不審な襲撃!逃げるんだディック!

~ミストラルシティ・果倉部道場~
スライ「あまい!そんな攻撃では目くらましにもならないぜ」
トニー「くっ!ならこれはどうですか!!」

他の門下生が見守る中、三月に一度の昇段戦は尋常ではない空気に包まれていた。
果倉部道場における段位はすべて実践形式の中で推し量られる。
彼ら兄弟は果倉部道場の歴史の中でも初めてとなる”飛鴎”段の取得を目前としていた。

かもめ「それまで」

師範代の声が響いた。手を止める二人。
周囲はどちらが昇段することになるのか、師範代の次の言葉を待ちわびる。

かもめ「今回の昇段者は該当なしだ。次の昇段戦まで精進するように」
スライ「!!」
トニー「師範代!待ってください。私かスライのどちらとも飛鴎段に値しないというのですか?」
かもめ「その通りです。あなた方の技術はこれまでの門下生の中でも特に優れてはいますが…」
かもめ「果倉部流の真髄には届いていません。この流派と向き合い、その言葉を聞くことです」

昇段戦が終わった後、兄弟は道場に残り、果倉部流の真髄とやらについて話し合っていた。
スライ「トニー。俺たちは自らの体術を高めることにのみ修行のすべてを集約してきた」
トニー「はい、果倉部流のあらゆる技は師範代とそん色ないレベルで身についていることは間違いありません」
スライ「ならば、その先に進むには一体何と向き合えばいいんだろうか…」
トニー「…かもめさんはよく、果倉部流の真髄という言葉を使いますが、その意味は聞いたことがありません」
スライ「きっとそれは俺たちが自らたどりつかなければならないんだな」
トニー「自らたどりつく、ですか。まるで私たちの背負った宿命と同じですね」
スライ「たしかにいずれ俺たちも決着をつけないといけないな…ロードの系譜のために」

ピリッとした空気が漂う。
どうやらこの二人には一般的な兄弟とは異なる、何らかの関係が存在しているようだ。
と、そんな空気の道場にバタバタと誰かが駆け込んできた。
ディック「頼む!たすけてーー!!!」



~果暮部道場の前~
スライ「同じビル仲間に何のようだ?」

ディックが駆け込んできた理由、そこには三人組が立ち並んでいた。
ボルク「そいつは諸悪の根源だ!さっさと引き渡してもらおうか!」
トニー「ディックは悪人なんかじゃあありません。少しドジなところがあるくらいです」
キノ「出会って日が浅いはずなのによく信頼できるよね。彼の何を知っているんだい?」
スライ「何を言っても無駄なようだな。トニー、ここは何としてもディックを守るぞ!」
トニー「はい。友人に対するひどい物言い、私も少し頭にきています」ビリビリ
スライ「俺はあの暑苦しい男を何とかする」
トニー「なら私はあの長髪を相手にします」
ディック「…あれ、もう一人はもしかして俺が相手にするの?」
トニー「もう一人からは大した力を感じません。大丈夫でしょう」
スライ「…ディック、君は足が速いだろう?ならわかるよな」
ディック「に、にげるんだねぇぇぇぇ」


~スライ VS ボルク~
ボルク「なんだなんだぁ!その程度の力で誰を守るっていうんだぁ?」
スライ(こいつ...粗暴な印象とは違って体術は繊細だ...このままではきついな)

スライはボルクからいったん距離をとると、両の手を体の前でクロスさせた。
スライ「シャイニーマジック!『ドッペル・ゲンガー』!」
スライの隣に光の揺らぎの中からもう一人のスライが現れた。
光の屈折率を操り分身を作り出したのだ!

