咎の七:氷の大地に集う光!慟哭のビリーブオン!

〜ティーダ大陸・内陸の平原の拠点〜
夜が明けた。探索を終えたウォーバンドたちが拠点に戻ってくる。それぞれ何らかの成果を入手することができたようだ。
特にアルムの顔はつきものが落ちた様子で、元々はつらつとした顔つきではあったのだが、朝日に笑顔が輝いていた。

アルム「・・・というわけで、俺たちのウォーバンドは食料を確保してきたよ!土の中に天然の冷凍庫があって、埋まった壺の中にははちみつとか乾燥パンが入っていた。持ち帰った以外にも、そうだなぁ数年分の食料にはなると思う」

ゼフ「朗報だな。食料問題は常に付きまとう。これで幾ぶん不安が解消されるだろう」
ZENith特別刑務官であり、格闘訓練の指揮をとるゼフにとっては食料問題の解決は最優先課題だ。食わず者が振るう拳には魂が篭らないことを知っているからだ。

アルム「大型生物に出会うことはなかったんだけど、痕跡はあった。間違いなく“何か“いるだろうし、捕獲できれば十分な食料源になると思うんだ」
他のウォーバンドも足跡などを発見したと口々に言う。だがその姿を見たと報告するものはいない。見つけにくいということだろうか。それとも。

にろく「・・・俺たち以外は大型魔導生物に襲われた可能性が高いな」
一瞬にして空気が張り詰める。というのも帰還したウォーバンドは全てではなく、会議の定刻になっても集まらないチームがいくつかあったのだ。探索を続けているとするのは希望的観測に過ぎないだろう。

トーマス「詳しく話してくれ」
情報統括を担う彼の知的好奇心が揺れ動く。内容次第ではここ極寒の地で生き残る選択肢が大きく変わりうる。

にろく「ここに住まう大型原生生物は魔導を扱う。巨大な体躯も相まったあいつの討伐は困難だ。人命損失の可能性があまりに高い」

ゼフ「じゃあ肉は?動物性タンパク質こそ筋肉に必要なんだが!」
それに関してはアルムたちのウォーバンドが見つけた、冷凍大豆壷が役に立つだろう。だが、不安は払拭できない。

アルム「やば・・・え、魔導?魔導を使える生物がいるの?」
にろく「あぁそうだ。遺跡を見つけた。そこにかつて魔導の民がいたようだ。彼らの生活様式が生物生態系に影響を与えたんだろう」
トーマス「そして魔導の民は今はもういないと」
にろく「遺跡の記録を見るにこの地を捨てる選択をしたんだろう。まぁ魔導の民に準じるやつならいるが」
はて・・・それは一体?

にろく「俺たち自身だ」
にろくは仮説を述べる。マナを吸収した輝鉱石が散らばったこの大地において、生物濃縮の末に、この地の食物を吸収した生物は魔導の素質を得てしまう。ただし現代の魔導のような高度で複雑なものではなくて、原始的な、いわば古代魔導の素養である、と。

トーマス「古代魔導ですか。聞いたことはありませんが」
口元を手で覆いながら青白い顔を浮かべてつぶやいた。脅威となるか、後ろ盾となるか思案しているのだろう。

ゼフ「いいじゃないか。生身の腕力、ON能力、武器。そこに古代魔導とやらがあれば原生生物の捕獲も進むだろう?」
トーマス「いえまぁ確かに。ただ咎人の力が増していくと、まぁその管理が行き届かない可能性がありますから・・・」
おっとこれは失言だ。今や咎人とZENithは一蓮托生のはず。不要な恐れは不和を生みかねない。
危うい空気を変えたのはアルムだった。

アルム「大丈夫。そんなこと起きないよ!俺たちはみんなでここで生きていくんだから!」
屈託のない顔で正直な言葉が響く。アルムのビリーブオン能力は、信じる力。決して裏切らない証だ。

トーマス「あ、ああ。いや本気で思っているわけじゃあないんだ。ふと不安になってしまっただけなんだ。許してくれ」
アルム「気にしないで!」
そして自身に魔導の知識が多少はあるからと、魔導の指導はにろくが担当することになった。
そしてもう一つ。最後の議題。可及的速やかに対処すべき事案だ。

