~ミストラルシティ・裳丹(もにわ)高校~
一凛(いちか)「う~ん!」
両手を組みグッと上へと伸ばす一凛。
一凛「さ~て今日の授業も終わったし、今日はどこへ行こうかな」
授業が終わった放課後。それは学生にとって至福の時間。それぞれに学業で溜まった疲労を癒すための時間である。
「せんぱーい!」
聞き覚えのある声が聞こえる。この声は間違いなく彼女だ。
ドッ!
十一(ともろ)に抱きつかれる一凛。
十一「こんなところで会うなんて…やっぱり先輩と私は一本の赤い糸で結ばれて…」
グシッ!
十一の顔を手で押す一凛。
一凛「私にそんな趣味はないっての」
グググ!!
顔を押されながらも一凛に抱きつく手を放そうとしない十一。
一凛「それに今日は2年も1年も授業が終わる時間は一緒。授業が終わってすぐ帰れば会う確率のほうが高いでしょ(十一のことだから私が出てくるのを待っていた可能性も…)」
十一「冷たいですよ~先輩!この間はいつでも私を頼ってなんて言っておいて~」
一凛「それはそれ。また意味が違うでしょ」
十一「ちぇ~」
つまらなそうな顔をする十一。
十一「本当は放課後もご一緒したかったのですが…今日は
治安維持委員(セキュリティ)の情報交換会があって…」
ミストラルシティの
治安維持委員(セキュリティ)は各地区ごとに分隊されており、定期的にその地区の情報を交換し合っているのだ。
十一「私の所属している第4支部は私が担当の一人なんです」
一凛「担当の一人ってことは各支部から何人か出て情報交換するんだ」
十一「えぇ。各支部から二人ずつです」
その二人に選ばれるということは十一もそれなりに人望があるのだろう。
一凛「へぇ~。そういうのに選ばれるってことは十一はそれだけ
治安維持委員(セキュリティ)の中でも信頼されているんだね」
十一「…まぁ」
一凛「?」
おかしい。いつもの十一なら一凛から褒められれば犬のように尻尾をふって寄ってくるはず(尻尾はないのだが…)。
一凛「なにか情報交換会の担当にされた理由があるの?」
十一「さすが先輩ですね。お見通しですか。察っしの通り、私が情報交換会の担当にされたのはもう一人の担当者…美天(みそら)のせいなんです」
そこまで察してはいないが…せいということは十一はいやいややっているということだろうか。その美天という子がなにかあるのか。
一凛「美天さん…ってこになにか問題があるの?」
十一「美天は私の友達なんですけれど…ちょっととろくて人見知りする子で私が一緒じゃなければ情報交換会にはでないって言ってたらしくて」
一凛「そんな子が情報交換会の担当に選ばれるものなの?」
十一「美天はとろい子ですが、情報処理においては一流なんです。支部内での情報統括も彼女が担当していてるんです」
一凛「だから彼女が情報交換会の担当ってわけね」
十一「そうなんです」
一凛「でも十一と美天さんは友達なんでしょ。だったら一緒に情報交換会に出たって…」
十一「だめです!それじゃあ先輩といる時間がけずられるじゃあないですか!」
一凛「あぁ~そう…」
そんな理由で情報交換会にでるのを嫌がっていたのかと思う一凛。
十一「貴重な先輩と一緒にいられる時間を少しでも長くしたいと思うのは当然のことです!」
胸を張ってえっへんと告げる十一。
一凛「そんな理由ならとっとと情報交換会にいきなさいよ!」
ゲシッ!
十一「ぐぇ~!冷たいです先輩~」
蹴り飛ばされる十一。
一凛「ったく!」
十一はそのまま高校を後にした。おとなしく情報交換会へと向かったようだ。
一凛「改めて…どこに行くかな」
自分の鞄に目をやるとミストラルマンのストラップが目に付く。
一凛「あっ!そういえば!」
一凛は思い出す。そういえば今日はミストラルマンのストラップの第2弾の発売日だった。
一凛「急いでいかないと!」
ビュゥーン!!
一目散に学校を飛び出し、商店街へと走り出す一凛。
~ミストラルシティ商店街~
チャリン!
お金を機械に投入する一凛。
ガチャガチャ!
ガチャポンを回す。
ポン!
ガチャポンから出てくる球体のカプセル。それを手に取る一凛。
一凛「ドキドキ…」
カポン!
カプセルを開ける一凛。
一凛「はぁ~~」
その口から洩れる大きなため息。
一凛「また同じ奴か…」
なんど回しても第2弾目玉のあれがでない。
一凛「第2弾のシークレット。ミストラルマンゴールドバージョン…いくら回してもでない…」
この店舗のガシャポンも回し終わった。今まで数店舗をまわったがどこのガシャポンにも入っていなかったゴールドバージョン。いったいどれだけ探し回れば手に入れることができるのだろうか。途方に暮れながらも商店街の中を歩き回る一凛。
トボトボ…
肩を下ろしながら歩く一凛はいつの間にか商店街の裏路地に歩きついていた。人もいないような裏路地。だがそんな裏路地で一凛の目にとまったのは…
一凛「んっ?」
ボロボロの服を着た女性が目の前に倒れていた。その見た目から年齢は自分と変わらないくらいだろうか。
一凛「だ、大丈夫!?」
ボロボロの女性に近寄る一凛。
女性「う…うぅ…」
うなだれる様子の女性。
一凛「なにがあったの?」
女性「お…おなかが…」
グゥゥ!!
