~静寂機関ビル・最上階~
リヴィエラ「くらいやがれ!」
ポケットから取り出した爆弾を投げつけるリヴィエラ。
一凛「能力は…」
自分の感覚が戻っているのを感じる。能力は使えそうだ。リヴィエラから距離を取れば、能力の無効化は使えないのかしれない。
一凛「よし!」
バッ!
自身の前方に風の壁を展開する一凛。
リヴィエラ「そうくるよなぁ!」
リヴィエラが自ら投げた爆弾へと突っ込んでいく。
一凛「自爆!?」
ドゴォン!
爆発に巻き込まれるリヴィエラ。風の壁で爆風を防ぐ一凛。
一凛「なんなのあいつ…」
ボッ!
風の壁を突き破り何かが飛んでくる。
一凛「えっ…」
ブシュゥ!
一凛の脇腹を何かがかすめる。脇腹から出血する一凛。
一凛「これはあいつの…!」
リヴィエラの水弾だ。
リヴィエラ「ちっ!おしい!」
爆風の中から姿を現すリヴィエラ。あの爆風の中で傷一つ負っていない。
リヴィエラ「だがよ!この距離なら!」
左手を一凛へと伸ばすリヴィエラ。
一凛「(つかまったら能力が使えなくなる!)捕まるわけには!」
足に風を纏わせ地面を蹴り後ろへと大きくジャンプする一凛。
リヴィエラ「距離をとるのは正解だな風使い(エアロマスター)。だがよぉ!」
ドッ!
一凛の体が何かにぶつかる。
一凛「うっ!」
ボコボコボコ…
それは水でできた壁だ。リヴィエラが水道から水を操り一凛に気づかれないうちに壁を作り出していた。
リヴィエラ「捕まえた」
バシャン!
水の壁が一凛の体を包み込み球体状に姿を変える。
一凛「ごぼっ!(息が…)」
リヴィエラ「第4位の風力使いも大したことねぇな。これで終わりだ」
一凛(く、くるしい!このままじゃ…)
もがき苦しむ一凛。
リヴィエラ「あんまり苦しませるのも悪いからな」
爆弾を手に持つリヴィエラ。
リヴィエラ「こいつですぐに楽にしてやるよ」
爆弾を水に捕われた一凛へと投げつけようとするリヴィエラ。
ピリリ!!
リヴィエラの頭に走る頭痛。
リヴィエラ「うっ…なっ…」
頭を押さえその場にかがみこむリヴィエラ。
バシャン!
一凛を捕えていた水も辺りに飛び散り地面へと倒れる一凛。
一凛「げほっ!げほっ!なにが…」
零軌「あぶないところだったわねぇ也転(やめぐり)さん」
一凛の前に現れたのは零軌だ。
リヴィエラ「この頭痛は…てめぇの仕業か。第6位!」
零軌「そうよぉ」
零軌の能力は電気信号を操る。リヴィエラの脳に強力な電気信号を送ることで強烈な頭痛を発生させている。
一凛「助かったわ…でもなんであんたがここに?」
零軌「私にもいろいろと事情があるのよ。なんにしてもぉ、今は目の前の脅威を倒すのが先決よねぇ」
一凛「そりゃそうね」
零軌の能力は強力だが肉弾戦においては足手まといと言わざるを得ないほどの力しかない。
零軌「私があいつの能力を抑えている今がチャンスよ也転さん」
一凛「えぇ、わかってる!」
バッ!
指をリヴィエラに向ける一凛。その指先に風が集まっていく。
リヴィエラ「くそが…(こんなとこで負けるわけにはいかねぇんだよ!!№25をぶっ潰してあいつらの仇をとるまではよぉ!)」
~静寂機関地下2階・研究室~
研究室内のカプセルに入れられているスカイとアンダーの遺体。その横のモニターに二人の脳とリヴィエラの脳との適合状態が表示されている。
バチバチバチ!!
火花を散らす装置。もう長くは装置は持たないかもしれない。
ビビビビ!!
モニターに表示されている適合率が異常な数値を示す。
~静寂機関ビル・最上階~
リヴィエラ「うぉぉ!!」
立ち上がるリヴィエラ。先ほどの頭痛が嘘のように平然としている。
零軌「自力で私の能力をはねのけた!?そんな馬鹿な!?」
なにかが零軌から放たれる電気信号を遮断しているような感覚を感じる。だがそのなにかの正体はわからない。
リヴィエラ「スカイ、アンダー…お前たちが力を貸してくれるか…」
零軌「也転さん!」
一凛「わかってる!『風弾(バレット)』!」
ボッ!
