26話 未来は二律背反
島役場の応接室。
金髪の美少女、室川美知は、灰色と白の毛皮の巨躯の雄狼と激しい交わりをし、一段落ついて呼吸を整えていた。
床には脱ぎ捨てられた衣類や、丸められたティッシュ、体液が散乱し、部屋の中にはむせ返るような獣臭が充満している。
「あ~気持ち良い……最高」
「全部吸い取られそうだぜ……ハッ、ハッ」
美知と狼、ゼユックは役場内にて遭遇し、早々に意気投合、そして親睦を深め合う事となった。
「はぁ、でもこの後どうしようか」
「別にどうも……ここに留まってても良いんじゃねぇか? 美知、知り合いとか居ねえんだろ? なら動く理由も無ぇだろ」
「それもそっか……ちょっとしたらまたヤろ」
「いいぜぇ」
興奮した、いやらしい笑みをゼユックは浮かべ、それに美知も頭を撫でてやって応える。
応接室のテーブル上には、二人のデイパックと、チェーンソー、合口が置かれている。
チェーンソーが美知の支給品、合口がゼユックの支給品である。
二人共、殺し合うつもりは無かったものの、有事の際は自分の身を守る為に相手を殺す事も辞さぬ程度の覚悟は決めていた。
◆◆◆
役場周辺の通りの一角を歩く、白い牛獣人の青年。
ガーターベルトにブリーフパンツと言う変態そのものの格好だが彼、テオ・オトマイアーの表情は至って真摯に見える。
「ゲームが始まって、二時間位経つのか。今の所誰とも会っていないけど……。
でもなあ……このゲーム、優勝出来て生きて帰れた所で僕は……」
生還出来た時の事を考えるテオの表情は真摯を通り越し暗い。
彼は知人に多額の借金を背負わされる羽目になり、その借金元の非常に危険な金貸し業者に脅され、
借金返済の為ゲイ向けのアダルトビデオに出演する事になったのだが、いつしか彼は娼夫にまで身を堕とし、快楽に溺れてしまっていた。
「仕事」の最中は淫乱そのものながら、「仕事」が終わり素に戻ればそんな自分の痴態を嫌悪し鬱状態になり、しかし、
また「仕事」が始まれば、を繰り返す毎日にテオは嫌気が差していた。
借金は確実に減ってはいたが、完済する前に自分の精神は崩壊してしまうかもしれない。どうしたら良い。逃げたい。
そんな矢先の今回の殺し合い。
「よーし、いい機会だ……」
テオは決心する。
「死のう!」
人生と言う名のリングで戦い続ける自分にタオルを投げてやろうと。
「どんな死に方が一番、苦しくなくて済むかなぁ……」
自殺の方法を考え始めるテオ。
「誰……うわ! 変態!」
「!」
ここに来てテオはようやく他参加者と遭遇する。
いかにも今時の若者と言った風貌の人間の青年。
「変態か、別に良いけど……僕はテオ。貴方は?」
「え? 俺は、千品武紀……あんた、殺し合いには乗ってないのか?」
「僕、自殺しようとしててね」
「えっ」
武紀の質問には答えず、自分のやろうとしている事を告げるテオ。武紀は驚いた様子だ。
「それでどんな方法が一番楽に死ねるかなって」
「え、いや、何が有ったか知らないけど、やめた方が良いんじゃね……?」
取り敢えず止める素振りを見せる武紀。
事情は全く知らないし赤の他人であるが故何の義理も無かったが、目の前で自殺すると言われ無視は出来ない。
「それでね、千品さん。僕支給品これだったんだけど」
「え?」
しかしテオは武紀の制止の言葉には反応せず、自分の支給品である出刃包丁を武紀に見せる。
先程から一方的な会話しか出来ないのもそうだが、テオの口調や表情がどことなく無機質に思え、
段々と武紀は目の前の白牛青年に対し妙な恐怖を感じ始める。逃げた方が良いかと考えた。
「あ、ああ。悪いけど俺はこれで……」
いよいよ危機感を覚え断りを入れて去ろうとした。
グサリ。
次の瞬間、出刃包丁の刃が武紀の腹に潜り込む。
「あ? ……ああああああああ!?」
焼けるような激痛。武紀の絶叫が木霊する。
「痛い?」
「げあっ……! なに、なに、や、あ゛」
「うん痛そうだね。刃物はやっぱり痛いんだね」
その手を血塗れにして、テオはとても淡々と所見を述べた。
こいつは正気じゃない、と激痛で揺らぐ意識の中、武紀は確信する。確信するのが遅過ぎたと後悔もした。
テオが包丁を武紀の腹から引き抜いた。刺された所を押さえて呻く武紀。
「うぎ、ぎ、い、あんた、いかれてるよ……!」
「そりゃあね。すっかり淫乱にされちゃったからね」
「そういう意味、じゃ」
グサ。
武紀が言い終わらぬ内に、包丁の刃が次に潜ったのは武紀の胸。
肋骨の隙間を通り抜け、心臓へと。
そしてその瞬間、武紀の命も終わった。
