~ミストラルシティ・中央公園~
アンダーとスカイ、それとパラケルと対峙する一凛。
一凛(状況の整理がが追い付かない…)
目の前の構成員は死んでいる。動いているのに死んでいる。それはつまり…
一凛「ゾンビ…」
パラケル「ゾンビ?我がホムンクルスはそんな空想の産物とは違う」
一凛「ホムンクルス?」
聞いたことがない言葉だ。それにパラケルが言っている錬金術とは…
一凛「錬金術っていうのがあんたの能力なの?」
パラケル「錬金術は能力ではない。我らが祖ヘルメスが生み出した術。して…この問答は時間稼ぎか」
一凛「ちっ…ばれたか」
パラケル「いけホムンクルスよ!」
スカイとアンダーがパラケルの命令に応じるように一凛に襲い掛かる。
一凛「何度来たって!」
風の壁を作る一凛。
アンダー「…」
アンダーが地面に手をつく。
ヴォン!
アンダーを中心に5mほどの空間が展開される。
一凛「これは!」
空間内の一凛が展開していた風の壁が消える。能力がうまく使えない。
ゴッ!
スカイの蹴りが一凛の脇腹に直撃する。
一凛「ぐはっ!」
脇腹に強烈な痛みが走り、態勢を崩す。態勢を崩した一凛を羽交い締めにするスカイ。
ギリギリギリ…
人間の力とは思えない力が一凛を締め付ける。
パラケル「これが能力者のホムンクルスの面白いところだ。魂はないはずなのに、その肉体は生前の力を覚えている。脳があれば能力は使えるという事実。能力とはどこに宿るのか。非常に興味深い」
一凛「ぐ…うっ」
痛い。あまりの痛みに気を失いそうだ。この状況をなんとかしなければ。
一凛(両腕は動かせない…能力も封じられてる…)
そうは思うが今の一凛にできることはない。それが現実。
一凛(…って受け入れるわけにはいかないのよ!)
足元の小石を蹴り飛ばす。
ゴッ!
アンダーの顔面に直撃する小石。その衝撃で一瞬、ほんの一瞬だがアンダーの能力が解除される。その一瞬を一凛は見逃さない。
一凛「だあぁぁ!!」
ボゥ!!
すさまじい突風が巻き起こる。突風により吹き飛ばされるスカイとアンダー。
一凛「はぁ…はぁ…」
パラケル「ほぅ。なかなかやるものだな学生。だがいつまでもつかな」
突風により吹き飛ばされたスカイとアンダーはまるでダメージがないかのように立ち上がり一凛の前に立ちはだかる。
一凛「くそっ…(本当にゾンビみたいね…)」
「おいおいおい…」
何者かが一凛たちのまえに現れる。
???「いつまでやってんだパラケル。こっちは終わったぞ」
パラケル「ご苦労ゲオルグ。こっちは思った以上に厄介でな」
パラケルの仲間のようだ。軽い口調と態度が男の性格をよくわからせてくれる。
一凛「仲間…(こいつらだけでもやばいのに…4対1…こうなったら)」
ゲオルグ「能力者かぁ?だけどよ学生だろ」
へらへらした口調でしゃべるゲオルグ。
パラケル「風を操る。思った以上に強い」
ゲオルグ「へぇ~そぅ」
ゲオルグと呼ばれる男は自分で見たもの以外はあまり信用しない性格をしているようだ。パラケルが学生に手こずっているという事実にも納得がいっていないようだ。
一凛(逃げるしかない!)
ダン!
足に風を纏わせ地面を蹴る一凛。その体は風に舞い空へと飛んでいく。
パラケル「逃げるきか」
ゲオルグ「へっ。逃がすかよ!」
~~
公園の空へと浮かぶ一凛。パラケルたちがいたところからはだいぶ離れた。
一凛「これだけ離れれば…」
キィィィン!!
何かが飛んでくる音が聞こえる。
一凛「なに…」
ビュン!
一凛の横を何かが通り過ぎる。
一凛「今の…」
ゲオルグ「おっと!早すぎたか?」
通り過ぎた何か。それはゲオルグだ。彼が一凛の上に浮かんでいる。
バサッ!バサッ!
一凛「さっきの奴!追いついてきたの!?」
背中から羽をはやしているゲオルグ。その羽を羽ばたかせ空を飛んでいる。
ゲオルグ「逃げようったってそうはいかねぇよ」
ゲオルグが一凛を捕まえようと手を伸ばす。だがその手は風の壁により阻まれる。
ゲオルグ「っと。これがパラケルの奴が厄介って言ってた風の壁か。確かに普通の体じゃ突破するのは難しそうだ。なら!」
ビシュッ!!
ゲオルグの腕が液体へと変化する。
一凛「うそ!?」
バシャン!
