18話 克服出来る? 出来ない?
廃墟ホテル三階の宴会場。
角刈りの筋肉質な男がいた。
名前を内藤行光、プロボクサーであり、テレビや雑誌にも顔を出している。
「どうしたもんか……」
いきなり殺し合いなどに巻き込まれ、行光は困惑する。
首には爆弾内臓の首輪がはめられ、運営に命を握られている。
だが、行光には他人を殺して優勝を狙うと言う事は考えられなかった。
「殺し合いなんて出来る筈がない……私の他に同じ事を考えている人はいないだろうか」
吉橋寛和なる得体の知れない男の言いなりにはなりたくない、ならばこの殺し合いに抗おうと、行光は決めた。
自分のように殺し合いをしたくない参加者を集めて脱出出来ないだろうか。
首にはめられた首輪を、もしかしたら外せる手段が見つかるかもしれない。
「良し、行こう」
支給された軍手を両手にはめ、行光は殺し合いに乗っていない参加者を捜し始める。
しばらく廃ホテル内を歩いていると、カラオケサロンだった部屋で一人の男を見付ける。
「警官……?」
緑色の竜人の警察官が椅子に座ってカウンターに向かっていた。
行光は、警官と言う事で特に警戒せずに話し掛けた。
警官が殺し合いなどに乗るとは思えなかったからだ。
「すみません、ちょっと良いですか」
「……」
竜人警官はゆっくりと行光の方へ向く。
その表情は無表情に近かったが、友好的ではないと言う事だけは行光に伝えていた。
警官はゆっくり椅子から立ち上がり、カウンターの上に置いてあったそれを手に取る。
行光にはそれは「拳銃」に見えた。
警官はゆっくり「それ」を行光に向ける。
「なっ……!」
身を翻し行光はカラオケサロンの出入口を潜る。
ダァン!
行光がサロンの出入口の陰に入った所で銃声が響き、廊下の壁に小さな穴が空いた。
「くそっ……!」
警官に、自分に対する殺意がある事は明白。
こちらは素手で、銃相手では分が悪い。
行光は力の限り走って逃げた。
階段を降りて一階までやってきた行光は、息を切らせながら背後を振り向き、追ってくる影が無い事を確認する。
安堵し溜息をつく行光、まさか警官が殺し合いに乗るとは思いもよらなかった。
いや、良く考えれば、いつ誰が自分を殺しに来るか分からず、首輪で命を他人に握られ、
殺し合いを拒否してもいつか死ぬ、と言う状況に置かれれば無理も無いだろう。
警官とて人間なのだから。あの警官は竜人だったが。
迂闊だった、と、行光は省みる。
「先行きが不安になるな……」
これから先、更に危険な目に遭うだろう。
それを思うと、行光は気が重かった。
◆
緒方龍也は酷いいじめられっ子だった。
本人が気弱でおとなしかったので格好のターゲットになっていたのだ。
小学校、中学校、高校といじめられており、特に中学の頃は、
トイレで全裸にされ自慰を強要されそれを撮影される、
肛門に大人の玩具をねじ込まれ出血させられるなど性的ないじめが凄絶だった。
教師や親にはいじめっ子からの報復を恐れて言えず、もしかしたら教師は気付いていたかもしれないが、
泣きながら屈辱を噛み締めながら耐えてきた。
大人になり龍也は警官になった。
警察学校では運良くいじめには遭わなかった。
警官になった理由は「今度は自分が他人に力を示せるようになりたい、合法的に」と言うもの。
性格も多少は気が強くなり、まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、
補導した不良や、態度の悪い被疑者に対して暴力を振るう事もあった。
龍也はようやく自分に自身が持てるようになっていた。
そして今、緒方龍也は殺し合いの場にいる。
彼が考えるのは警官として弱きものを救う事などでは無い。
自分が生き延びるために他者を襲う事。
元々正義感のために警官になったのでは無いのだ。
「もう……俺は、いじめられっ子じゃない……俺は……」
支給されたベレッタM92FSを持って龍也は廃ホテル内を徘徊する。
先程逃がした男の他にも誰かいるかもしれない。
獲物を求めて龍也は彷徨う。
【D-3/廃ホテル東部/早朝】
【内藤行光】
[状態]健康
[装備]軍手
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。仲間を探したい。
[備考]
※緒方龍也の容姿のみ記憶しました。
※廃ホテル一階にいます。
【緒方龍也】
[状態]健康
[装備]ベレッタM92FS(13/15)
[持物]基本支給品一式、ベレッタM92FSの弾倉(3)
[思考]
基本:殺し合いに乗り、優勝を目指す。
[備考]
※内藤行光の容姿のみ記憶しました。
※廃ホテル三階にいます。
《人物紹介》
【内藤行光】 読み:ないとう・ゆきみつ
27歳。プロボクサー。角刈りで筋肉質、濃い顔付きで唇が分厚い。
実直かつ礼節を重んじる性格で、曲がった事を嫌う。但し友人や後輩からは「融通が利かない」と煙たがられている節がある。
子供の頃は喘息持ちで非常に身体が弱かったが、父親から厳しく育てられやがて喘息も克服、ボクシングを高校の頃より始め、
数々の大会で勝利するまでに強靭な肉体と精神を手に入れた。
ボクシングの腕前は非常に高い。
【緒方龍也】 読み:おがた・りゅうや
25歳。緑竜人の警察官。黒髪で澱んだ瞳。少し痩せ気味。
小中高と酷いいじめを受け続け、自殺未遂も起こした事がある。
しかし生来の臆病で大人しい性格のせいで親にも教師にも相談出来なかった。この性格がいじめられる一因でもあった。
「合法的に力を振るえる立場になりたい」と言う良く分からない理由で警察官になり、
態度の悪い被疑者などに暴力を振るうなどかなり歪んだ性格になった。
先輩警察官に須牙襲禅がいる。
最終更新:2013年03月20日 17:16