~ミストラルシティ・中央病院~
病院内を車いすで移動する一凛。車いすと言ってもそこはミストラルシティ製。全自動の優れものだ。
一凛「しばらくは車いす生活か…」
先生とのやり取りを思い出す一凛。
~~
先生「う~ん。これは君の思っている以上に深刻だよ」
一凛のレントゲン写真を眺める先生。
一凛「えっ!?まさかもう体が動かないとか…」
先生「いやいや。そこまでじゃないけどね。全身の強打撲。どうすればこんなことになるのかな?能力を無理やりつかったんじゃないかな?」
一凛「おっしゃる通りです…」
体全身を風で無理やり動かした一凛。その負担は彼女の想像以上だったようだ。
先生「この街の学生たちはいろいろあるから…詳しくは聞かないけどね。能力は酷使してはいけないよ。能力とはその読み通り脳力でもある。君たちみたいな多感な時期の学生は酷使すれば脳にも深刻なダメージを受ける可能性もある。今度は体だけじゃあすまないからね」
一凛「わかりました…気を付けます」
~~
一凛「はぁぁ~」
ため息をつく一凛。しばらくは慣れない車いす生活が続くのかと思うと思いやられる。
一凛「自由に動けないのって大変だなぁ。ん?」
廊下の先に一瞬見覚えのあるジャージが目に留まった。あのジャージは…
一凛「裳丹高校(うち)のジャージ。うちの生徒がだれか来ているのかな?」
ジャージの見えたほうへ行ってみる一凛。
ガコン!
自動販売機でジュースを買うジャージの少女。
一凛「あっ!」
結理「あれ!一凛!?」
結利だ。まさかこんなところで会うとは驚きだ。
結利「どうしたの車いす!?あの後なにかあったの?」
一凛「それがね…」
結利が一凛たちと別れたあとのことを説明する一凛。
結利「そんなことが…まさかロボットを暴走させていた犯人が学生だったなんて(リミットが関わっていたのかも…だとしたら申し訳なかったな)」
一凛「もう犯人も捕まって、一件落着したんだけどね。それで結利はどうして病院に?」
結利「仲間が入院していてさ。お見舞いだよ」
一凛「仲間って…記憶が戻ったの?」
結利「あ~(そういえば記憶障害って言ってたっけ)」
ポン!
手を叩く結利。
結利「記憶が戻った後の仲間。ちょっといろいろあって大けがしちゃって。この病院に入院してるんだ」
一凛「大けがって…大丈夫なの?」
結利「うん。命には別条はないって先生が」
一凛「ほっ!よかった」
結利「一凛は優しいね。見ず知らずの私の仲間にそこまで心配してくれるなんて」
一凛「何言ってるの?私と結利は友達でしょ。だったら友達の仲間を心配するのは当たり前でしょ!」
結利「一凛…ありがとう!」
一凛「で、ありがとうついでに私のジャージは返してもらえるのかな?」
結利「あ~それはまたの機会で…」
そそくさとその場を後にしようとする結利。
一凛「ぷっ!もういいよ。そのジャージは結利にあげる」
結利「えっ!?いいの」
一凛「もう新しいジャージも頼んだからそれは結利にあげるよ。大切につかってよ」
結利「うん!大事にする!」
一凛「それで、結利の仲間の病室ってどこなの?私も結利の仲間に会ってみたいな」
結利「いいよ。一凛に私の仲間を紹介するよ」
二人は結利の仲間がいる病室へと向かう。
結利「ここだよ」
病室の扉を開ける結利。その病室には一人の青年がベッドの上で横たわっていた。意識がなく眠っているようだ。
結利「彼は天十也。今は疲れて眠ってるの」
一凛「へぇ~。結利の仲間か」
歳は自分より少し上だろうか。無防備とはまさにこのことと体現したかのような随分と気の抜けた表情で気持ちよく眠っている。
一凛「大けがって聞いてたけど元気そうね」
結利「なんかね。意外とケロッとしてるんだよね。先生の話だと結構重症だったんだけど…不思議だよね」
一凛「そうだね」
重症とは誤診じゃないのかと思わせるほどに気持ちよく眠っている十也。
一凛「ぜひ今度起きてるときにまた紹介してよ結利」
