前触(まえぶれ)

オウリギンが暗躍したEGOと地縛民の暴走。世界を混乱に陥れた事変(リベリオン・ザ・ワールド)から数か月。彼女たちの生活は…
~ミストラルシティ・裳丹(もにわ)高校~
一凛(いちか)「はぁ~」
ため息をつく一凛。
一凛「今日も退屈ねぇ」
代り映えのない日常が続いていた。世界がどんなに変わろうとも彼女たち学生の本文は勉強。それは変わらない。
一凛(よくわからないテロリストや怪物の襲撃、EGOが急に独裁組織になったり…いろいろあったけど私たち学生は蚊帳の外。そりゃそうだけど…)
ニュースや雑誌ではみるけど事件が起きているときには自宅(寮)待機。事件は画面の中での出来事。そんな感覚しかない。
一凛(待機が解けて出てみれば、何も変わり映えない世界。本当にそんなことがあったのかなんて思うレベルにね)
だがそう思えるのは幸せなのかもしれない。当事者となれば世界の見え方も変わるというもの。学生である彼女に見える世界には限界があるのだ。
まぁとはいえ彼女も暗部や錬金術師という普通では関わることのない世界と関わってきている。普通の学生とは違う世界に足を踏み入れているのは間違いないのだが。彼女にとってはそんなことなど日常の一部とでもいう感覚なのかもしれない。

「せんぱ~い!!」

遠くから聞こえる声。これも彼女にとっては日常の一部。

ドッ!

一凛へと女生徒が抱き着いてくる。その女生徒は言わずもがな彼女である。
一凛「今日も元気ね~十一(ともろ)」
十一「先輩はいつも通り気だるげですね!」
明るく上ずんだ声で十一は尻尾があればフリフリと犬のようにふっているであろうように一凛へと声をかける。
一凛「そうねえ。なにかおもしろいことでもあればねぇ」
こんなご時世では学校のイベントや旅行などもなかった。変わらぬ日常に加え、入院生活が何度か(いろいろと事件はあったけどこの街では当たり前の一部かもしれない)。そんな記憶しかない。
十一「おもしろいことですか…私は先輩と一緒ならなんでも楽しいですけどね!」
一凛「あっそう」
つれない態度の一凛に十一はなにか面白いことでもないかと考えを巡らした。すると今朝、テレビで見たニュースを思い出した。
十一「そういえば!EGOのミストラルシティの新長官が今日会見を行うそうですよ!」
一凛「へぇ~」
興味は沸いていない様子。なぜだろう…と考えてすぐにその答えが分かった。そういえば内容を伝えていなかった。
十一「会見の内容なんですが学生に向けたイベントを開催するとのことなんですよ」
一凛「学生のイベント?」
なんだろうか。まったく中身は想像できないが…だけど少し興味は沸く。
十一「ふふん♪気になりますよね先輩」
そんな一凛の表情の変化を十一は見逃さない。
一凛「まあね」
そしてそれを自分の思惑へと誘導するのだ。
十一「じゃあ先輩の部屋で一緒に会見を見ましょう!」
一凛「そうねぇ…(最近面白いこともないし…)」
そういうのもいいかもしれない。EGOの会見が気になるのも事実。少し考えたが一人で見るより二人で見たほうが楽しいかもしれない。
一凛「いいよ。じゃあ会見の時間に私の部屋に集合ね」
十一の思惑通り。しめたと思いながら彼女は勢いよく返事をする。
十一「はい!」

~EGOミストラルシティ支部・長官室~
リオル「例の会見の準備はできているのかしら?」
EGO隊員「はい!準備は万端です!」
リオル「そう。定刻になったら会議室にいきます。下がっていいわ」
EGO隊員「はっ!」
隊員は部屋を後にする。

コンコン!!

部屋をノックする音。
リオル「はい」

プシュウ!!

