真実(めざめ)

~能力研究機関「アナライズ」~

一一「あいたかったぞ十一(シィイン)」
パルトナー「いきなり爆発物を使うなんて物騒な連中ね」
アナライズを襲撃してきた一一。彼の狙いはただ一つ。
一凛「十一の知り合い?」
十一「…いえ知りません」
まるで一一のことを知らぬかのような態度をとる十一。彼女なりの反発だろうか。
一一「千百(スィンバン)の名を持つ私がここに来た理由に心当たりはあるだろう」
十一「千百…とすれば禁術の使用…」
十一の体に刻まれた魔導術式『千百款染(スィンバイクァンラン)』の人前での使用。千百家の門外不出の術式。それを人前で使うことは禁忌とされている。
錬金術師フラメルとの戦いの際、一凛を守るために十一はその禁忌を破った。
禁忌を破った彼女の前に千百家のものが現れたことが意味することは…
十一「粛清ですか」
粛清。禁忌を破ればどうなるかは十一自身がわかっていたはずだ。だが自分自身よりも大事なものを守るためその禁忌を破ってしまった。
十一(いずれこうなることはわかっていました…だけど後悔はありません)
一凛「粛清!?そんな物騒な…」
一一「よくわかっているじゃあないか、兄である私が自ら出向いてきた意味を。おとなしく私のもとにこい十一」
十一「兄…?どういうつもりか知りませんが、私は家に戻るつもりはありません!」
強く言い切ったその言葉、眼差しは彼女の決意を感じさせる。彼女の決意、それは彼女の血、千百家との決別。
だが千百家にとって一子相伝の術式を持つ十一を彼らは逃がしはしないだろう。
一一「聞き分けのない子だ。どうしても戻らないというのなら…」
空気がピリつく。まさに一触即発と思われたその時。

