怪異とつながるセンタクのイシ!

〜レムリア大陸 廃村〜
ここは、数年前に村人が放棄し、今となっては朽ちた家屋のみが並ぶ村。
レムリア大陸といえば、EGO本部がある世界の中心があることで有名だが、そこから数十km離れてしまえばこのような現実が散らばっているのだ。

ツバメ「WAO(世界農業機構)の技術によって全世界の食糧自給は安定しているわ。でも中央の生活が豊かになる代償がこれ…。気候制御衛星による恣意的な天候の分配のせいで、農業が活発なところあれば、その逆がある。いつか世界中の誰もが幸福を掴むことはできる日がくるのかしら」
寂しげに周囲を見渡すと、彼女の周りには数人が立ち並んでいる。

トニー「この地球の恩恵を人間が制御しようなんておこがましいのですね」
ナル「僕たちは地球に存在する小さな存在の一つに過ぎない。ありがたく享受するくらいがちょうどいいんだ」
これまでのカンパニーの活動を振り返り、怪異と接触して気がついたこと。
この地球の主人公は人間ではない。他の動物や植物でもない。
全てだ。全てが平等にこの地球の構成員なのだ。

ツバメ「みんながそう考えられたらいいのにね。世界が幸福に向かうのに」
ね、と彼女は隣でしゃがむにろくの肩に手を置く。
三人が話をしている間、にろくはじっと地面に手を押し付けていた。

にろく「俺に言わせれば地球はあまりにも広い世界だ。守ることができるのはこの手で触れられる範囲ぐらいだよ」
トニー「結局のところそうですね。私も自分の国を守るだけで精一杯です。でも、スライが守ってくれている今、私はもっと広い世界で“戦える“」
そう呟くと金色の輝鉱石を強く握る。トニー以外のメンバーも輝鉱石を見つめる。

ナル「この世界は怪異に狂っている。怪異を落とすのは僕たちカンパニーの役目です」
カンパニー結成時から輝鉱石を所持していた彼らは、世界が狂ってからしばらくして輝鉱石の浄化作用でその認識を取り戻したのだ。
そう彼らカンパニーはもう戦える。
今回の作戦名は「ラズベリー」、難易度としては優しい部類である。

ツバメ「にろく、そろそろどうかしら?」
にろく「ああちょうど終わったよ」
手を離した地面には小さな穴が空いていた。暗く口を開けた穴の奥は墨塗りのような闇。
しばらくすると、小さな赤いトカゲが飛び出してきた。

にろく「おかえり、アーカル。さぁ、何があったか見せておくれ」
赤いトカゲはクワっと口を開き、ひと吹き炎を空中に浮かべた。
すると周囲がぐにゃりと歪み、かつてのこの地の記憶を再現し始めた。

トニー「何度見ても面白いですね。にろくの召喚獣の再現能力」
ナル「んーとどこかな…ああ、きっとあの子ですよ」
みすぼらしい格好をした幼い少女が座り込んでいる。これはにろくの召喚獣により再現された映像であって現実ではないが、非常にリアルであった。

にろく「少し飛ばしてみようか」
トカゲがクワックワッと炎を吹くと周囲の映像が早送りのように進んでいく。
しかし、しばらくしても少女が立ち上がることはなかった。その目に光はない。すでに事切れていたようだ。

ツバメ「貧困の末亡くなってしまったのかしら」
にろく「いや、どうもそうじゃない」
白い花が咲いている。
草すら育たないこの地に凛とその身を揺らす花。その花の名は「不知火の花」。

にろく「そうか、わかったぞ!かつてこの地にいた怪異は人間の命を糧にこの花を咲かせたんだ」
トニー「この花、最近各地で群生していますね。鏡の館でも見ました!」
ツバメ「怪異あるところに白い花あり、ってこと」
ナル「あの子は怪異に命を奪われてしまったんですね」

ガガガ
通信機器が声を上げる。その声はカンパニーの設立者であるあの男だった。
ゴーシュ「その子がこの怪異ある世界の最初の被害者…彼女の名は…アリア」


〜ミストラルシティ 巨穴補修地帯〜
トキシロウ「天十也。お前に世界を救えるか?」
巨穴の中から12の石柱と共に飛び出してきた姿は、例えるなら地獄からの使者であろう。
その目は先ほどまでと違い、世界の全てを憎んでいるようだった。

