~更生院(カリキュラム)・入口前~
肇李(ちょうり)「対象は包囲した。前衛部隊は構え!」
肇李たち
治安維持委員(セキュリティ)第3支部は33(みみ)を包囲する。後衛と前衛に分かれフォーメーションを組む第3支部。肇李の号令とともに前衛の支部員たちが手に持ったさすまたを構える。
肇李「一斉に捕え!」
肇李の合図とともに前衛部隊はさすまたを33へと突き出す。
33「……」
スッ!
だが33は前衛部隊の動きをすべて予期していたかのように軽々とかわす。なんどさすまたで捕えようとしてもそのすべてはかわされてしまう。
肇李「こちらの動きがすべて読まれている…ならば後衛部隊!」
手に持ったゴム弾を装填したガス銃を構える後衛部隊。
肇李「一斉射撃!」
ダダダ!!
放たれる銃弾。だがそれすらも33は予期していたようにかわして見せる。
肇李「銃弾も…躱すなんて…」
人間技とは思えない。
33「…」
腰に付けた短剣を取り出し構える33。構えた短剣で前衛部隊へと特攻する。
第3支部員「はぁぁ!」
さすまたを突き出す支部員。だがそれは易々と避けられる。もう片方の手に付けた盾を構える支部員。
33「…」
ガン!
33の持つ短剣に盾が吹き飛ばされる。
第3支部員「うわっ!」
無防備となった支部員へと短剣を突き出す33。
ガキン!
肇李「僕の仲間をやらせはしないよ」
支部員と33の間に割って入った肇李。彼が手に持っていた盾に短剣ははじかれる。だがすぐに短剣を構えなおす33。
ガン!
肇李の持っていた盾が弾き飛ばされる。
肇李「くっ!(こんな短剣で軽々と盾を弾き飛ばすなんてなんた力…いや違う。力の使い方がうまいのか)」
肇李たちに知る由はないが相手は秘密諜報員。ホムンクルスになったとはいえ、その歴戦の経験は体に刻まれている。戦いの年季は天と地ほどの差がある相手だ。
33「…」
33の持つ短剣の剣先が肇李の心臓へと向けられる。
33「…」
短剣を肇李へと勢いよく突き出す33。
肇李「『物質移動(マターチェンジャー)』!」
ガキン!
短剣は肇李の心臓ではなく、彼の手にもつ盾に激突した。
肇李「くっ!盾で受けてもこの衝撃か…」
先ほどまで確かに肇李は何も持っていなかった。だが瞬時にして彼の手には盾が握られた。
肇李「後衛部隊!」
肇李の合図に応じるように後衛部隊がガス銃による銃撃を放つ。
33「…」
だがやはり33には回避されてしまう。
肇李(やつの能力なのか…。状況を整理しよう)
こちらの攻撃はすべて動きが予知されているかのように避けられる。未来予知か?いや違う。未来予知だとすれば僕の能力で盾を持ってくるのも読んだはず。未来予知ではない。だとすればほかの可能性…すると。
肇李「考えられるのは2つ。だが可能性が高いのは…こっちか。前衛部隊!パターンα3(アルファスリー)!」
第3支部委員たち「はい!」
肇李の号令とともに前衛部隊がさすまたを構え33へと突撃する。
33「…」
33はさすまたを次々と避け、前衛部隊へと短剣で反撃を繰り出そうとする。
肇李「いまだ! 『物質移動(マターチェンジャー)』」
突然、前衛部隊の持っていたさすまたが盾へと姿を変える。
ガキン!
短剣を盾で防がれる33。支部員たちは両腕で盾を構え33へと迫る。33の視界が盾によりふさがれる。
肇李「死角からの一撃。くらえ!」
バン!
放たれたゴム弾。それは前衛部隊の盾の隙間から33へと放たれる。
33「…」
だがそのゴム弾をも33は避けて見せた。見えない攻撃をも。
肇李「やはりな。視覚か聴覚か。その答え。十中八九あなたの能力は異常聴覚による状況判断能力。音ですべてを理解し、銃弾をも避けることを可能としている」
33「…」
今の見えないはずのゴム弾による攻撃も発射時、いや銃を構える音すらも33には聞こえているのかもしれない。だとすればすべての動きが音となって彼には聞こえている。
肇李「どれだけ連携がとれた動きでもその動きの音で行動を察せられれば、対処されてしまう。だけど対応する手はある」
ズラリとならぶ第3支部委員。
肇李「ここからが第3支部の本領発揮だ。史香(しか)!」
史香「はい。準備はできています」
三槇 史香(みまき しか)。彼女は肇李の右腕として活躍する治安維持委員第三支部の副支部長ともいえる人物だ。
肇李「僕たちの全力の連携(フォーメーション)。受けてみろ!」
~~
鎖霾(さめ)「様子見っていったけど…」
シュルル!!
