とある学生の物語

~ミストラルシティ~
四方の大陸と橋でつながれた海に浮かぶ人工都市ミストラルシティ。その人工都市は国境を越え、数多の国の人々が生活をしていた。その中でも普通の国と比べて一際特殊なのは学生だ。
各地から留学や転入してきたその学生たちは普通の学生ではない。

男「くそっ!」

タッタッタッ!

ミストラルシティのビルの合間を走る男。その手には女もののバッグを持っている。
男「EGOに見つらなかったと思ったがまさか…」

???「待ちなさい!」

男の前に立ちはだかる少女。その見た目は高校生ぐらいに見える。制服に身を包んだ少女はビシッと男を指さす。
少女「あなたのそのバッグ。持ち主に返しなさい!」
男「治安維持委員(セキュリティ)…学生ごときが調子に乗るなよ!」

ジャキ!

懐に持ったナイフを取り出す男。
少女「あくまで抵抗するのなら…治安維持委員(セキュリティ)として、力を行使します!」
男「うぉぉ!」
ナイフを少女に向け突き刺そうとする男。
少女「仕方がないわね」

一瞬のことだった。気が付くと男は少女に拘束されていた。
男「うっ…」
携帯端末を取り出す少女。

ピッ!

少女はEGOミストラルシティ支部へと連絡をとる。
少女「こちら治安維持委員(セキュリティ)です。女性の鞄を窃盗した男性を確保しました。至急応援をお願いします」
男「治安維持委員(セキュリティ)に捕まるなんて…」
少女「観念しなさい!」
男「お前の制服…もしかして…」
少女の制服。それはこのミストラルシティでは有名な女子高の制服だ。
男「各国から高い能力を持つ学生が集まっているっていう…あの…」
少女「ミストラルシティ付属裳丹(もにわ)高校1年、千百 十一(ちはく ともろ)。ミストラルシティ治安維持委員(セキュリティ)所属。あなたを拘束します」
ミストラルシティ治安維持委員(セキュリティ)。それはミストラルシティ内の学生で構成された治安維持組織。EGOでは目の届かない些細な事態にも対応できるようにフットワークの軽い組織を目指して結成された学生機関だ。
その実は将来EGOに所属することを目指す学生が多く加入しており、EGOの養成機関としての側面も持っている。
だがただの学生の啓発活動には留まらず、EGOとも多く連携して活動を行っている。それを可能としているのはこの街の学生の多くが普通の学生ではないことに起因している。
男「裳丹(もにわ)高校の生徒ってことはやっぱりお前も…」
十一「お察しの通り能力者です」
この街の多くの学生は能力者だ。この街の学校は世界各国の能力を持つ子供たちを保護し、誤った能力の使い方をさせないための教育を行うために集めている。若くして能力に目覚めたものが、誤った道を歩まないように正すため。そのためこの街の学生は能力者であふれているのだ。
十一「あとはEGOにお任せします」

~ミストラルシティ付属裳丹(もにわ)高校~
ミストラルシティの中心部に広大な敷地を持つ女子高。各あるミストラルシティ内の高校の中でも裳丹高校は強力な能力をもつ学生が集められていることで有名である。

「ふ~ん♪ふ~ん♪」

鼻歌を歌いながら校内を歩く女生徒。その指にはキャラクターのマスコットの根付をくるくると回している。

十一(ともろ)「せんぱーい!!」

ドッ!

女生徒へと勢いよく飛びつく十一。急に飛びつかれた女生徒は態勢を崩す。

ポーン!

その衝撃で女生徒の指からキャラクターのマスコットが宙へと飛ぶ。

女生徒「あっ!!ミストラルマンが!!」

女生徒の持っていたマスコット。ミストラルシティのご当地キャラ、ミストラルマンが空中で回転しながら落下する。

バッ!!