十也「出たなスピノザ!お前の好きにはさせないぞ!」
トキシロウに向かい身構える。
アポロン「いや、先刻と様子が違うぞ」
ボルクアポロン、十也、あいつはおそらく記憶を取り戻している」

十也「記憶…?」

トキシロウ「全てを思い出したのだ。全ての根源はスピノザ、いや果倉部かもめが何もかもの元凶だ」
ボルクトキシロウは記憶を消されてスピノザの一員になっていたんだ。スピノザに操られていた、といっても嘘ではない」
トキシロウボルク、お前は知っていたというのだな。俺の記憶が消されていることも、スピノザの真の目的も。それを知っていてなお、スピノザの凶行に加担していたと?」
ボルク「全部を知っていたわけじゃあない。それに気づいた時にはもう手遅れだった」
トキシロウ「だがお前はまだ全てを失ってはいない。火の国アルバンダムの未来はお前の選択にかかっている」
ボルク「俺の選択…【玉】の将を授かった俺は国を守る!絶対守らなきゃいけない!」
トキシロウ「ならばボルク、お前にも問う。この石扉の先に進み、世界の理を取り戻し、世界を救う意思はあるか?」
巨穴の周囲、円環状に置かれた石扉が立ち並ぶ。
トキシロウ「その意志があると言うのなら、この扉の先に進み怪異に染められた闇を打ち砕け!」
十也「お前はどうなんだ。お前が出した扉だろう、お前も扉を開くのが筋じゃないのか?」
トキシロウ「俺は果倉部かもめを倒すためにやることがある。扉の先はお前たちが対処しろ」

トキシロウと共に出現した石はただの石ではなさそうだ。これまでに対峙したことがない緊張感を感じるのは、この扉の向こう側にいる“なにか”のせいか。
十也「不気味な気配を感じるぜ!敵のお前の言うことを信じろって?何かの罠じゃあないのか!その先になにがあるって言うんだ!」
疑心に思うのも当然だろう。ついさっきミストラルシティを襲った魔道士と毒蛇龍はトキシロウが連れてきたんだから。
ボルク「うぉぉぉぉ!俺は信じるぞ!お前の熱い意志を受け取った!」
アポロンボルクなりの感性だな。」
十也「!?確かにあいつからは熱さ(ちょっと冷めてるけどな!)を感じるけど!」
アポロン「十也、我らにはあまり選択肢がないのだ。すでにボルクはスピノザを離脱した。直前までスピノザに関与していたトキシロウの言の葉を受け取ることも人事を尽くす一つになろう」
十也「うーん、そう言われるとそうなんだろうけど」
何か心に引っかかる。
眼前の白衣の男(先程までの戦闘で真っ黒に汚れているのでもはや黒衣だが)のこと、初めて会ったような、遠く昔から知っているような、敵のような、親友のような。モヤモヤする記憶と透き通った意志が同居する。
十也「あーもう分からん!だがやる!やってやるよ!」
ボルク「よもやよもや!やってやろう!」

三人の様子を見届け、トキシロウはその場を後にしようと歩き出す。
十也「待て!」
十也がそれを引き止めた。
十也「俺はお前のことをよく知らない。だがそれだけで信じない理由にはならない!だから、俺は、お前を信じる!」

お前のことをよく知らない、率直なその言葉は十也にとっては概ね確かだ。
だが、トキシロウにとっては違った。命の恩人である十也が、よく知らないと言いつつも、トキシロウを信ずると、それを言葉にしたことがトキシロウの心を大きく震わせた。

トキシロウ「そうか、これが・・・」
呼び起こされる記憶以上の感情の塊。
タクミ… レナ…お前たちと共に歩んだ日々。育まれた気持ち。
俺は全てを失ってはいなかった。もしも、スピノザを、果倉部かもめを倒したその暁には、
きっとお前とも…
トキシロウ「十也、頼んだ」
彼はもう振り返ることはなかった。
トキシロウ(十分だ。天十也、お前の存在が俺をさらに突き動かす)


トキシロウを見送ったあと、十也は思い出したように、少し気後れしつつ話し出す。
十也「…ところでボルク、さっき言いかけていたこと。お前がスピノザでしたことって一体…?」
ボルク「あぁ…しっかり離さないとな。俺はヨミガエリの手助けをしたんだ」