パルトナー「ここは私に任せなさい!」

十一と一一の間にパルトナーが割って入る。
パルトナー「そこのあなた!」
ビシッ!と一一を指さすパルトナー。毅然とした態度で一一に立ち向かう彼女の策。それは…

パルトナー「事情は分かりませんがまずは話し合いましょう。そちらに机がありますので」

話し合いだった。
一凛「えっ!?」
あまりに荒唐無稽なパルトナーの奇策とも思える発言に驚きを隠せない一凛。
一凛「話し合いに応じる状況じゃ…」
そう言いかけた彼女の言葉を遮るように一一から返ってきたのは思わぬ返答であった。
一一「ふむ…そうだな。では席につかせてもらおうか」
一凛「えっ!?」
予想外の返答にまたも驚かせられた一凛。
一凛「なんで二人とも話し合いをする雰囲気になってんのよ?」
話の流れが急に変えられたかのようで状況が理解できない。明らかに戦いそうな雰囲気だったのに。
十一「腑に落ちないですね」
なにかを感じている十一。パルトナーさんたちの言動に違和感を覚えたのが自分だけじゃなかったのか。
そう思うと少し安心する。
一凛「やっぱそうだよね!なんで急に話し合いなんて…」
嬉々として十一に話しかけたが返ってきたのは予想外の返答だった。
十一「話し合い?いえ、それは普通ですよ先輩」
この状況で話し合いが普通。理解ができない。
一凛「どういうことなのよ~!?(みんなどうしちゃったの…それともおかしいのは私…?)」
一人混乱する一凛をよそに彼女らは席に着き話し合いの準備を進めるのであった。
何が正しいのかわからず混乱する一凛であったが、それは今の世界ではあたりまえのことなのだ。
今の彼女に知る由はないが敵意なく、攻撃を認識できない、その概念が失われたこの世界『安寧世界』では交渉による解決こそが正常なのだから。
その正常を正常と認識できていない者、それこそが異常である。
一凛(考えてもしょうがない!頭を切り替えて、とにかく話し合いね)
席に着いた一一、パルトナー、十一、一凛。パルトナーと一一の話し合いを聞いている十一と一凛だったがその話は一一は十一を連れていくの一点張り、パルトナーはそれはダメですの繰り返し。
一一「一向に平行線のまま進まないな」
パルトナー「そうですね」
話にならないなという様子でため息をついた一一は十一のほうに目をやる。
一一「十一、兄である私の言うことを聞かないとはいつからそんな反抗期になったのだ?」
十一「…」
十一は少し訝しむように何かを考えている。
一凛「どうしたの十一?」
十一「…さきほどから思っていたんですが、あなたはだれですか?」
彼女の口から発せられたのは衝撃の一言であった。
一一「はっ?何を言っている十一?」
あっけにとられる一一。兄と名乗る彼が嘘をついているようには見えない。
十一「いえ…何かの作戦かと思ったのですが、あまりにもあなたが堂々としているので言いづらく…」
そう言う十一も噓をついているようには見えない。
一凛「どういうことなの十一?」
十一「はい。率直に言いますと私に兄はいません」
パルトナー「えっ!?じゃあこの人はだれなの?」
驚きが隠せない一凛とパルトナー。
一一「思春期の妹の戯言を本気にしないでもらいたいね」
十一「まだその芝居を続けるつもりですか?」
一一をにらみつけるように告げたその言葉。だが一一はおくびにもださない様子。
一一「さっきからどうした十一?まさか記憶でも失っているのか?」
十一「それはこちらのセリフです」
一凛(十一が嘘をつくわけはない…でもこの男もそんな様子はない。どういうことなの…)
お互いにいがみ合いが続く。永遠に続くのではと思われたその状況で動いたのは彼女だった。
パルトナー「じゃあ彼が兄だというなら知っているはずのことを聞いてみたらいいんじゃないかな」
十一「知っているはずのこと…」
一一「ふん。無駄なことだ」
十一「そうですね…あっ!」
何かをひらめいた十一。
十一「あなたに質問します。私の父の名と今何をしているか答えられますか?」
一凛「そんな簡単な問題でいいの!?(そんなの十一の実家に関係ある人だったら簡単に答えられちゃうんじゃ…)」
彼女の不安をよそに一一はあざ笑うようにその質問に答える。
一一「自分の父のことなど答えられないはずもない。お前と私の父の名、それは千百十(スィンバイシー)。父はすでに故人だ」
十一「やっぱりそうですよね」
にやりと笑う十一。
十一「やはりあなたは偽物です!(と言っても私にそもそも兄はいませんが)」
一一「そんなはずはない!」
十一「いいえ、間違っています。父はまだ生きています」
一一「すでに死んでいるはずだ!おじいさまもそう言っていた!」
十一「おじいさま…ですか。ボロをだしましたね」
一一「なんだと?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに十一は一一へと舌戦を続ける。
十一「おじいさまはすでに亡くなっています。まぁそれを知っているのは直系である私だけですけど」
一一「そんなばかな!私はここに来る前確かにおじいさまと…」
十一「おじいさまっていうのはあの人の嘘なんです」
一一「嘘だと?」
十一「はい。高齢で私を生んだからか恥ずかしいのか周囲には自分が父であることを隠し、祖父であると話しているんです。それで父はなくなっていると」
十一の祖父であれば彼女と同じく千百款染を使えたのであろう。様々な魔導術式を組み込んだ千百款染であれば、定かではないが老化を防ぐような使い方ができたのかもしれない。だからこそ祖父の死後、父が祖父と入れ替わるようになってもだれも気付かなかったのかもしれない。
十一「直系、つまりこれは千百家の人間であれば知っているはず。まして兄であるなら知らないはずがない!」
決まった!といわんばかりにビシッと一一へと指をさす十一。
一一「そんな…ことは…」
自分の顔に手を当て、混乱するように椅子から転げる一一。
一一「おじいさまが私に嘘をついていた…いや父なのか…なぜ…ブツブツ…」
1人で自問自答するようにその場で延々と考え込んでいる。その様子は先ほどまでの自信満々の様子とは別人のように不気味だ。
十一「な、なんなんですか…この人」
一凛「大丈夫なの?」
パルトナー「す、少し心配ね。大丈夫かしら」
あまりの挙動の変化に心配する一同。パルトナーが彼へと駆け寄ろうとしたその時…