部屋の扉が開く。そこにいたのはリオルの見知った…というよりよく知っている男だった。
マードック「姉さん、いや長官」
リオルの弟。ミストラルシティの副長官だ。
リオル「何の用かしらマードック」
マードック「イベントの件…本当に大丈夫?彼らも仮にも能力者なんだよ」
リオル「だからこそいいんじゃない」
心配するマードックとは対照的に彼女は優々としている。
リオル「学生たちはその力を発散する場がなくて、鬱憤がたまっている。それを解放する場を用意してあげるのよ」
マードック「それだけ聞くといい話かもしれないけれど…学生だからこそ能力の加減を知らない。なにか起きたりしたら…」
心配が尽きないマードック。そんな彼の言葉を一蹴するようにリオルは告げる。
リオル「そうならないために私たちがいるのでしょう」
マードック「うっ…」
返す言葉もない。確かにリオルの言うとおりだ。その言葉に気持ちを引き締めるマードック。
マードック「そうだね。僕も副長官となった今、気を引き締めるよ」
リオル「そうよ。子供たちが平和を享受するために私たちEGO、大人がいるのだから。子供たちが全力で力をふるっても大丈夫だと安心して暮らせる世界を見せなければならないの」
マードック「そうだね」

~ミストラルシティ・裳丹高校~
一凛「今日の授業もおわったわね」
退屈な授業も終わった。十一との約束の時間までまだ時間もある。
一凛「どうしようかなぁ…」
どうしたものかと迷っている一凛の前に彼女が通りかかる。

「あらぁ一凛さん?首をかしげてどうしたのかしらぁ?」

聞き覚えのある声。
一凛「げっ…」
この声は…
零軌(れいき)「なにか考え事でもあったのかしらぁ?あっ、お子様趣味で短絡的な一凛さんにはそんなことないかしらぁ」
一凛「零軌…相変わらずいけ好かないわね」
嫌々な態度をだす一凛のことなど気にも留めず零軌は彼女へと話しかける。
零軌「時間があるならお茶でもどうかしら?」
一凛「えっ?」
驚いた。まさか零軌からそんな誘いを受けるとは予想だにしなかった。
一凛「何が狙い?」
零軌「勘ぐらなくていいわよぉ。ただの気まぐれなのだからぁ」
彼女の言葉をそのまま受け取ってもいいものかと思いつつも、時間を持て余しているのは事実。たまにはいいか。
一凛「そうね。いきましょう」
零軌「決まりね。じゃあ行きましょうか」


~ミストラルシティ・喫茶かざぐるま~
一凛「う~ん!!おいしい!」
黒蜜入りカフェオレアイスを食べる一凛。その表情は幸せに満ちている。
零軌「あらあら。やっぱりお子様ねぇ」
優雅にコーヒーを飲む零軌。
一凛「ふ~ん」
アイスにスプーンを入れる一凛。アイスを救ったスプーンを零軌の口元へと差し出す。
零軌「なにかしらぁ?」
一凛「あんたも食べてみたらわかるわよ」
零軌「へ~…じゃあお言葉に甘えようかしら」

ぱくっ

スプーンに乗せられたアイスを口にする零軌。
零軌「んっ…」
口の中に黒蜜の甘みが広がる。これは…
零軌「おいしい…」
自然と笑みがこぼれる。それほどの美味しさが口内に広がる。
一凛「でしょ!これを食べないなんて人生の半分は損してるって!」
零軌「そうねぇ。確かに一凛さんの言うとおりねぇ…お子様と言った発言は撤回するわぁ」
そう言いながら喫茶店内をキョロキョロする零軌。店員を探しているようだ。
一凛(はは~ん。さては零軌の奴、この味にはまったな)
だが店員の姿は見当たらない。いるのは店長だろうか。コーヒーを挽いている彼のみだ。
零軌「注文をお願いできるかしらぁ。黒蜜入りカフェオレアイスを一つ。あっ、それとコーヒーをもう一杯。」
「かしこまりました」
一凛「コーヒー?まだあるじゃない?」
零軌のカップにはコーヒーが残っている。なぜコーヒーを注文したのだろう。
零軌「あなたによ、一凛さん」
一凛「えっ?私はコーヒー飲まないわよ」
零軌「アイスの美味しさを教えてくれたお礼。あなたにもコーヒーの美味しさを知ってもらおうと思ってねぇ」
一凛「そういうことね。せっかくだから飲んでみようかしら」
数分後、彼女たちのテーブルに店長であろう男がやってくる。
「お待たせしました。黒蜜入りカフェオレアイスです」
零軌の前に置かれるアイス。
「コーヒーの方は少々お待ちください」
そういう男は厨房の方に戻るとコーヒーをカップに注ぎ始める。店で挽き、注がれるコーヒー。店主のこだわりなのだろう。満足そうな顔でコーヒーを注ぐ男。その直後…

バン!

