〜場所不明(特殊事例につき秘匿されている)〜
目覚めるといつも暗闇だった。いくら目を凝らしても何も見えない。
立ち上がると天井はすぐ頭の上に迫っていて四方の壁も手を大きく伸ばせば届くくらいに近い。
いつからここにいるのか。もう忘れてしまった。
七日に一度、足元にある小さな扉が開いて食べ物が放り込まれる。大抵は形の悪い野菜で、時々は焼いた麦の塊だ。空腹が満たされることはなかった。
食べ物を運んでくる誰かとは会ったこともない。一度だけ、扉の先に声を放ったことがあった。ヒィと鳴いた後バタバタと走って遠くに行ったようだった。なんだか少し空腹が満たされた。
外には誰がいるんだろう。外には何があるんだろう。
この中はなんなんだろう。ここにずっといる自分は誰なんだろう。
彼にあるのは名前だけ。両親が授けてくれた大事な言葉だけだった。
〜
アルムの家〜
東の暗闇は日の出に照らされてもうすぐ姿を消すだろう。
窓から差し込まれる光に包まれてアルムは目を覚ました。
アルム「実にいい気分だ!」
飛び上がって寝床をでる。まるで初めて朝を迎えたように、その顔は朝日のように高揚している。
ベッドの横には一人分の机が据え付けられている。卓上にはすでに一人分の食事が用意されていた。炊き立ての白米、焼き魚、小さなキノコの味噌汁、野菜のサラダ、後から知ったがZENithから毎食支給されている食事で「完全栄養食」というらしい。いつの間にか毎食卓上に運ばれているのは少し奇妙ではあるが、彼はそんなこと気にしていないようだ。
アルム「今日のメニューは焼いた魚だ!!」
喜びを溢れさせながら食事に手をつけようとしてハッとした。あぁ“あれ“を忘れるところだった。
食べ物を前にして手を合わせつぶやく。
アルム「いただきます」
ここに至るまでに摘まれた命に。食事を用意してくれた誰かに。
礼儀正しい姿は彼の育ちの良さゆえではない。彼の手の甲に光る“バイオチップ”のなせる技だ。
クリュセルス能力開発機構が開発したシステムを利用しているこのチップは、懲役年数を表示するだけでのものではない。
チップを埋め込まれた人間には、その肉体と精神に善なる思想が書き込まれる。するとそれまでとはまるで違った人間のように振る舞うようになるのだ。
この街の咎人がどうしてこうも道徳的な行動をとる理由はこれだ。それが人道的かどうかは難しいところだが、咎人を収容するには割と合理的との政治的判断があったらしい。彼らは他の収監施設に比べれば比較にならないほど自由な生活を送っているので相応な対価なのかもしれない。
どのような思想かといえば、小学校で習う道徳の教科書や、高名な著者が執筆した書物など数十種類をベースにしており、咎人ごとにランダムらしい。いくらEGOでも単一の思想で染め上げるのは危険と判断したのだろう。
アルム「ごちそうさまでした!」
食事をペロリと平らげると少しして身支度を終えた。軽くて動きやすい白いシャツと麻でできたズボンもZENithからの支給品だ。アルムが住むこの家も同様であり、生活をするには全く過不足ないレベルで衣食住が揃っている。
アルム「いってきます!」
今日も一日が始まる。この扉を開く度にアルムはもう十分に幸せを噛み締めていた。だってあの日々に比べたら、この先があるってだけで素敵なことのはずだから。
だが、それは昨日までの幸運だったことをアルムはまだ気づいていない。
アルムがこの家の扉を開くのは、今日が最後になってしまったから。
〜咎人の街・北部に向かう大通り〜
まだ少し朝が早いためか街灯には小さな光が揺れていた。
どこともなく聞こえてきたのは小鳥の声だ。シジュウカラかヒヨドリだろうか。
大通りには右にも左にもさまざまな店が並んでいる。焼きたてのパンの匂いが漂ってきてすでに満腹のはずのお腹が刺激された。
ここはこの街一番の大通り。いつもは多くの咎人が行き交う活気あふれた場所だが、近くの顔も見えないくらい薄暗い頃合いのため人はまばらだ。
アルム「あっ今日からは図書館に直行でいいんだった。早く家を出すぎちゃったかなぁ」
また本が読めると思うとワクワクしてつい行動が早まったのだ。約束の時間しばらくある。急ぐのをやめて、街なみをゆっくりと眺めながら歩くことにした。