ボルクが身に宿す炎神ヘルフレイムは、その力で魂を燃やす。
例えば心臓が止まった肉体があったとする。現代の医学では蘇生が不可能な状態であるが、魂がまだその身の側にあるのなら、再びその身に魂を戻し現世へと連れ戻す。
ボルクは炎神の力で3つの魂を燃え上がらせた。
バトルグランプリでその命を落としたトキシロウ、雪山で氷の女王に見染められ氷づけにされたイツヤ、そして…

ボルク「ヨミガエリの最後の一人は…スピノザの化身であり、この地球の守護者…その名は…VARIA」

〜〜
世界を大きく変えたスピノザの所業の大きさに対して、意外なことにスピノザのメンバーは少ない。
彼らの力を合わせ、果倉部かもめは「ある目的」から、特異な存在を生み出したのだ…

イツヤがその能力で存在づけ、
トキシロウがその能力で心を塗り、
ニーチェがその能力で存在を超越させ、
ボルクがその能力で命を燃やした。

こうしてVARIA(ヴァリア)は生み出された。

〜〜
ボルク「VARIAがこの地球から能力を消し去った…俺が知っているのはそこまでだ」
ボルクの懺悔が静かに闇夜に広まった。
アポロン「スピノザの真の目的は果倉部かもめだけが知っている。他の者たちはその思想に賛同していたにすぎないのだ」
そうかボルクの能力を解除すれば良いのでは?そう思ったが、この世界から能力が消え去ったことを思い出す。
じゃあ召喚獣イフリートの力でどうにかならないの?残念ながら能力と召喚獣の力は同一ではないのだ。それにVARIAは四人の能力者による合体能力をもとに誕生したのだ、ボルクだけで止めることはもうできないのだという。

十也「とにかく、俺たちには召喚獣たちがいる!晶煥(クリスタライズ)も駆使してVARIAを倒すんだ!」
ボルク「もちろ俺もやるぞ!うぉぉぉぉぉ!」
アポロン「それならば待つ理由はない。さあ扉を開かん!」

三人が石扉に手を近づけ開こうとした。したのだがそれは叶わなかった…
だって扉は“”勝手に“向こう側から”開いたんだもの…

十也・ボルク・アポロン「!?」

開いた扉の先から現れたのは、よくよく知っている顔だった!

にろく「ん?十也、とボルクアポロンか?」
トニー「不思議な扉ですね。まるでどんなところでもいけるドアのようです」
ナル「マナの気配もするが、能力、いや召喚獣に近いか…こんなタイプもあるんだな」
ツバメ「ちょっとあんたたちどうなてるの?扉の先はどうなってるのよ!」
最後にむりやり出てきたツバメも含めて四人が現れたのだ。
どうやらこの石扉はトキシロウの召喚獣(召喚扉?)であり、ミストラルシティとどこか他の場所を繋いでいると推察される、とツバメが瞬時に思考した。さすが頭の回転と状況判断が早い。

ツバメ「私たちはカンパニーとしてこれまで怪異を封じてきたの。超常現象の一種だと思っていたのに、まさか秘密結社スピノザに行き着くなんて思わなかったわ」
にろく「俺たちがきたのはレムリア大陸の廃村だ。そこでちょっとあったんだが、そこにもう怪異は存在しない」

どこか他の場所、そこに怪異が潜んでいるのだろう、おそらく先刻の魔導士ブランへ繋がる扉もあるのだ。

十也「十二の扉、そのうち一つはにろく達が解決済み、残りの扉は十と一つ。よし!順番に扉の先の怪異とやらを倒して回るぞ!」

ガガガ
カンパニーのメンバーが持つ通信機器から声が聞こえる。
ゴーシュ「その必要はない。すでにいくつかの怪異は消滅済みだ」
夜空から一閃が降り注ぐ。黄色の閃光が六つの扉を切り裂いた。

十也「おいおい敵襲か?宇宙からの攻撃?」
ツバメ「落ち着いて、訳あって今は宇宙にいるカンパニーの仲間のゴーシュよ」
ボルク「訳あって宇宙にいる?どんな訳だよ!」
トニー「それは後で話しますが、そうか、私たちがすでに解決した怪異があるから、残りの扉は…」
アポロン「五つの扉」


かくしてトキシロウを共闘することになった十也たちとカンパニーの面々は、
最狂の怪異へと繋がる扉を開けることになる。

十也たちは怪異と、スピノザの化身VARIAを倒すことができるのか。
そして世界の理を書き換えた果倉部かもめの真の目的とは。

TO BE COUNTINUED

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最終更新:2020年11月15日 11:24