悪意の塊!水の国に放たれた光!

起源のオリジンとの壮絶な戦いが終幕を迎えたあと、彼らはいつものあの場所に集まっていた。

~ミストラルシティ「かざぐるま」~
ツバメ「それじゃああなたたちが世界を救ったってことね」
にろくが一同にコーヒーをふるまう中、ツバメは彼らに向かって再度確認するように言葉を続けた。

ツバメ「未来からの来訪者…起源のオリジンと名乗る存在…すぐに理解できるほど簡単な話じゃあないけれど、ミストラルシティを襲った脅威が取り除かれた今となっては信じるほかないわね」

彼の姿を探すがこの場にはいない。十也はまだ意識が戻らず入院しているのだ。

ツバメ「あれだけのダメージを受けてもなお立ち向かった彼は偉大だわ。それに比べてあなたたち、まだまだ修行が足りないんじゃないのかしら」

静かな店内に辛辣な言葉が響く。

トニー「チ、チームの勝利というやつですよ。私たちそれぞれが役割を果たしたのです。ね、スライ?」

スライ「いや、ツバメちゃんの言うとおりだ。俺たちの力はまだまだ及ばない。だけど、この戦いの中で何か変われそうな気がしたんだ。いや、変わらなきゃいけない。そうしたら俺たちはさらなる高みに至れるんじゃないかと確信に近い感覚がある」

戦いの中で暗闇に囁かれた言葉は今も胸に刺さっている。
しかしスライはその先を開く扉が見え始めているのだ。
瞳が赤く輝く様子を見て、ツバメはある決心をする。

ツバメ「…つかみかけているようね。スライ、トニー、ちょっと道場までついてきなさい。話があるわ」

話しながら二人の男をひょいっとつかみあげたかと思うと、三人はバタバタと喫茶店を後にした。
残された面々は嵐のように過ぎ去ったツバメ達を見送り、これからの為すべきことに思考をめぐらすことにしたようだ。

ボルク「その前に…『吸喰』!」

テーブルに並べられたスイーツがボルクの胃袋に吸い込まれていく。
ボルクによれば甘味が強いほど熱く大きな炎が発生するらしい。

ナル「…俺たちにとって有益な情報をまとめておこうよ。オリジンは、能力の可能性を示してくれたんだ」

アポロン「何事も理解することでより深くより濃く物事が見えるものだ。今発現している能力もまた、違った姿、もしや新たな世界につながる可能性を秘めているのだろう」

にろく「可能性か…想像の力が根源とあれば、まずは自身の能力と向き合い、そして自らが求める未来を強く描くことを始めてみようか」

ディック「へっへ~俺はもう能力が進化してるもんね!こい、リョウガ!」

…何もあらわれない。
ディックはあの一戦のあと、一時的に能力を発現することができなくなっていたのだ。

ディック「い、いや~運がよかったな。どうやらMPが足りなかったようだぜ( ^ω^)」


ディック「それはそうと、能力の発現のタイミングってどんなんだった?ねぇキノは?」

キノ「僕かい?そうだね…」

彼女は少しづつ話し始める。
機微な表情の変化にアポロンは気づいてたのだった。

~10年前・水の国レモンド~
少女「さーて、次は何をして遊ぼうかしら?」

赤と白のドレスをまとった髪の長い少女が野原を駆け回っている。
おつきの執事と思われる老人が汗をかきながら追いかける。

執事「まってくだされ、キノお嬢様~」

キノ「あ!蝶々だわ!お待ちなさいー!」

空はどこまでも青く、白い雲が流れていく。
その下には山が、野が、そして川が流れている。

この国は自然あふれる豊かな国、レモンド王国。
平和なこの国では、今まで大きな事件もなく、とてつもなく平凡であったのだが…

キノ「…あれ?もっと大きな蝶々がお空を飛んでるわ!」

執事「!?あ…あれは!隣国の敵艦ボルボレッタ!お嬢様逃げますよ!」

そう、この国はこれまでにない危機に瀕していた。
隣国の暴挙が始まったのは近年、自然が生んだ大地の奥底に未曽有のエネルギー源があることが判明したことを発端とする。
それからというもの、隣国の進撃は衰えることがなかった。

キノ「あんなに美しいのに、どうして私たちの国にひどいことをするのかしら」

湖のたもとで空を飛び交う機械の蝶の軍隊を見上げるキノは、それでも世界が美しく見えていたのだ。

キノ「!?」

突如、空に青緑色をしたカーテンが出現した。オーロラだ。

キノ「なんて美しいの…」

しばらくするとオーロラの向こう側から巨大な光が見え始めた。
その光はオーロラよりもはるかに光り輝きながら、オーロラを通り抜けた後はオーロラを纏うように、次第に近づいてきているようだった。

キノ「あの光も十分に美しいのに…どうして身体が震えているのかしら…」

巨大な光の正体は隕石であった。しかし自然現象ではない。
隣国は天体すらも兵器とする科学技術と特殊な能力を有していたのだ。
最期の手段として放たれたそれは、水の国を最悪に導いてしまった。

ドガァァァッァァンンン!!!!