エル・プリメロ「昨晩、妖怪異集団の襲来があった。Qと名乗っておったのぅ。ウォーバンドの貴殿らが探索に出たタイミングでな」
ゼフ「ああだけど安心しな。俺たちの大活躍でぜーんぶ追っ払ったからな」
実際には戦力差はかなり拮抗していたという。武装した戦闘のプロであるZENith隊員とやりあえるとは、妖怪異は相当の力を蓄えているのだろう。それは直接対峙したにろくや他のウォーバンドの面々を身をもって知っている。

エル・プリメロ「探索中のウォーバンドも襲撃を受けたと聞いた。そこで、だ」
プリメロは立ち上がり、1人ずつ顔を、瞳の奥を覗きながら言葉を紡ぐ。
エル・プリメロ「こちらの作戦が筒抜けになっている。スパイがいるな」

〜咎人の街拠点・中央広場〜
集会を終えたアルムの心は薄雲っていた。ここなら大丈夫もう安心だからと、感じ始めた矢先なのに。
そんな心を見透かしてか、フォウはアルムに頭をくしゃっと掴んで笑顔向ける。

フォウ「まーたそんな顔して。言ったでしょう、もう大丈夫って」
つられてアルムも口元と緩める。だけどスパイの話は漏らさなかった。エル・プリメロの指示だ。誰がスパイかわかるまで、この情報はリーダー以上の機密となった。アルムにとって人生で二つ目の秘密だ。

アルム「もう大丈夫!それでさ今日はどうしようか・・・」
探索を終えたばかりだから今日はゆっくり街を歩こう。頭をよぎった言葉は空を覆う轟音に掻き消されてしまった。

ゴォぉぉぉぉぉぉンンンン!!!!

流れ星のように赤く尾を引き、灰色の煙を吐き出しながら、それは拠点の外れにある雪原に落ちて行く。
アルムは最初、あれが魔導生物かと思った。見たことがなかったからだ。
大型の魔導生物も。そして大型の輸送船も。

どガァあっぁん!墜落した衝撃が街を吹き抜ける。

フォウ「行きましょう。もしかしたらエンジントラブルかも!」
墜落地点に向かって先に駆け出したフォウの後を、アルムは何事もないことを祈っていた。その瞬間、手の甲が青白く光り輝いた。

 ***

深く積もった雪がクッションとなって、運良く輸送船の損傷はほとんどなかった。
拠点から駆けつけた時には、すでに初期消火も済んでいて危険性は取り除かれた後だった。一安心。
輸送船の下部にある昇降口から次々に人が降りてくる。思った通り、これは“咎人”の輸送船だったとフォウは独りごつ。

フォウ「我している人はいませんか!」
倒れ込む人に寄り添って、簡単な処置を進める。慣れたものだ。

アルム「えっとえっと。何か手伝えることありますか?」
どうしたらいいものか、オロオロしているところに手が伸びる。簡易的な担架に怪我人を乗せて「きみたちの拠点まで運んでいこう」と声をかけてきた女性が2人。この人たちも咎人なのかな。アルムは少しだけ考えた。

アルム「ガッテンです!」
目の前の人を助けること!いますべきことはそれだから!
走り始めると後ろから声がした。頼もしくてそれでいて優しげな声だ。

怪我人「ああ助かるよ」
???「目の前で困ってる人がいると見過ごせないたちでね!」

 ***

ZENith隊員と咎人らの連携もあって、咎人第二輸送船の乗員ら全てを無事に拠点に迎えることができた。
怪我の程度も軽微であって、資材の少ないここでも対応ができたのは幸いだった。

アルム「ふぅよかったよーみんな無事で!」
フォウ「なんとかなったわね。肝が冷えたわ」
アルム「あの大きな空飛ぶ塊。最初は魔導生物かと思っちゃった」
フォウ「あなたも私もあれに乗ってここにきたのよ。その時は墜落せずに済んだけどね」
実はアルムはこの街に来るまでの間、ずっと目を瞑らされていたので何も見ていなかったけど、あえてそれは言わなかった。

するとそこに2人の女性が駆け寄ってくる。先ほどアルムと一緒に担架を抱えて走ってきた2人だ。
テーベ「さっきはありがとう。おかげで助かったわ」
ディディアン「あなた怪我の手当お上手ね。今度私にも教えてちょうだい」
彼女らも咎人。後から聞いた話だけど、テーベは弁護士という仕事をしているそうだ。咎人の街をまとめる法律をE.G.Oが作った際に、それに反対した罪で捕まったと聞いた。難しくてよくわからなかったけど、その土地その場に相応しい法律があるのだから、単純に足し算引き算しちゃいけないと言っていたのはわかった。

