~ミストラルシティ・
治安維持委員(セキュリティ)第4支部~
十一「どう?なにか情報はない?」
美天「十一さんが見たという巨大な四肢を持つ人型の化物に関する情報はありませんね」
十一「そう…(あれはいったい何だったのかしら)」
美天「その件も気になりますが今はこちらのほうが優先です」
モニターに表示されるデータ。EGOからの応援要請だ。
十一「盗まれた遺体の捜索…。これって遺体仮収容所の」
美天「十一さんも知ってましたか。EGOでも捜査してるそうなんですが捜査人員が足りないそうで」
十一「犯人の警備員は捕まったんですよね?」
美天「それが警備員も犯人ではないみたいなんです。状況のつじつまが合わないみたいで能力者が犯行に絡んでいると思われるみたいです」
十一「能力者による犯行…でもなんで遺体を盗んだのかしら」
美天「そうですよね。動機がまったくわからないんです」
動機が分からなければ犯人の目星もつけようがない。
十一「う~ん。困りましたね」
二人の間に割って入る人物。彼女は第4支部の支部長だ。
美天「君島(きみじま)先輩!」
君島焙那(きみじまはいな)。ミストラルシティ付属の大学に通う大学生だ。
焙那「十一さんと有然(ありさ)さん。私たちがするのは犯人捜しの前に無くなった遺体を見つけること。その遺体から犯人を捜すヒントを見つけるのよ」
カチッ!
マウスをクリックする焙那。するとモニターに遺体のリストが表示される。
十一「あれ?」
そのなかの一つが十一の目に止まる。
十一「この女性…あの時倒れていた女性に似ている」
暗い路地だったので正確には見えなかったがほぼ間違いないであろう。
焙那「十一さん。見覚えがあるの?」
十一「はい。ここに来る前のことなのですが商店街の裏路地でこの女性に似た女性が倒れていたんです」
美天「それってさっき言っていた巨大化した化物になったっていう…」
十一「えぇ」
焙那「巨大化した化物?死体が?」
十一「それがその女性動いていたんです」
焙那「本当!?とても信じがたい話だけど…死体が動いていてさらには巨大化して化物になったなんて」
にわかには信じがたい。
焙那「そんな能力聞いたことないわ…」
美天「死体を操る能力(ネクロマンサー)…漫画やアニメではよく見ますけど」
能力者がはびこるこの世界でも死体がゾンビのように動いた話など聞いたことがない。それだけ死体が動くというのは異常なことなのだ。
まだ確証はない。だがそれが本当ならば…
焙那「まだ仮定でしかないけど犯人は死体を操って何かをしようとしている…」
十一「バイオハザード…的なやつでしょうか」
美天「噛むと感染するんですか!?」
あわわと慌てる美天。
焙那「落ち着いて有然さん。映画のゾンビとは違うでしょ。それにまだ全部仮定の話。でも急いだほうがよさそうね」
十一「えぇ。ほかの支部もEGOから連絡は入っているでしょうから私たちも急いで遺体の行方を追いましょう」
美天「こ、このゾンビの話はEGOには?」
焙那「突拍子もない話と思われるかもしれないけど…」
十一が死体に似た女生と交戦したのは事実だ。
焙那「一応EGOにも報告しておきましょう」
~ミストラルシティ・某所~
???「相変わらず気味が悪いな」
部屋の中に並べられた無数の遺体を見ながら男はその感想を述べる。
???「これだけの数の死体を使う機会などなかったからな」
女は遺体を見つめる。遺体の中には十代の子供も見受けられる。
???「それであいつはどこにいってる?」
女に問う男。
???「この地で試験運用だそうだ。大地が変わればその地の大気も変わる。特に彼の場合は繊細な技術を発揮するのに大気の流れは重要だろう」
たんたんと説明する女。
???「それはご苦労なことで」
聞いておきながら興味もなさそうな反応の男。
???「そろそろ戻ってくるんじゃないか」
女がそういうと部屋の扉が開く。
???「おっ、帰って来た」
???「どうだ?」
女は帰って来たローブを着た男に成果を問う。
???「問題はない。ホムンクルスの動作に異常はなかった」
???「異常はなかったって…連れて行ったホムンクルスはどこいったの?」
???「この街の学生に破壊された」
???「はっ?学生にやられちゃったの?ホムンクルスが?それって力が弱まってるんじゃないのかよ!」
ローブの男に突っかかる男。だがそこに女が割って入る。
???「いや違うな。彼が力を見誤ることはない。それだけこの街の学生も強いということだ」
???「へ~そうかよ。でもどうすんのさ。それだけ強いなら俺たちの目的は…」
???「それも問題ない。だろ?」
ローブの男が女の問いに答える。
???「あぁ。あのホムンクルスはこの街の力を見るために持ってきた一番弱そうな素体を使ったものだ」
???「お前のことだ。そこまで考えているとは思っていた。ならば他の遺体は…」
???「しっかりと選んできたものだ。あの程度でやられるものは他にはない」
???「…それもそうか。わざわざ潜入してまで奪ってきた死体だもんな。よく考えずに突っかかって悪かったな」
???「気にする必要はない。お前の性格はわかってる。それに我らは…」
???「言わなくてもわかってるての。なぁ?」
女にふる男。
???「あぁ。我らは一蓮托生の身。裏切ることなどありえはしない。さて、では本題に入るか」
???「そうだな。やはり学生を狙うか。力の度合いも分かった」
???「俺も賛成」
???「では帰ってきて早々で悪いが頼む」
???「頼まれた」
スッ…
遺体に手を触れるローブの男。
???「眠れる魂無き器よ。我が従僕となりて新たなその生を全うせよ」
ビクン!