湖に着水した隕石は、とてつもない衝撃と光、そして悪意をまき散らした。
一瞬の間に王国は高温の熱波を受けて消滅してしまったのだ。
もちろん国民もすべて…

しかし、キノはそうはならなかった。
彼女は隕石が落下したその瞬間も目をそらさずにその様を見つめ続けいていたのだ。その刹那に美しさを求めて。
見つめ続けるがために、彼女の能力が発現したのだ。

『オート・プロテクト』
すべての悪意ある手段から、彼女を守るその力は、彼女を守り続ける。
彼女が世界を見つめ続けることを何者にも邪魔させまいとして。

しかしその代償は大きかった。
彼女は、世界で唯一の存在となってしまったのだ。
その時のキノはそう思った。

キノ「世界は…美しくなんかない…ううん、きっとそれでも美しいはずだ!」

消滅した王国は、キノがすがることも許さなかった。
何もない大地に、ついに涙が落ちることはなかったのだ。


~現在・ミストラルシティ「かざぐるま」~
ディック「…な、なんて悲しい話なんだぁぁぁ」

涙があふれ、鼻が垂れながら近づくディックを、キノのオート・プロテクトが退ける。

にろく「それからお前はどうしたんだ?」

キノ「いろいろな国を回って、世界を見て回ったんだ。最初は人間の悪意を感じることが多くて目を背けることがあったけど、世界の断片と触れ合っていくうちに、美しい様相を見つけることができたんだ」

ナル「へぇーどんな国をまわったんだい?」

キノ「それこそいろいろだよ。印象に残っているのは最期に訪れた国、そこでアポロンと出会ったんだ」

アポロン「そのころのキノは、我から見ても強い信念を持ち合わせていた。我が神託をともに全うする同志としてふさわしかったのだよ」

ボルク「それだけじゃない、キノは拳銃の取り扱いもぴかいちなんだぜ!」

ディック「そうだよね!誰に習えばそんなに上達するんだい?おれももう少し果倉部流の流儀を身に着けたいんだ!何かヒントを教えてよ!」

キノ「残念だけど、僕の場合は参考にならないよ。まだ隣国へのわだかまりがあったころに、復讐に似た感情に委ねて技術を磨いたんだから。僕も君もいい師匠に出会ったんだからなんとかなるさ」

ナル「なるほどね。強い感情が身体を突き動かしていたのか。ちなみに隣国への復讐はどうなったんだい?復讐は復讐しか生まないよね?」

キノ「・・・今となっては復讐するつもりはないよ。それに、隣国は僕の国に隕石を落とした後、内戦が勃発して終に自爆的に消滅したって話さ」

にろく「復讐のしようがないんだな。消滅に至るなんて、因果なものだな・・・」

キノ「ちなみに僕が身に着けているこの破片は、その時に落下した隕石の破片なんだ」

首から下げていた鉱石が光り輝く。

ボルク「あ、そうだったんだ!え、キノが自分で取りに行ったの?」

キノ「これは僕に拳銃の扱いを教えてくれた彼らからもらったものなんだよ。あ、そうそう…」

思い出したように彼女は誰かを探して周りを見渡した。

キノ「そうか、さっきツバメさんと一緒に出て行ってしまったんだったね。僕に戦い方を教えてくれた彼らは、スライとトニーにによく似た雰囲気の二人組だったんだ」

ボルク「もしかしたら黒髪と白髪の二人組?俺こないだこの町で見かけたよ」

キノ「…彼らがこの町に?」

ディック「俺も見たかも!そういえばキノのと同じような鉱石を持ってた!」


能力は必ずしも本人の求める形で現れるとは限らない。
それでも根源は、それぞれが持ちうる資質と思想によって導かれるのかもしれない。

そして、ミストラルシティに訪れる「隕石の破片」を持つ者たちがもたらすものは、幸運か…災厄か…


to be continued

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最終更新:2016年11月10日 00:58