液体となった腕は風の壁を突破し一凛の首を掴む。
一凛「ぐっ!」
ゲオルグ「つーかまえた♪」
ギリリリ…
首を掴む力が強くなる。
一凛「もう…だめ…」
気を失う一凛。
ゲオルグ「ゲットだぜ」
~ミストラルシティ・裳丹高校学生寮~
十一「はぁ~。結局今日はなんの成果も得られませんでした」
遺体と犯人に関する情報はまったくつかめなかった。くたびれて寮へと戻って来た十一。
十一「そういえば先輩とは急に別れたきりでした!先輩の部屋に行きましょう!」
一凛の部屋の前。扉をノックする十一。だがなかから返事はない。
十一「まだ先輩は帰ってきてないみたいですね」
だいぶ夜も遅い時間。寮の門限ギリギリの時間だが一凛がいないということは…
十一(またなにかに首を突っ込んでいる可能性が…)
そうとなれば日中のあの女性の件だろうか。なんにしても今考えてもしょうがない。明日改めて一凛の部屋を訪ねることにしよう。
~そして翌日~
コンコン!
部屋をノックする音。部屋の主は返事をする。
「は~い。あいてるわよぉ」
十一「失礼します」
十一が訪れた部屋。そこは…
零軌「あらぁ?珍しいわねぇ。どうしたのかしらぁ?」
響零零軌の部屋だ。
十一「先輩…一凛先輩が昨日から行方が分からないんですがなにかしりませんか?」
朝に一凛の部屋を訪ねたがやはり彼女は帰っていなかった。
零軌「一凛さんが行方不明…またなにかに首を突っ込んでいるのかしらぁ」
やれやれと零軌は首を振る。
十一「その様子では知らないようですね…わかりました。ありがとうございます」
部屋を後にする十一。
零軌「ちょっと興味もあるし…調べてみようかしらぁ」
通信端末を手に取る零軌。
零軌(べ、別に一凛さんが心配とかそういんじゃないんだけどぉ)
と誰も聞いていもいないのに自分に言い聞かせながら通信端末を操作する零軌。
「はい」
通信相手が淡々と感情のない声で応答する。
零軌「お仕事の時間よぉ」
「仕事の内容は?」
零軌「うちの生徒、
也転一凛さんの足取を調べてほしいの」
~ミストラルシティ・某所~
ゲオルグ「大漁大漁♪」
部屋の中には公園から攫われてきた人々が拘束されている。
パラケル「だいぶ集まって来たな。だがまだ足りないのだろう?」
???「あぁ。あれを創るにはこの程度の数では足りない。もっと多くの人間が必要だ」
パラケル「ホムンクルスを使って集めて回るしかないな」
ゲオルグ「どこかに大量に人…それも使える奴らが集まってるとこがあれば楽なんだけどな」
???「いずれEGOにも感づかれる。その前にことを成す」
パラケル「そうだな」
ゲオルグ「とりあえずはパラケルの錬金術に頼るほかねぇな」
???「頼むぞパラケル」
パラケル「うむ」
~ミストラルシティ・第4区域~
美天「遺体捜索っていってもどこを探せばいいのか見当もつきませんね」
十一「そこらへんに遺体が転がってるはずもないし…」
第4区域内を探索する美天と十一。
十一「この間の女性…あれがなくなった遺体だったとしたらまた他の遺体が表れる可能性も…」
ピピピ!
十一と美天の持つ携帯端末に通信が入る。焙那(はいな)からだ。
焙那「第4区域で正体不明の怪物を見たとの通報があったわ。EGOも向かっているようだけど、十一さんたちが一番現場に近いの。すぐに向かってちょうだい」
十一「怪物…もしかしたら」
脳裏によぎるのは先日相対した女性。となれば盗難された遺体の行方を知るチャンスだ。
美天「場所はここからすぐ近くです」
十一「いくわよ!美天!」
美天「はい!」
~~
怪物がでたという現場に到着した十一と美天。
十一「ここですか」
目の前にあるのは廃工場。廃工場に面白半分で入ったら、なにかが襲い掛かって来たとの通報。通報者はなんとか逃げおおせたようだが。
美天「もしかしたら未元獣かもしれません…応援を待ったほうが…」
十一(先輩が今首を突っ込んでいるとしたらあの怪物の件の可能性が高い…ここで止まってるわけには!)
一凛のことを心配する十一は一凛の手掛かりとなるものをすぐにでも見つけようと先を急ごうとする。
十一「いや、いくわよ美天」
ギィィ…
廃工場のさびた扉を開ける十一。中は錆びれた機械が鎮座し、静けさに満ちている。
十一「…」
美天「静かですね…情報は眉唾だったかすでに怪物はどこかにいったのか」
ガタッ!
工場内に響く音。何かが動く音だ。
十一「なにかいるわね」
美天「あわわ!み、未元獣でしょうか!?」
あわてふためく美天。
十一「未元獣は人よりもかなり大きいらしいから、いれば目に入る。違うなにかね(もしかしたら…)」
十一の予想は当たる。錆びれた機械の脇から姿を現したのは人だ。
十一「生気が感じられない…あの女性と同じ」
美天「もしかしてゾンビですか!?」
ガタン!