ふと、そばにいる男が宙に手をかかげた。するとそばの街灯の灯りがパッと消えた。
驚いた顔のアルムに気づいたのか、男は近づいてきて話し始めた。
カバネ「街灯の調光をしているのさ。それが俺の仕事だ」
アルム「どうやって灯りを消したの?まるで魔導みたいに!」
カバネ「魔導だって?」
不思議そうに見つめ返されて少し緊張する。多くの人にとってまず最初に思い浮かぶのは「能力」の可能性だろうが、アルムはそうではなかった。誰だって最初の最初は知らないのだから仕方ない。先日までの安寧世界の影響とバイオチップによる能力制限により、能力を認知しない状況が当たり前になってしまったのだ。
カバネ「そうか、お前はここにきてまだ33日経ってないんだな?」
アルム「うん。今日で32日目だから、明日には33日経つことになるね」
ちょっと早いが今日も明日も同じだな、と彼はアルムに向けてグッと握り拳を作ってみせた。右手の甲が光り『ライトオン!』と電子音声が流れる。これもバイオチップの仕掛けの一つのようだ。
カバネ「“ON能力“は魔導じゃあなくて特技みたいなものだ。ここにいる連中なら誰でも一人に一つは持っているものさ。この街で33日を迎えることができたら発現するっつう仕組みだな」
ZENithにより埋め込まれたチップがもたらしたちょっとした恩恵だ。アルムも自分の右手を握って見たが何も音は鳴らなかった。やはりまだ早いようだ。
カバネ「おとなしく33日目を待ちな!」
隠れて握り拳を作ってみたつもりだったのでアルムは少し頬を赤らめた。
カバネ「俺のON能力は光を操る妙技『ライトオン』さ。人によって細かい違いがあってな、俺は街灯を操作することができるんだ。だから朝晩の調光は俺の出番ってわけさ!」
朝と夜の街を彩り誰か人々の生活を支えている。そんな仕事があるとはアルムは知らなかった。大抵は荷物を運んで下すようなものばかりでで、誰からも感謝されることがなかったからだ。
アルム「すごいすごい!あなたのおかげで夜でも早朝でも街中が明るいんですね!いつもありがとう!」
自然と感謝の言葉が浮かんだ。この街は何ていいところなんだろう。
カバネ「いいってことよ!」
彼も少し照れた様子でただまんざらではなさそうだ。この街の光を灯すことに強い信念を持っているのだろう。
カバネ「明日にはON能力の抽選があるはずだ。3つのうちどの能力になるか期待してな!お前もお前だけの技を磨けばいいことがあるだろうよ!いいか大事なのは三だ!二でも四でもないからな!」
そう残すとカバネは別の街頭の調光作業に戻っていった。
アルムは再び足を進め始め、周りを見渡してみて改めて気がついた。
パンの匂いと感じたのは、早朝のパン屋が焼いた小麦の香りではなくて、あの住民が『フレバーオン』でパンの香りを生み出していたからだった。
小鳥の囀りにしてはその姿が見えなかったのは、小鳥の言葉を再現した『サウンドオン』によるその咎人のものだった。
そう、ON能力は「光」「香」「音」の3種類が用意されており、咎人はいずれか一つが当てがわれるのだ。ベースとなるのは三元能。現在に存在する能力はこの3つの能力を掛け合わせることで説明がつくという。今時は中学校あたりで習うだろうか。ある程度の素養があれば理解しているくらいの常識だ。
実際には存在しないものが、あたかも本当に実在するように感じられる。ON能力と知らなければ自然に起きていることとしか思えないほどに。咎人の街には、ON能力を使ったちょっとした装飾と演出で溢れていたのだ。収監施設とは思わせない雰囲気を思わせる彼らなりの工夫なのだろう。
アルム「自分たちの力で好きな街を作っているんだ!あぁ早く僕もON能力を使ってみたい!」
そのためにももっと知りたいことがある。アルムは朝日が昇って自然の明るさを取り戻した大通りを全速力で走り出した。
〜咎人の街・外縁部〜
囚人収監施設の敷地境界がどうなっているかご存知だろうか。有刺鉄線が張り巡らされ、身の丈以上のコンクリート壁で囲まれて、常に看守が警戒しているものが常だろう。
だがここには何もない。平穏な街がそうであるように、この街を縁取るものは何もないのだ。
ポートロ(金髪の男性隊員)「あーもう何度聞いてもわからない!どうしてここから先は猛吹雪で、こっち側は晴天なんだよ!」