ボルク「分身!?能力者か!熱い!たぎる!俺のロールを全うするにふさわしい!」
こぶしを強く握りしめ仁王立ち、はぁぁっと気合を高める。
ボルク「炎迅全開!『アクセルフレイム』!」
彼の気合が実在する炎として具現化し、背中から立ち上る。素早さが上がったようだ!
ボルク「いくぞぉぉぉぉ」

ドドドドド!
二人の戦いはさらに熱を帯びていった。


~トニー VS キノ~
トニー「あなた方のリーダーの発言、聞き捨てなりません。許しませんよ!」
身構えたところで、違和感に気づく。
キノは視線をこちらに向けるだけで一向に戦う気配を見せないのだ。
トニー「もしかしてあなた、戦う気はないのですか?」
キノ「無駄なことはしたくないんだ。ここにいるだけで僕のロールは果たせるからね」
トニー(ロール?作戦の役割のことか?しかし彼らのリーダーはスライが相手しているから問題ないはず…)
トニー「…まさか、あの暑苦しい男は、あなた方にとってリーダーじゃあ…」
キノ「…」

すかさずトニーは走り出す。その先はディックが逃げた街の中!
トニー(やられました!リーダーはあの男じゃかない!戦力を分断することも戦略のうち!とすると)
トニー「ディックがまずい!」
タンッ!タンッ!
キノが持つ両銃が放つ弾がトニーの行動を差し止める。
キノ「君はここにいるんだ。そうじゃないと僕のロールが乱れてしまうからね」

ゴロゴロ!ドーーーーン!
晴天の霹靂。突如巨大な雷がキノの体を直撃した!
彼の激情に呼応して天より雷がもたらされる!それが彼の能力!
トニー「『ライトニングボルト』!手加減できずにすみません。さ、早くディックのもとにいかないと」
タタタタッ!タタタタッ!
再びトニーの足が止められる。
あの雷を受けてなお動ける?当たっていなかった?否!躱した?不可能!じゃあなぜ…
トニーの思考は混乱を極めた。そして眼前には無傷のキノが立ちはだかっていたのだ。

キノ「そういうのは効かないんだよ。僕の『オート・プロテクト』の前ではね」
あらゆる物理・熱・化学攻撃に対して瞬時に自動で発動し、その身体を無傷に保つ。キノの意識より早く!

トニー「くっ!!ディックもう少しだけ、逃げ延びてください!」



~ディック VS アポロン
街の路地を巧みに逃げ回るディック。
ディック「へへへ!どんなもんだい!」

追いかけてくる影が見えなくなったところで、ほっと一息。
店からとっさに持ってきたタンブラーに入っているコーヒーを一飲みし落ち着きながらつぶやいた。
ディック「間違いない。あいつらはメサイアの手先だ。こんなところまで追いかけてきやがったのか…っ!?」
路地の向こうから静かに影が近寄ってきた。
ディック「く…くるならこいってんだ!」
逃げようとしたそのとき!

アポロン「神託のロールを持ってして、我天命を全うす!天地開闢の一幕を紡ぎ出さん!ディック・ピッド!」
突如、体の自由が奪われる、動けない、息も…できない!!
アポロン「そなたにロールを与えました。この世から消滅するという役割を」
天命を受けたアポロンが定めた理に沿ったロール=役割を与えられ者は、人事を尽くして全うしなくてはならない!
それが『メサイアサルバロール』!!

ディック(やばい…何もできない…)



~かもめのターン~
かもめ「私の教え子に何をしているのですか!」
かもめの声が一同の頭で認識された一瞬の束の間、スライ・トニー・ディックは果倉部道場の中にいた。

スライ「なに!?」
トニー「何がおきたんですか!」
ディック「あ、かもめさん!」
かもめ「もう大丈夫ですよ」

そしてアポロン一行は…
ボルク「ん?ここは火の国アルバンダム。俺の生まれ故郷だと!?」

キノ「水の国レモンド。どうしてまたこんなところに」

アポロン「我がロールが解き放たれただと。そして一瞬のまに空間転移とは…神に匹敵する力、あの声の主は一体…」

それぞれが、ミストラルシティとは遠く離れた場所に瞬時に移動させられていた。


かもめの力で何とかアポロンたちの襲撃を躱すことに成功したディックたち。
だが、それはこれからも脅威にさらされることを意味していた。
スライ「このままじゃいけない!」
トニー「私たち三人はまだまだ修行が足りなかったのです!」
ディック「え、ちょっと!俺はいれないでよ!」
かもめ「ディックくん、今回の一見は君の責任でもあるんですよ。また私たちに守ってもらうつもりなの?」
その威圧感、ディックでなくとも耐えがたし!!

こうしてディックは果倉部道場の門下生になりましたとさ。


to be continued

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最終更新:2017年09月11日 20:22