DANCING WIZARD

13話 DANCING WIZARD

「へぇ、殺し合いね……」

B-2療養所中庭にて、黒いハイレグのような格好の金髪美女、アリシア・ルクルスは、
自分がこの殺し合いでどう動くか考えていた。

「殺し合いなんて……やりたくはないけど……」

アリシア自身は殺し合いには乗りたくなかった。
どこの誰とも知れない者の言いなりになるのは嫌であったし、
彼女は見ず知らずの他人をいきなり手に掛けるような物狂いでも無い。
そのために格闘技を習ってきた訳では決して無いのだ。
だが、最後の一人にならなければ生きて帰れない事、首に爆弾付きの首輪をはめられてしまっている事、
恐らく殺し合いに乗る者が襲い掛かってくる時が来るであろう事、殺し合いをしなくてもいずれ首輪を爆破されてしまう事、
様々な不安要素がアリシアの心を揺さぶる。
物狂いでは無かったが、自分の死を許容出来る程強くも無かった、アリシアと言う女性は。

「……い、いやいや、何も自分から積極的に行かなくても良いでしょ?
殺し合いに乗っている人なんて、多分それなりに出てくると思うし。
私は……そうだ、なるべく一箇所から動かないで、そこに誰か来たら戦うって奴で良いんじゃない?
うん、そうしよう」

考えた末アリシアは積極的に殺人を犯す真似は避け、遭遇し尚且つやむを得ない時に限り、
相手に襲い掛かると言う作戦を採る事にした。
デイパックを漁ると、中に入っていたのは縄跳び用の縄。
持つ部分は透明なプラスチックで中に名前や学年を書く紙が入っており、
縄の部分は綺麗なピンク色で、ゴム製。
縄の長さも短いので小学校低学年用の物であろう。

「首を絞めたりするのに使えるかしら……?」

そこそこ強度はあるので、相手の首を絞めたり拘束したりするのには使えそうではある。
だが逆を言うとそれ以外に有効な使い方が無い。
このような状況で縄跳びで体力作りと言う訳でも無い、そもそもアリシアの身体にはサイズが小さ過ぎた。
格闘技の心得があるとは言っても、相手がもし銃などの飛び道具、リーチの長い武器などを持っていたら、
たちまちアリシアは劣勢になる。
格闘技を極めた者の中には銃弾や刃物の攻撃を物ともしない強者もいると聞くがアリシアはそこまでの自信は無かった。
今までも銃や槍を持った相手と対峙せざるを得なくなった時は変則的な戦い方をするか、逃げてきた。
出来れば刃物程度はいざと言う時のために欲しいと、アリシアは思う。

この時、アリシアはこれからの自分の行動指針を考えるのに熱中する余り、
「見晴らしの良い場所にずっと留まっていたら危ない」と言う事に気付いていなかった。

療養所建物の入口から、銃口が自分を狙っている事にアリシアは気付けなかった。

バスッ

銃声らしからぬその音と同時に、小さな熱い弾丸はアリシアの背中から入り、
心臓を掠めて右の乳房を貫いて出ていった。

「えっ……」

突然の痛みに、アリシアは驚く。
右の乳房の辺りから血が出ている、背中にも痛みがあった、いや、胸の中にも。

バスッ バスッ

更に二発の銃弾がアリシアに撃ち込まれた。
アリシアは熱い液体が喉の奥から込み上げ、胸元や腹に形容し難い痛みが走るのを感じる。
身体中から力が抜け、意識が遠のいていく。

(何、これ……嘘……死ぬ? ……ちょっと……待……)

唐突に訪れた自分の死を、意識が完全に消えるまで、アリシアは受け入れる事が出来なかった。

銃声がほとんどしなかったのは、アリシアを襲った者が彼女を撃つのに使った拳銃が特殊な物だったためである。
64式微声手鎗――中国で特殊部隊向けに開発された、サイレンサーが銃身と一体化した自動拳銃。
消音性能は高く、地下鉄の車内やピアノ音程度まで銃声の音量を下げられる。

「こんな時に見晴らしの良い所でぼーっとしてたら駄目ですよ」

そして64式微声手鎗を支給されそれを操りアリシアを銃殺したのは、
黒髪ロングの美少女、八神雹武。
白いカッターシャツに濃い緑のスカート、青いネクタイ、ローファーに白い靴下。
一見どこかの中高生と思える容姿。

「縄跳び用の縄……役に立ちませんね……」

しかしそれは違う。
雹武はそもそも、外見は人間に見えるが人間では無い。
病死したとある少女の死体をベースに造られた「生体兵器」であった。
日本風異世界国家、その軍部が極秘で進めている「死体から兵士を作る」プロジェクトで生み出された一体。
黒髪に隠れてはいるが、うなじの部分に小さく「BW-5519」とナンバーが刺青されていた。
実はこの殺し合いにおける運営役、吉橋と岩岡が所属する組織が催した過去の殺し合いにおいて、
雹武と同じ所で「製造」された生体兵器が実戦試験と言う目的で参戦させられていた。
一人目、二人目共に相当な成果をあげたが結局は「破壊」された。
ちなみに二人目の時の殺し合いにおける運営役は今回と同じ、吉橋と岩岡であった。

「さて、次の人を捜しましょうか」

雹武は獲物を捜すため、移動を始めた。
首にはめられた黒い首輪、右手の拳銃、肩から下げたデイパックが無ければ、
良家のお嬢様、深層の麗女と思われてもおかしくない美貌。

しかしその思考は、とても単純かつ酷薄――「他者の殲滅」――のみ。


【アリシア・ルクルス  死亡】
【残り43人】


【B-2/療養所中庭/早朝】
【八神雹武】
[状態]健康
[装備]64式微声手鎗(5/8)
[持物]基本支給品一式、64式微声手鎗の弾倉(3)
[思考]
基本:参加者を見つけ次第殺害する。
1:参加者の捜索。



《人物紹介》
【アリシア・ルクルス】
23歳の武闘家女性。冒険者。金髪ポニーテールに黒いハイレグっぽいスーツを着込んだ外見。
格闘技と体力には自信はあるが、頭を使った行動や銃器、近接武器の扱いは不得手。
お化けと虫が苦手。

【八神雹武】 読み:やがみ・ひょうぶ
外見年齢15~18歳。黒髪ロングの美少女。白いカッターシャツに青ネクタイ、濃い緑のスカート姿。
性格は礼儀正しく常に丁寧語、穏やかではあるが「笑顔で人を殺す」タイプで、殺人に全く躊躇は無い。
軍の兵器開発部門において製造された「生体兵器」の一人であり、開発コードはBW-5519。
素体はとある富豪家の病死した令嬢らしい。
卓越した身体能力と耐久力の他に何か特殊能力を付加されたようだが……?



012:心の清らかな変態……違和感凄いぞ 目次順 014:ずっとずっと……籠城――ひとりきり
ゲーム開始 アリシア・ルクルス 死亡
ゲーム開始 八神雹武 028:崩壊は唐突にやってくる
最終更新:2013年03月29日 11:29