赤い制服を身につけたZENith隊員のうち一人が騒ぎ立つ。彼の足元から10cm先には止めどなく降る雪と嵐が荒れているのだが、彼ら自身の天頂は穏やかに晴れ渡っている。確かに奇妙な光景だ。
リート(黒髪の女性隊員)「ばか。ZENith入隊試験とティーダ大陸到達の時、それから今朝のミーティングの3回も説明があったのにどうしてわからないでいられるのかしら」
呆れ顔で見つめる彼女を慰めるように隣で短銃を抱える黒髪の青年が続ける。
ストラトス(黒髪の男性隊員)「まぁそういうなよ。俺たちにとっては分相応な知識であることには変わらないんだから。無人衛星MARIAの未元粒子照射システムの根本的構造は秘匿レベル4スター相当で、厳密には何が起きているのかは末端の兵隊には情報が降りてきてい以上仕方ないよ」
デヴァイ(波髪の女性隊員)「そうね。ポートロはバカだけど、私たちも同じようなものね」
ポートロ「俺は理解したいだけなんだ!どうして全地球的気候様相がこの円周内だけは適応されず、かつその端部はあたかも世界から切り取られたかのように鋭利状で安定しているのか!」
誰か教えてくれい!っと大きな叫びは、その先の雪と嵐にかき消され反響することはなかった。
本来のティーダ大陸が抱える気候は決して人類が生存可能なものではない。大陸北東部の100km幅は氷点下100度を下回る極寒冷地帯となっているのだ。
そんな場所に人類が生存可能な領域があり得るのは、全ては地球を周回する無人衛星MARIAがもたらした余りある幸福の賜物なのだ。E.G.Oはこの領域をゴルディロックス=ゾーンと名付け、その内側に咎人の街を設置したのだ。
リート「ただポートロの疑問にも一理ある」
ポートロ「!?リート・・・キスしていいか」
リート「しね。ゴルディロックス=ゾーン内以外は生存不可能であること、安寧世界崩壊後も咎人の能力は没収状態にあり危険性のないON能力しか有さないこと、バイオチップによる道徳的教養が上書きされ暴動の恐れがないこと、これは事実です」
ストラトス「つまりはZENithによる看守機能はもはや必要性を持たず、俺たちの行動原理が喪失しているってことか。俺たちがここに派遣された目的は特別収監施設の警備ではなくて・・・」
デヴァイ「まぁわかりきったことよ。私たちみたいな軍人たる軍人は平和な世界には有り余るのよ」
あえて言葉にはしないものの、彼らは紛れもない
オウリギン派であった。力による世界統制が至高の一つであると疑っていないのだ。
リート「その通り。だからこんな咎人が近寄ろうともしない外縁部をパトロールする必要性は微塵もないの!他のチームはタワーで待機しているっていうのにどうして我がチームは日々精進しているのでしょうか?隊長!」
四人の視線がもう一人の彼に注がれる。
隊長と呼ばれた彼は黒服に身を包んでおり、居直ることなくこう告げた。
にろく「この街は近いうちに崩壊する。よって我々は自身の生命を守る為、全力で使命を全うするだけだ」
〜咎人の街・北部居住地域〜
外縁部から少し南下するとそこには多くの咎人が暮らす街並みが広がっている。にろくにはこの光景がミストラルシティの日常と重なって見えていた。あそことここは何も変わらないのでは独り言ち、外縁部に足を運ぶことで自分が今、大きな監獄の内側にいることを思い返すのはもう何度目のことだろう。
所属するチーム「P」の四人にはタワー内勤指令を出してから、
にろくは街のパトロールを行うことにした。とはいえこの街では事件なんて起きないのだからただ物思いに耽るに至った。
にろくがこの街に来る少し前のことだ。今から数ヶ月前、マオが率いるビーハイブを討ったあの一件の後から、にろくはシングルナンバーズの警護を目的とした特別刑務を請け負うようになった。E.G.Oでも手こずるような輩を収監するにはそれなりの人材が必要とされたのだ。元秘密諜報部所属でエクストラナンバーである彼にとってこれはある意味で贖罪だったのかもしれない。
そんな流れでいつの間にか咎人の街にも短期間派遣されることになったのだ。シングルナンバーズも収監されることになっていたことが大きい。だが、安寧世界の影響でミストラルシティに戻ることなく今もここにいる。もはやこの街は世界中からの咎人を集めて捨てられるごみ捨て場の様相を見せている。