一瞬の間に女生徒はミストラルマンをその手に掴む。

女生徒「ほっ…」

ミストラルマンを手にほっとする女生徒。
十一「先輩。そんなダサいキャラのなにがいいんですか?」
女生徒「十一にはわからないだろうけどこういう奇をてらったキャラにはそのキャラなりの可愛さがあるの!それに私たちが住んでいる街のご当地キャラよ。やっぱり愛着がわくよね」
十一「…へ~そうですねー」
興味がなさそうに反応する十一。
女生徒「それで急に抱き着いてきてどうしたの?」
十一が抱きついてくるのは決まって何かいいことがあって来た時だ。犬のような十一の扱いに慣れている女生徒は彼女が抱きついてきたとき、そのいいことを聞くのが恒例となっている。
十一「なんと!この十一!またしても治安維持委員(セキュリティ)として活躍してしまいました!女性の鞄を窃盗した男を捕まえましたよ!」
女生徒「お~さすが十一。やるね~」

さすさす!

十一の頭をよしよしと撫でる女生徒。
十一「あぁ…最高です先輩…」
フニャンとした表情で頭を撫でられる十一。
女生徒「あ~…ヨシヨシーー」
感情のない声で十一を撫でている女生徒。その目はその手に持つミストラルマンを見ている。それに気づいた十一は女生徒へと詰め寄る。
十一「先輩!」
女生徒「な、なに?」
十一「先輩は私のことをどう思っているんですか!」
女生徒「いい後輩だと思っているヨー」
十一「本当ですか~」
女生徒「ほ、ほんとだってば!」
十一「ん~~」
頬を膨らませぷっくらとツンツンする十一。そんなやり取りをしていると…

ピピピ!!

十一の持つ携帯端末に通信が入る。
十一「治安維持委員(セキュリティ)の通信。近くで強盗事件…一番近くの治安維持委員は私…」
先ほどまでのじゃれる犬のような雰囲気とは違い、急にシャキッとする十一。
十一「いってきます!」
そういうと十一は学校を出て、事件現場へと向かうのであった。
女生徒「まったく十一ったら…」

~ミストラルシティ・中央銀行前~
男A「がはは!」
男B「やったな!これ俺たちも大金持ちだ!」
大きなカバンに銀行から金を積み込み、逃走する男たち。
男C「なんだ?」
男たちの前に立ちはだかる少女。裳丹(もにわ)高校の制服に身を包む少女は臆せずその名を男たちに告げる。

十一「ミストラルシティ治安維持委員(セキュリティ)です!強盗の現行犯であなたたちを拘束します!」

男A「治安維持委員(セキュリティ)?学生のおままごとだろ。構わねぇ!やっちまえ!」
男B「おぅ!」
十一へと襲い掛かる男B。
十一「やるきですね!」

バッ!

スカートを両手でまくり上げる十一。
男A「なんだ?」
スカートの中に短パンをはいている十一。その短パンに装着されたホルダーには単語帳のように円形のクリップで止められた紙が装填されている。

バッ!

その単語帳のような紙束を手に持つ十一。その紙束を指で弾く十一。

バラララ!

紙束がめくれていく。

パクッ!ビリッ!

紙束の中の1ページを口で咥え、引きちぎる十一。

十一「『即席魔導(インスタントマジック)』!」

ボゥ!

口に加えた紙が燃えるように消えたと思った瞬間!

ゴゥ!

男B「うわぁぁ!!」

男Bの体を炎が包み込む。
男A[な、なに!?]
男C「こいつ能力者か!」
十一「さぁ、まだやりますか?」
男A「仕方がねぇ…降参だ…」
両手を上げその場に膝をつく男A。
十一「意外と物分かりがいいですね。あとはEGOへ連絡を…」
携帯端末を手に取る十一。
男A「…いまだ!」

ギュルルル!!

近くにあった無人のトレーラーが男Aの手の動きに合わせるように十一へと突進してくる。
十一「えっ…」
男A「俺も能力をもっているんだよ!『爆走重車(ブーストカー)』!俺の近くの重い車両(総重量4t以上)を俺の思いのままに操作できるんだぜ!ヒャッハー!」

ブオン!!

トレーラーが十一の眼前へと迫る。
十一「そんな…」

両眼を閉じる十一。

ドゴォン!!


強烈な音と共に宙に舞うトレーラー。
男A「へっ…?」
男C「あれっ…トレーラーがこっちに…」

ゴゴン!