大きく音を鳴らす女性のお腹。
女性「すいた…」
ガクッ!
気を失う女性。
一凛「事情は分からないけどこのままにはしておけないわよね。」
フォン!
女性の体が宙に浮かぶ。一凛が能力により風を操り女性の体を浮かせたのだ。
一凛「よいしょ」
女性を背負う一凛。一凛はそのまま自身の住む住まいへとむかうのであった。
~ミストラルシティ・裳丹(もにわ)高校学生寮~
女性「う~ん…」
ベッドの上で目を覚ます女性。見たことのない風景。自分の知っている部屋とは違う部屋で目覚めた女性。
女性「ここは…」
一凛「目が覚めたのね」
女性の横に立つ一凛。
一凛「大丈夫?」
ここは学生寮の一凛の部屋。気を失った女性を自分の部屋へと運んだ一凛。
女性「ありがとう…あなたがわたしをここに…」
一凛「えぇ。商店街の裏路地で倒れていたから」
女性「ここは…どこなの?」
一凛「裳丹(もにわ)高校の学生寮。私は裳丹高校の学生。ここは私の部屋よ」
女性「裳丹高校?」
一凛「知らない?もしかしてミストラルシティの外から来た人?」
女性「ミストラルシティ?この街のこと?」
一凛「ミストラルシティも知らない…(記憶喪失かなにか…なの?)」
ミストラルシティは有名な海上都市。それを知らないということはありえないと思う一凛。
グゥゥ!
女性のお腹が鳴る。
女性「あっ…」
お腹に手を当てる女性。
一凛「やっぱりお腹がすいているのね。はい!」
ドサッ!
部屋のテーブルに様々な食べ物が並べられる。一凛が寮の食堂から持ってきたものだ。
女性「えっ…これ食べていいの…」
一凛「お腹がすいているんでしょ。食べなよ」
女性「じゃあ遠慮なく!」
ガツガツ!!
一凛が持ってきた食べ物を次々と食べる女性。一通り食べ終わると満足した様子で女性は再びベッドで横になる。
女性「あ~幸せ~」
一凛「あなた何者なの?あんな裏路地で倒れているし、ミストラルシティも知らないなんて」
女性「あ~…」
考えた様子で思考を巡らす女性。
結利「私は来未結利(なびゆうり)。いろいろあって記憶障害みたいなんだ。自分の名前は憶えているけど、それ以外のことはさっぱりなんだ」
一凛「それは大変だね。だったら私がこの街を案内するよ。そうすればあなた…結利の記憶も戻るかもしれないしね」
結利「あ、ありがとう」
一凛「それじゃあ…」
バッ!
一凛のジャージを結利に着せる。
一凛「まずは服だよね。そんなボロボロの服じゃであるけないし、とりあえず私のジャージを着てもらって」
結利「う、うん」
一凛「髪もボサボサ」
アイロンを取り出す一凛。
キュゥゥン
アイロンを髪にかけ、結利の髪を整える一凛。アイロンの熱でパーマを結利にかける一凛。
一凛「これで外は歩けるかな」
結利「ありがとう」
一凛「じゃあさっそく記憶を取り戻すために街に繰り出そうか!」
結利「へっ?」
~ミストラルシティ商店街~
夜の商店街。開いている店も限られている。だが一凛は結利の記憶が少しでも戻るようにと商店街の中を周り、結利のことを聞いて周る。
一凛「だれもあなたのことを知らないみたいだね」
結利「そ、そうだね」ソワソワ
一凛「だれかあなたのことを知っている人がいればと思ったんだけど…だれも見つけられなかったわね。ん~…」
顎に手を当て首をかしげる一凛。なにか結利の素性を知る手掛かりを思いつければと考え込む。
ビービー!!
夜の商店街に鳴り響く警告音。
結利「なに!?」
ゴォォォ!!
商店街の中を猛スピードで走り回る警備用ロボット。
一凛「あれは…」
確か数日前に商店街に導入された最新型の警備ロボットだ。だけどなにか挙動がおかしい。
ゴン!ゴン!
各商店のシャッターに突撃しながら破壊するように商店街内を暴れまわっている。
結利「なにあれ!?」
一凛「暴走…している?」
ギギギギ!!
ロボットの目が一凛と結利を捉える。
ブィン!
その目が怪しく光ったかと思うと警備ロボットは一凛と結利に向かって突進してくる。
一凛「くっ!」
バッ!
人差し指を警備ロボットへと向ける一凛。
ゴォォォ!!
一凛の指先に集まってくる風。
バゴン!
