邂逅(かいこう)

~裳丹高校・学生寮入口~

コソッ…

木の陰から学生寮の入口を覗く零軌。こんな夜中だというのに入口の前には見慣れぬ女性たちが立っている。
零軌「あれは…一凛さんたちを追っていたやつら…さっそく手を回してきたか。寮には戻れないわねぇ」

スカイ「んっ?」
リヴィ「どうしたスカイ?」
スカイ「標的が現れたよ。そこの木の陰!」

リヴィエラたちが零軌に気づく。
零軌「まずい!」

ダッ!

寮を背に走り出す零軌。
リヴィエラ「逃がすかよ!」

~ミストラルシティ・裏路地~
裏路地を一人歩く少女。
???「…」
その顔をうかがい知ることができないくらい深くフードを被り、コートを身に纏っている。彼女はとある任務でこの街に来ていた。
???(今までにない任務。諜報員同士で協力しての任務なんて…)
諜報員同士は同じ支部でも顔を合わすこともない。その諜報員が組んで任務にあたることなど前例がないのだ。そのことからも今回の任務の異常性がうかがい知れる。
少女はコートから電子端末を取り出す。そこには彼女への任務内容が表示されている。

「ミストラルシティの暗部を暴け。あの街には災厄が潜んでいる」

???(先に潜入した59(ごくう)は手がかりを掴んだと言っていた。だがその後連絡が途絶えたまま…消されたと思ったほうがよさそうだね)
二人での潜入任務であったが、こうなればいつも通り一人での任務だ。
???(59が消されたということは、ミストラルシティの諜報部も動きを見せるはず…。動きづらくなるか…)
手がかりも全くない状態。さらに諜報部も警戒してくるとなると任務を遂行するのは極めて難しい状態だ。さてどうしたものか。
???「ん?」
少女の前方に何かが見える。
???「だれか倒れている…?」
倒れた人影。制服を着ている。学生か。

ぜぇ…ぜぇ…

息はあるようだ。激しい運動でもした後のように息を切らしている。
???(任務中だ…かかわるべきではないが…)
なにか直感のようなものが彼女の脳裏をよぎる。
???(この女を助けるべきだと直感が告げている…)
直感というのは今まで培った経験から導き出される面もある。彼女を助ければなにか今の手掛かりがない状態、膠着状態を打開できるかもしれない。そう直感が告げている。
???(仕方がない…)
少女は倒れている女生徒に声をかける。
???「大丈夫か?」
倒れている女生徒は息を切らしながらも応答する。
零軌「だ…だい…ぜぇ…ぜぇ…じょうぶ…よぉ…」
全然大丈夫じゃなさそうだ。ものすごく疲弊している。
零軌「ちょっと…追われてて……かくまって…もらえ…ないかしらぁ…」
事情を聴いてる暇もなさそうだ。とりあえずは彼女を連れてこの場を後にするほかない。
???「仕方がないね」

ヒョイ!

少女はその小さなみなりで軽々と零軌を背負うと、裏路地を走っていくのであった。
零軌「…よろ…しくねぇ~」

そして翌日
~裳丹高校・学生寮(一凛の部屋)~
一凛「昨日私たちを襲ってきたやつら…あいつらの正体はわかったの?」
十一「はい。戦闘中に記録していた画像を美天(みそら)に解析して、治安維持委員(セキュリティ)のデータバンクから調べてもらいました」
十一の携帯端末に表示される画像。

リヴィエラ・キュリス:元大学生。一年前暴行事件を起こし、更生院(カリキュラム)へ。
スカイ・トーネード:窃盗事件を何回も行い、一年前更生院へ。
アンダー・アルス:中学校を卒業後、ミストラルシティの静寂機関(シジマキカン)へと就職。

一凛「全員能力に関する記述は消されているみたいね」
十一「みたいです」
一凛「あの水使い(ハイドロキネシス)と爆弾使いは更生院か。やっぱりって感じだけど…もう一人。アンダーって子は普通の会社に勤めてるみたいだけど…」
十一「先輩…静寂機関は普通の会社と言ってはいいか疑問に思われる会社なんです」
一凛「どういうこと?」
十一「静寂機関は能力研究を主に行っている会社なんですが黒い噂が多いんです」
一凛「黒い噂…」
ということはよくない話ということだ。
十一「噂…ではあるんですが能力者を被検体のモルモットとして扱い、使い捨てているとか。それに正確な情報はないんですがいろいろとそれ以外にもやばい連中とつるんでいるらしいとか」
一凛「ヤバイ連中ね…更生院の水使いと一緒にいたのをみるとその情報は正しそうね」
十一「『member(メンバー)』とも関係がありそうですね」
一凛「静寂機関を調べてみれば何かわかるかもしれないわね」
十一「まさか先輩…静寂機関に行く気ですか?」

バッ!

