咎の五:降り積もる雪!凍った街の灯火!

〜レムリア大陸E.G.O本部・長官室~
雪がちらつく季節がやってきた。窓の外を伺いながらカレンは椅子に腰を下ろした。
この数ヶ月で世界の治安は一段と安定していた。それは喜ばしいことだろう。だが、カレンの顔には鬱屈とした色が見て取れる。

カレン「咎人の街との連絡が途絶えてもう時期半年だな」
独り言のように呟いてみてハッとする。ああこの部屋にはもう一人いたのだった。

ツバメ「悲観することはないわ。そもそもあなたは悪くないもの」
確かに咎人の街から、カンパニーの一員であるにろくからも通信は皆無だ。
カレンの言葉に少しだけ諦めたような音を孕んでいることに気づいたためか、慰めるように続ける。
ツバメ「不運な事故が重なった結果よ。まさか気象衛星MARIAに不具合が生じるなんて想像もできなかったんだから」

それは今から半年前のことだ。
地球の周回軌道上を飛び回る気象衛星MARIAは、地球上のあらゆる地点にエネルギー照射を行っていた。このエネルギーを受けた大地は、どんな不毛地域であっても瞬く間に植物が繁茂するシステムであり、多くの国々がその恩恵を受けていた。これにより自国食料自給率が100%近くなり、他国に依存することなく安定供給が可能となってから久しい。
さて、咎人の街も例に漏れず衛星MARIAのエネルギーを受けて、もとは氷の大地から人間が活動可能な領域を形成していた。だがある日、咎人の街は、衛星MARIAの照射範囲から除外された。即座にこの地域では気温が氷点下100度近くまで落ち込み、空は曇天が広がる太陽の届かない氷の墓場(FrozenGrave)に変貌したのだ。人命は絶望的と言わざるを得ない。

ツバメ「気象衛星MARIAを開発した世界農業機関WAOが残した設計図書を分析した報告書を見たわ」
手元のデバイスを操作すると画面には小難しい書類が表示されていた。これがMARIAの設計書なのだろう
カレン「さすがの情報収集能力だな。そこにある通り、【MARIAの照射範囲は禁足地を除く】これがMARIAの目的の一つ。いわばバランス調整ということだ」
ツバメ「禁足地。保存すべき希少生物が生息する地域や人が踏み入れてはいけない神聖な領域、タウガスの山林奥地や魔導都市均衡の砂漠地帯を守るために組み込まれた機能よね」
カレン「私が長官になる前の時代の話だが、WAOからE.G.Oに衛星MARIAが引き渡された時点ですでに禁足地は設定されていた。これはWAOプロテクトと呼ばれ、禁足地の地域は再設定できないようになっていたのだ」
ツバメ「だけど咎人の街がある日突然禁足地に設定されちゃった、と」
カレン「E.G.O技術開発部の調査でも原因はわからなかった。WAOプロテクトがそう判断した、としかいえない」

苦虫を齧るようにカレンは再び苦悶する。
カレン「私の判断ミスだ。いくら罪人とはいえ人類を別の大陸に隔離するような“分断”をすべきではなかったのだ」
ツバメは内心独りごつ。ああ、カレンはその性格ゆえに多くの責任を背負い込もうとしているのだ。彼女の采配は間違いなくこの世界を平和に導いている。現に咎人の街開設以降の犯罪発生率は今や「安寧世界」レベルまで保たれている。重大事件は年に数回起きるかどうかだ。だがカレンは罪人です平和維持の範疇においていたのだろう。咎人が街の中で自由に生活できるように最大限配慮したことからもわかる。だからこそ悔しいのだ。彼らの命を摘みとってしまったことが。

ツバメ「ええそうね。後悔先に立たずよ」
熟考したその言葉は、背中を強く叩くことになる。時には厳しさも必要なのだ。
カレン「・・・あなたを呼んでよかったわ。どうしても人に頼ることが苦手でね」
ツバメ「たまに頼るくらいいいじゃない。いくらでも相談に乗るわ」
カレン「・・・さて、じゃあ仕事の話ね」

