解放(かいほう)

~静寂機関ビル・6階~
十一「人体魔導術式『千百款染(スィンバイクァンラン)』!!」
十一の上半身に刻まれた模様と魔導文字の刺青が青く光る。

十一「いきますよ」

グッ!

両足に力を込め、地面をける十一。

ボッ!

十一の姿が消える。
№27「早い!?どこ…」
十一「こっちです!」
№27「後ろ!くっ!」
咄嗟に腕を構える№27。

ドゴッ!

十一の蹴りが№27の腕に直撃する。

メリメリ!

№27「ぎっ!」

ドゴォン!

壁へと吹き飛ばされる№27。だがすぐに態勢を立てなおし立ち上がる。
№27「腕が…」
十一の蹴りを防御した左腕は通常では曲がらない方向に曲がってしまっている。
№27「なんなんだこいつ…魔導使いはこんな力を持っているのか」
十一「この魔導は特別なんです」

グラッ!

態勢を崩す十一。先ほどまでのダメージだろうか、いやそれもあるがこの魔導にもなにかありそうだ。
№27「デメリット付きの強化魔導っていったところか。強大な力を得た反動が大きいようね。その魔導…いえあなたの体はいつまでもつかしら?」
十一「その前にあなたを倒します!」
№27「そう。弱点が見えた今、あなたの力は恐るるにたりないわ『シャドーオン』」

ズ…

影の中に姿を消す№27。
№27「このまま隠れさせてもらうわ。どんなに身体能力が上がっても相手を攻撃できなければ意味がない」
十一「ふっ」
にやりと笑う十一。
十一「舐められたものですね。千百一族に伝わるこの魔導の力はただの肉体強化の魔導ではありません!」

バッ!

両手を前に向ける十一。
十一「あなたが影に潜むというのなら、私は影を消すほどの光を放つ!『閃光弾(シャングァンダム)』」

カッ!

光の弾が辺りに放たれる。激しい閃光が包む。
№27(読んでいたわよ。私が影に潜めば、なんらかの手段を使って私をあぶりだそうとするのはね。そして…)

ズズズ…

十一の影から姿を現す№27。
№27(前方の影を消してもあなたの影は消えることがない。最初から私はあなたの影にひそんでいたのよ。さようなら)

スッ!

ナイフを構え十一の首元へと振り下ろす№27。

スカッ…

№27「えっ!?」
空を切るナイフ。確かに十一がそこにいるはずなのに…
十一「『蜃気楼(シェンズィン)』。それは私の残像です」
№27「なっ…」

ボッ!

一瞬にして空中に吹き飛ばされる№27。空中では影に入ることもできない。

ガッ!

№27の顔を掴む十一。
十一「『忘却(ワンクィ)』」
№27「うっ…」

ガクッ!

意識を失う№27。そのまま地面へと叩きつけられる。
十一「あなたの記憶を消去させてもらいました。といっても私と戦ってる間の記憶だけですけど」
これは十一にとって必要なことなのだ。それが千百家の掟なのだから。
十一(『千百款染(スィンバイクァンラン)』は千百(スィンバイ)の人間のみに受け継がれてきた魔導術。この技を他人に見せる場合、その記憶を消さなければならない。伝承されながらも秘匿されてきた魔導…悪しき伝統、いえ今は助けられましたか)
千百款染は千百家の人間が代々継承してきた魔導術。その術式は他の人間に知られないために、書物などにも書かれていない。その伝承方法は次代の肉体に術式を書き示すというのもの。体に記された術式をさらに次の代の体に記すことで伝承されてきた。
肉体強化魔導、魔導の拘束発動術式、さらには禁忌と称された魔導さえもその術式には込められている。だがその使用には使用者の生命エネルギーそのものをマナとして用いるという大きな代償がある。
十一「うっ…」
眩暈がする。肉体へのダメージと千百款染を使用したことによる生命エネルギーの消費が十一の体を限界へと追い込んでいた。
十一「私は限界みたいです…あとは頼みました…先輩…」

ドサッ!

その場に倒れる十一。
№27「……」

ズブズブ…

倒れている№27の体が黒い影になり消滅していく。

ズズズ…

その影の中から姿を現す№27。
№27「危なかったわ。治安維持委員…学生と舐めていたけどこんな力を持ってるなんて。ここまで追い詰められるとは思っていなかったわ」
№27は十一の影から姿を現す際に影で作った自身の分身を出現させていたのだ。
№27「このまま戦い続けていればさすがの私もやばかったかもね。でも」
気を失い倒れている十一に近づく№27。
№27「そのまま永遠の眠りについてもらいましょうか」

ブン!

ナイフを十一の首元へと振り下ろす№27。

ガキン!

№27「なに!?」
ナイフがどこからか飛んできた銃弾に弾かれる。銃弾が飛んできたほうを見るとそこには自分と似たスーツを着た男の姿があった。
にろく「秘密諜報員だな。任務対象を発見。これより裏切り者を排除する」
№27「裏切り者?何を言って…」

スッ!

にろくは一瞬にして間合いを詰める。
にろく「はっ!」

ドッ!