男AとCの頭上へ落下するトレーラー。だが間一髪で男たちはトレーラーの下敷きにならずにすんだ。
男A「なんだよ!」
男C「なんでトレーラーが飛ぶんだ!」
十一「これは…もしかして…」

「まったく…間一髪だったわね十一」

十一の聞き覚えのある声。その声の主は…

女生徒「こいつらが強盗犯…一人は焼け焦げているみたいだけれど」

十一が先輩と慕う女性だ。
十一「先輩!」
男A「こいつも学生…治安維持委員(セキュリティ)か。だったらまとめて始末するぜ!」

バッ!

両手を上げる男A。
男A「『爆走重車(ブーストカー)』!!」

ギュルルル!!

男の呼びかけに応じるように周囲の大型車が十一と女生徒の前へと立ちはだかる。
十一「これだけの車両相手なんて…」
女生徒「まったく…」

ポン!

十一の肩をたたく女生徒。
女生徒「一人で何とかしようとするのは十一の悪い癖。私は十一の頼れる先輩なんでしょ。だったら私を頼りなさいよ」
十一「先輩…でも先輩は治安維持委員でもないし…」
女生徒「関係ないでしょ。困っている後輩がいたなら助けるのは当たり前!そのためだったら私は力を振るうのに躊躇いはないわよ」
十一「先輩…」
男A「ごちゃごちゃと言ってる余裕はあるようだな!車に押しつぶされろ!」

ブン!

男Aが両腕を振るうとそれに応じるように大型車たちが女生徒と十一へと突進してくる。
女生徒「さ~て…」
右腕の人差し指を目標へ向け、親指をサイト(照準器)のように立てる女生徒。

ガッ!

その右腕を左腕で支えるように掴む。

ゴゥ…

周囲の空気の流れが変わる。風が渦巻くように女生徒の指先へと集まっていく。


ピシピシ…

空気が緊張しているように張りつめていく。

ゴゴゴゴ!!

女生徒の指先に空気が圧縮されるように渦巻いていく。それは巨大な空気の塊を形成していく。

キュィィン!!

大型車が女生徒へと向かって走ってくる。
女生徒「『風弾(バレット)』!」

ボッ!

銃を撃つように指を上げる女生徒。するとその指先の空気の塊が大型車たちへ向かって放たれる。

ボシュッ!

空気の塊に触れた大型車たちが次々と吹き飛ばされていく。
男A「なんだって!?」
大型車たちを吹き飛ばした空気の塊はそのまま男AとCへと飛んでくる。

ボヒュ!

空気の塊に触れた瞬間、体が強烈に吹き飛ばされそうになる男A、C。
男A「こ、これ…は…」
男C「あの制服って…たしか裳丹高校…ってことは…」
二人の脳裏によぎるある女子高生。
十一「ミストラルシティには多くの能力者を抱える学校があります。そのなかでも裳丹高校には学生最強の能力者の一人が在籍しています」

ゴゴゴゴ!!

空気の塊に捕われる男たち。
男C「き、聞いたことがある…裳丹高校最強の風力使い(エアロマスター)。確か名前は…」

十一「也転 一凛(やめぐり いちか)。それが先輩であり最強の風力使い(エアロマスター)です」
一凛(いちか)「これでお終い!」

ボゴン!!

竜巻のように渦巻き、男たちと大型車を空高く飛ばす一凛の風弾。

ヒュゥゥ…ズドン!!

地面へと叩きつけられる大型車と男たち。
男A「ぐふっ…」
男C「学生なんかに…やられるなんて…」
男A「これが…裳丹高の風力使い(エアロマスター)…」

ガクッ!

気を失う男たち。
十一「あとはEGOに任せます。ありがとうございました先輩」
一凛「後輩のピンチに駆け付けるのは先輩として当然だよ。十一もちゃんと私を頼りなよ。いつでも力になるからさ」
十一「先輩…♡」

こうして銀行強盗は逮捕された。
能力者がはびこる世界。その中のミストラルシティに設けられた学校の一つ裳丹高校。
これはこの世界で生きる裳丹高校の女子高生 也転 一凛(やめぐり いちか)を中心として繰り広げられる物語。
天十也の織り成す物語とはまた違うもう一つのAS(アナザーストーリー)。
この物語の行きつく先は誰にも分らない。

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最終更新:2020年08月21日 00:09