ディディアンは地縛民という一族で巫女をしているんだって。予言罪ってことで捕まったんだけど、ディディアンの一族では悪いことではないのにとも言っていた。

だからアルムは2人にこう伝えた。「ここなら大丈夫だよ」って。

しばらくして広場では食事を振る舞い始めた。ゼフが「手当の次は食事だ」と、エプロン身につけて鍋を振るう姿は勇ましかった。

「うまい!」と一際大きな声が響いて、ゼフが「おかわりはまだあるぞ!」というや否や、彼は皿を大盛りにしてもらう。
ああ、あの人の声だ。アルムは先刻、墜落船のそばで身にした心に響いた声の主を見とめた。

アルム「あ、あの」
食事中、いや、もうすでに大半を平らげたところで、アルムは彼に話しかけた。
アルム「お腹いっぱいになりましたか?」
満足そうにうなづく顔を見て、ああやっぱりと思い至る。
この人の瞳には嘘がない。どう足掻いても人を助けてしまう天性のお人よし。それでいて、数多くの死線を切り抜けてきた、そんな瞳だ。

アルムは、その人物――十也の姿に、まるで自分の未来を見ているかのような縁を感じていた。

十也「え?どうして怪我人を助けたのかって?そりゃあ・・・」
彼は、困っている人がいれば見過ごせない、という言葉通り、自らの身を顧みず行動する。それは、アルムが理想とする、まさに「望み叶えたい姿」そのものだった。十也の冷静な判断力と、いざという時の行動力は、アルムの心に強く響いた。
アルム「もっと話を聞かせてください!外の世界でどんな冒険をしてきたのか!知りたいんです!」

広場に集まった人々は、温かい食事と、久しぶりの安堵感に包まれていた。日が傾き始め、空が茜色に染まる頃には、あちこちで笑い声が聞こえ、疲労困憊だったはずの咎人たちも、少しずつ活気を取り戻していた。アルムと十也、フォウやテーベ、ディディアンも他愛ない話に花を咲かせる。
ディディアン「だから私は反対したんだよ。動画配信なんてしたらすぐ捕まっちゃうって言ったのに」
テーベ「我慢できないのよ。真実を追求しないことにはね」

「・・・それでね、そろそろ『天命ノ儀』が執り行われるらしくって」
このまま穏やかな夜が訪れるかと思われた。
その時だった。

ゴオオオォォォォォォン……!

遠くから、不気味な唸り声が響き渡った。それは、輸送船の轟音とは全く異なる、生々しく、禍々しい響きだった。

ゼフ 「なんだ!?」
洗い場で鍋を放り出し、警戒態勢に入る。ZENith隊員たちが一斉に武器を構え、広場の咎人たちにも緊張が走る。 闇夜に紛れて、異形の影が拠点へと迫ってくる。それは、以前襲撃してきた妖怪異たち・・・妖怪異集団Qだった。

エル・プリメロ「くそっ、このタイミングか!」
忌々しげに呟く。咎人第二便の到着、そして怪我人の収容。この隙を狙っての急襲に、ZENith側は明らかに分が悪い。 広場は一瞬にして戦場と化した。妖怪異たちは、傷ついた咎人たちや、まだ疲労が残る者たちを狙って襲いかかる。

ゼフ「怪我人を守れ!各自、持ち場へ!」
怒号が響く。彼は自ら最前線に立ち、拳と体術で妖怪異を薙ぎ払っていく。トーマスも情報統括の冷静さで指示を飛ばしているようだ。

 ***

妖怪異を前にして、エル・プリメロは、戦況を冷静に見つめていた。ZENith隊員たちの動き、咎人たちの連携、そして妖怪異集団Qの攻撃パターン。全てを瞬時に把握しようとする中で、彼の視線はある一点に釘付けになった。

トーマスだ。
彼は情報統括として、隊員たちに指示を飛ばしている。しかし、その指示には、どこか不自然な「間」がある。特定の隊員への指示が遅れたり、逆に不必要なほど詳細だったり。さらに、妖怪異の攻撃が集中している場所から、なぜかトーマスが指示を出す隊員が巧妙に外れているように見える。

