リヴィ「その体。穴だらけにしてやるよ!」
右手を一凛へ向けてかざすリヴィエラ。
ボッ!
右手から多数の水弾が放たれる。直径2cmほどの水弾。だがその威力は先ほど見ている。当たればどうなるかは明白だ。
一凛「くっ!」
両手を前に出し空気の壁を作る一凛。
ドッ!
空気の壁に衝突する水弾。だが直後!
ボッ!
水弾は空気の壁を突き破る。
一凛「まずい!」
とっさに避ける一凛。
ボシュ!
水弾は建物の壁を貫通する。小さく圧縮された水弾は点での攻撃。面の防御をたやすく突き破る。
リヴィ「ちっ!また避けたか」
一凛「あんなのあたったら一溜まりもない…なら!」
ゴゥゥ!!
風がリヴィエラを囲むように回転する。
ガッ!
リヴィ「体が…!」
風に捕らえられたリヴィエラの体は身動きが取れない。
一凛「風で拘束すれば!」
ボシュン!
一凛へ向かって飛んでくる小型爆弾ロケット。
一凛「くっ!」
ドゴン!
空気の壁を作り小型爆弾ロケットを防ぐ一凛。
スカイ「私たちもいるのをわすれているんじゃないの?アンダー!」
アンダー「うん、いくよ」
地面に両手をつくアンダー。
アンダー「『下限空間(アンダースペース)』」
ヴォン!
廃工場内が空間に包まれる。
一凛「なに…?」
体に変化はない。彼女はいったいなにをしたのだろうか。
リヴィ「ふぅ…」
風で捕えていたはずのリヴィエラがその拘束を解かれている。
一凛「なんで!?能力は解除してないのに…」
驚く一凛。
スカイ「くふふ!もうあなたに勝ち目はないよ!」
リヴィ「おらおらぁ!いくぞ!」
ダッ!
リヴィエラが一凛へ向かって走ってくる。
一凛「なんなの!」
風を操り壁を作ろうとする一凛。
一凛「えっ!」
だが空気の壁が発生しない。いや違う。風は一凛の前でそよいでいるが、壁を形成するほどの風が集まらない。
リヴィ「おらぁ!!」
ドゴッ!
リヴィエラの蹴りが一凛の腹部に命中する。
一凛「がはっ!」
蹴り飛ばされ、その場に倒れる一凛。
一凛「ぐっ…なんで…」
アンダー「『下限空間(アンダースペース)』では、能力は無意味」
スカイ「正確にはちょっと違うけどね~。理屈はわからないけどアンダーが展開した空間内では能力者の力が限りなく弱まるんだよね」
リヴィ「つまり」
指を上に向けるリヴィエラ。その指先からチョロチョロと水が流れる。
リヴィ「こういうことだ。しっかし、アンダーの力は相変わらず使えるなぁ」
大きく右足を後ろに上げるリヴィエラ。直後!
ドゴッ!
一凛「ぐふっ!」
思い切り一凛の腹を蹴り入れるリヴィエラ。
リヴィ「能力が使えなければこの程度かよ!おら!おら!」
ドゴッ!ドゴッ!
一凛「がっ!ぐっ!」
何度も蹴りあげられる一凛。
リヴィ「おらよ!」
ドゴン!
思い切り蹴られ、吹き飛ばされる一凛。
一凛「うっ…」
ドサッ!
その場にあおむけに倒れる一凛。
リヴィ「第4位もこの程度か」
スカイ「いや~さすがだねリヴィ(やっぱリヴィはやばいわ~。能力なしでもこの強さ…敵に回したらどうなることやら…あ~考えたくもない!)」
アンダー「もう、いい?」
自身の能力を解除してもいいかリヴィエラに問うアンダー。その顔は少し疲れているように見える。『下限空間』を維持するのはだいぶ体力を使うようだ。
リヴィ「あ?そうだな。もういいか、あとはそこでくたばっている奴にデータの在処を吐かせれば任務終了だからな。解除していいぞア…」
リヴィエラがアンダーの名を呼ぼうとした瞬間!
パリン!!
廃工場の窓ガラスを破り何者かが侵入してくる。
リヴィ「なんだ!?」
とっさに侵入者に反応するスカイ。その両手に小型爆弾ロケットを手にする。
スカイ「何者だろうと!木っ端みじんになれば、なんだって一緒ってね!」
ブン!
小型爆弾ロケットを侵入者へ飛ばすスカイ。
ビッ!
侵入者は何かを口で引きちぎる。それと同時にリヴィエラたちと侵入者を阻むように巨大な空気の厚い壁が展開される。
ドゴン!
