SIDE:D

〜地球上空・無人衛星MARIA〜
ピピピッ。
地球を見おろすMARIAの内部からは絶えずシステムの動作音が発せられる。しかしここは宇宙の中。音を伝える媒体の空気が存在しないため、その音はMARIAの外に響くことはない。
虚空間天候維持システム。WAOが開発した最新鋭の技術は地球を安寧に導くもの…のはずだった。

ピピピッ。『局所未元粒子砲照射します。』
自動音声が流れると衛星の先端部にエネルギーが集約され、地球のある一部へと照射された。照射地点一帯には雨雲が渦巻き、ついでさっと晴れ渡り、宇宙空間から見ても大地に緑が拡がったことがわかる。
これがMARIAの力。地球の天候を操作することで農作物の発育を通常時より加速させ、収穫まで数ヶ月かかるような作物でもわずか時間で回収可能とする。

さてそんな人類の希望とも言えるこのシステムなのだが二つの問題を抱えていた。
ひとつ。このシステムは特定の地域にしか影響をおよぼさない。正確には他の地域にはエネルギー砲を照射する許可を得ていないのだ。許可を出すのは誰かって?そんなのEGOにきまっているだろう。まったくあの組織は覇権を得るためには容赦しないところがあってだなまったく…

そして、もうひとつ。それは無人の衛星であるはずのMARIAの中に“私”がいることだ。WAOはまだ有人宇宙飛行を成功させていないはずだから、人類は宇宙に至っていない。さしずめ私が人類史上最初に宇宙から地球を見た人間となるのだろう。そうこのゴーシュ=ダイヤモンドが、だ。
ゴーシュ「さて、誰の能力で私はこんなところに閉じ込められたのか…おおよそ見当はつく(どうせEGOのあいつらのだれかだ)。問題はこれからどうするかだ」
数日の間試していたのだが、この装置から外に出ることは不可能だ。入口がないのだから出口があるわけがない。さらにいえば宇宙空間とやらが生存可能な領域かどうかも不透明だ。と、すれば私はここからできることをするほかない。こんなことなら信頼できる友人の一人でもつくっておけばよかった。
ゴーシュ「…そうか、仲間を集めればよいのか」
私は目の前の装置に手を触れる。特に入力機構があるわけではないのだが、気のままに機械の表面に触れると、それは必然とばかりに地上のある人物にメールを送信することが出来た。
ゴーシュ「私はここから指示をだせばよいのだ。現在の地球で最も高度な知能を持つ人間、今寄咲ツバメを筆頭に私の手伝いをしてもらおう」

私の役割。それは怪異の消滅。私の能力「ダイヤモンド=ディステニィ」。それは「怪異を消滅させるためにあらゆる因果を収束させる運命操作」。結末はかたくなに決まっている。怪異はすべて消え去る。私が私の役割を全うした輝かしい未来に。私は私の能力をそう”認識”している。

怪異とは人の世とは別の世界から放たれた悪意。それは私の”認識”だ。怪異は人を悪たらしめ、人の世を混乱と混迷と混濁に陥れるもの。そんなもの放っておけるわけがなかろう。私は十字架を背負いしパスファインダー。支配から逃れし戦士。シャカイナの能力下から逃れた能力者という”認識”だ。

いやはや、”認識”がくどすぎてややかみ砕けない状況となった。だが、能力とは自己の”妄想=認識”を他者に押し付け”妄想でなく現実という認識”を共有すること。”認識”こそがこの世界の摂理なのだ。私が地球は青いと言えば青いのだ。

ゴーシュ「ふむ、メールを送信することはできるが受信することはできないのか。私の能力「ダイヤモンド=ディステニィ」では操作できないということは、今寄咲ツバメらもまたパスファインダーなのだな」
シャカイナの能力の影響によって能力を得た能力者、パスファインダーではないものを今後は「ノンパス」と呼ぶことにする、にしか私の能力は作用しない。シャカイナの能力しか私は理解できていないからだ。他のパスファインダーらには別のコトワリがある。だからこそ強い。故に負けない。そう、これも”認識”だ。

ゴーシュ「この衛星装置はWAOの初期メンバー5人の能力を複合することで生まれたという。その対価として彼ら5人は自身の能力を失った。個々の能力はこの衛星装置に組み込まれたということだろう。それゆえに様々な機能が備わっているのだな。天候操作だけじゃあない。応用次第では様々な用途が考えられる…例えば、地球全体の気温を絶対零度に落とし人類絶滅、反対に気温を強烈無限度に上げて人類絶滅。いくらでもある。」
人類が存続しようがしまいが私には関係ない。私は怪異がこの世界律から消滅すればそれでいい。だが、私がここにいる限り、私の手足となる人類は生き延びてもらわないと至極困るわけで、だからこの装置が暴走しないように私はこのシステムを監視することにした。

その過程で私は気づいたことがある。怪異の傍に不知火の花があることに。
その花は自然には増殖しない。その花の種子を運ぶものがいる。物理的にではない。言の葉として、怪異が人から人に伝わるときに、その種子は解き放たれて次の植生地に行きつくのだ。裏を返せば、不知火の花があるところに怪異あり。不知火の花を消滅させれば怪異は対消滅するのではないか。
ゴーシュ「EGOの浄化と並行して不知火の花の消滅を彼らに指示しておくか。」

さて、その考えに至ったころ、この装置にアクセスしてくるナニモノかがいることが判明した。この装置の射程を操作するEGO以外に、だ。そのアクセスののち、この装置は大地に向かって雷を落とすのだ。どうやらそいつは私の親族のようだった。
ゴーシュ「自然操作と見せかけたMARIA操作とは。いったいどんな妄想をすればそんな能力が発現するのだ…そうか、こいつもパスファインダーか」

さてそろそろ話を地球に戻そう。私の役割はあくまで裏方。あとは地上のパスファインダーたちの働き次第だ。だが安心したまえ。私の能力「ダイヤモンド=ディステニィ」がある限り、どんなことがあろうが、怪異は消滅する。

最後に私の”認識”を伝えよう。
ここに「最強の剣」を持つ能力者と「最守の盾」を持つ能力者がいるとしよう。二人が戦った時、さて、どちらが相手の能力を上回るだろうか。妄想に強弱があるなら妄想が強い者か。否。妄想に強弱など存在しない。そして必ずどちらかの能力が相手を上回る。それを決めるのは、この世界の統括者だ。私はそれを”神”と認識している。神がダイスを振り、どちらが上かを決めるのだ。安心したまへ、パスファインダーは神に好かれている。ダイスは常に最強の目を出すだろう。…パスファインダー同士だったらどうなるか?それこそは神のみぞ知る、だ。

SIDE:D(ダイヤモンド一族の運命) Fin

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最終更新:2021年08月29日 11:43