~ミストラルシティ~
地縛神と
オウリギンとの戦いから数か月後、平和が訪れた世界。ここミストラルシティもいつもと変わらぬ街並みを取り戻していた。
コツ、コツ
夜の街はずれを一人歩く少女。彼女は一人黄昏ながら、空を見上げる。空に広がる星空が彼女を照らす。
「……」
空を見上げる彼女は何を思うのか。それは彼女の心のみが知る。
「…あたしはなんのために生きているんだろうね」
自身の存在に疑問を持つ彼女。幼い時から両親の顔を知らず孤児院で育てられた彼女はEGOにスカウトされた。
そして幼いながらも諜報員と活動してきた彼女は、任務であれば平気で他者の命を奪えるほどの冷徹さをもつ諜報員となった。
(あたしは今まで多くの命を奪ってきた。任務に生きるのが人生と思っていたあたしにとってはそれ以外はなかった)
今では仲間がいる彼女。気丈な性格をしてはいるが、彼女もまだ若い。だれにも話せない不安や恐怖はあるのだ。彼女にとっては自身の過去がそれにあたるのだろう。
(こうやって一人でいると不安に駆られるね…)
「はぁ…」
ため息をつきながら彼女は夜の街はずれを歩んでいくのであった。
~それから数日後・喫茶かざぐるま~
メルト「はい!注文承りました!」
お客から注文を取る
メルト。
メルト「マスター!注文入りました!」
にろく「あぁ」
コーヒーを入れるにろく。
カラン!
店の扉が開く。
メルト「いらっしゃいませ~!」
一人で次々と接客をこなしていく
メルト。その腕前はなかなかのものだ。
時間は流れ、閉店時間を迎えた喫茶かざぐるま。
メルト「いや~、接客業ってたいへんですね」
ふぅ~と息をつき椅子に座る
メルト。
コトッ
そんな
メルトの座る席にコーヒーを置くにろく。
にろく「おつかれ
メルト」
メルト「ありがとうございます」
にろく「ちゃんとこの分は給料から引いておくからな」
メルト「そんなぁ!」
慌てる
メルト。
にろく「ふっ冗談だ。ゆっくり休め」
メルト「よかった~驚きました」
ほっとしてコーヒーを飲む
メルト。かざぐるまでアルバイトをしている彼女。彼女は魔導都市で魔導の発動に失敗してしまい、ちょっとした事故を起こしてしまったのだ。その損害費用をナルに肩代わりしてもらったのだが、それでは
メルトの気が収まらずバイトをしてナルにお金を返そうとにろくに頼み込みかざぐるまでバイトをすることにしたのだ
カラン!
店の扉が開く。
メルト「すいません。もう今日の営業は終了したんですよ」
扉の前に立つのは20歳前後のピンクの髪の女性だ。
女性「あの~依頼があって来たのですが…」
依頼。その言葉に
にろくの目の色が変わる。
にろく「こっちのお客か。奥の部屋へ」
奥の部屋に通される女性。
~探偵事務所・ヴィントミューレ~
かざぐるまの中にある探偵事務所。そのソファーに腰を下ろす女性。
メルト「どうぞ」
コトッ
コーヒーを机に置く
メルト。
女性「ありがとうございます」
メルトはコーヒーを置くと部屋の外に出ていく。ヴィントミューレへの依頼は
にろくへの依頼。お客のプライバシーのためにもあくまで部外者である
メルトには聞かせるわけにはいかない。
にろく「さてでは聞かせてもらえますか」
女性「私はミカといいます」
にろく「ミカさんですか。私は探偵事務所ヴィントミューレのにろくです」
ミカ「にろくさん。早速依頼内容なのですがとある女性を探してほしいのです」
スッ!
写真を取り出すミカ。その写真には部屋の中で言い争う様子の二人の女性と男の姿が写っていた。
その写真を見て驚くにろく。その写真に写っていた3人は彼の見知った人物。
にろく「ウルズと昴、それにきゅっぱか…」
ミカ「あなたと彼らは知り合いだったんですね」
にろく「あぁ。彼らが写っている写真があるということはあなたも彼らの知り合いなのですか?」
ミカ「はい。私はEGOミストラルシティ支部の研究部で研究員をしています。彼らは特殊なのですがミストラルシティ支部に居候しているような形で暮らしてまして、私も彼らによくしてもらっていたんです」
にろく「そうだったのですね」
今のEGOの体制はだいぶ改変されたと聞く。彼女も他の支部から配属されてきたのだろう。あるいは新たにEGOに入った職員かもしれない。
ミカ「それでこの方を探してほしいのです」
スッ
写真のなかの一人を指さすミカ。
にろく「きゅっぱか」
ミカ「えぇ。数日前、彼らは喧嘩してしまってきゅっぱさんが出て行ってしまったんです。それから戻ってこなくて…」
にろく「それで彼女を探してほしいと」
ミカ「はい。そうなんです」
にろく「(喧嘩で出ていったんならそのうち戻ってくるんじゃないか。それにウルズと昴もいる…と言いたいところだがこれは依頼だ)わかりました。それであなたが彼女を探す理由を聞いてもいいでしょうか」