エル・プリメロの脳裏に、会議でのトーマスの言葉が蘇る。「咎人の力が増していくと、まぁその管理が行き届かない可能性がありますから……」。あの時の失言は、本心からの不安だったのか。それとも、別の意図があったのか。

妖怪異の猛攻が続く中、エル・プリメロは確信した。

エル・プリメロ「トーマス!」
呼びかけと同時に、プリメロはトーマスの腕を強く掴み上げた。
エル・プリメロ「貴様が、スパイだったのか!」
トーマスの顔から血の気が引いた。彼は、一瞬だけ上目で覗った後、エル・プリメロの鋭い視線から逃れるように顔を背けた。

 ***

十也もまた、その能力を奮って健闘していた。
十也「ブラストリンカー!」
彼の動きは無駄がなく、的確に妖怪異の急所を突く。しかし、その数はあまりにも多く、次々と新たな妖怪異が闇の中から現れる。

十也 「ちっ、きりがないな!」
額に汗が滲む。この前線を越えられたら傷ついた咎人たちに被害が及ぶ。ここは死守しないといけない。彼らを庇いながら戦うためか、十也は思うように攻撃に転じられないでいた。

アルムは、その光景に愕然としていた。目の前で、仲間たちが傷つき、倒れていく。自分に何かできることはないのか。手の甲が、再び青白く光り輝く。

アルム「もうやめて!僕たちを傷つけないで!」
アルムは叫んだ。力一杯の思いを込めて声を上げた。アルムの「ビリーブオン能力」――信じる力が、妖怪異たちに届くことを願って。しかし、アルムの願いは虚しく途切れ、妖怪異たちは容赦なく襲いかかってくる。妖怪異らの瞳には、信じる心など微塵も宿っていなかったのだ。

届かない。どうやっても。自らの無力さを噛み締めて、アルムは一段と声を張り上げた!
アルム「やめろぉぉぉ!そこで大人しくしてろぉぉ!」

アルムの叫び声が、広場に響き渡った。その声は、これまでの懇願とは全く異なる、響き渡るような、有無を言わせぬ響きだった。
すると、信じられないことが起きた。
拠点になだれ込もうとしていた妖怪異たちは、はたと動きを止め、その場に立ち尽くしたのだ。戦意も、殺意も、ましてや一歩を踏み出す意欲すらも、彼らから根こそぎ奪い去られたかのように。まるで、時間が止まったかのように、妖怪異たちは微動だにしない。
これが、アルムの本当のON能力だった。

アルムの「ビリーブオン」能力は、信じる力(believe on)ではなかった。
それは・・・奪う力(bereave on)だったのだ。

静まり返った広場に、アルムの慟哭だけが反響して続く。
アルム「俺から奪うな!俺の世界を、大事な世界を奪うな!お前たちなんて、この世界から……」 (消えてしまえばいいんだ!) アルムの口から、その言葉がこぼれ落ちそうになった、その時。

十也「アルム!」

背後から、十也がアルムの肩を掴み、強く抱きしめた。その瞬間、アルムの手の甲から青白い光が急速に失われていく。

十也「それ以上は・・・いけない」

十也の声は、冷静でありながらも、確かな重みを持っていた。その言葉が、暴走しかけていたアルムをかろうじてこちら側へと引き戻す。もし、あの言葉を口にしていたら、アルムはもう人には戻れなかっただろう。取り返しのつかない罪を負い、その魂は闇に染まっていたかもしれない。十也が止めてくれたおかげで、アルムはかろうじて、人間の理性を保つことができたのだ。

 ***

気づけば、夜は明けていた。広場を照らす朝日は、昨夜の激しい戦いの痕跡を、無言で浮かび上がらせる。散乱した瓦礫。妖怪異たちは、太陽に照らされることなくいつの間にか消えていた。

アルムは、十也の腕の中からゆっくりと顔を上げた。まだ体の震えが止まらない。
アルム「十也さん・・・ありがとう」
彼の声は震えていた。
アルム「僕、妖怪異だからって、人間を殺すつもりはなかった。殺したくもなかった。だから、止めてくれて、本当に、よかった……」