№27の顎に掌底を放つにろく。
№27「くっ…」

ぐらっ…

態勢を崩しよろめく№27。
№27「ま、まずい…」
にろく「負傷しているようだな。ならば好都合だ。このまま一気に…」

ボバッ!!

突如部屋中に黒い粉末が散布される。
にろく「なんだ?」

チリ…チリ…

ボッ!

爆発する黒い粉末。
にろく「ぐっ!」
涅尤「見つけたぞ」
黒咬涅尤だ。彼がにろくの前に現れる。先ほどの粉末は涅尤の炭化した皮膚だ。それを散布し、爆発させたのだ。
№27「あら?あなたは確か静寂機関の掃除部(スィーパー)ね」
涅尤「お前は?」
№27「№27(ナンバーにじゅうなな)、ニーナよ。№25とはもう会ってるわよね」
涅尤「そうか。おまえも外部の協力者か」
№27「そうよ。目の前の彼…何者なのかしら。どうも私たちと同じ匂いがするわね。なんにしても倒すことに変わりはないのだけれど(彼の言っていた裏切り者という言葉は気になるけれど…)」
にろく「2対1か…。だが任務に支障はない」
まったく臆する様子のないにろく。
にろく「いくぞ!」

~静寂機関・3階~
スカイ「うっ…ぐっ…」

ボタ、ボタ…

肩から血を流し、流血部を手で押さえるスカイ。
№25「何のつもりだスカイ?」
リヴィエラへと放たれた銃弾は、№25とリヴィエラの間に割って入ったスカイへと直撃した。
スカイ「リヴィは…やらせないってね」
№25「どうやら最初に死にたいらしいな。ならばお望み通りお前から殺してやろう」

スッ!

銃口をスカイのこめかみに向ける№25。
リヴィエラ「スカイ!」
スカイ「リヴィ…なんやかんやいろいろあったけど私は楽しかったよ。リヴィと一緒のチームに慣れて」

ニコッ!

満面の笑みをリヴィエラに向け浮かべるスカイ。直後…

パン!!

スカイの脳天に穴が開く。無情な一撃がスカイの命を止める。
№25「すぐにおまえも後を追わせてやる」

チャキ!

銃をリヴィエラに向ける№25。
リヴィエラ「…」
リヴィエラはスカイが死んだことを受け入れられないかのように放心状態だ。まるで生気がなく№25の声にも反応しない。
パン!

アンダー「ごふっ…」

アンダーがとっさにリヴィエラをかばいその胸に銃弾を受ける。
№25「お仲間ごっこか…お前はもともと静寂機関の人間。そいつをかばう義理などないだろうに」
アンダー「リヴィは…私たちのリーダー…だから」

ドサッ!

胸から血を流し倒れるアンダー。
№25「お前たちにも仲間意識があるとは驚いたな」
リヴィエラ「仲間…」
№25「なかよくあの世に行くんだな」

パン!パン!

銃弾がリヴィエラに放たれる。

ドサッ!

倒れるリヴィエラ。
№25「使えない構成員の始末は済ませた。俺は任務に戻るか」
上階へと姿を消す№25。
リヴィエラ「……」

ピクッ!

銃弾を受け、倒れたリヴィエラの指が動く。
リヴィエラ「まだ…だ」
立ち上がるリヴィエラ。その頭部には銃弾が突き刺さっている。だがその銃弾は皮膚に当たったところで止まっており、その頭部を貫通していない。
リヴィエラ(私は…私の能力を理解したよ。私の能力は水を操る能力じゃない。液体だ。すべての液体が私の支配下だ)
銃弾が皮膚を貫通したところでリヴィエラは体内の血を操り圧縮することで強固な壁を作り、銃弾を防いだのだ。
リヴィエラ「このままで…済むと思うなよ№25。スカイとアンダーを殺ったテメーは絶対にゆるさねぇ…くくく…」
不気味な笑みを浮かべるリヴィエラ。その表情は狂気に満ちている。
リヴィエラ「静寂機関にはたしかあれがあったよな…スカイとアンダーもこのままじゃうかばれねぇ。おまえらもあいつに復讐したいよなぁ!!」

ガッ!

息絶えたスカイとアンダーの腕を掴むリヴィエラ。

ズル…ズル…

二人の亡骸を引きずりながらリヴィエラは何処かえと消えていくのであった。

~静寂機関・5階~
№25「上の階で№27が交戦中…さっきの掃除部(スィーパー)もいるようだな。相手は治安維持委員ではない…例のやつか」
掃除部が会ったという諜報員のような男。そいつが相手のようだ。
№25「その正体を暴いて、目的を吐かせるか」

「あらぁ?こんなところで会うなんて奇遇ねぇ」

部屋の奥から聞こえる声。この声は聞き覚えがある。こいつは…
№25「追われる身のお前が自ら出向くとはな…」

「そうねぇ。あんまり追われるのはすきじゃないのよねぇ」

№25「そうか。なら鬼ごっこは終わりだ。お前を片付けてから上に向かうとしよう、響零零軌」
零軌「このまえみたいに逃がしはしないわよぉ。こっちも本気でいかせてもらうわぁ」

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最終更新:2020年12月24日 23:15