にろく「外側の世界が平和な分だけこの街が荒れているならバランスが取れるんだけど。こうも平和が続いていると余計に心配になる」
彼がこれまでに経験してきた強大な争いにおいて、安心したその瞬間にこそ最大の危険が近寄ってきた。
だが何も起こらない。杞憂に過ぎないのか、それともエクストラナンバーが故のさがかもしれない。
もしかしたら俺は常に危険を求めているのか、そんなことを考えてしまうそんな時、にろくはこの街の北部で見つけた喫茶店に立ち寄ることにしていた。少しでも心を落ち着けられる、そうも思えるからだ。
目当ての喫茶店があると手前の曲がり角で、にろくの体は衝撃に揺れた。何かがぶつかってきたのだ。
にろく「!?どうした少年、危ないじゃないか」
アルム「いや、あの、すいません!」
体の至る箇所が擦り傷まみれの彼はにろくがZENith隊員だと分かるや否や、こう告げた。
アルム「助けてください!向こうに怪物がいるんです!」
〜咎人の街・図書館の前〜
にろくはアルムを背中側に隠しながらそっと角を曲がり目を光らせる。
そこにいたのは異形だった。一目で人間ではないことは明白なほどに、その体は鋼鉄を思わせる装甲で覆われ、指先からは長い爪が伸び地面を削り取ろうと小刻みに揺れている。口元からは大量の涎が滴っていて、獲物を探すように周囲を見渡していた。
にろく「あれは一体・・・」
アルム「俺が図書館に着いて中を覗いたら誰もいなくて。司書さんを探して外に出てみたらあいつがいて・・・もしかしたら司書さんあいつに襲われたのかも!あぁどうしよう!」
にろく「落ち着け。恐れれば恐るほどあいつを助長することになる」
何かに気づいたにろくは確証を得るためにポケットから携帯端末を取り出し耳に当てる。
本来、咎人の街から外の世界に連絡を取る手段は存在しない。ティーダ大陸が他の大陸からあまりに遠く、荒れた天候で電波が届かないためだ。
だが、にろくが所有するアンビエント端末は別だ。カンパニーのメンバーが所有する最新鋭の(いや、むしろ超古代的か?)システムは彼ら同士の通信を何にも遮断されることはない。
にろく「・・・ツバメちゃん。緊急事態だ。怪異が出現した」
〜ミストラルシティ・今寄咲ビル最上階「会長室」〜
ツバメ「怪異・・・ありえないわ。だって全ての怪異は消失したはずよ」
かつて世界を震撼させた怪異の流布は彼らカンパニーの活躍により止めた。間違いない。
にろく「画像データを転送する。解析してくれ」
送られてきた情報をデータベースに照合する。PCが弾き出した答えは・・・
ツバメ「にろく。解析の結果、やはりそれは怪異じゃあないわ。ゴーシュダイヤモンドが絶命したのだから怪異はこの世界に存在できないのが最たる根拠よ」
カンパニーの創設者、ゴーシュダイヤモンド。彼の能力「ダイヤモンド=デスティニィ」はこの世界から怪異を消滅させることだけに特化した能力。目的が達成されるまで彼は決して死ぬことがない、つまり彼が死んだ今、怪異は存在しないことになるのだ。
ツバメ「とはいえ貴方の眼前に怪異らしきものがいる現実は受け入れなきゃいけない。現時点を持ってカンパニーの活動再開を決定します。にろく、可能な限り情報を集めつつ対象の怪異(仮)を討伐してください」
にろく「合点は行かないが」
一口、疑問と一緒に唾を飲み込んで覚悟を定める。
にろく「了解した。作戦名「アネモネ」始動する」
〜咎人の街・図書館の前〜
にろく「少年、この端末で撮影しながらここで隠れているんだ」
アンビエント端末を託し、にろくは異形に向かって走り出した。
アルム「はい!」
その勇姿を収めるべく、アルムは物陰からそっと身を乗り出した。
異形「グワァ!」
にろくを視認した異形はその両碗を持ち上げて、爪先に狂気を纏いながら雄叫びを上げた。
両脚がグッと引き締まるのが見てわかる。即座に突進しようとしているのだ。
にろく「まるでカマキリが狩りをする所作だ。カマキリの怪異(仮)といったところか」
にろくは異形の突進を躱し、背部に陣取った。異形は突然獲物が視野から消えたため戸惑っている。
にろく「くらえ!」
バンッバンッバンッ!
