ナル「僕の魔導がすべて見透かされたように避けられる…」
ナルが放った魔導はすべてその攻撃の軌道が読まれているかのようにファウストに避けられてしまう。
ナル(なんらかの探知能力…いや違う。どこに攻撃が来るかというレベルで感知しているわけではない。僕が放った魔導がどういうものか分かったうえで回避されている)
複雑な術式を持つ魔導。それを魔導士以外の者が一瞬で理解し、回避するなど考えられない。
ナル(僕の考えが読まれているのか…でも魔導の術式までは理解できないはず。奴の能力は一体…)
ファウスト「考え事は済んだかい?」
ナル「あぁ…と言いたいところだが残念ながら君の能力は読めなかったよ」
ファウスト「戦場において相手の能力を読みきり、それに対抗する手を持ち得れば勝利はたやすい。だが…読み切れず、対抗する手もなければ勝利はその手にはつかめない」
ナル「今の僕の状況だね」
ファウスト「そうだ。君は僕を止めることはできない」
ナル「やってみなければわからないさ」
宝剣を構えるナル。
ナル「『地葬槍(ソウ・ギージュゥ)』!」
ゴッ!
地面から生えた石の槍がファウストに襲い掛かる。
スッ!
まるで石の槍がそこに現れるのをわかっていたかのように躱すファウスト。
ナル「やはり当たらないか。でもこれなら!」
ファウスト「石の槍を爆発させる魔導を使う気だな。それも読めている」
ナル「なっ!?」
自分の次の行動を言い当てられて驚くナル。
ボッ!
爆発する石の槍。その破片をすべて躱すファウスト。
ファウスト「君の動きは読めている」
ナル「あれだけの破片をすべてよけるなんて…」
ファウスト「そろそろ終わりにしよう」
ナルへと歩み寄るファウスト。
ナル「くっ!」
宝剣をファウストへ振るうナル。
スッ!
だがそれもファウストは最小限の動きで躱し、ナルの首へその手を伸ばす。
ガッ!
ナル「ぐっ!」
首を掴まれその体を持ち上げられるナル。
ファウスト「君の息の根を止めさせてもらう」
ナル「が…はっ…」
カラン!
首を絞めつけられ、手にも力が入らない。その手に持っている宝剣を地面へと落とすナル。
ギリギリギリ!!
ナルの首を絞めつけるファウスト。
ファウスト「残念だがお終いだ」
ナル「…」ニヤッ!
口元に笑みを浮かべるナル。
ズルッ!
ナルの体が泥のように溶けて消滅する。
ファウスト「消えた…だと」
ナル「やっとわかったよ。君の能力の正体」
どこからか聞こえるナルの声。
ファウスト「僕の能力だと?」
ナル「あぁ、そうさ。この魔導が通用するということから推測できたよ。そしてその推測は『マスタープルーフ』で確実なものになった」
ナルの能力『マスタープルーフ』はあらゆる情報を分析・高速処理し未来を確定させる能力だ。
ナル「少しでも不確定要素があれば『マスタープルーフ』は確実な物にはならない。今こうして僕が実感できていることこそが君の能力の正体を暴いたということ」
ファウスト「ならば聞きたいものだね。君の推理を」
ナル「お望み通り僕の推理を披露させてもらう」
ズブズブ!!
泥が形を成し、ナルがファウストの前に現れる。
ナル「君は僕が魔導を放った時、その魔導がどういうものかわかっているかのように全て回避した。そこから考えられるのは僕の思考を読んでいるのではないかということだ」
ファウスト「なるほど。思考を読めば相手の動きはすべて理解できるな」
ナル「だがそれは今の魔導『泥人形(ニィワゥワ)』で否定された」
泥を操り人型と成す魔導。ナルはそれをファウストと戦う前から発動し、自身の姿を投影した泥人形でファウストと戦っていた。それにファウストが気付かなかったことから思考を読んでいるという線は否定された。
ナル「となると考えられたのは君が元から魔導(さらには宝剣のことも)を知っているという線だ。魔導を知っていれば相手の動きから次にどんな魔導が放たれるか予測できる。その予測が君の能力の正体に近づくヒントだったんだ」
ファウスト「よく考えているな。ならばそこから君は僕の能力を推測したということか」
ナル「あぁ。君の能力は相手の動きを見て、その動きを予測できる能力。それが僕の推理…そして『マスタープルーフ』から導き出された答えだ!」
ビシッ!