「あのジジイ!!だましやがったな!!」

室内にこだまする女性の声。その声の主は…
パルトナー「フォウバン!?」
フォウバンであった。普段冷静な印象の強い彼女からは想像もできない怒りの声。歯をかみしめ怒りの感情をあらわにしている。
フォウバン「こんなくだらないことで自我の形成が狂うとは…」
一一の前へと彼女が歩み寄る。
一一「フォウバン…私はなにものなのだ…千百家の血を継ぐ千百一一ではないのか?」
すがるようにフォウバンを見上げる一一。その目はまるで親に助けをもとめる子供のようだ。
フォウバン「えぇそうですね。あなたは間違いなく…」
一一の表情に安堵の表情が浮かび上がる。だがそれは…

フォウバン「千百家の人間ではありませんよ」

彼女の言葉により一瞬にて絶望の表情へと変化する。
フォウバン「あなたを造るのにいくらコストがかかったと思っているんですか?こんなことで壊れるなんて…」
一一「造る?何を言っている?」
フォウバン「あなたは私によって造られた人造人間、俗にいうクローンというものです」
一一「私がクローン…?」
パルトナー「クローン人間なんてそんなことできるはずが…」
フォウバン「できるはずがない…そんなことはないはずですよ。あなたもわかっているでしょう?」
パルトナー(フォウバンはもしかして私がカンパニーの人間だということを知っているとでも…)
特殊な技術や事象に彼女も精通していることを見透かしている。知っているのだと言わんばかりにフォウバンはパルトナーへと圧をかけているように見える。
フォウバン「人形は人形らしく静かにしていなさい」
一一の首筋に注射を打つ。
一一「ぐっ…」
すると即座に一一は目を閉じ死んだように眠ってしまった。
フォウバン「そこの二人も怪しい動きはしないことだ」
一凛「ちっ!」
十一「よく見ていますね…」
隙を見てフォウバンを捉えようとしていた一凛と十一。だがその動きも察している彼女に隙は見当たらない。
一凛(本当にただの研究者なの?とてもそうは見えないわね)
パルトナー「フォウバン!あなたは何をする気なの?」
フォウバン「何をする気か…。パルトナー、あなたと会う前からすることに変わりはない。一貫して今も目的のために動いている」
パルトナー「同僚としてあなたのことを理解していたつもりだったけれどそれは私の独りよがりだったみたいね」
フォウバン「そう…あなたは私のことなど少しも理解できてはいない。私のもう1つの姿さえね」

バッ!!

眼鏡をはずし、髪をほどき白衣を脱ぎ棄てるフォウバン。その姿は…

十一「えっ!?」
一凛と十一はその姿を最近見たばかりであった。大運動祭に参加していた二人には記憶に新しい彼女は…
一凛「ALICE!?」

ALICE(アリス)「ALICE(アリス)で~す☆」

ALICEその人であった。
パルトナー「コスプレ…じゃあないわよね」
フォウバン(アリス)「そうだ、これこそが私のもう1つの姿」
ALICEの姿で冷静なフォウバンの声色で喋られ違和感を感じる一同。
フォウバン(アリス)「私の目的を果たすために、私自身は目立つのを避ける必要があった。だからこそ目立つデコイの姿が必要だったのだ」
一凛「それって…」
といいかけ、一凛は発言をやめた。それはこの場にいた誰もが思っていたことだろう。目立つのを避けるならそもそもALICEなんてやらなきゃよかったのに。
だが一凛を含めたその場の一同は話の腰を折る気もないので、その追及はしなかった。
パルトナー「…あなたの目的っていったいなんなの?」
フォウバン(アリス)「私の目的はあの方の願いをかなえること」
パルトナー「あの方?それに願いって…」
フォウバン(アリス)「パルトナー。同僚だったよしみで教えてあげるわ。あなたの組織が駆除しているものの大元、それを消滅させるのがあの方の願い。そのために私は動く」
パルトナー「組織…(やはりカンパニーのことを知っているのね。それに怪異の大元。それっていったい…)」
パルトナーが思考を巡らせている間にフォウバンは一一を担ぎ、
フォウバン「お別れね」
研究所を去っていった。
パルトナー「フォウバン…」

