The Salvation

5話 The Salvation

「何だってのよ……!」

白髪の猫耳少女シルヴィアは、沼地の畔にて襲撃を受けていた。
兜のような物を被った鳥の頭、蝙蝠のような翼、獣の胴体、蛇のような尻尾。
さながらファンタジーに登場する「グリフォン」のような生物。
実際、その生物――厳密には電脳世界のデータが実体化した存在――は「グリフォモン」と言う名前であった。

「チョロチョロと逃げ回りおって、さっさと諦めれば楽になれるぞ」

10メートル程上空をホバリングしながら、尊大な口調で眼下のシルヴィアに言い放つグリフォモン。

「ふざけんな!」

怒声を放ち抵抗の意志がまだ残っている事を示すシルヴィア。
だが、戦況はシルヴィアが不利であった。
何しろ相手は空を飛んでいる、それに動きも機敏で、今の所は繰り出された攻撃は全て回避する事に成功していたが、
疲労が募って動きが鈍くなれば必然的に回避行動も難しくなる。
ならば反撃を、と思うかもしれないが、シルヴィアが今持っているのは自転車のチェーン。
飛び道具でも無い「辛うじて近接武器としての効果が期待出来る」程度の代物。
とてもグリフォモンに太刀打ち出来る装備品では無かった。
勝ち目が薄いのなら無理に戦わず逃げれば良い、のだが、前述したようにグリフォモンの動きは機敏で、しかも上空を飛び回ってるため視界も広い。
逃げようとしても先回りされてしまうのである。
つまり現状、生き延びるにはどうにかしてグリフォモンを倒すしか無かった。

(くそ……どうすれば良い……)

必死に逃げ回りながら対抗策を考えるシルヴィア。
しかし、何ら有効策は浮かばずただ時間が過ぎ体力を消耗していくだけ。
グリフォモンはシルヴィアを一気に殺そうと思えば殺せたが敢えてそうはしなかった。
いつでも殺せると言う余裕と、甚振ってやろうと言う意地悪さが有った故に。


「伏せろぉ!!」


突然、男の声が響いた。
それはシルヴィアに向けられた叫びのようだった。

「!?」

驚くシルヴィアだったが、言われた通りに身を地面に伏せる。
そして上空を飛ぶグリフォモン向かって、黒いボールのような物が地上から投げられる。
それは正確にグリフォモンに向かって飛んで行った。

「何だ?」

グリフォモンには、その投げられた物が何なのかは分からなかった。


ドガアアアアアン!!!!!


辺りが一瞬真昼のように明るくなり、爆発音と同時に地上の草が波紋を広げるように揺れる。
そして、地上にパラパラと降り注ぐのは、ついさっきまでグリフォモン「だった物」。
焼け焦げた肉片がシルヴィアの上にも降り掛かり「うわっ」と声を発してシルヴィアはそれを払った。
払い除けた後で、どうやら自分は助かった、いや、助けられたらしいと悟る。

「おい、大丈夫か?」

シルヴィアの元に駆け寄る、人間の男。

「あ、ああ。何とか……あんたが助けてくれたのか?」
「そうだ。遠くから襲われてるのが見えたからな……立てるか?」
「大丈夫……」

ゆっくりと立ち上がるシルヴィア。
爆発音で誰かが来るかもしれないので、一先ず、西の方に見える森の中へ隠れそこで話をしようと言う事になった。


【グリフォモン  死亡】

【残り  51人】



◆◆◆


全く困ったものだ、と、葛城蓮――別名虐待おじさん――は思わざるを得なかった。
学校のクラスメイト達と一緒に修学旅行に向かった筈なのに、下手な事をすれば爆発する危険な首輪をはめられ、
殺し合いをさせられている。

参加者にはクラスメイトも何人か居る。
特に親しいのは、ひで、KBTITこと拓也の二人。
ひでは親しいと言うよりは、普段弄り倒している子分のような存在だったが。
拓也の方は親友と言っても差支えは無い。

蓮は殺し合いを否定し、潰す事を決意する。
クラスメイトやその他の人々を殺して一人だけ生き延びようとするような人間の屑にはなりたくない。
そもそも、赤子を家族の前で平気で殺すような連中が口約束を守るとは到底思えない。
クラスメイトや、殺し合いに乗っていない者を探しこのふざけたゲームを潰そうと蓮は思う。