一凛の指先から放たれる圧縮された風の弾。それはリヴィエラへと放たれる。
ブシュッ!!
風弾が当たり。吹き飛ぶリヴィエラの右腕。
一凛「えっ!?そこまでやるつもりじゃ…」
ブシュゥゥ!!
右腕から血が噴き出る。吹き出た血が形を変えていく。リヴィエラの流体操作だ。それは禍々しい悪魔を思わせる巨大な爪をもつ右腕となる。
零軌「うっ…ちょっとグロいわよ」
リヴィエラ「てめえらまとめて引き裂いてやる!」
まさに鬼の形相というのがふさわしい表情でリヴィエラが二人に襲い掛かる。その右腕に切り裂かれれば致命傷は免れないだろう。
ブン!
大きく右腕を振り上げるリヴィエラ。
リヴィエラ「潰れろ!!」
振り下ろされるリヴィエラの右腕。
零軌「やっば!」
ドゴォン!
地面を砕くほどの威力を持つたたきつけ。生身の人間などぺしゃんこだろう。
一凛「大丈夫?」
零軌「礼をいうわ也転さん」
零軌を抱え、咄嗟に躱した一凛。
リヴィエラ「それで躱したつもりかよ?」
ドス!
零軌「えっ…」
一凛「うっ…」
零軌と一凛の体を貫く血の針。リヴィエラの右腕が形を変え二人の体を貫く。
ドサッ!
その場に倒れる二人。なんとか致命傷を避けた二人であったが一凛は両足を、零軌は両腕を貫かれまともに戦うこともできない。
零軌「本格的に…まずいわね」
一凛「何か手は…」
二人に迫るリヴィエラ。ガラス張りの最上階では太陽に照らされたリヴィエラの影が不気味に映しだされる。
一凛はあたりを見回す。
一凛「あれは…」
落ちている爆弾。リヴィエラが先ほど使おうとしていたものだ。
一凛「零軌」
零軌「なにかしら也転さん?」
一凛「私が隙を作る。あなたは…」
なにかこそこそと零軌に話す一凛。
リヴィエラ「死ぬ前の念仏は済んだか?」
指をリヴィエラに向ける一凛。
一凛「『風弾』!」
ボッ!
風の弾が放たれる。だが…
スカッ…
風の弾はリヴィエラに命中することもなく空を切る。
リヴィエラ「最後の一撃も当てる気力もねぇか」
ダッ!
零軌が走り出す。
一凛「零軌!?」
零軌「悪いけど私はまだ死にたくないの。さようなら也転さん」
タタタタ!
走り去る零軌。
リヴィエラ「くはは!こいつは傑作だ。最後に仲間にまで裏切られるなんてな。かわいそうになぁ風力使い」
一凛「…」
リヴィエラ「じゃあ死ね!!」
右腕を大きく振り上げるリヴィエラ。
カチッ!
何かの音が聞こえる。
リヴィエラ「あん?」
音のするほうを見るとガラス張りの壁のそばで何かをしている零軌の姿が。
零軌「爆弾のスイッチは押したわ。あとはまかせたわ也転さん!」
急いで走り去る零軌。次の瞬間!
カッ!ドゴォン!
爆弾が爆発する。
パリン!パリン!
その衝撃で部屋のガラスが割れていく。
リヴィエラ「なんだぁ!?」
一凛「最上階だけあっていい風ね」
ビュォォ!!
ビルの外から吹きすさぶ風。
リヴィエラ「まさか!この風がお前の狙いか!」
一凛「そうよ!さっきの風弾はそもそもあんたは狙っていない」
風弾の狙いは転がっていた爆弾。爆弾を弾き飛ばしガラス張りの壁近くに持っていくのが狙いだったのだ。
一凛「これだけの風があれば!!」
ゴォォォ!!!
一凛を中心に吹きすさぶ風。先ほどまでの風量とはまるで違う。
リヴィエラ「ちっ!やらせるかよ!」
バッ!
リヴィエラに右手を向ける一凛。
ボッ!
激しい風の乱流がリヴィエラを吹き飛ばす。
リヴィエラ「なっ!」
一凛「無風の状態で風を操るのとはわけが違う。これだけの風速がもとからあればそこに私の能力を加えることで!」
指をリヴィエラに向ける一凛。
ゴゴゴゴ!!