卓上に幾つかの書類が並べられる。それはあらゆる産業企業の経済指標、いわばこの数年での儲かり具合を並べたものだ。

ツバメ「カミナ工業とジャーラ財閥。この2社はいつでもきな臭いわね」
いずれも軍事産業に強い特色を持っている。ゆえに需要が下がる平和な世界では指標は低下傾向を示すのが通りだろう。だがこの2社は現時点において世界一位二位を争うほどの利益を上げているのだ。
ツバメ「どちらも世界経済会議の常任理事だから社長はよく目にするわ。このご時世でもだいぶ儲かっているようね。軍事産業以外にも成長しているのはいいのだけど、咎人の街開設の前後が著しいわ。どこからか情報を得ていたのかも」
カレン「それは咎人の街建造の出資者だからよ」
ツバメ「初耳。E.G.Oの原資ではなかったの?」
カレン「未知の大陸に街を作るほどの財は持ち合わせていないわ。司法取引の一種で、今後の治安維持にかかる機密情報と資金の交換があったのよ」
ツバメ「E.G.Oは綺麗さっぱり健全な団体になったと思っていたのに」
カレン「あら心外だわ。線引きはした上で、世界全体の治安維持を考慮して・・・」
その結果、分断をうみ、多くの罪人を死に追いやってしまった、と言わんばかりの表情を浮かべている。
ツバメ「もう!落ち込むのはそのくらいにして!」
カレン「それで、逆にいうと我々が把握しているのはこの二社くらいなの。他の企業体で怪しげな動向をしているところがないか、あなたの観察眼を借りたいのよ」
ツバメ「表面的にはなさそうだけど・・・少し調べて見るわ」
カレン「感謝します」

ツバメが書類をもち部屋を後にする。カレンは自然に窓の外に目を向けていた。小雪はいつの間にかぼた雪に代わり窓を白く覆っていた。

世界は氷の世界に包まれつつあった。


〜ティーダ大陸・咎人の街から少し内陸にある廃墟群〜

外界には知られないところで、そこに人は生きていた!まさに奇跡である!
…いや、奇跡ではない。必然だ。
人間の強さが、彼らを生存に導いたのだ。

今もまさに、人間の力と知恵を集結してこの窮地を乗り越えようと人々が集まっていた。

アルム「こちらの要望は以上です」
エル・プリメロ「承った」

談義の中心となるのはこの二人。咎人側からは青年アルム。そしてZENith側からは所長のプリメロ。彼らを囲むようにそれぞれ三人ずつが囲む。

トーマス「周辺の探索は徐々に進んでいるな」
特別刑務官の一人、トーマスが次の話題をはこぶ。
にろく「ああ。彼らと一緒に見て回っている。ぼちぼちの収穫だ」
オクター「凍結されてはいるが保存食も安定して発見できているし、野獣の毒性除去も進んでいるからね。食料問題は概ね解決できていると思うよ」
ゼフ「ただ咎人の戦闘力の伸びがイマイチね。もう少し修練の時間を増やしたらどうかしら?」
彼女もまた特別刑務官である。武術に心得があるため、ZENith隊員だけでなく咎人の修行にも率先して付き合っているのだという。
イツヤ「もう少しだぁ?あのしごきをもっとやったらそれこそ死人が出るだろうが」
ゼフ「脆弱な体では生き残れないのよ。あなたももっと筋力をつけたほうがいいわね」
おっと、温和なだけとはいかないようだ。立場が違えば思考も違うのだろう。
プリメロ「そのくらいにしておけ」
一声で場が落ち着く。鬨の声とはこのことだ。
プリメロ「あの日、衛星MARIAが停止した日から我らは一蓮托生だ。お互いに協力を惜しむことはない。良いな」

一同の脳裏にあの光景が想起される。
瞬く間に氷の世界(FrozenGrave)に変わったあの瞬間、多くのものは死を覚悟した。
それを救ったのは何を隠そうエル・プリメロの存在だ。
彼は固有の能力を持ち合わせてない。だがそれ故に人間の力を心の底から信じている。人間主義とも言えるその思想は、彼の口を通じてZENith隊員、咎人らの耳を伝い、そして心臓を震わせた。
かろうじて紡がれた命たちは、この極限状態を生き延びるために小さな力を積み重ねて、そして今につながる軌跡を描いたのだ。

フォウ「私はやっぱり奇跡だと思います。全ての電子機器が停止しした今もこの氷の大地で生きながらえているんですもの」
アルム「そうだよね。人間ってすごい生き物なんだね」
咎人の持つBASIC-ONのかすかな灯火を組み合わせることで熱源を生み出す。そして戦えるものが拠点を飛び出し食材を探し求める。こうして彼らは生きながらえていたのだ。