物音がすると同時に次々と現れる人々。そのどれもゾンビのように生気がなくその場に立っている。
十一「一人だけじゃないようね。美天はすぐに遺体のリストと照合を!」
美天「はい!」
カタカタカタ!
美天「十一さん!この人たちは遺体のリストに記載されている人と身体的特徴が一致しています!やっぱりゾンビ…」
十一「動く死体…趣味が悪いわね」
動く死体たちが十一たちへとゆっくりと近づいてくる。
美天「私たちを狙ってるみたいですよ!早く逃げましょう!」
十一「目の前にいるのが盗まれた遺体ならそのままにしてはおけない。せっかく見つけた犯人の手掛かり、このまま引くなんてありえない」
美天「しょ、正直ゾンビは怖いですけど…十一さんがやるというなら!」
パン!
自身の頬を叩き気合を入れる美天。
美天「私たちは
治安維持委員(セキュリティ)ですから!」
十一「えぇ。動く死体の正体…突き止めて見せる!」
太ももに付けたホルダーから魔導帳を取り出す十一。
十一「死体を損傷させずに動きを止める」
パラパラと魔導帳をめくる。
十一「これなら!」
ビッ!
魔導帳のページを破る十一。破ったページを死体の足元へと投げとばす。
ビキビキビキ!!
死体が凍り付いていく。
美天「さすがです十一さん!」
十一「このまま全員凍らせる!」
魔導帳のページを次々と破り死体へと投げつけていく。あっという間に死体たちは氷漬けになる。
十一「なんとか魔導帳が足りましたね」
魔導帳は十一が事前に魔導の術式を書き込んだ単語帳。氷結の魔導術式を書き込んだページは今のですべて使い切った。再び使うには新たに魔導帳を書く必要がある。
美天「あとは応援を待って、死体を回収すれば…」
パラケル「これは魔導か」
廃工場の上階にローブを着た男が現れる。
十一「だれ!?」
パラケル「まさかこの街で魔導士を見るとはな」
十一「あなたがこの死体たちを盗んだ犯人ですか?」
パラケル「あぁそうだ。この者たちは私のホムンクルスとして蘇った」
美天「ホムンクルス?それに蘇ったって…」
十一「犯人自ら現れてくれるとは探す手間が省けましたね。死体を操るのがあなたの能力なのですか?」
パラケル「能力か…錬金術を能力などと同じにみるな!」
ビシッ!
死体を覆っていた氷にヒビが入る。
パラケル「魔導を操る娘よ、我がホムンクルスがこの程度で止まると思うな!」
バキン!
死体を覆っていた氷が砕ける。動き出す死体たち。
美天「あぁ!」
十一「くっ!」
パラケル「いけホムンクルスたちよ!」
パラケルの声に応じるように死体たちが美天と十一に襲い掛かる。魔導帳を使い、死体と応戦する十一。だが動きを止める魔導はない。炎で燃やし、雷で焼いても死体はまるで効いていないように襲い掛かってくる。
十一「効果がない…」
美天「ど、どうしましょう!」
十一「目の前に犯人がいるのに…成す術がないなんて…」
美天「このままじゃ私たちやられてしまいます!!」
慌てふためく美天。
パラケル「所詮は学生。成す術などないのだ」
「それはどうかしら?」
工場の入り口から聞こえる声。その声は十一と美天には聞きおぼえがある。その声の主は…
焙那「十一さん!死体を燃やして!」
十一「はい!」
魔導帳を破り、炎の魔導を死体に放つ。燃え上がる死体。だが死体は意に介せず動きを止めはしない。
焙那「有然(ありさ)さん!炎の温度は!」
美天「は、はい!」
携帯パソコンを操作し、死体を覆う炎の温度を測る美天。
美天「100℃を超えています!」
焙那「よし!『温度調整(テンパーチャー)』!!」
手を死体へとかざす焙那。すると死体を覆う炎が瞬時に消える。
ギギギ…
死体は動こうとするが動けない。なにかが邪魔をしているかのように。
パラケル「なんだと…」
焙那「私の能力は物体の持つ温度を操る」
焙那は死体が炎での高温から急速に氷点下の温度にさらされたことでフリーズドライ現象を発生させた。急激な温度変化で死体の水分を奪い去り、死体周囲の水分が凝固凍結され死体の関節が動けないように凍結させたのだ。
美天「焙那先輩!」
焙那「大丈夫十一さん、有然さん」
十一「はい」
美天「大丈夫です」
パラケル「ホムンクルスの動きを止めるとは…」
焙那「覚悟しなさい死体窃盗犯!もうすぐEGOも到着するわ!」
パラケル「ゲオルグに助力してもらうべきだったか。この街の人間の力を甘く見ていたな。今回は私の敗北だ。だが次はない!」
そういうとパラケルは姿を消した。
焙那「まちなさい!」
十一「逃げられてしまいましたね」
焙那「仕方がないわね。EGOに状況の報告をして私たちも戻りましょう」
十一(先輩の手掛かりは掴めなかった…先輩。どこにいるんですか…)
最終更新:2021年01月17日 23:30