空気の壁にぶつかり、爆発する小型爆弾ロケット。その爆風で周囲は黒煙に包まれる。侵入者と一凛の姿を見失うリヴィエラたち。
リヴィ「こいうは…風の壁か」
スカイ「なんで?アンダーの力で能力はほとんど使えないはず…」
アンダー「わからない」
一凛「はぁ…はぁ…」
あおむけに倒れる一凛の元に侵入者が駆け寄る。
「先輩!」
一凛「十一…なんでここに…」
その侵入者は
千百十一だ。一凛の後輩である彼女がなぜここに現れたのだろう。
十一「治安維持員(セキュリティ)に通報があったんです。この廃工場でだれか暴れているようだと…でもまさか先輩が巻き込まれているなんて…」
だれかが一凛たちのことを治安維持員に報告したようだ。今まで見たことがない一凛の弱っている様子にひどく悲しむ十一。
一凛「逃げて十一…」
なんとか立ち上がる一凛。だが立っているのも辛そうだ。
十一「いったいなにがあったんですか先輩!」
一凛「…っ」
あのデータのことを十一に伝えていいものか。それを知れば十一もあいつらの標的になるのでは…。そう思うと本当のことはいえない。
一凛「他校の不良に絡まれちゃって…」
十一「嘘ですよね」
一凛「えっ…?」
一瞬にして一凛の嘘を見抜く十一。
十一「先輩…なんで私に嘘をつくんですか?」
一凛「それは…」
言葉に詰まる一凛。いつも従順な十一がこんなことを言ってくるとは思ってもいなかった。
十一「すいません。意地悪な質問をして」
そんな一凛に謝る十一。予想外の返答に驚く一凛。
十一「本当はわかっているんです。先輩は私を守るために嘘をついているんですよね。私を危険にさらさないために」
一凛「なんで…」
十一「わかるの?ってですか。そんなの当たり前じゃないですか」
一凛の目をまっすぐに見つめる十一。
十一「先輩は私の一番なんです!そんな先輩のことは全て理解しているつもりです!」
一凛「十一…」
そうだった。十一はそういう子だった。裳丹高校に入学してきたころから一凛にべったりだった十一。そんな彼女だからこそ、一凛の考えはわかってしまうのだ。彼女がいかに自分を大切にしてくれているかも。
ザッ!ザッ!
足音が聞こえる。リヴィエラとスカイが一凛と十一の前に現れる。アンダーはまだ後方で能力による空間を展開しているようだ。
リヴィエラ「学生か?」
スカイ「こいつが侵入者みたいね」
一凛「くっ…」
バッ!
一凛の前に立つ十一。
十一「私は先輩の後輩だけど、いつまでも守られている存在じゃないんです。私は…」
十一の胸に付けたバッジ。それは彼女の決意の表れ。彼女が所属する委員の証。そう彼女は…
十一「
治安維持委員(セキュリティ)です!そして先輩の相棒(パートナー)でありたいと思っています!先輩の後ろではなく、隣に入れる存在でありたいと!」
一凛「十一…」
リヴィエラ「治安維持委員…面倒だな」
スカイ「早く片付けないと応援が来ちゃうかもね。ちゃちゃっとやっちゃいますか!」
リヴィエラ「そうだな。ソッコーで潰してやるよ!」
ダッ!
リヴィエラが十一に向かって走ってくる。
一凛「十一!能力は敵の能力者に封じられている!使えないわよ!」
十一「大丈夫です!」 ニヤリ!
バッ!
魔導帳を取り出し、ページをめくる十一。
リヴィエラ「おらぁ!」
リヴィエラが蹴りかかってくる。
ビッ!
魔導帳の1ページを右手で破る十一。
十一「はぁぁ!」
その右手でリヴィエラの蹴りを放つ右足へと殴り掛かる十一。
ドゴッ!
リヴィエラ「なっ!」
リヴィエラの右足が通常ではありえない方向に曲がる。
スカイ「リヴィ!」
リヴィ「ぐぁぁ!」
リヴィエラの右足に走る激痛。右足を抑え、その場でのたうち回るリヴィエラ。
十一「私の『簡易魔導(インスタントマジック)』は能力じゃないですから」
スカイ「肉体強化!?さっきは空気の壁を作っていた…どういう能力なの。能力はつかえないはずなのに…」
一凛「そうか!十一は!」
十一の使う魔導帳『簡易魔導(インスタントマジック)。それは能力ではない。
十一「能力は使えなくても魔導は使えるようですね」
スカイ「魔導?」
リヴィ「くっ…魔導だって?魔導ってまさか…」
リヴィエラたちも聞いたことはあった。モゴラ大陸の都市メルディア=シール。その都市では能力とは違う力を使う者たちがいると。その力は魔導と呼ばれており、それを使うものは…
スカイ「魔導士!?」
魔導士。そう呼ばれていると。
十一「えぇ。私の『簡易魔導(インスタントマジック)』は魔導。あなたたちの能力封じは効かないみたいですね」
一凛「十一!やるわね!」
十一「はい!先輩!」
リヴィ「くそがぁ!」
ダン!