周囲に浮き荒ぶ、木々の葉。それらは一枚一枚が鋭い刃のように、鎖霾へと襲い掛かる。
鎖霾「おわあぁぁ!!」
葉っぱの刃から必死に逃げる鎖霾。
鎖霾「動かずにその場から遠距離攻撃なんて卑怯者め~!!」
全力で逃げ回る鎖霾。88(はっぱ)は顔色一つ変えず(ホムンクルス、死体なので表情が変わることはあり得ないのだが)その場から葉を操り攻撃を続ける。
鎖霾「くそ~!これじゃあ、防戦一方じゃないの!ひぃぃ~~!」
???「鎖霾支部長!」
逃げ回る鎖霾へと声をかけたのは第2支部委員の副支部長ポジションの希鎧 挫羅(きかい くじら)だ。声が大きく、辛辣な発言に定評がある彼女。
挫羅(くじら)「どうしますか!!このままでは逃げ回るだけですよ!!どうにかしないと鎖霾支部長のカロリー消費が増えていくだけです!!マラソン大会をしているんじゃないですよ!!」
鎖霾「わかってるわよ挫羅!こっちだって好きで走り回ってるんじゃないの!あなたの能力でサポートしてよね!」
挫羅「わかりました!!鎖霾支部長はこっちにまっすぐ走ってきてください!!」
鎖霾「わかったわ」
挫羅のほうへと走ってくる鎖霾。挫羅は指をそろえ両腕をまっすぐ鎖霾の体の両脇へと並ぶように構える。
挫羅「防風壁(エアロ・シャッター)!!」
挫羅の指先から放たれる風。それはその指先の前方、つまり鎖霾の両脇を風の壁で遮断する。襲い来る葉の刃が挫羅の防風壁で弾き飛ばされる。
鎖霾「さすがね挫羅!頼りになるわね!」
挫羅「あなたをサポートするのが私の、第2支部の仕事ですから当然です!!」
88(はっぱ)「……」
風の壁に葉の刃が防がれ攻撃が通じないと思ったのか、88はその場からとうとう動き出す。
鎖霾「やっと動いてくれたわね」
挫羅「ここからはターンが変わりますね」
鎖霾「えぇ。攻守交替。ここからは私のターンよ!」
~~
ヴヴヴヴ!!
無数の羽音が響き渡る。
美天「い、いやぁぁ!!」
あまりの数のそれらに寒気を覚え、全身に鳥肌が立つ美天。
64(むし)「……」
数えきれないほどのそれらは統制されたように周囲を飛び回り第4支部の面々の動きを制限する。
十一「虫を操る能力…これだけの数となると驚異ですね」
焙那「この虫たちをどうにかしないとやつに近づけもしない…」
数えきれないほどの虫が上空を覆っている。
十一「私の『簡易魔導(インスタントマジック)』で!」
太ももへと手を伸ばす十一。その指先が太ももに装着された魔導帳へと触れようとした瞬間。
ヴヴヴヴ!!
無数の虫が十一へと襲い掛かる。
十一「くっ!魔導帳も使わせる気はないですか」
虫を振り払うのに精いっぱいの様子の十一。
焙那「十一さんが!このままじゃまずいわね。有然(ありさ)さん!なにか手はないの?」
美天「上空にいる虫たちをどうにかしないと打つ手なしです」
焙那「逆に言えば虫をどうにかすればいいのね?」
美天「はい!」
焙那「虫は変温動物。だったら私の能力で!」
地面に手を当て、周囲の温度を変化させる焙那。
焙那「『温度調整(テンパーチャー)』」
設定温度0℃。それは虫が活動を停止し、越冬体制に入らせるには十分な温度。
ヴヴヴヴ!!