十也は何も言わず、ただアルムの肩を軽く叩いた。その眼差しは、アルムの心を見透かすように深く、しかし優しかった。
アルム「でも・・・あの衝動は、何だったんだろう。まるで、僕の中に、別の何かが目覚めたみたいで・・・もしかしたら、怪異の血が、僕を人間じゃあない存在にしようとしているのかって怖くなったんだ」
アルムの言葉に、フォウがそっと寄り添い、その背を優しく撫でた。
フォウ「大丈夫よ、アルム。あなたは、あなたよ」
その温かい手に、アルムは少しだけ安堵した。

一方で、広場の隅では、エル・プリメロによるトーマスの尋問が始まっていた。トーマスは、ZENith隊員数名によって厳重に拘束されている。

エル・プリメロ「・・・そうか貴様が『ミスターT』か。妖怪異集団Qの協力者として、これまで咎人の街の情報を漏洩し、さらには妖怪異となる素質を持つ咎人を連れ出していた。それもお前の手筈で間違いないな?」
トーマスは顔を背けたまま、沈黙を保っていたが、やがて諦めたように口を開いた。

トーマス「その通りだ。妖怪異集団Qに情報を流し、彼らが咎人の街に潜入する手助けをした。そして、一部の咎人を彼らの元へ誘導したのも事実だ」
エル・プリメロの表情は、怒りよりも深い困惑に染まっていた。

エル・プリメロ「なぜだ?貴様はZENithの、私の部下ではなかったのか!」
トーマスは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、狂気にも似た、しかし確固たる信念の光が宿っていた。

トーマス「・・・それは、エル・プリメロ長官、あなたへの忠誠心ゆえです」
その言葉に周囲のZENith隊員たちがざわめいた。

トーマス「私はあなたの強さを信じています。どんな困難にも屈しない、絶対的な力を持つあなたを。だからこそ、試したかった。妖怪異に加担したところで、あなたの強さは揺るがないと。むしろ、より強固なものになるはずだと!」
身勝手で歪んだ信念。エル・プリメロはその言葉に絶句した。トーマスとはすでに数十年を共にしてきたいわば戦友だ。能力を持たないプリメロに付き従いそして戦果を上げてきた。トーマス無くしてはなしえなかった作戦も数多くある。それなのに、なぜ。

その答えはここ氷の大地がもたらした、ある意味では自然な反応だったのかもしれない。政治的な目的で命をやりとりする戦場ではなく、ただただ生きるために戦うこの場所で。トーマスは、変わらずに猛るエル・プリメロの勇姿を見ていたかったのかもしれない。

その時、尋問の場に十也が静かに歩み寄ってきた。彼は、アルムを抱きしめていた時の穏やかな表情とは打って変わり、冷徹な視線をトーマスに向けていた。
エル・プリメロ「お前は昨日の輸送船に乗っていた、十也といったか・・・ふむ、貴様、咎人ではないな。何者だ?」
エル・プリメロの問いに、十也は迷いなく答えた。

十也「私はE.G.Oからの使者だ。そしてトーマス、あんたにも問うぜ」
十也の視線がトーマスを射抜く。

十也「妖怪異集団Qの目的はなんだ?ボスは誰だ?」
トーマスは十也の問いに答えようとしない。口元を固く結び視線をそらす。エル・プリメロとは違って、十也には頑なな姿勢を貫くつもりらしい。

十也「・・・まあいい。アジトに連れて行け。ボスに直接聞くからな」
十也はZENith隊員にトーマスの身柄を引き渡すよう指示した。その声には一切の躊躇がなかった。

十也(すでに、妖怪異集団Qのボスが誰か、俺は知っている。E.G.O長官からの命も、この胸に刻まれている)

十也は心の中でつぶやいた。
十也(アグリ・・・あんたの返答次第では・・・俺はあんたを処刑しなければならない)

〜〜〜
今日も咎人の街に朝日が昇る。
だがその日を境にこの大地を照らす光ですら届かない闇が這い出てくるのであった。

十也がいう処刑とは一体。
アグリ、という人物が妖怪異集団Qのボスなのか。
そして意味ありげに噂だつ『天命ノ儀』とはなんなのか。

次回、氷の大地と対極をなすあの場所で、外側の物語が加速する!


TO BE COUNTINUED

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最終更新:2025年06月01日 21:22