地面を勢いよく両手でたたくリヴィエラ。逆向きに曲がり、骨折している右足を引きずりながら立ち上がる。
リヴィ「アンダァァァーー!!!能力を解除しろ!!」
リヴィの怒声が廃工場内に響く。
アンダー「わかった」
フォン!
アンダーが展開していた空間が解除される。
リヴィ「お前らまとめて穴だらけにしてやるよ!!」
バッ!
両手を十一と一凛へ向けるリヴィエラ。
バシュン!バシュン!バシュン!
その両手から無数の水弾が二人へ向けて放たれる。
一凛「能力が使える!?なら!十一!」
十一「はい!」
一凛の手を握り、魔導帳の1ページを破る十一。
シュン!
リヴィ「なっ!消えた!?」
スカイ「どこに…」
姿を消す二人。
~廃工場・上空~
十一「これでいいですか先輩」
一凛「上出来!この距離なら能力封じの力も大丈夫でしょ!」
廃工場の上空に十一の転移魔導で移動した二人。
ゴォォォ!!
手をつないだ状態で上空から落下していく二人。
一凛「さんざんやられたぶん返させてもらうわよ!」
右手を銃のように構える一凛。その指先は廃工場を捉える。
一凛「まとめていくわよ!」
ゴゴゴゴ!!
一凛「いっけぇぇ!!『風圧弾(プレッシャーバレット)』!」
ボッ!
~廃工場~
スカイ「どこに消えたの…」
リヴィ「逃げやがったのか!」
ガン!
近くにあったドラム缶を殴り飛ばすリヴィエラ。空中に舞うドラム缶。だが直後!
ドガン!
廃工場の天井が崩れ落ちる。それと同時にドラム缶が地面に叩きつけられる。いや地面に押し付けられているようだ。
スカイ「えっ!?なにっ!」
リヴィ「ぐっ!」
ズン!!
リヴィエラ、スカイの体が地面に押し付けられる。まるで上から何かに押さえつけられているかのように。
スカイ「な、なんなの…」
リヴィエラ「体が…動かねぇ!」
ボゴン!!
近くにあるドラム缶が上から押しつぶされるるように変形する。
リヴィエラ「まさか!この工場内に上から風で圧力をかけてやがるのか」
スカイ「どうするのリヴィ?こ、このままじゃ…押しつぶされちゃうよ!」
ギギギ!!
廃工場内の機械も上空からの風圧で押しつぶされ変形していく。
バギャン!!
壊れていく工場内の機械。
ジョロロロ!
液体を保管していた機械は壊れ、あたりにその液体をまき散らしていく。
リヴィ「ごちゃごちゃわめくな!こうなればこっちにとっても好都合だ!」
工場内に流れる廃棄された装置から流れる液体。
リヴィ「液体ならすべて私の支配下だ!」
ギュルルル!!
液体がリヴィエラの周辺に集まってくる。体は動かないが顔の向きを変えるぐらいはできる。上空を見上げるリヴィエラ。
リヴィ「あそこか!」
一凛と十一の姿を捉えるリヴィエラ。
リヴィ「上から見下してんじゃねぇ!!」
ボッ!
~廃工場・上空~
一凛「これで押しつぶす!」
廃工場全体に風圧による圧力をかけた一凛。
十一「敵の身動きを封じるんですね」
一凛「そういうこと!あとは…」
ボッ!
工場からなにかが一凛たちへ向かって飛んでくる。
バシャン!!
一凛「うっ!」
一凛たちの体が水に包まれる。工場から放たれたのは工場内の液体を集めて放たれた水弾。その大きさは一凛と十一を覆うほどだ。二人は水の中に捕らえられる。
十一「ごぼぼ(先輩!)!」
一凛「ごぼっ(息が!)!」
~廃工場~
リヴィ「あはは!!どうだ!」
上空に手を向け水弾を操作しているリヴィエラ。その攻撃が一凛と十一を捕える。
スカイ「体が動く!」
上空からの風圧が解除される。
リヴィ「もう能力も維持できないようだな。このまま窒息死させてやるよ!」
スカイ「ま、まずいよリヴィ!情報を引き出さないと…」
リヴィ「あん?私に意見すんのかスカイ?」
スカイ「ひぇ…」
委縮するスカイ。
リヴィ「あいつらは絶対潰す!任務なんて関係ねぇ!潰すのが先だ!」
こうなったリヴィエラを止めるのは自分には不可能だ。それを知っているスカイはもうこれ以上彼女に意見はしない。
ピリリリ!!