「あらぁ~一足遅かったみたいねぇ」

一凛にとって聞き覚えのある声。フォウバンと入れ違いざまに研究所に現れた彼女は
零軌「もう全部終わってしまったようねぇ」
一凛「零軌!」
響零 零軌(ひびお れいき)。彼女がこの場に現れたというのは一凛にとってはきな臭いことこの上ない。
零軌「なにも冷やかしとかにきたんじゃぁないのよぉ。一凛さんたちも無事でよかったわぁ」
一凛「冷やかしじゃなかったらこんなところに何をしにきたのよ?」
パルトナーのほうを見る零軌。
零軌「情報のすり合わせかしらぁ」(・ω≦) テヘペロ
後の祭りであることを理解しながら舌を出し、おちゃらける零軌。過ぎてしまったことはしょうがない。

~~~

零軌の話ではフォウバンは元構成員(メンバー)の人間と何やら工作を企んでいたらしい。今回の件にかかわることなのかもしれない。
一凛「もう起きちゃったしなぁ」
零軌「もうすこし私が早く到着していれば状況は変わったかもしれないわねぇ」
一凛「ぷっ!能力が使えないのに?能力が使えない零軌なんて体力もないのになにができるのよ」
零軌「し、失礼ね一凛さん!能力が使えなくても私にだってできることくらいありますぅ~」
一凛「じゃあ言ってみてよ~」
零軌「そ、それは~!」
わちゃわちゃと絡む一凛と零軌。
十一「まぁまぁ先輩。お戯れはそこまでに」
一凛「ふぅ~。そうね、こいつにそんなにかまっている場合じゃないよね」
零軌「それはこっちのセリフってやつなのよぉ」
相変わらずの二人をよそにパルトナーが話を始める。
パルトナー「で結局今の状況なんだけどね」
パルトナーから話された現状。それが以下である。

一一(千百家を名乗る謎の男)が襲撃
  ↓
一一はフォウバンが造ったクローンだった
  ↓
フォウバン、一一を連れて逃走


十一「これが現状ですね」
一凛「一一ってやつは十一の兄を名乗ってたのよね」
十一「はい。ですが私に兄はいません」
零軌「怪しいわよねぇ」
十一「なので私は実家のほうに探りを入れてみようと思います(一一と名乗っていたあの男はおじいさま(父)と面識があるようだった。なにかわかるかもしれませんね)」
一凛「私と零軌はフォウバンの行方を捜すわね」
零軌「私もなのぉ?」
一凛「乗り掛かった舟でしょ。協力しなさいよ」
零軌「しかたがないわねぇ」
パルトナー「私もなにかわかったらすぐに也転さんたちに連絡するわ。とりあえず今はこれぐらいにしましょうか。私もこれから能力喪失の件でEGOミストラルシティ支部に行かないといけないし」
一凛「わかりました。じゃあこれでいったん解散ってことで」
零軌「解散って言っても私たちは寮に帰るのだから、行くところは同じだけどねぇ」
十一(千百家を名乗る男とあのフォウバンという女。いろいろきな臭いですね)

こうして一時解散した彼女たち。
EGOミストラルシティ支部に向かったパルトナーはそこで天十也たちと出会う。そこから繰り広げられる話はまた別の話だが、それを発端にミストラルシティに古代の魔導士とトキシロウがスピノザの刺客として現れる。
刺客のはなった毒蛇龍との激闘ののち、彼はその場に降り立った。

~ミストラルシティ「巨穴補修地帯」・「巨穴」の最深部~

白の魔導書が封印されていた神殿。そこに訪れた彼は壁面を覆いつくす無数の輝鉱石の輝きをその身に浴びた。

キィィィィィン!

煌きをます輝鉱石。その光を見た彼は自身が何者であるかを思い出す。

「スピノザ!おのれスピノザァァァァ!!」

巨穴の最深部、彼の叫びがこだまする。

うおぉぉぉぉぉぁぁぁぁ!!

その口から放たれた咆哮は穴の外までも響くほどにこだました。そしてそれに呼応するかのように、いや待ち望んでいたかのように彼女は彼の前に現れた。

フォウバン「お久しぶりですトキシロウ様」

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最終更新:2024年05月17日 00:17