結利「うん。必ず!」
十也の病室を後にする一凛。
一凛「さ~て私も早く体を治して、学校に行かなきゃ!」
それから数日後。
先生「もう体も普通に動かせるようだね。これなら退院許可をだせるね」
一凛「よし!」
先生から退院許可をもらった一凛。
一凛「っと病院を出る前に…」
結利の仲間がいた病室へと尋ねてみる一凛。
一凛「あれっ?」
部屋を訪ねるともうその部屋には誰もいなかった。
一凛「もう退院しちゃったのか…結利も一言ぐらい声をかけてくれたらいいのに」
ちょっと寂しい気持ちもあるが、結利にはまた会う気がする。そんな気がする一凛。
一凛「でも退院できたならよかった。今度あったらちゃんと紹介してもらうとするか」
~ミストラルシティ・中央病院入口~
病院を出る一凛。
「先輩!」
そんな一凛のもとへ走ってくる裳丹高校の生徒。そうそれは…
一凛「十一(ともろ)!」
十一「やっと退院ですか!これでまた学校で会えますね!」
嬉しそうに尻尾をふる犬のようにくねくねと体を動かしながら一凛へ抱きつく十一。
一凛「な~にいってるの!毎日のように病院に来てたじゃない!普段と変わらないほど顔を合わせてたでしょ」
十一「病院と学校は別ですよ!さぁ!とりあえず寮に帰りましょう!」
一凛「えぇ、そうね」
病院を後にし、学生寮へと向かう二人。
タッタッタッ!!
一凛「んっ?」
二人の前方から走ってくる人物。全身を覆うコートを着て、その顔はフードで隠れている。見るからに怪しい。
EGO退院「まてー!!」
EGOの隊員たちが男を追いかけている。
十一「強盗犯かなにかですかね?」
一凛「私たちも協力したほうがよさそうね」
身構える二人。
ガッ!
地面の段差につまずき転ぶ男。
ズザァァ!!
フードを被った男が二人の元に転ぶように滑ってくる。フードの男を取り押さえる二人。
十一「
治安維持委員(セキュリティ)です!おとなしくつかまりなさい!」
一凛「観念しなさい!」
フードの男「こ、これを…」
小声で一凛へと話しかける男。
フードの男「…追ってきてるやつらに渡すな」
スッ…
男は小型のデータ端末を取り出し一凛に渡す。
一凛「データ端末…?」
フードの男「これの中身を…」
タッタッタッ!!
EGOの隊員たちが一凛と十一のもとへ駆け寄ってくる。
EGO隊員「ご協力ありがとうございます」
一凛「っ!」
サッ!
反射的に男から渡されたデータ端末を服の中に隠してしまった一凛。
EGO隊員「観念しろ!」
ガッ!
男の口を塞ぎ拘束するEGO隊員。
十一「治安維持委員です。この男はなにか犯罪を?」
EGO隊員「えぇ。窃盗犯です。それでこの男なにか盗品を持っている様子はありませんでしたか?」
十一「盗品ですか?なにもなかったですよね先輩?」
一凛「え、えぇ。特になにも…」
EGO隊員「…そうですか。ではこの男は我々が預かります」
EGO隊員たちに拘束され連れられて行くフードの男。
十一「真昼間から窃盗とは物騒ですね先輩」
一凛「えぇそうね…」
十一「どうかしたんですか先輩?」
一凛「い、いやなんでもないわよ!さぁ寮に帰りましょう!」
~裳丹高校・学生寮(一凛の部屋)~
ボフッ!
自分のベットにあおむけで転がる一凛。
スッ!
ポケットに入れていたデータ端末をとりだして見つめる。
一凛(このデータ端末…なにが入っているの)
EGOから逃げていた男が持っていたとうことはEGOのなにか重要な情報が入っているのではと考える一凛。
一凛(そういえば…あの逮捕された男はどうなったのかな)
携帯を操作し、今日のニュースを見てみる一凛。
一凛(おかしい…どこにもあの男のニュースがない)
窃盗犯が逮捕されたというニュースは一つもない。どういうことだろうか。
一凛(もしかしてこれ…本当にやばいデータが入っていたりして…)
だとすればその中身は気になるもの。自身のパソコンにデータ端末を指してみる一凛。だが…
ビビー!!