ファウストを指さすナル。
ファウスト「ほぼほぼ正解だ。僕の能力『ゲイズオン』は相手の細かい動作、呼吸、そのすべてを把握する。普通ならば気にしない程度の些細な行動すらも全てを。そこから導き出された最善の行動を僕はとることができる」
ナル「超観察能力…それが君の能力」
ファウスト「そうだ。経験と知識が合わさればそれは無敵の能力と化す」
ファウストは数々の潜入任務から多くの魔導や能力を見てきている。その経験が彼の能力を無敵の能力へと化す要因となっていたのだ。
ファウスト「理解、知識がそのまま力となる。それが僕の能力だ」
ナル「『泥人形(ニィワゥワ)』ももう通用しないと考えたほうがよさそうだね」
ファウスト「そう思ってもらったほうがいい。一度見た技は僕には通用しない」
ナル「だったら!これで!白の魔導の残滓《思考廻巡》!!」
~~
ファウスト「……」
ファウストの動きが止まる。まるで何かを考えこんでいるかのようにその身が完全に停止する。
ナル「膨大な知識がお前の脳に流れ込む。普通の人間には耐えられない情報量だ。脳の情報処理が追い付かず、脳が寿命を迎えるのは必然だ」
動きが止まったファウストを背に、その場を去ろうとするナル。
ズッ!
腹部から熱を感じるナル。
ナル「なっ…」
自身の腹部に何かが突き刺さっている。それは人間の…ファウストの手だ。ファウストの手がナルの腹部を貫く。ナルの腹部からボタボタと垂れる血。
ファウスト「…こんな魔導があるとはな」
ナルの腹部を手刀で貫いたファウスト。
ナル「《思考廻巡》を…耐えただって!?」
ファウスト「まだ…ここで止まるわけにはいかないからな。僕は…」
だらだらと汗を流すファウスト。《思考廻巡》を耐えたとはいえ、それは彼の脳に多大なダメージを与えたことには違いないようだ。ファウストもやっとの様子で動いているようだ。
ズボッ!
ナルの体から手を引き抜くファウスト。
ナル「うっ…」
その場に膝をつき、腹部を手で押さえるナル。
ファウスト「頭が…痛いな。かなり強烈な魔導だな…」
ふらふらとしながら、自身の頭を手で押さえるファウスト。
ナル「化物だね…《思考廻巡》を耐えるなんてありえない。…これが№1か…」
ファウスト「これでとどめだ!」
再びその手をナルへと突き刺すファウスト。
ズン!
ナルの心臓を貫くファウストの手。
ナル「ぐふっ!」
ファウスト「僕の能力を見破ったのには感嘆した。だが一歩及ばずだったな」
ナル「…」
ドサッ!
その場に倒れるナル。
ファウスト「僕の勝ちだ。あとはミストラルシティ支部を制圧するのみ…」
グワン!
周囲の景色が歪む。頭が痛むファウスト。
ファウスト「くっ!さっきの攻撃の影響か…。んっ?」
ナル「…」
心臓を貫き死んだはずのナルがファウストの前に立ち上がる。
ファウスト「なぜだ!?まだ死んでいないのか?」
ナル「…」
ナルは何も言わずにファウストへ襲い掛かる。
ファウスト「くっ!」
ナルの腕を手刀で切り落とすファウスト。だがナルはものともせずファウストへと噛みつく。
ファウスト「ぐっ!なにが…」
ファウストの体の全身に発疹のようなものが浮かび上がる。そして…
ボロボロ…
体が崩れていくファウスト。
ファウスト「な…バカな…うわぁぁ…!!」
突然の事態に脳が追い付かないファウスト。
ファウスト「な、なんなんだこれは!?なにがおきている!理解ができない…」
~~
ブン!ブン!
