~ミストラルシティ~
ミストラルシティの各所を探し回るにろく。
にろく「ここにもいないか…」
駅をはじめ、だれか知り合いのところを訪ねていないかとツバメに頼み彼女の所有しているビルを探したが
きゅっぱの姿は見えない。
にろく「きゅっぱと関係のある場所…」
ふと頭をよぎる場所。それは彼女がアイラッド村で長くいた施設。
にろく「孤児院か…」
ミストラルシティにも孤児院がある。だがそこはにろくにとってはあまり気が進まない場所だ。
にろく(幼い俺を引き取ってくれたあの孤児院。だが俺は…)
過去の記憶がよみがえるにろく。
にろく「もう過去は振り切った。あそこにいってみるか」
~ミストラルシティ・孤児院~
街の外れにある孤児院。そこに足を運んだにろく。
にろく「あのころとかわらないな」
自身が孤児院で暮らしていたころの記憶を思い出す。まわりになじめなかった彼をシスターは優しく接してくれていた。あの事件が起きるまでは。
にろく(あの一件でおれはEGOの秘密諜報部に引き取られた…そして今の名前が与えられた)
ガチャ!
孤児院の扉が開く。中から出てきたのは…
シスター「なにか御用ですか?」
修道服に身を包んだ高齢の女性だ。
にろく「っ!」
一瞬驚くにろく。あのころから年月は立っているが間違いなく彼女は…
シスター「あら?どこかであったことがありましたか?」
にろく「いえ、気のせいでしょう。私は人を探してまして」
スッ
写真をシスターに見せるにろく。
にろく「この女性を探しているのですが見覚えはありませんか」
シスター「人探しですか」
にろく「はい。私はミストラルシティで探偵をしているにろくといいます」
シスター「にろくさんですか。この写真の女性は見覚えがありませんね」
にろく「そうですか。お時間をとらせて申し訳ありませんでした。では」
その場を後にしようとするにろく。
「どうかしましたか?」
孤児院の中から一人の男性が出てくる。その服装から彼は神父のようだ。
神父「お客人ですか?」
にろく「いえ、しがない探偵です」
神父「探偵さんですか。だれかをお探しなのですか?」
にろく「えぇ。人探しの依頼で」
神父「そうですか。あなたに神の御加護があらんことを」
にろく「ありがとうございます」
シスター「あなたの顔を見ればわかります。今のあなたなら必ずうまくいきますよ」
シスターは感慨深い顔でにろくに笑顔を向けた。
にろく「…ありがとうございます。それでは」
その場を後にするにろく。その後ろ姿を見つめるシスター。
シスター(…大きくなったわね。あの時の私はあなたを包み込むほどのやさしさを持っていなかった。あの時のことは今でも思い出すほど後悔している。でも今のあなたはとても立派に成長したようね。その姿を見れただけでも満足だわ…)
神父「シスター。あの探偵…もしかして」
シスター「あの子もあなたと同じく成長したのよ」
神父「そうか。僕も今は孤児たちを支える身。彼も変わったんだね」
シスター「崖から落ちていたころからは想像もつきませんね」
神父「昔のことだよ。今は立派な神父さ」
シスター「そうですね。彼…にろくさんも立派な探偵になられたようですから」
~~
にろく「さて…」
にろくの目の前に立つ建物。そこは…
にろく「EGOミストラルシティ支部。ここにあるあそこを探ってみるか」
EGOの人間ではないにろくが支部内に入るのは侵入行為。許可がなければまかり通らない。だがそこは探偵。うまくやるのが彼の仕事だ。
EGOの隊員たちの目を掻い潜り、支部内に潜入するにろく。彼が向かったのは…
~EGOミストラルシティ支部地下・データベース兼管理室(元秘密諜報部無機室)~
にろく「今の無機室はこうなっているのか」
ミストラルシティ支部の全セキュリティと情報を網羅した管理室と化している元無機室。部屋の中をくまなく探してみるがきゅっぱの姿は見当たらない。
にろく(諜報部の古巣であるここならとも思ったが…いないか)
部屋の中のパソコンに目をやるにろく。
にろく「洗ってみるか…『プラグオン』」
パソコンにプラグを突き刺すにろく。にろくのもつ携帯端末にパソコン内の情報が表示される。
にろく「秘密諜報部の隊員のデータはと…」
何重にもプロテクトされているセキュリティを潜り抜け秘密諜報部員のデータへとアクセスするにろく。
にろく「諜報部は解体されてもデータはまだ生きているみたいだな」
データを見ていくと諜報員の名前と能力や特徴がずらりと書いてある。死亡した諜報員にはその旨が記されている(ネオが集めて殺した諜報員にも死亡表記が成されていることから、解体直前までのデータであろう)。そしてその欄には諜報員の位置情報を表示する項目が書かれていた。