ただ、憂慮している事も有る。

クラスメイトの中から殺し合いに乗る者が出る可能性。
全員とは合流出来ない可能性。
特に、ひでや拓也が死ぬ可能性。
何より自分が死ぬ可能性。

それらの可能性を考えたくは無かったが、否定出来る状況では無いと言うのもまた事実。

更にもう一つ、いざと言う時、自分は「人」を殺せるのか、と言う事。

「おい、大丈夫か?」
「あ、ああ。何とか……あんたが助けてくれたのか?」

たった今、蓮は鷲とライオンが融合したような生物に襲われていた猫耳(?)の少女を救助した。
支給されていた三つの手榴弾の内一つを、飛んでいた生物に向けて投げつけ、爆殺した。
手榴弾など生まれて初めて使ったが、思いの外上手く行った。

ただ、躊躇う事無く殺せたのはその相手が「人」では無かったからだ。

この殺し合いの参加者の中には、開催式の時に幾つか見かけたが明らかに「人」では無い者もいる。
無論それらの者が全員殺し合いに乗るとは思っていないが、乗っていて、襲いかかってくるのであれば躊躇い無く殺せるだろう。
だが、襲いかかってきた者が「人間」或いはこの少女のように「人とそれ程変わらない容姿」であったらどうか。
「殺人」とは本来忌避すべきもの――しかし身を守るため攻撃しなければ自分が危うくなる時だってある。
更に言えばそれが自分のクラスメイト相手で、万一、ひでや拓也だったのなら。

「全く困ったもんじゃ……チッ……」
「え?」
「いや、何でも無い、こっちの事だ」

蓮の心配事は尽きる事は無い。


◆◆◆


シルヴィアは一度死んだ。
今やらされているものとは違うクラスメイト同士の殺し合いにて、この殺し合いにも参加している鈴木正一郎の手によって殺された。
その時の痛み苦しみは今でもはっきりと思い出せる。

だが、身体の傷は全て消えている。
死に至る程損傷したと言うのに痕跡すら無い。
開催式の時のルール説明で「死者を生き返らせる事が出来る」といった事を言っていた。
とすれば主催側の者達が自分を蘇らせたと言うのだろうか。
そんな事が有り得るのか――とも思ったが死んだはずの自分が今こうして生きているのだから、
現実として受け止めるしか無い――と、シルヴィアは思った。

この殺し合いにはクラスメイトもかなりの数が参加させられているようだった。
自分を殺した鈴木正一郎、そしてかつて複雑な感情を向けていたサーシャ。
シルヴィアは今回の殺し合いには積極的に乗るつもりは無かった。
以前の殺し合いとは、真逆のスタンスである。何故か?

――心当たりは有るには、有った。

(こんな気持ちになれるのは、やっぱアイツのお陰なんだろうか)

この殺し合いには呼ばれていない、助平で軽い性格、しかしその実熱い心を持ったとあるクラスメイトの事を、
シルヴィアは自分の命を救ってくれた男と共に森の方へ向かいながら思い返していた。



【深夜/F-1沼地周辺】
【シルヴィア@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]肉体疲労(大)
[装備]自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:取り敢えず積極的に殺し合う気は無い。
        1:男(虐待おじさん)と話をする。
        2:クラスメイト達(特に鈴木正一郎とサーシャ)については今は保留。
        3:もっと良い武器が欲しい。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。

【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康
[装備]無し
[所持品]基本支給品一式、手榴弾(2)@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]基本:クラスメイト(特にひで、KBTITこと拓也)や殺し合いに乗っていない参加者を集め、殺し合いを潰す。
        1:猫耳少女(シルヴィア)と話をする。
        2:襲い掛かってくる者には相応の対処をする。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
    ※元動画準拠なので、本名は「葛城蓮」、平野源五郎とは面識が無い設定です。



《支給品紹介》
【自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
自転車の駆動部に使われているチェーン。強度はそれなりに有るので上手く使えば武器や防具になる。
元ロワにおいて君塚沙也に支給されるが何の役にも立たなかった。

【手榴弾@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
ロワでお馴染みのピンを抜いて投擲するタイプの手榴弾。詳しい種類は不明。
元ロワにおいて松村友枝に3個支給されるが、友枝が扱い方を誤り彼女諸共自爆して見せ場は無かった。



前:夢のENDはいつも目覚まし来たりて笛を吹く 目次順 次:足りないものはいつも……

GAME START シルヴィア 次:必要悪
GAME START グリフォモン GAME OVER
GAME START 虐待おじさん 次:必要悪
最終更新:2014年07月22日 23:56