空を切る拳。無表情のままその場で暴れまわっているファウスト。その傍らでファウストのことを見ているナル。
ナル「驚いたね。《思考廻巡》を受けても、動けるなんて。でもそれは壊れた意識の中。自身の空想の中でもがいているだけ。これで君は無力化した。みんなのほうはどうだろうか…」
~ミストラルシティ・ビル屋上~
きゅっぱ「
にろく!」
にろく「きゅっぱ!」
激しくぶつかり合う二人。お互いに傷つき合いながらも、激しく戦い続ける。
きゅっぱ「どうしてあたしの邪魔をする!あんたも諜報部の人間だろ?」
にろく「復讐は復讐を生むだけだ。その連鎖に意味はない。気づけきゅっぱ!」
きゅっぱ「あんたにはわからない。諜報員として生きるためだけに造られたあたしの気持ちなんて!」
にろく「この…分からず屋が!」
声を荒げるにろく。
にろく「お前だけが特別だなんて思うなよ!」
きゅっぱ「なっ…」
あまりのにろくの迫真さに驚くきゅっぱ。
にろく「お前はエクストラナンバーのことを知ったんだよな」
きゅっぱ「そうだよ。だからこそ!」
にろく「エクストラナンバーはおまえ一人じゃない」
きゅっぱ「えっ…!?」
にろく「俺だ…俺がエクストラナンバーの生き残りだ」
きゅっぱ「なにを…でまかせを…」
にろく「№26…そのコードは誤って付けられたものだ。本当の俺のコードは№97だ」
きゅっぱ「№97…だって?」
にろく「そうだ…」
にろくが孤児院からEGOに引き取られたとき…EGOの職員の会話。あの時は番号に大した意味などないと思っていたから、聞き流していたあの会話。
~~
にろくがEGOに引き取られ、諜報部員としての訓練を受けていたころ。
EGO職員「この子のコードは?えぇ、わかりました」
だれかと通話しながら書類に何やら書き込んでいる職員。その職員はずいぶんと酒を飲んでいた。それを横目ににろくは訓練を続けていた。
EGO職員「ありゃ?書類逆さまだったな。まっいいか!」
~~
その職員は逆さまににろくのコードを記入していた。その事実がエクストラナンバーの話を知ったにろくの頭に浮かんだ。
にろく「26をひっくり返したナンバー。すなわち97。それが本当の…本来の俺のコード。№97だ」
きゅっぱ「にろくもエクストラナンバー…それって…」
にろく「おれとお前は同じデザイナーベビー。すなわち兄妹ってことだ」
きゅっぱ「あんたがあたしの…」
突然の告白に驚きを隠せないきゅっぱ。
にろく「出自なんて関係ない。今が重要なんだ。それを理解しろ!」
きゅっぱ「そんなこと急に言われても…あたしには…」
にろく「おまえは居場所を見つけたといっていた。それは本当にお前が望んだ居場所なのか?」
きゅっぱ「それは…」
にろく「もしも少しでも迷いがあるのなら、俺の元にこい!おれがお前の居場所になる!」
きゅっぱ「にろく…」
にろく「エクストラナンバーや諜報員なんて関係ない。これが俺の…俺という人間の意思だ」
きゅっぱ「……」
その場に佇むきゅっぱ。もう彼女にはにろくと戦う意思はないようだ。
きゅっぱ「あんたを…信じるよ」
にろく「きゅっぱ…」
ピピピ!!
にろくのもつ携帯端末に連絡が入る。
にろく「ナルたちも決着がついたようだ。これで…」
きゅっぱ「待って!まだ終わりじゃないんだ」
にろく「ん?どういうことだ?」
きゅっぱ「あたしとファウストたちは囮なんだ。本命は他にいる。そいつがミストラルシティ支部にむかうために今この街にいる戦力であるにろくたちを引き付けるのがこの作戦のかなめだったんだ」
にろく「なに!?なら…」
きゅっぱ「急いでミストラルシティ支部へ行かないと。あいつはもう向かっているはずだよ!」
~EGOミストラルシティ支部~
EGO隊員「ぐはっ!」
ドサッ!
倒れるEGO隊員。
コツコツコツ
EGO隊員を倒したその侵入者は支部内を進んでいく。その侵入者が目指すのは…
~EGOミストラルシティ支部地下・データベース兼管理室(元秘密諜報部無機室)~
バシュ!
部屋の扉が開く。
カタカタカタ!!
室内のパソコンを操作する侵入者。
「支部内の全てのシステムを掌握する。外部への連絡を絶ち、この支部の制圧をEGO他支部への足掛かりとする」
ガコン!
システムをシャットダウンしていく侵入者。
バン!!
勢いよく開かれる部屋の扉。
「!?」
何者かの登場に驚く侵入者。支部内の人間はすべて倒したはず…。侵入者の前に現れたのは…
にろく「はぁ…はぁ…」
きゅっぱ「ぜぇ…ぜぇ…」
よほど急いできたのか息も絶え絶えなにろくときゅっぱ。
「№98…なんでおまえが№26と一緒にいる?それに№1たちはどうした?」
きゅっぱ「ファウストたちは全員やられたよ」
「やられただって?まさか№1まで…」
きゅっぱ「そうさ」
にろく「俺の仲間たちにな」
「そうかい。だったら仕方ないね。№98、あんたが№26を連れてきたってことは裏切ったってことだね。じゃあ遠慮なく叩き潰させてもらうよ」
きゅっぱ「やれるものなら!」
にろく「以前の借りを返させてもらうぞ!」
「威勢がいいのは態度だけじゃないってのを見せてもらおうじゃないの」
にろく「いくぞ!マオ!」
マオ「来な№26!」
SIDE 2 (2人のエクストラナンバー) Fin
最終更新:2020年08月14日 01:08