制服を脱ぎ、そそくさと着替え始める一凛。
一凛「そうね。それが一番手っ取り早そうだし」
十一「危険すぎます!」
一凛「でもこのまま何もしないわけにもいかないじゃない」
十一「それは…」
またリヴィエラたちが襲ってくる可能性もある。それに昨日の夜から行方不明な零軌の件もある。動かなければ事態は好転しない。

スチャッ!

帽子をかぶり変装完了!という様相で準備万端な一凛。
一凛「十一は治安維持委員なんだからこれ以上は足を突っ込めないでしょ。ここから先は私が行ってくる」
十一「でも…危険すぎます!」
一凛「大丈夫。やばそうになったら引き返すから。本当にやばい時は十一に連絡するし」
十一「…わかりました。無理はしないでくださいね」
十一はよくわかっている。一凛のことを止めても無駄だと。だから彼女は一凛のことをとめることはしない。
一凛「じゃあいってくるよ!」

バン!

部屋の窓を勢いよく開き、飛び出す一凛。
十一「先輩…気を付けて」

~裳丹高校・学生寮入口~

???「たしか…ここですよね」

学生寮の入り口に立つ人物。その腰には剣を帯刀している。

???「え~と、とりあえず行ってみますか」

寮に入ろうとするが…
警備員「待て!ここは裳丹高校の生徒以外立ち入り禁止だ!」
警備員に止められる人物。
???「えっ!そうなんですか!そんなこととは知らず申し訳ありませんでした!」
ぺこぺこと頭を下げる人物。
警備員「それに武器を持っているな。いったい何の用だ?」
???「ここに私の親戚が…」

~裳丹高校・学生寮(十一の部屋)~
十一「ん~~!!」
ぬいぐるみを抱きしめ、ごろごろと転がる十一。
十一「だめだ!先輩のことが気になって他のことに手がつかない!」

コンコン!

部屋をノックする音。誰かが十一の部屋を訪ねてきたようだ。
十一「はい」
返事をする十一。

ガチャ!

部屋の扉が開く。そこに立っていたのは…

メルト「ひさしぶり十一(シィイン)!」

十一「メルト!?なんでここに?」
予想外の来訪者に驚く十一。
メルト「用事があってミストラルシティに来たんだけど、シィインもミストラルシティの学校に通っていたから会いたくて来ちゃった!」

グッ!

抱き合う二人。
十一「まさかメルトが来るなんて思っていなかったよ!元気そうでよかった!」
メルト「シィインもね!」
十一とメルトはともに魔導都市メルディア=シールの出身。二人は親戚関係なのだ。
十一「メルトの仕事のほうは順調なの?」
メルト「ん~…」
険しい顔をするメルト
十一「メルトは昔からおっちょこちょいだからまた迷惑かけてるんじゃない?」
メルト「そんなこともあったりなかったりするんだけど…。それはさておき、ここに来た理由が仕事の関係なんだよね」
十一「ミストラルシティに?なんで?」
メルト「メルディア=シールでちょくちょく問題があって私の仕えているガオミン様がいないと解決できなくてさー。この街にガオミン様がいるはずで探しに来たんだけれど…」
十一「あ~。そうなんだ。メルトのことだからミストラルシティの地図とかも見ないで急に飛んで来たんでしょ?」
メルト「そうそう!それで路頭に迷ってる感じで…シィインが通っている学校にたまたまたどり着いてよし!と思ってきたのが今ってことなんだよね」
頭に手を当てバツが悪そうに笑うメルト
十一「やっぱりメルトだね。そんなところだと思ったよ。私にそのガオミンって人を探すのを手伝ってほしいんでしょ」
メルト「話が早くて助かる~!そうなんだよ!」
十一「いいよ!」
メルト「ありがと~シィイン!」
十一「でもただとはいかないよね」
メルト「といいますと?」
十一「ちょうど私も頼みごとがあってさぁ。メルトにならできるから聞いてくれるかな?」
メルト「交換条件か。いいよ!ガオミン様を探すのを手伝ってくれるならなんでもやるよ!」
十一「じゃあ私のお願いは…」

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最終更新:2020年11月15日 00:53