構えた銃口から放たれた銃弾が異形を貫く、いや不十分だ。異形の装甲は思いのほか分厚い。
異形が振り向き様に右の鎌を振り翳してきた。にろくは瞬時に避けたのだが、腹部の表面を摘みとられる。あの腕は攻撃時にリーチが伸びるようだ。
にろく「やりずらいな。だが、身体的特徴は人間サイズであること以外、カマキリのそれに限りなく近い。なら」
バンッバンッバンッ!
異形の右肩めがけて放たれた銃弾が見事に抉り、上腕から下がだらっと垂れ下がる。昆虫の外装は硬いものの関節部分は脆い。切断こそできなかったもう右腕は使い物にならないだろう。
異形「グワァぁ!」
狂気を帯びていたはずの異形の目は、今や恐れの色が濃くなっていた。戦闘の意思はもはや感じられない。
にろく「そのままおとなしくしてな。すぐに楽にしてやる」
銃を異形の頭部に向けたその時、建物の影で隠れていたアルムが飛び出してきた。
アルム「待ってください!だめ!殺しちゃダメなんだ!」
異形とにろくの間に飛び込んできたアルムは、異形を庇うように守るようにして凄む。
にろく「おいまだ危険だ!離れろ!」
アルム「ダメなんだ!この人は俺の恩人だから!気づいたんだよう!」
にろく「どう言うことだ・・・人だって?」
アルムは異形に覆い被さってなお守ろうと示しながら続ける。
アルム「この人は図書館の司書さんだ!カメラでずっと見てたからわかったんだよ!」
あっけに取られつつ妙な説得力があるアルムの言葉を聞いてにろくはついに銃を下ろした。
にろく「変異した人間、そんな可能性考えてもいなかった」
怪異(仮)ではなかった。まさかの人間。どんな理屈なのかは転送したデータをツバメに解析してもらうことにして、まずはこの場をどう収めようか。にろくが悩んでいると、それは静かに訪れた。
アルム「あ!」
異形の姿が少しずつ変わっていく。青白く覆われた身体は頭部、腹部、脚部と順に人間の姿に戻っていった。光が消えいると、そこには一人の女性が横たわっていた。
アルム「司書さん!
フォウさん!よかったよかった!元に戻って!」
フォウ「あらアルム。おかしいわ私どうしていたのか覚えていないの」
目を覚ましたフォウはこれまでの記憶がないようだ。右腕も何事もなく動かせるようで、身体的に大きな傷は負っていない。
アルム「元気ならそれでいいんだよ!本当によかった!」
にろく「まさかフォウを相手にしていたとは・・・」
異形が司書でありあのフォウであったことに驚くにろくであったが、もう一方の変化を見逃さなかった。
アルムの右手甲の数字だ。確か先ほどまでは「9999」だったはず。その数字の大きさに今更ながら驚くのもそうだが、そこじゃない。アルムの数字が「0131」に変わっていたのだ。
にろく「カウントが減った?いやそれなら「131」と表示されるはずだ。頭に「0」がつくのはつまりカウントオーバー。正しくは「10131」。数字が変わったのか?それにしても懲役10131年・・・だと・・・」
いつの間にアルムの懲役が伸びたと言うことか。何か悪行をなしたとでも言うのだろうか。
数字の変化はもう一箇所でも起きていた。フォウの右手甲だ。それまで「132」だった数字は今「0」となっていた。
にろく「フォウの数字は減少した?これって懲役年数が移動したのか?まさか怪異(仮)の影響?」
すぐには理解的ないことが重なった時、人は思考を一旦放棄するシステムになっている。そしてただ感じるのだ。人を救うことができたことを喜ぶにろくは、対照的な感情を噛み締めた。未知なる脅威に接触した闘争心が赤く赫く燃えている。やはり俺は戦いを求めているんだ。少しだけほんの少しだけ自分が怖い。同時に人生が満ち満ちていることに叫ばずにはいられない。
にろく「アルム、フォウ。手当するからZENithタワーまで着いて来るんだ」
もっと聞きたいこともあるからと、にろくは二人を連れ立って歩き出した。
TO BE COUTINUDED
最終更新:2024年09月14日 13:35