どさりと重い音を立てて武紀は路上に崩れ落ち、血溜りを作って二度と動かなくなった。
「心臓なら楽って訳でも無さそう。刃物で自殺はやめといた方が良いかなぁ」
淡々と、余りに淡々と、テオは再び所見を述べた。殺人への抵抗、罪悪感は微塵も感じられず。
武紀が思った通り、テオは最早正気では無かった。
殺し合いに放り込まれ彼自身も無自覚の内にその精神は異常を来し始めていたのだ。
「どのような致死方法が一番楽か」それを突き止める為、他の参加者を犠牲にする。その行為に対し全く疑問も抱かない。
近くの洋品店に侵入し売り物のタオルで自分の手と包丁に付いた血を拭き取る。
その後武紀の所持品を漁る。
「これは……毒?」
手に入れたのは小瓶に入った白い粉末状の薬品。
ラベルに書かれている薬品名は「シアン化カリウム」。よく推理物の小説や漫画等で「青酸カリ」として登場する毒物だ。
「うーん苦しそう。誰かで試さないと」
さも当たり前のようにシアン化カリウムの効果を試す為の「実験台」をテオは探し始めた。
全ては自分の「楽な自殺」の為に。
そしてその足は島役場の有る方向へと向かっていた。
◆◆◆
「いやーん」
「ハッ、ハッ、ハッ」
「さっきヤったばかりなのに、元気ねぇ、もう」
ゼユックは性欲旺盛である。それは美知にも言える事だが。
何度も達した筈だと言うのに、今再び美知に息を荒げ、涎を垂らし尻尾を振りながら迫る。
「お前だって嫌じゃないだろ~?」
「まあそうなんだけどね~」
美知も特に嫌がらず、むしろ嬉々としてゼユックを受け入れる。
少女とオス狼の喘ぎ声が響き始める。これで何度目かは当人達にも分からない。
【千品武紀 死亡】
【残り42人】
【明朝/D-5島役場応接室】
【室川美知】
状態:健康、ほぼ全裸
装備:チェーンソー
持物:基本支給品一式
現状:殺し合いはしないが襲われたら戦う。ゼユックと行動。しばらく島役場に籠る。
備考:衣類は応接室内に脱いだ状態で置かれている。
【ゼユック】
状態:健康
装備:合口
持物:基本支給品一式
現状:殺し合いはしないが襲われたら戦う。美知と行動。しばらく島役場に籠る。
備考:特に無し。
【明朝/D-5島役場周辺】
【テオ・オトマイアー】
状態:精神に異常
装備:出刃包丁
持物:基本支給品一式、シアン化カリウム
現状:楽な自殺の方法を探す。
備考:「自殺に使える方法」を他人で試そうとする。島役場方面に向かっている。
《キャラ紹介》
【室川美知】
読み:むろかわ みち
年齢:18
性別:女
種族:人間
特徴:金髪ショートヘアの美少女。学校制服のブレザー姿。爆乳
職業:高校生
備考:淫乱である。男でも女でも獣でも何でもござれ。
【ゼユック】
年齢:30代?
性別:♂
種族:魔狼
特徴:濃い灰色と白の狼。筋肉質。黒目に赤い瞳
職業:傭兵
備考:とある傭兵ギルドに所属している。戦闘能力は高い。二足歩行にもなれる。
下品で好事家であるが仲間と思った者の事は大切にする様子。
【テオ・オトマイアー】
年齢:21
性別:男
種族:牛獣人
特徴:白い牛獣人。細身ながら引き締まった肉体。ブリーフにガーターベルト姿
職業:娼夫
備考:元は普通の会社員だったが知人に借金を背負わされその上借りていた業者が悪質な闇金だった為、
借金返済の為にホモ向けAVに主演させられた挙句快楽漬けにされ娼夫に身を堕とした。
娼夫の仕事をしている時は淫乱になるが仕事が終わり素に戻ると気弱な性格になり、自分の現状を嘆いて鬱になる毎日を送っている。
【千品武紀】
読み:ちしな たけのり
年齢:24
性別:男
種族:人間
特徴:金色に染めた髪。少しチャラい印象。私服姿
職業:メンズショップ店員
備考:少しチャラい印象を受けるが特に悪さはしない。
むしろ真面目に働いて真面目に稼いでいる。
《支給品紹介》
【チェーンソー】
支給者:室川美知
分類:その他
説明:多数の小さな刃の付いたチェーンを動力により回転させて対象物を切る動力工具の一種。
某ジェイソンの武器として認識される事が有るがジェイソンさんはチェーンソーは使った事は無い。
【合口】
支給者:ゼユック
分類:刃物
説明:小型の刀。白鞘タイプ。
【出刃包丁】
支給者:テオ・オトマイアー
分類:刃物
説明:和包丁の一種で主に魚を捌くのに使われる。
【シアン化カリウム】
支給者:千品武紀
分類:薬物
説明:良くフィクションで「青酸カリ」で登場する毒物の代名詞とも言える存在。
小さなガラス製の小瓶に入れられている。
最終更新:2016年07月22日 11:24