セキュリティがかかっていて開くことができない。
一凛(こういうのは美天さんが得意そうだけど彼女は治安維持委員だから協力してもらえるかどうか…かといって十一にも言えないしなぁ。う~ん、EGOに返したほうがいいのかなぁ)
いろいろと考るが考えがまとまらない一凛。
一凛「よし!」
一凛はどうするか決めたようだ。
一凛「中身を見てから決めよう!」
好奇心には勝てなかったようだ。だが彼女はどうやってセキュリティがかかっているデータ端末の中身を見る気なのだろうか。
一凛「あんまり気が進まないけど…あいつに頼むか」
~裳丹高校・学生寮(???の部屋)~
トン!トン!
部屋をノックする音。
???「はぁ~い!いるわよぉ」
ガチャ!
一凛「入るわよ」
部屋に入ってきた一凛。
???「あら?也転(やめぐり)さんがわざわざ私の部屋に来るなんて。何の用かしらぁ?」
語尾を伸ばした口調でしゃべる女子生徒。
一凛「う~」
苦虫をかみつぶしたような表情の一凛。対峙して改めて思う。相変わらずこの女は苦手だ。本能的な物だろうか。どうしても彼女には苦手意識を感じる。だが今は我慢我慢と自分に言い聞かせる一凛。
一凛「あなたにこれの中身を調べてほしくてね」
データ端末を取り出す一凛。
???「もしかして私の力を借りたいのかしらぁ?」
長髪を手であおり、ファサッと靡かせる女子生徒。その顔は優越感に満ちている。
一凛「手っ取り早く言わせてもらうけどそうよ。あなたの力でこれの中身を教えてほしいの!」
いやいや頼むせいで少し怒り口調のようになってしまう一凛。だが女子生徒はそんなことを気にも留めずに言葉を返す。
???「ふぅーん。まさか、也転さんから私にお願いされるとはね。別に教えるのはかまわないけどそもそもそれってなんなのしらぁ」
一凛「なんなのって…」
何かを勘繰っているのだろうか。だが彼女が勘繰るのは相手の出方をみるため。その意味を知っている一凛はなにも反論はしない。
???「わざわざ、私に頼むってことは正規の手段で手に入れたものじゃないんでしょぅ?」
一凛「お見通しか…」
彼女に隠し事は通用しない。それはわかっている。
???「ついでに聞くけど、それを自分のパソコンに入れてみたでしょぅ?」
一凛「えっ?」
予想外の質問に驚く一凛。
???「あなたの部屋から、どこかへGPS信号が発せられていたわよぉ」
一凛「それってやばいんじゃ!」
彼女が自分のパソコンにデータ端末を入れたことを知っていたことよりも、GPS信号が発せられていたことに焦る一凛。だとすればこのデータ端末を自分が持っていることが知られてしまう。
???「安心していいわ、私がGPS信号はシャットダウンしておいたわ。その端末の場所が知られることはないわぁ」
一凛「ほっ…よかった」
安堵する一凛。この女子生徒によりGPS信号は消されたようだ。
???「パソコンに接続すると位置情報を転送するほどのセキュリティがかかっている怪しい代物。何が入ってるのかしらねぇ」
一凛「それを知りたいからあなたにお願いしてるの響零 零軌(ひびお れいき)」
裳丹高校2年響零 零軌(ひびお れいき)。彼女はこの裳丹高校の能力者で一凛と対を成す存在。一凛が戦闘能力で裳丹高校最強とするならば、零軌(れいき)はそれとは違う方面の能力で最強の座についている。
零軌「その中身は私も気になるし、見てみようかしらぁ」
スッ!
制服のポケットから鍵を取りだす零軌。その鍵をデータ端末に向ける零軌。
零軌「『開錠(アンロック)』」
ガチャ!
鍵を開けるように90℃回す零軌。
零軌「そのデータ端末。渡してもらえるかしらぁ?」
一凛「はい」
データ端末を零軌に渡す一凛。
零軌「中身を確認しましょうかぁ」
自分のパソコンにデータ端末を差す零軌。
ピッ!