遺体が痙攣する。生気を取り戻したように起き上がる遺体。
???「オプションは?」
男がローブの男に問う。
???「今回は必要ない。前の素体とは違うからな。このままでも十分な力となる」
???「りょーかい♪」
???「まずは手始めに」
ミストラルシティの地図を広げる女。
???「ここにするか」
~ミストラルシティ・中央公園~
夕日が照らす夕方の公園。
一凛「はぁ」
ため息をつきベンチに座る一凛。本当なら今日は帰ってミストラルマンの新作を堪能するはずだったのだが巨大化した化物と戦ったせいで予定が狂ってしまいそんな気分ではなくなってしまった。
一凛(あれはなんだったのかしら)
人間が化物に変貌したように見えた。だがその体からは血の一滴も流れなかった。倒した後は跡形もなく消滅したあの化物。
一凛(まさかアレが未元獣ってやつだったの)
一凛たち学生は未元獣がミストラルシティに襲ってきた際、寮や家での完全待機を命じられていてその姿を全く見ていない。メディアでも未元獣は人々に恐怖を思いださせるため、その姿を放送することはない。
一凛(わからない…わからないことを考えても仕方がないか!)
気持ちを切り替えベンチから立ち上がる。悩むのは自分らしくないと言い聞かせ、彼女は公園から寮へと帰ろうとする。
「きゃぁぁ!!」
公園内に響く悲鳴。
一凛「なに!?」
悲鳴のするほうをみると何者かが次々と公園にいる人々に暴行しているように見える。
一凛「まったく今日はついてないなぁ!」
そういうと走り出す一凛。人々に暴行を働いている者へととびかかりそのまま蹴りを放つ。
ゴッ!
顔へと直撃する蹴り。暴行していた者は地面へと倒れる。
一凛「今のうちに逃げて!」
周囲の人々が公園から逃げていく。
一凛「こんな公園でなにやってんのよ!って…あれ?」
暴行して人物の顔に見覚えがある一凛。立ち上がったその人物は…
アンダー「…」
一凛「あんた構成員の!?」
アンダーだ。その目は虚ろでまるで生気がない。
一凛「なんであんたがこんなことしてんのよ?って構成員はつかまったんじゃないの?」
アンダー「…」
一凛の呼びかけに反応はない。
一凛「どういうつもりか知らないけど」
一凛の背中に衝撃が走る。何物かが背中にドロップキックを放ってきた。吹き飛ばされる一凛。
一凛「うっ…」
突然の攻撃に受け身も取れずダメージを負ってしまう。
一凛「だれっ!」
自分にドロップキックを食らわせてきた相手。それは…
スカイ「…」
スカイだ。彼女もアンダー同様その目に生気が感じられない。
一凛「あんたまで!?なんなのよほんと」
スカイ「…」
アンダー「…」
スカイとアンダーは一凛に走り寄ってくる。
一凛「くっ!」
両手を前に突き出し空気の壁を作る一凛。
ボゴッ!
空気の壁に激突するスカイとアンダー。
一凛「えっ、突っ込んできた?なんで…」
彼女たちは一凛の能力を知っている。なんで体当たりなんてしてきたのだろう。スカイとアンダーは風の壁に激突しながらも前に進もうとしてくる。
一凛「やっぱりおかしい…(まるで操り人形のような…)」
どうみても見た目はスカイとアンダーなのだがその動きが人間とは思えない。
???「この街の学生の力を少し甘く見ていたな」
ローブに身を包んだ男が一凛の前に姿を現す。
一凛「だれ!?」
???「能力者…学生でもこれほどの力を持つか。物質を遮断…いや違うか。なにかで壁を作っている…空気…風を操るといったところか」
一凛「なんで構成員と一緒にいる!あんたはこいつらのなんなの!」
???「名も知らぬ学生。こいつらと知り合いであったか。だがその反応は親しい関係というわけではなさそうだ」
一凛「いちいちこっちの情報探ってんじゃないわよ!」
ドゴォン!
空気の壁が形を変え、竜巻となりスカイとアンダーを吹き飛ばす。ローブの男の後ろの地面へと叩きつけられる二人。
???「やはり風か」
一凛「次はあんたよ」
???「いいやまだだ」
ムクリ!
起き上がるスカイとアンダー。
一凛「あいつらの様子がおかしいのはあんたのせいなの?」
???「死者にたいして様子がおかしいということはないだろう」
一凛「死者?それってどういう…」
???「彼女たちは死人。それすら知らないということは大した仲ではないか」
一凛「こいつらが死んで…えっ!?」
スカイとアンダーが死んでいる。意味が分からない。自身が対峙したリヴィエラはビルから落下するのを見ているが、彼女たちはその姿を今まで見ていない。それに今こうして目の前で動いているのに…
パラケル「理解できぬなら理解する必要はない。どうせお前も死ぬのだから名も知らぬ学生よ。このパラケルの錬金術の力によって」
最終更新:2021年01月07日 21:23