その指先に激しい乱流が集まっていく。巨大な風の乱気流が一凛の指先に形成される。
一凛「『乱風弾(バレット)』!!」
ボッ!
乱気流の塊がリヴィエラに放たれる。
リヴィエラ「くそ!」
右腕を乱気流の塊に振るう。だが…
ボロロ…
崩れていく右腕。
リヴィエラ「限界だと!?うっ!」
リヴィエラの体に直撃する乱気流の塊。体が乱気流の塊の中に飲み込まれる。乱気流の塊の中でぐるぐると回転するリヴィエラ。
一凛「吹き飛べ!!」
ドシュゥゥ!!!
リヴィエラがビルの外へと吹き飛ばされる。
リヴィエラ「くそ…スカイ…アンダー…」
ビルから落下していくリヴィエラ。
ドシャッ……
一凛「うまく…いったわね」
ドサッ!
気を失い倒れる一凛。そこに柱の陰に隠れていた零軌が現れる。
零軌「お見事ね也転さん。S…静寂静峰も捕らえるなんて。あとはこの街の上のほうがうまくやるんでしょうけどぉ…」
幼少期に静寂機関で実験動物のように扱われていた過去を持つ零軌。彼女にとっては決別したい過去がここだ。その過去との決着を自分の手で付けようと思ったのだがそれは叶わなかった。いや自分一人でやろうとすればそれは不可能だったであろう。それは彼女自身がわかっている。
零軌「だから感謝するわよ也転…一凛さん。あなたのおかげで私も過去と向き合うことができたわ」
零軌はだれにも聞こえることがない感謝の言葉を継げるとその場を後にした。その後…
スッ…
何者かが一凛を横切り社長室へと入る。
にろく「静寂静峰か…すでに捕らえられているとは。まぁいい。俺は任務を果たすだけ。おまえの身柄は俺が預かる。お前の処分とあとの処理は上がするのだろうからな」
静寂静峰「むぐ…(秘密諜報員…もうNによってすべて書き換えられたのか。N…やはり危険な奴だ。だがそれを誰かに伝えるすべも私にはない…すべては奴の手の上か)」
タッタッ…
上階から誰かが下りてくる音が聞こえる。
零軌「あらぁ?確かあなたは静寂機関の掃除部(スィーパー)じゃないのぉ?」
涅尤「もう掃除部はない。俺はクビになった」
零軌「クビ?」
涅尤「あぁそうだ。就活しなければならない」
零軌「(いい人材を見つけたわぁ)だったらぁいい仕事があるわよぉ」
涅尤「なに…」
~後日・喫茶「かざぐるま」~
喫茶店のテーブルで黒蜜入りカフェオレアイスを食べる一凛と十一。
一凛「ん~おいしい!!」
十一「やっぱりここのアイスは最高ですね!」
静寂機関での戦いで負傷した二人は今日まで病院に入院していた。退院祝いとしてここでデザートを満喫していたのだ。
一凛「美天さんは大したケガもないようでよかったわね」
十一「はい。でも静寂機関の件の事後処理でだいぶ大忙しみたいです」
EGOに対して、静寂機関での事件の内容をまとめた報告書を提出するために日々パソコンと格闘中だそうだ。
一凛「そういえば
メルトさんは?」
十一「なにやら探していた人が見つかりそうだとかでつい最近出て行っちゃいました。また遊びに来るそうですよ」
一凛「お別れのあいさつもできなかったなぁ。また会えるならそのときだね。静寂機関はどうなったの?」
十一「静寂機関は解体されました。所属していた人間で構成員に関わっていたものたちは全員捕まり、社長の静寂静峰も捕まりました」
一凛「これで一件落着ってわけね」
十一「そうですね。まさか先輩が拾ったデータ端末からこんな大事になるなんて思いもしませんでしたよ」
一凛「私もだよ!でも全部終わったんだからよしとしよう!」
こうして静寂機関での戦いは本当に幕を閉じた。暗部蠢く静寂機関との戦い。これをきっかけにNは自身の計画を早めることになる。だがそれはAS(アナザーストーリー)では語られない話。
一凛たちの話はこれで終わりではない。まだまだ続くのだ。
『暗部(あんぶ)』編 Fin
最終更新:2020年12月31日 18:23