にろく「ところでフォウ、あれから「妖怪異化」は起きているか?」
フォウ「安心して。おかげさまで起きていないわ」
オクター「万が一の時は俺たちが止めるからな!」
イツヤ「俺はいいよ、そのままで」
アルム「え!だめだよ!イツヤさんもすぐに元に戻すから」
イツヤ「いつまでさん付けするんだよ。同い年だろ?」
アルム「いやぁ人生経験の差を感じたらもう無理だよねぇ」
トーマス「一つ確認だが、咎人の中からのDEAM-ON発現も続いているよな」
オクター「正確には妖怪異化、だよね」
どんなON能力を持っているのかは、ZENithタワーにある読み取り装置でしか分からない。衛星MARIAが停止した今、装置そのものは使い物にならないため、相関関係があると考えられる妖怪異化=DEAM-ONの発現という理解が広がっている状況だ。
アルム「ええ。ただ、接触感染のような広がりを見せていることがわかってきました。もしかしたらバイオチップの物理的な接触により、コードの変異が起きているのかも。ただ詳細はまだわかりません」
にろく「そう不安がるな。一度妖怪異化が解呪されれば元通りに生活できることもわかってきているんだ」

にろく「最後に残る懸念は行方不明者だ。最近の傾向はどうなんだ?」
トーマス「DEAM-ON能力が発現した咎人の不明者だな、うむ、探索隊の動向全てを把握できていないが、この10日間で3名が新たに行方分からずとなったそうだ」
ゼフ「野生動物にやられたんでしょう。これだから弱者は〜」
イツヤ「ZENith側からも2名不明者が出てるって聞いたぜ。ZENithも大したことないな〜」
喧嘩になりそうな二人を抑え抱えながら話が続く。

エル・プリメロ「DEAM-ONの要因はこの地そのものにもあるのかもしれん」
フォウ「そうなんですか!?」
エル・プリメロ「古い言い伝えじゃ。彼の地に魔王が封印された昔話があってな。」
アルム「DEAM-ON・・・魔王の力・・・」
それ以上は議論の余地がなかった。

今日のところはここまでで解散となった。
引き続き周辺の探索を行い、食料調達を行いながらより住みやすい拠点を探すことが当面の目的だ。

アルム「あー緊張した。どうしてどうして僕が咎人みんなのリーダーになってるのさ!」
イツヤ「ビリーブオンを持ってるのはお前だけだからな」
ビリーブオン、それはアルムに付与されたON能力。彼のON能力発現日が衛星MARIAの停止したその日だったからか、三元能ではない別の力が付与されたのだ。
オクター「最初は不思議に思いましたけど、バイオチップの設計書を見たら納得したな!」
ZENithタワーの書庫に格納されていた極厚の本をフォウが丁寧に読み解いたところ、バイオチップには本来全てのON能力が組み込まれているのだという。咎人の街においては制限が掛けられていて三元能しか発現しない仕組みになっている。
イツヤ(つまりそれって、E.G.Oはいずれこのチップを世界全体で使う想定があるってことだよなぁ・・・俺たちは実験体ってことか。あいつらが考えそうなことだ)

フォウ「ON能力一覧表でしっかり確認しました!アルムに付与されたビリーブオンは信じる力。咎人の意思をZENithに伝えるのに適任なんです!」
アルム「うんいやぁそうか!うん!じゃあ話した内容をみんなにも伝えにいかなきゃね!」


???(ティーダ大陸のどこか)〜
暗闇が包む広間。中央の円卓に向かって一人の男が近づいてくる。
ミスターT「今戻りました」

ミスターH「収穫はどうだ?」
円卓に腰据える一人が問いかける。
ミスターT「魔王の力が三人、それから同士が二人」
ミスターM「これで33人、では次のフェーズの準備を」
ミスターT「承知しました」
ミスターS「残りのものたちの管理も怠るでないぞ、死なすことなきように」
ミスターT「は。一つ気になることがありまして。」

その言葉に円卓の最奥部に座る男の目が変わる。
ミスターT「アルムという青年。彼は異質です」
ミスターA「アルム・・・紛れ物のやつか」
他三人も何事か思案するように首を捻っている。アルムが何か特別だと言うのだろうか。

ミスターA「純然たる悪意を前にして、時に紛れ物が世界をわかつことがある。ミスターTよ、そやつの監視を継続せよ」
ミスターT「は。」


暗闇の空間はしばし静寂に包まれる。
ここに集う彼らは何を目的にしているのか。行方不明者を集めて何をしようとしているのか。

そしてアルムが紛れ物とは一体なんなのか。


TO BE COUTINUDED

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最終更新:2025年01月15日 21:43