ミカ「はい。実は私は今の支部に配属されたばかりでなかなかなじめなくて…そこで一人でいたときに声をかけてくれたのがきゅっぱさんだったんです。そこからは周りともだいぶなじめるようになって…だからきゅっぱさんには感謝してるんです。そんな彼女が行方不明なんて心配で…」
にろく「なるほど。事情はわかりました。ではこの依頼お受けしましょう」
ミカ「よろしくお願いします」
部屋を出ていくミカ。
にろく「久しぶりの依頼。腕が鳴るな。さてまずは…」
帰ってこない
きゅっぱの捜索依頼。まずやるべきことは。
にろく「裏どりから始めるか」
~ミストラルシティ・公園~
ウルズ「ようにろく」
昴「私たちを呼び出すなんてなにかあったのかい?」
公園に二人を呼びだしたにろく。
にろく「おまえたちにききたいことがあってな」
ウルズ「なんだ?」
にろく「きゅっぱのことだ」
昴「さすが探偵、情報が早いんだね。にろくも知ってたとは。実はこの間喧嘩しちゃってね…出てったきりまだ戻ってきてなくて…」
ウルズ「正直俺たちも心配しているんだが…ミストラルシティ内はいろいろ探してみたんだが見つからないんだ」
昴の言葉に引っかかるにろく。
にろく「にろくも…ということは俺以外にもその話を知ってるやつがいるのか」
昴「うん。今私たちはミストラルシティ支部の倉庫に居候してるんだけど、夜は支部内は職員もいなくなって私たちだけになるんだ。あの喧嘩の日は夜だったんだけど私たちの喧嘩を見たらしい人がいてね」
にろく「十也か?」
ウルズ「今、十也と結利、長官たちは数日前から本部に出張中だ」
話を聞くと本部での会議にいっているらしい。
昴「支部に最近配属された子なんだけど…確かミカっていったかな。喧嘩した次の日、彼女から問い詰められちゃって。きゅっぱとなにかあったのかって」
ミカ…その名前は確か。
にろく(依頼主か。なるほど彼女はなんらかの理由で夜も支部に残っていた。そして倉庫から聞こえる声できゅっぱたちの喧嘩を知った…いやもしくは飛び出していったきゅっぱを見たのかもしれない)
昴「彼女、きゅっぱと仲が良かったみたいだったからね。多分残業かなにかであの時部屋の外にいたのかもしれないね」
にろく「そうか(依頼主の言っていることに嘘はなさそうだな。となるとあの依頼時に見せられた写真は、彼女が昴を問い詰めた後支部の監視カメラからでもデータをとって焼いたものか…あまりほめられない手段だな)」
だとしてもそれは依頼主がそれほど
きゅっぱのことを心配していることを示している。藁にもすがる思いでヴィント・ミューレの噂を聞いて尋ねて来たのだろう。
にろく「(だが一番気になるのは…)その大喧嘩っていうのはどんな喧嘩だったんだ?」
きゅっぱが飛び出していくほどの大喧嘩。その内容がこの依頼を解決するヒントになりえる可能性が高い。
ウルズ「それが…」
昴「恥ずかしい話なんだけど…」
口をごにょごにょと話したがらない二人。
にろく「きゅっぱがいなくなったのは俺も心配だ。その理由を知らなければきゅっぱの行方を追うこともできないだろう」
ウルズ「実はな…」
昴「その日は酒を飲みすぎちゃって…」
ウルズと昴の話によると二人はその日、どちらが多く酒を飲めるかの対決をしていたそうだ。その審判兼立会人としてきゅっぱがその場にいた。
~~
酒を飲みすぎた二人はべろべろになり、ついつい
きゅっぱに言ってしまった。
ウルズ「おまえってなんできゅっぱっていうんだ?っヒック!」
昴「かわいい名前だよね~大人になってもきゅっぱちゃんヒック!」
酔っ払いに絡まれる
きゅっぱ。
きゅっぱ「…しろ」
ボソッ!
小さな声で何かつぶやく
きゅっぱ。
ウルズ「えっ?」
きゅっぱ「いい加減にしろよ!酔っ払いども!」
昴「なんですって~~。きゅっぱちゃん!ひどい!」
きゅっぱ「人の名前をいじりやがって!もうお前たちのことなんて知らない!」
バン!
部屋の扉を開き飛び出していく
きゅっぱ。
ウルズ「あ…ありゃりゃ…」
昴「ちょっと…触れちゃいけない…やつだった…かも」
~~
にろく「それが
きゅっぱが出て行った理由か」
ウルズ「面目ない…」
昴「ごめんなさい…」
本当に申し訳なさそうにする二人。だからこそ二人も
きゅっぱのことを探していたのだろう。
にろく「きゅっぱはおれと同じEGOの秘密諜報部に所属していた。あいつの名前は俺と同じくコードネームだ。それ以外の名がない俺たちに名前でいじるなんて…」
はぁと少しあきれたように話すにろく。
ウルズ「返す言葉も…」
昴「ありません…」
ズーン
非常に落ち込む二人。
にろく「話はわかった。あとは俺がなんとかしてみせる」
ウルズ「すまないにろく」
昴「
きゅっぱを見つけて、頼むよ」
にろく「それは依頼か?」ニヤリ
昴「お金はないんで…お願いね」
にろく「ふっ、いいさ。(さて情報はそろった。次に行くのは…)」
探偵事務所ヴィント・ミューレ所長にろく。
きゅっぱの行方を追う彼が進むのは…
SIDE 8 (8枚羽(かざぐるま)の喫茶店の奥にある探偵事務所) Fin
最終更新:2020年05月08日 22:35