にろく「№98…見つけた」
きゅっぱのページを見つけるにろく。位置情報を表示しようとするにろくだが…
にろく「…だめか」
位置情報表示のシステムは壊れているらしい。おそらく首についていたチョーカーがその役割を果たしていたと思われる。チョーカーがない今その位置は知ることはできないようだ。
にろく「ん?」
きゅっぱの情報が書かれている欄に気になるものを見つけるにろく。
にろく「下のほうになにか…これは」
※90代ナンバー(エクストラ・ナンバー)について
にろく「90代ナンバー(エクストラ・ナンバー)?」
にろくも聞いたことがない用語だ。そのページを開くにろく。
にろく「これは…」
そこにはこう記されていた。
90代ナンバー(エクストラ・ナンバー)は諜報員として最適化されたデザイナーベビー。
クリュセルスのEGO能力研究機関ユグドラシルで実験的に行ったプロジェクト。
研究機関で出生したデザイナーベビーは人間性を学習させたのち諜報員として養成する手法を用いる。
各地の孤児院に預け生活を行わせ、その後諜報部で再び引き取り諜報員として育成を行う。
だが問題点もある。
デザイナーベビーの成功例は少ない。ほとんどが失敗に終わる。
その原因は細胞異常による早期の死亡だ。生まれてから数年で死亡してしまう。作成時に細胞をいじった際になんらかの異常が体に起き、それが寿命の短命化を引き起こしてると思われる。
その中でも成功例となった90代ナンバーは稀少である。
ユグドラシル所長兼秘密諜報部長官N
にろく「デザイナーベビー…ネオのやつそんなことまでやってたのか。それにいまの情報がたしかならきゅっぱは…」
彼女の出生。その秘密を思わぬ形でしってしまったにろく。本来ならば秘密諜報の長官でなければアクセスできない情報。にろくは『プラグオン』があるからこそ情報にアクセスできたが他の人物ならばそれを知ることはできなかったであろう。
にろく「…今はきゅっぱの行方を探すことに集中しよう」
気持ちを切り替えるにろく。
にろく「きゅっぱの動向を探るか。探る手段は…」
部屋の監視カメラに目が止まるにろく。今この部屋の監視カメラはにろくの『プラグオン』により制御が乗っ取られておりにろくが監視カメラに写ることはない。
にろく「きゅっぱがいなくなった日の監視カメラの映像か…」
監視カメラの保存データにアクセスするにろく。
にろく「監視カメラの映像…きゅっぱがここを出ていったのは間違いない」
きゅっぱの出ていく姿が監視カメラに写し出されていた。きゅっぱが走っていく廊下には一人の女性の姿が写っていた。
にろく「んっ?」
早送りで監視カメラの映像を見ていると昴の姿が写る。昴が廊下を歩いていると研究服に身を包んだ女性が昴へと駆け寄ってくる。女性は昴と言い争っているように見える。
にろく「時間は…きゅっぱが出ていった翌日だ。きゅっぱが出ていったときにすれ違った女性と昴と言い争っていた研究服の女性は同一人物に見える…。ということは…」
その女性がミカである…はずなのだが。なにかおかしい。
にろく(この女性がミカ…)
監視カメラに写る女性の姿。それはどうみても探偵事務所を訪れたミカとは別人に見える。その容姿は似ても似つかないほど違う。
にろく(どういうことだ…)
この状況から導かれる答え。それは…
にろく(昴の話と映像がある以上、この監視カメラに写っている女性がミカで間違えない。となれば…俺の事務所を訪ねてきたやつ。あいつは何者だ…)
ミカを名乗りにろくに依頼をしてきた女性。少なくとも彼女はきゅっぱが失踪したことを知っていた。
にろく「依頼主の裏をとる必要が出てきたな…」
プラグオンによりデータを検索するにろく。
にろく(やはり…この支部内から監視カメラのデータを持ち出した痕跡はない)
ミカを名乗る女性がにろくに見せたウルズと昴、きゅっぱが言い争っている様子の写真は監視カメラの映像だった。だがそのデータを印刷や持ち出した痕跡はない。
にろく(外部からのハッキングで監視カメラの映像を得たのか…だがあのミカを名乗る女性はなぜそんなことを…)
そこまでしてにろくにきゅっぱを探させる理由が思い浮かばない。
ブン!!
突如部屋のパソコンの電源が入る。
にろく「なんだ?」
『思ったより早くたどり着いたね。さすがは探偵さん』
パソコンのモニターから聞こえる声。
にろく「この声…」
パソコン越しでノイズはあるが聞き覚えがある声。
『もうちょっと遊べると思ったんだけど残念。№26(ナンバーにじゅうろく)、ミストラルシティの中央公園に来なよ。そこで待ってるから』
プツン!