セキュリティが反応せず、データ端末の中身がパソコンの画面に表示される。
零軌「ふぅ~ん。これがデータの中身ね。どれどれぇ」
零軌は鍵を使うことで対象の情報を開けることができる。データ端末のセキュリティ情報を開けた零軌。鍵を使うのは彼女のルーチンであり、自身の能力を使いこなすために彼女が選んだ文字通りのキーアイテムなのだ。
零軌「…これは…」
それは彼女も予想だにしない情報だった。
一凛「これって…学生の能力データ…?」
零軌「ミストラルシティの全ての学生の能力データ。しかもその能力の強さを評価付けしているみたいねぇ」
ミストラルシティにある学校の学生たちの能力がランク付けされ、評価されている。
零軌「これは…大変なことねぇ」
一凛「?」
それのなにが大変なことか理解できない一凛。定期的に学校で行われている能力測定試験。その結果をまとめたものではないのだろうかと彼女は思う。
令軌「これの異常さを理解していなようだから也転さんには詳しく説明してあげるわぁ」
一凛「聞かせてもらうわ」
零軌「ミストラルシティの学校にはミストラルシティ付属のものと個別に経営している私立の学校がある。ミストラルシティ付属の学校間で能力測定試験の結果を共有しているのはわかる。だけどこのデータには私立の学校の能力者のデータも記載されているの。まして無能力者しかいないといわれているはずの私立学校の能力者までピックアップされている」
能力者の中には自身の能力を隠している者もいる。そんな学生の能力者すらもこのデータには記載されている。
一凛「えっ!?それじゃあだれかがミストラルシティ中の学生の能力者を調査してこれを作ったってこと?」
零軌「そのだれかはあなたがこのデータ端末を手に入れた場所の人間じゃないかしらぁ」
一凛「えっ…」
このデータ端末はEGOから逃げていた男が持っていた。だとすればこのデータを作っていたのは…
一凛「もしかしてEGOが…なんのために?」
零軌「理由はわからないわ。でもヒントはあるのよねぇ」
一凛「ヒント?」
零軌「このデータの一部の学生たちは『member(メンバー)』の表記が書かれているわよねぇ」
一凛「『member(メンバー)』…」
リストの中の学生の一部に書かれている表記。それが意味するのはいったい…
零軌「その一人。この男は也転さんは知っているわよねぇ」
ピッ!
零軌がリストの中から表示した男は一凛が知っている人物だ。彼は…
一凛「機征 械理(きせい かいり)!!なんでこいつが!」
械理は十一の話では更生施設に送られた。その彼がなぜ…。とそれ以前の疑問が浮かぶ一凛。
一凛「機征械理って能力者だったの?」
零軌「このデータによると周りには隠していたけど彼は也転さんと同じ風力使い(エアロキネシス)みたいよ。といってもそよ風を吹かせる程度の能力みたいねぇ」
幼いころに使って以来、彼はまったくその能力を使っていなかったようだ。
一凛「そう…(もしかしてそれが彼の能力者へのコンプレックスだったのかもしれないわね…)」
零軌「彼は最近逮捕されたばかり。彼に聞けば『member(メンバー)』の意味も分かるかもしれないわねぇ」
一凛「そうか!更生施設に行けば!」
このデータの『member(メンバー)』の意味。そしてこのデータの出所。それらがわかるかもしれない。
零軌「更生施設は第4区域にあるわ。ここからもそう遠くない。行くのは簡単ねぇ」
一凛「だったら機征械理に会ってこのデータの意味を聞いてくる!」
零軌「行動力があるのは感嘆するけど、一つ忠告しておくわ也転さん。情報は正しく理解したほうがいいわよぉ」
一凛「御忠告ありがとう。じゃあ私は更生施設にいってみるわ」
そういうと一凛は部屋を出て、更生施設へと向かうのであった。
零軌「一凛さんはせっかちねぇ」
パソコンを操作する零軌。能力者のリストの右下をクリックする。今まで学校順で表示されていた能力者たちが能力の強い順で表示される。能力の強さの基準はわからないがこれを作ったものによる評定だろうか。
零軌「この能力の強さを意味するものはわからないけれどぉ…」
零軌のパソコンに表示されるリスト。
零軌「二位と三位、五位は『member(メンバー)』表記。一位はあの有名な…というか本当にいたのねぇ」
学生の間では有名な逸話だ。幻の能力者。その姿を見たものはすべて息無き死体として灰と化す。学生でありながら他者をすべて屠るほどの強力な能力をもつ彼。その噂の彼が一位に表記されている。
零軌「それよりも問題なのが…」
四位と六位。そこに表記されているのは…。
零軌「四位
也転一凛、六位響零 零軌。私たちも目を付けられているということかしらぁ」
一凛と零軌の名前が記されていた。
零軌「このデータ…本当にEGOのものなのかしらぁ?」
このデータ端末の出所に疑問をもつ零軌。
零軌「もっと深いところ…この街の暗部に繋がるものな気がするわねぇ」
最終更新:2020年09月12日 09:20