警備ロボットの手がワイヤーにより射出される。その手は一凛へと向かって勢いよく向かってくる。
一凛「間に合わない…」
ガキン!
一凛「えっ?」
自分に直撃すると思った警備ロボットの手は眼前で壁に阻まれていた。その壁は瓦礫を集めて形成された壁に見える。
結利「『リンク』!瓦礫の壁だよ!」
一凛「あなた能力者だったの?」
結利「うん。これが私の能力。周囲の物質を集めて再構築することができる…っていうのを今思い出したよ!(そういえば記憶喪失ってことだった…)」
一凛「助かったよ。ありがとう」
結利「どういたしまして。一宿一飯の恩義は返させてもらうよ!」
ゴゴゴゴ!!
結利が形成した瓦礫の壁が変形していく。形を変えた瓦礫は、大きな瓦礫の剣となる。
結利「てりゃぁぁ!!」
ブン!
瓦礫の剣を警備ロボットに振るう結利。
ゴッ!!
瓦礫の剣が衝突し、勢いよく吹き飛ばされる警備ロボット。
ドゴン!!
商店街の壁に叩きつけられる警備ロボット。
結利「これでどうだ!」
ギギギギ!!
軋みながらも立ち上がり一凛たちへと再び向かってこようとする警備ロボット。
一凛「まだやる気…なら!」
右腕の人差し指を目標へ向け、親指を立て左腕で右腕を支える一凛。
ゴゴゴゴ!!
女生徒の指先に空気が圧縮されるように渦巻いていく。形成される巨大な空気の塊。
一凛「これで!『風弾(バレット)』!」
ボッ!
巨大な空気の塊が警備ロボットに向けて放たれる。
ドゴォン!
警備ロボットの腹部に大きな風穴が開く。
ギギギ!!
ドスン!
その場に倒れる警備ロボット。
結利「やったね!」
一凛「ふぅ」
結利の記憶を探しに商店街に来たはずがとんだ災難に巻き込まれた一凛。
一凛「あとは商店街の人達に任せよう」
一凛と結利はその場を後にした。
~ミストラルシティ・裳丹(もにわ)高校学生寮~
一凛「収穫なしか~結利のことはなにもわからなかったね」
結利「せっかく商店街にまで連れて行ってもらったのにごめんね」
一凛「気にしないで。また明日行ってみよう。結利のことを知っている人がいるかもしれないし。私はお風呂にはいってくるから」
ガチャ!
部屋を出る一凛。
結利(なんだか彼女をだましているみたいで気が引けるなぁ…でもこの時代で
オリジンを倒せる可能性を探るまでは…)
ふと結利の目に留まるテレビに映し出されるニュース映像。
ニュースキャスター「ミストラル号の暴走事件。それを食い止めた天十也さんと果倉部道場の方々がEGOミストラルシティ支部から表彰状を送られました」
そこに映っていた天十也という人物が表彰を受ける姿。
結利「もしかしてこの人なら…未来を変えられるかも」
いてもたっても居られず部屋を飛び出そうとする結利。とその前にやらなければならないことがあると思い踏みとどまる結利。
結利「あっ…恩は返さないとね。服までもらっちゃったし。一凛はミストラルマンが好きみたいだから…」
ミストラルマン。それは結利の時代でも現役でキャラクターとして存在していた。それだけコアなファンがいたのかもしれない。
結利「ちょうどこれが…」
コトッ!
部屋の机にミストラルマンのフィギュアを置く結利。
結利「かくいう私もミストラルマンは好きだったんだよね。未来からお守り代わりに持ってきたこれは一凛にプレゼント♪」
転移の衝撃でボロボロの状態だった結利を助けてくれた一凛は結利にとってこの世界に来て初めての友人ともいえる。
結利「でも今は未来を救うためその可能性を持つ人物を探さなきゃ。じゃあね一凛」
ガチャ!
部屋の窓を開き寮を飛び出す結利。
~~
ガチャ!
一凛「あれ…結利?」
風呂から帰ってきた一凛。部屋に結利の姿はない。
一凛「えっ…なんで…」
一凛の机の上には書置きとミストラルマンのフィギュアが置いてあった。
一凛「これって…ミストラルマンゴールドバージョン!」
いくら探しても手に入らなかったゴールドバージョンが目の前に置いてある。横の書置きに目を通す一凛。そこに記されていたのは…
『私はやることを思い出しました。そのミストラルマンのフィギュアは私を助けてくれたお礼だよ。また会う時があったらその時はよろしくね。結利』
一凛「記憶が戻ったのかな。ならよかったのかも…でもなんだか急にいなくなられると悲しいけど…」
ゴールドバージョンを手に入れられたうれしさが若干悲しさを上回っている一凛。だがそれ以上の一大事に彼女はその時気づくのである!
一凛「あっ!」
それは変えようのない物。彼女の大事なアレが結利と共になくなってしまった。それは…
一凛「私のジャージ!!持っていきやがった!!体育の授業どうするのよ~~!!」
この晩。学生寮からは一凛の叫びが夜遅くまでこだましていたと言う。
最終更新:2020年08月24日 21:54