虫たちが一斉に周囲に分散していく。
美天「さ、寒い!でも虫が!」
急激な温度変化にふるえる美天。だが虫たちは第4支部の頭上からさっていった。
焙那「よし!」
十一「形勢逆転ですね」
焙那「いくわよみんな!」
~~
列覇(れっぱ)「はぁぁ!!」
こだまする列覇の叫び声。激しい殴り合いを続ける列覇と86(はむ)。
86(はむ)「…」
列覇「まだまだぁ!」
相手は秘密諜報員。まともな殴り合いをすれば列覇には勝ち目などない…はずなのだが。
86「…」
86は列覇の攻撃をギリギリで躱し、86の攻撃は列覇に直撃している。
列覇「こっちの攻撃がまったく当たんねぇ!お前強いな!」
頭の鉢巻をなびかせながらニカっと笑う列覇。そんな列覇の問いかけにホムンクルスとなった86は反応するはずもなく。
86「…」
86が両手を合わせる。すると86が分身していく。列覇の前に立ちはだかる無数の86。
列覇「増えた!?」
86「…」
86たちは次々と列覇に攻撃をする。多方向からの無数の攻撃に成す術がない列覇。
列覇「ぐっ!やるな…」
さすがに満身創痍の列覇。
???「列覇先輩!」
そんな列覇へと声をかけたのは第1位支部の隊員、砕雅 怜霞(さいが りょうか)。
列覇「なんだ怜霞!男同士のタイマンに口をはさむな!」
怜霞「男同士の戦いもいいですけど…このままじゃ先輩負けちゃいますよ」
列覇「なに!?そんな馬鹿な…うぐっ!」
顔面を86に殴られる列覇。
怜霞「ほら。先輩の攻撃はまったくあたっていないのに相手の攻撃は全部、的確に先輩の急所を狙ってきている」
冷静に状況を判断する怜霞。
列覇「なるほど!だが俺も鍛えている!あきらめなければ負けはしない!」
自身の根性論を前面に押し出す。彼はそういう人間なのだ。やる気があればなんでもできる。それを信じて疑わない生き方(スタイル)。それが『義丈 列覇(ぎじょう れっぱ)』という人間。
怜霞「相手は分身している。そんな相手におこのままじゃあ勝てるわけない。先輩…また忘れてないですか?」
列覇「何をだ?」
怜霞「先輩も能力を使うんです」
列覇「おぉ!そうだ!俺には能力があった!」
タイマンに夢中になり自分の能力をも忘れていた列覇。
列覇「よし!」
拳を握り構えをとる。
列覇「うぉぉ!!」
列覇の体を覆うようにオーラが放出される。まるで彼の力があふれ出ているようだ。
列覇「いくぜ!!」
~~
EGO隊員「だめだ!止まらない!」
隊員たちの攻撃を意に介せず次々と隊員たちを始末していく74(なし)。
74「…」
EGO隊員「歯が立たない…カレン長官に彼らがいない今、俺たちではだめなのか」
74の手に持ったナイフが隊員の首元へと突き刺そうと振り下ろされる。
ガキン!
だがそのナイフは突如割って現れた男へと突き刺さる。その男は全身に鎧を着込んでおり、その姿は何者かもわかりえない。
???「的確に急所への一撃。ただ者ではないな」
鎧を着た男は手に持った刀を74へと振り下ろす。
74「…」
74の体が二つに両断される。だが直後、その体は何事もなかったように元通りになる。
???「ふむ。それがお前の能力か」
ザシュ!!
刀を十字に振る鎧の男。74の体が切断されるが、やはり元通りに戻る。
???「確かに手ごたえはあった。物理攻撃が通用しない…のか?」
違和感がある。修復ではない。まるでその事象がなかったかのような感覚。最初から攻撃をくらっていなかったのような。
???「時間を巻き戻している…攻撃をくらう前に。そんな感じだ」
だとすれば74の能力は…。
???「自分の体…その状態を1秒程度か?前の状態に戻す能力。タイミングさえ間違えなければ不死身の能力だな」
攻撃が来るとわかれば能力を発動し、ダメージをなかったことにできる。認知した攻撃には無敵の能力だ。
???「だが種がわかれば対処のしようはある」
鎧の中から覗く瞳。彼の鋭い瞳は74を標的へと捉える。鎧…炭でできた鎧を着込んでいる彼は攻略法を思いついた。そしてそれを実行する。
涅尤(くりゅう)「無敵などありえない。それを今証明しよう」
最終更新:2021年03月13日 22:50