこんなに淫らになった末息絶えたなんて知ったら、
さぞキュアピーチは不幸になることでしょうね」

 そういうと、ノーザは太腿に垂れつづける蜜を再び指で掬い、見せつけるかのように糸を引かせた。


「嫌っ……」

 自分が仮にも快楽で壊れるのは構わない。それがラブを苦しめることになっては……
やはり今は耐えなければならない。

「貴女の蜜の源はどうなっているのかしら」

 ノーザはイースのホットパンツの破れ目から指を入れた。

 ぬぷっ

 驚くくらい抵抗なく指が蜜壺に吸い込まれた。

「うくっ!」
「やっぱり…… 蜜で溢れてかえっているわね。流石罪の子」

 そのままイースの蜜のからんだ指をひと舐めすると、ノーザはその舌で直接味わうことにした。

 剪定鋏で既にボロボロになったホットパンツのクロッチを切る。

 プツン……

 露になった花弁を舐めやすくするため、膝を割り開く。

 拒もうにも力が入らない。

 ぬぷっ、くちゅっ……くちゅっ……

「うっ……うっ……うん」

 気味の悪い舌の動きにぞっとするのと裏腹に、そのざらりとした舌を待ち焦れるように身悶えする自分がいる。
 そして、そんな自分を許せないという焦りに陥っていく。

「いいわ、もっと堕ちて……」

 そこにウエスター達からの通信が入った。

「ノーザさん、やりました! プリキュアはソレワターセと相討ちになりました!」
「ただ逃げただけじゃないのかしら?」
「いいえ、証拠を転送します」

 ノーザの前に現れたのはピーチロッドであった。

「他のプリキュアはまだでしょう? 早く追って皆倒してきなさい」
「はい!(褒められると思ったのだがな……)」

 ノーザはイースに向き直る。

「聞いたかしら? キュアピーチは倒されたそうよ」
「そんな、ラブ……」

 イースは絶望にうちひしがれ、その瞳から光が完全に消えた。

「キュアピーチの遺したコレで、果ててもらおうかしら…… これを押せば敵も倒せるのね?」

 ノーザはほくそ笑んでボタンを押すが、反応はない。

「まあ、しょうがないわね。まあ、力づくでいいわ」

 エキスの力で蜜まみれとなったイースの花弁にピーチロッドの先端をおもむろに押し当てた。

(せめてラブが残してくれたもので一緒に……)

 突然ピーチロッドが光を放ち、ノーザをはね飛ばした。

「何!?」

 天井に赤い光が輝き、アカルンを持ったキュアピーチ、キュアベリー、キュアパインが降臨した。

 ベリーソードで蔓を切りベリーがイースを磔から解き放つ。

「もう……こんな傷だらけになって。一人で勝手に行かないでよね」

 磔から解放されたイースを受け止めるパイン。

「せつなちゃん、心配したんだから」

 そのままパインフルートでヒーリングプレアーを放ち、不幸のエキスをすべて浄化。

 ピーチロッドの光に怯んだノーザめがけて突撃したのはキュアピーチ。

「せつなは返してもらうよ。これもね」

 さすがのノーザも突然のことにあっけにとられていた。

「どういうことだ? 倒されたのではないのか……」
「ベリーソードは囮だったけど」
「ピーチロッドも囮だよ」

 ゲージの間から脱出したアカルンは戦っているピーチ達の下に逃れたが、完全にゲージに囚われたせつなの元に近づけないとのこと。
 そこで単体でもソレワターセを浄化できるパインフルートを主体にしてソレワターセとの相討ちを装い、ピーチロッドを
せつなの囚われているノーザの元に送り込み、アカルンをそれに向かって瞬間移動させるという、賭けのような策に出たのであった。

「せつな……せつな……」

 キュアピーチは傷ついたイースを抱きしめながら泣きじゃくる。

「ラブの馬鹿……生きてくれてて……よかった……ごめんなさい」

 イースもラブの胸で涙をこぼす。

「……みんな、ありがとう」

 最高幹部としてのプライドを大いに傷つけられ、怒るノーザ

「おのれ、この私をコケにするとは。プリキュアども、永遠の嘆きと悲しみを与えてくれるわ」

 ゲージのバルブを全開にする。蔓が瞬く間にゲージを覆い、巨大なソレワターセとなると占い館を中から破壊した。

「なんやねん、これは!?」

 外で待機していたタルトも肝をつぶすくらいの禍々しい巨体。
 シフォンも怯えて泣くばかり。

 4人の元にアカルンが再びやってきた。
仲間の愛に包まれたイースに弾き跳ばされることはない。

「ごめんなさい、アカルン……もう一度、私に命を預けてくれる?」
「キー!」

 イースは力を振り絞って立ち上がった。

「せつな、無理しちゃ……」
「大丈夫よ。ヒーリングプレアーは効くわね。タルトが言った通りね」
(二度までも預かった命、無駄にしないわ)

 リンクルンを構える。

「チェインジ!プリキュア、ビートアップ!」

 再び4人となったプリキュアが、ソレワターセに対峙する。

「みんな~、無事やったんか!」
「うん、大丈夫よ」
「どんなことがあっても、シフォンは……大切な人は守る。いくよ!」

 ラッキークローバー・グランドフィナーレが巨大なソレワターセを浄化、人型の実が弾け去った。

 しかし、ゲージは虚空に浮かぶとその容器にひびが入っていく。

「不幸が……撒き散らされていく」
「そんな……」
「これも策よ。お前達は我が掌でダンスを踊っているだけだ」
「私たちの世界はもう……」

 その時泣いていたシフォンが何か言った。
 キルンによると「プリキュアの力を自分に集めろ」とのこと。
 そうしている間にもゲージは砕け、空は泣き出しそうになっていた。

「そうね。やるしかないわね」
「シフォンを信じるわ」
「皆の思いを1つにしよう」

 それぞれの得物を掻き鳴らすと、4条の光弾がシフォンの元に集まる。

「皆が苦しいときに……」

 罪悪感が赤い光弾の力を弱らせかける。

「大丈夫。今は皆一緒だから」
「……うん」

 4条が1つになった。
“きゅあきゅあ、ぷりっぷー!”

 ゲージが光に包まれると、不幸の雨は雪と変わった。

「やったわ!」
「もうこれで世界が不幸に染まることはないのね」
「よっしゃー!みなはんようやりましたなあ……」
「シフォンにまた助けられたね」


 *****

 自室で一人不敵な笑みを浮かべるノーザ。

「キュアピーチ、不幸のゲージは囮よ」

 手には小さな結晶。

「イース、貴女の罰はまだ続くの……」
最終更新:2015年01月15日 21:21