勢いよく店の扉が開かれる。
一凛「なに!?」
扉の前には女性が立っていた。どこかで見たような…誰だっただろうか。
女性「にろく!仕事よ!」
そういうと女性は店主であろう男の元へと詰め寄っていく。なにやら言い合ってるようだが…。
零軌「なにかあったのかしらぁ?」
一凛「さぁ?」
店主らしき男はコーヒーを飲みながら女性の話を聞いている。だが女性が何かの紙を男に見せつけると、男は口からコーヒーを吹き出す。
女性「じゃあ先に行くわよ」
そう言い残し女性は喫茶店を後にした。
一凛「何だったの…」
零軌「さぁ…でも今の女の人、確か今寄咲グループの社長よねぇ」
一凛「えっ!?」
見覚えがあると思ったらそうか、雑誌やテレビで見たことがある。今寄咲グループの若社長。たしか名前は今寄咲ツバメ。たしかに彼女だった。だがしかしなんでそんな大企業の社長が喫茶店に?それも店長らしき男とは知り合いのようだ。
零軌「まさか愛人とかかしらぁ?」
一凛「えぇ!?喫茶店のマスターが!?」
大企業の社長が喫茶店の店長となんて、本当ならば大スキャンダルだ。妄想に話を膨らます二人の前に店長らしき男が近寄ってくる。
「申し訳ありません。諸事情により当店は明日からしばらく休業する予定です。ですが2号店、3号店もあるのでぜひそちらをご利用ください」
そういって男から差し出されたチラシには2号店、3号店の場所が記されていた。
「お待たせしていたコーヒーです」
それと一緒にコーヒーが一凛の前へと差し出される。人生初のコーヒーを口に運ぶ。
一凛「苦っ!」
零軌「あらあらぁ。やっぱりお子様の一凛さんにはコーヒーのおいしさはわからないようねぇ」
クスクスと笑う零軌。
一凛「ん~…」
何度か飲んでみるが苦い以外の感想は沸かない。
一凛「これがおいしいの?」
零軌「そうよぉ。大人になればわかるわよぉ」
一凛「大人って…あんたも私と同い年でしょ」
零軌「そうだったわねぇ。じゃあ一凛さんが子供なのかもしれないわねぇ」
軽口を交わしながら喫茶店でのひと時を楽しむ二人。そして時間は流れ…

~裳丹高校・学生寮(一凛の部屋)~

コンコン!

部屋をノックする音。
一凛「はい」
扉を開けるとそこにいたのは。
十一「お邪魔します先輩」
一凛「はいはい。入って」
部屋に十一を招き入れる一凛。会見の時間はそろそろだ。部屋のテレビの前に座る二人。
『それではEGOミストラルシティ支部の会見映像を放映します』
テレビに映るのはEGOミストラルシティ支部の新長官リオル・ロンの姿。
リオル『お集りの皆様。それではこれより会見を始めさせていただきます』
多くの記者に囲まれ、リオルは会見を始める。
リオル『EGOミストラルシティ支部では学生支援の一環としてミストラルシティの学生による大規模な交流会を開催しようと思っています』
一凛「交流会?なんだろうね」
リオル『その交流会の内容。それは…』

バサッ!

リオルの背後に巨大な垂れ幕が下りてくる。そこに書かれていたのは…

『大運動祭(だいううんどうさい)』

十一「大運動祭?」
リオル『学生が力を全力で出し合い、切磋琢磨する。EGO主催でこの大会を開催します。能力の使用も可。持ちうる力を出し切ってその頂点を目指す。大運動祭の開催を宣言します』
一凛「運動会みたいな?でも能力OKって」
リオル『大運動祭は学校対抗。今回はミストラルシティの高校を対象として開催いたします。行く行くは中学、大学も含めて開催していく予定です』
十一「高校ということは…」
当然十一と一凛の裳丹高校も対象だ。
一凛「ミストラルシティ中の高校による対抗戦…こんなの…」
十一「先輩?」
一凛「おもしろいに決まっているじゃない!」
退屈な日常を吹き飛ばす事態。それに歓喜せずにはいられない。
一凛「よ~し!やってやろうじゃないの!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年07月29日 22:52