パソコンの電源が落ちる。
にろく「今の声は…依頼主か」
ミカを名乗っていた依頼主の声に間違いない。
にろく(俺のことを№26と呼んでいた…その呼び方は…)
秘密諜報部のナンバー。その呼び名でにろくのことを呼ぶ彼女の正体。それを確かめるにも行くべき場所は…
にろく「奴の誘いに乗るしかないな」
にろくは中央公園へと向かうのだった。
~ミストラルシティ・中央公園~
にろく「ここか…」
公園へと到着するにろく。時間も遅く夜となった公園には他に人の姿は見当たらない。彼女を除いては。
「おぉ~。早かったね」
にろくを待ち構えるピンク髪のミカと名乗っていた女性。その服装は依頼しに来た時とは違いスーツに身を包み、首にはチョーカーがついている。
にろく「依頼主…おまえはだれなんだ?」
ミカ?「お前とは心外だな~。こう見えても君の先輩になるんだけどな」
にろく「先輩だと?」
フォウ「そう。私は№4(ナンバーフォー)。コードネームフォウ」
にろく「その名を持つということはお前も秘密諜報部員なのか?」
フォウ「元ね。今は秘密諜報部は解体された。まぁ解体される前に私は諜報部は抜けているけど」
にろく「なにが目的で俺に接触してきた。それにきゅっぱを探させる理由はなんだ?」
フォウ「あなたの実力を知りたかったのよ。ここまでたどり着いたのなら問題ないわ」
にろく「どういう意味だ?」
フォウ「№26…にろく。私と一緒に来ない?」
にろくへ手を差し伸べるフォウ。
にろく「なんのつもりだ?」
フォウ「あなたはEGOが憎くないの?都合の良い諜報員として利用されてきたその人生が悔やまれない?」
にろく「復讐か…今の俺には関係ないな」
バシ!
フォウの手をはねのけるにろく。
フォウ「交渉決裂ね…じゃあ」
コッ…コッ…
フォウの後ろから聞こえる足音。
にろく「おまえは…」
きゅっぱ「…」
にろくの前に姿を現すきゅっぱ。
フォウ「あとは彼女に任せるわ」
にろく「きゅっぱ!ウルズと昴も心配していた。戻るぞ」
きゅっぱ「…あたしは戻らないよ」
にろく「ウルズと昴も反省していた。お前のことを必死に探していたんだぞ」
きゅっぱ「…そうかい。あたしには関係ないね」
にろく「何を言って…」
きゅっぱ「今のあたしは自分の居場所を見つけた。あたしの存在意義を知ったんだ。もうあんたたちとは一緒にはいられない」
にろく「もしかしてお前90代ナンバー(エクストラ・ナンバー)のことを…」
バッ!
にろくが言葉を言い終わるよりも早くにろくの懐に入り込むきゅっぱ。
きゅっぱ「『トリガーオン』」
カチッ!
にろくの体に指を当てトリガーを引くきゅっぱ。
にろく「ぐっ…」
意識が揺らぐにろく。今日一日きゅっぱの捜索をしていたにろくは少なからずも睡魔がその体を襲っていた。睡眠という意思の引き金を引かれたにろくはそれに抗えない。
きゅっぱ「迷いがあるあんたにあたしは止められない。じゃあねにろく…」
ドサッ
意識を失いかけ、その場に倒れるにろく。
フォウ「迷いはないみたいね」
きゅっぱ「迷いなんてないさ」
フォウ「じゃあ行きましょうか」
二人はいずこかへと姿を眩ます。
にろく「きゅ…っぱ…」
薄れゆく意識の中できゅっぱの後ろ姿がその目に写る。
にろく「お…れは…」
意識を失うにろく。
~喫茶店かざぐるま~
にろく「はっ!」
ガバッ!
目を覚ますにろく。
メルト「大丈夫ですかにろくさん!」
にろく「うっ…ここはかざぐるまか」
ベッドで目を覚ますにろく。
メルト「はい。いつまでたってもにろくさんが帰ってこないから探しに行ったら、公園で意識を失っていたにろくさんを見つけてここまで連れて来たんです」
にろく「すまなかった…助かったメルト」
メルト「えっへん!もっとほめてもいいですよ!私おかゆをつくってきますね!」
厨房へと走っていくメルト。
にろく(きゅっぱ…なにがあったんだ…)
フォウと行動を共にしていたきゅっぱ。彼女の真意は読めない。
にろく「俺は…探偵だ」
ベッドから体を起こすにろく。
にろく「フォウからの依頼は破棄されていない。きゅっぱを探すという依頼。達成したらフォウの奴にしっかり金を払ってもらう!」
カランコローン!
喫茶店を出ていくにろく。
メルト「あぁ~にろくさん!おかゆは~!」
きゅっぱを追う手掛かりを探すため奔走するにろく。そこで彼を待つ運命は…
SIDE 4 (№4(ナンバーフォウ)) Fin
最終更新:2020年05月12日 22:32