おおかみのおまわりさんとおんなのこ

10話 おおかみのおまわりさんとおんなのこ

とある地方都市で警官の職に就いている狼獣人の男、須牙襲禅。
しかし彼は警官とは大凡思えぬ程、粗野で好戦的な性格をしていた。
勤務態度も凄まじい物で、容疑者に対する度を超えた発砲や暴力行為、押収物の私物化、パトカーの無断改造等。
ならず者が警官の制服を着ているだけと言っても過言では無いような人物である。
ここまで来ると普通は懲戒免職されてもおかしく無いのだが、性格や言動はともかく警官としての能力は高く、
また、彼の所属する警察署が、彼のような癖の強い警官を大量に受け入れている場所と言う事も有り、
襲禅は警官で居続ける事が出来ていた。もっとも、襲禅自身、警官になった理由が「一般より自由に銃を使えるから」と言う理由で、
警官と言う職業にそこまで情熱も執着心も有る訳では無かったが。

そんな彼が、今回、殺し合いゲーム――バトルロワイアルに参加させられた。

「チッ、ったくよぉ……何だってんだ、こりゃ」

A-6エリアの港。運営側が撤去したのか船が一艘も見当たらない船着場。
倉庫の壁に背をもたれて水平線を見詰めながら、襲禅は不機嫌そうな表情を浮かべる。
突然殺人ゲームに巻き込まれた事、どこの誰かも知れない男に命を握られていると言う事実に憤りを隠せなかった。

「柴田とか言ったか? あの野郎、絶対ェ後悔させてやる。クソ生意気なツラに風穴空けてやっからな」
「襲禅」
「!」

不意に聞こえた女性の声に、襲禅は右手に持っていた自分の支給品、コルトガバメントを声のした方向に向ける。

「うわっ、ちょっと待ってよ」
「んだよ、真紀じゃねぇか」

そこに居たのは、襲禅の知人である少女、新藤真紀。
仲が良い訳では無いが、しばしば行動を共にする、所謂「腐れ縁」の間柄であった。

「何か声聞こえて聞き覚え有るなーと思ったら案の定だったわ」
「おっ、何だよ俺が近くに居て嬉しいのかぁ?」
「別に……」

からかう襲禅に対し素っ気無く返す真紀。この二人の日常風景だ。

「ここで立ち話も何だ、倉庫ん中にでも入ろうぜ」
「変な事しないでよ?」
「しねぇよ!」

外で立ち止まって話をするのは危険な為、二人は倉庫の中に入る。
荷物の乗せられた木製のパレットが高く積まれ、フォークリフトが無造作に停められていた。
二階部分に有る事務所内に入って、椅子に座る二人。

「ねぇ襲禅、アンタはこのゲームどうするの?」
「乗る気は無ぇよ」
「へぇ。意外。アンタこういうの好きそうな気がしてたんだけど」
「あんな誰とも分からねぇ奴の言いなりは御免だって話だ……って言うかお前、俺が乗ってないと思って話し掛けたんじゃねぇのかよ」
「いや、居たから何となく声掛けちゃったって言うか」
「お前なぁ……」

警戒心が薄いと言わざるをえない真紀に呆れる襲禅。
今度は襲禅が真紀に聞き返す。

「まぁ良いや。んで、そう言うお前はどうなんだよ、真紀」

真紀は殺し合いに乗るつもりが有るのか否か。もし肯定する言葉を述べたらその時は――――そこまで襲禅が考えた時、真紀が返答した。

「乗ってないよ。アンタと大体同じ理由」
「……そうか」

真紀が出した答えは否定。
襲禅の漏らす声に僅かに安堵の色が滲む。

その後、二人はお互いの支給品を見せ合った。
自身のコルトガバメントを自慢気に見せ付ける襲禅にジト目を向けながら、真紀が自分のデイパックから取り出した物は。

「おっ、ワルサーP38じゃねぇか」
「……に見えるでしょ? でもこれ……」

そう言って真紀は銃口を天井に向けて引き金を引いた。
銃口からは弾丸では無く、小さな火が噴き出した。

「……ああ、拳銃型のライターか、それ」
「そうなの……最初本物だと思ったんだけどねぇ……」

真紀に支給されたのは拳銃の形を模したライターであった。
非常に精巧に作られており外見だけなら実銃と見紛う程である。だがライターである。
殺し合いと言う状況の中で銃が支給されたと喜んだのも束の間、ただのライターであると判明した時の真紀の落胆は大きかったし、
襲禅にもそれは容易に想像する事が出来た。

「脅し位には使えんだろ。多分」
「そうかな?」
「……取り敢えずは、もうちっとしたらこの辺に人居ねぇか見てみっか」

真紀に対し一応フォローを入れた後、襲禅は当面の行動指針を定めた。


【明朝/A-6港倉庫】
【須牙襲禅】
状態:健康
装備:コルト ガバメント(7/7)
持物:基本支給品一式、コルト ガバメントの弾倉(3)
現状:殺し合う気は無いが必要有らば戦う。真紀と行動。港一帯を探索してみる
備考:特に無し

【新藤真紀】
状態:健康
装備:拳銃型ライター
持物:基本支給品一式
現状:殺し合う気は無い。武器が欲しい。襲禅と行動する
備考:特に無し



《キャラ紹介》
【須牙襲禅】
読み:すが しゅうぜん
年齢:28
性別:男
種族:狼獣人
特徴:茶色と白の体格の良い狼獣人。目の下に赤い紋様が有る。警官の制服を少し着崩している
職業:警察官
備考:銃好きな不良警官。銃の腕前はピカイチで、格闘技にも通じている。
警官とは思えないようなDQNな性格だが、所属している署の性質や警官としての能力そのものは高い事から職に留まる事が出来ている。
女子大生、新藤真紀とは腐れ縁でしばしば行動を共にしている。たまに肉体関係も持っている

【新藤真紀】
読み:しんどう まき
年齢:18
性別:女
種族:人間
特徴:セミロングの美少女。身体付きは中の上位。白いシャツにスカートの私服姿
職業:大学生
備考:どことなく陰を感じさせる印象の女子大生。
大人しいが歯に衣着せぬ物言いや皮肉が多い。余り性格は良いとは言えない。でも優しい所も有る。
町の警官、須牙襲禅と腐れ縁の仲。しばしば行動を共にし、たまに肉体関係も持っている


《支給品紹介》
【コルト ガバメント】
支給者:須牙襲禅
分類:銃火器
説明:1911年にアメリカ陸軍に採用され70年近く使われた大型自動拳銃。「M1911」とも。
現代の自動拳銃の祖と言える名銃で誕生から100年以上経った現在でも愛好家は多く、
様々な会社がクローンモデルを発売している。.45ACP弾使用。

【拳銃型ライター】
支給者:新藤真紀
分類:その他
説明:ワルサーP38の外見を模したライター。引き金を引けば着火する。
外見は非常に精巧に作られており、脅し程度には使えるかもしれない。



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最終更新:2016年05月03日 02:12