リヴィエラの持つ携帯端末が鳴り響く。誰かからの通信だ。
リヴィ「なんだよ!今いいとこなのによぉ!」
しぶしぶ通信端末を手に取るリヴィエラ。その通信相手は…
№25「リヴィエラ!何をやってる!」
№25だ。彼が怒り交じりの焦った様子で通信してきた。
リヴィエラ「なにって…」
№25「俺がお前たちに与えた任務は更生院の機密データの回収だ。
也転一凛の殺害じゃないぞ」
リヴィエラ「へ~。それがわかるってことは近くにいるのかい?」
挑発的な態度のリヴィエラ。
№25「自分は第5位だからって命令に多少違反したところで消されることはないと勘違いしているのかリヴィエラ?」
先ほどまでの焦った様子は№25の声からは感じられない。その声は冷静であり冷徹にリヴィエラに問いかける。
リヴィエラ「あん?」
№25「お前たち
構成員(メンバー)を消すのなんて簡単なんだよ」
ビリビリ!!
リヴィエラの体に電流が走る。強力な電流に手から放っていた水弾を解除し、その場に膝をつくリヴィエラ。
リヴィ「ぐっ!」
№25「お前たちの立場を理解しろ」
構成員はその体にチップを埋め込まれている。構成員が想定外の行動をとった場合の制御用に電流を流す機能など、様々な機能が内蔵されたチップだ。そのチップは構成員を統括するミストラルシティの秘密諜報員である№25により管理されている。
リヴィ「くそっ…わかった」
№25「まもなくそこに治安維持委員(セキュリティ)たちも到着する。お前たちは撤退しろ」
リヴィ「…了解した」
ピッ!
№25からの通信が切れる。
リヴィ「撤退だ」
スカイ「えっ?」
突然の撤退命令に驚くスカイ。
リヴィ「上の指示だ。治安維持委員が間もなく来る。ずらかるぞ!」
スカイ「…わかった!アンダーは私が連れてくよ」
リヴィ「任せたスカイ」
~廃工場・上空~
ビシャァ!!
一凛と十一を覆っていた水が弾け、下に落ちていく。
十一「ぷはぁ!」
一凛「能力を解除した?なんで…」
廃工場へ落下していく二人。
フォン!
落下の直前、一凛の能力で体を浮かばせ地面へと足をつく二人。
一凛「あいつらは…」
十一「いませんね…どこにいったんでしょうか」
リヴィエラたちの姿がない。彼女たちはどこへ消えたのだろうか。
タタタタ!!
足音が聞こえる。
治安維持委員「十一!」
十一「応援ですか…」
治安維持委員たちが駆け付ける。
十一「ここに来るまでだれか見ませんでしたか?」
治安維持委員A「いやだれも見ていない」
治安維持委員B「お前たち二人以外には人影一つなかったぞ」
十一「そうですか…」
一凛「あいつらは…どこにいったの…」
消えたリヴィエラたち。これで『member(メンバー)』の手がかりも失われてしまった。
一凛「また一からやり直しか…」
十一「違いますよ先輩!」
一凛「十一…」
十一「これからは私も先輩と一緒です。一からではないですよ」
一凛「そうね。一緒に『member(メンバー)』の手がかりを探りましょう!」
~廃工場近くの高層ビル・屋上~
№25「リヴィエラたちは逃げたか。治安維持委員との接触は免れた。一人を除いてな」
千百十一(ちはく ともろ)との接触。それを避けられなかった。
№25「構成員の情報を隠しきるのも時間の問題か…」
「だったらもう、公(おおやけ)にしてしまったらいいんじゃないのぉ?」
屋上に現れた女性。
№25「だれだ!?」
その女性は警戒する№25に構わず言葉を続ける。
「あなたが欲しいのは…いや取り戻そうとしてるのはっていうのが正しいかしらぁ」
スッ
屋上に現れた女性はデータ端末を取り出す。それを№25に見えるように手に持つ。
№25「それは!!更生院(カリキュラム)の!!なんでお前が!?」
「あなたたちが也転(やめぐり)さんを狙っている間に情報の深部を知ることができたわ。S(エス)のこともねぇ」
№25「まさか也転一凛がデコイ(おとり)だったとは…」
「也転さんには申し訳ないけどぉ。そうしないとあなたたち暗部の深くへたどり着けなかったのよねぇ」
№25「おまえが何者かはわからないがここでそのデータ!回収させてもらう!」
ファサァ!
女性は長髪をなびかせながら№25に対峙する。
零軌(れいき)「ふっ。やってみるといいわぁ。できるものならねぇ」
最終更新:2020年09月20日 22:17