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685 - (2007/06/16 (土) 08:09:22) のソース

<dl>
<dt><a target="_top" href="menu:685" name="685"><font color=
"#0000FF">685</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:13:52<a target="_top" href="id:685"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><a target="_top" href="about:blank#682"><font color=
"#800080">&gt;&gt;682</font></a> GJです。<br>
<a target="_top" href="about:blank#676"><font color=
"#800080">&gt;&gt;676</font></a>で妙なことを書いてしまってすみません。<br>
<br>
かなり長くなります。続きは一週間より先になるかもしれません。<br>
<a target="_top" href="about:blank#666"><font color=
"#800080">&gt;&gt;666</font></a>の設定を少しばかり拝借しましたが、今回はさかぐらです。<br>
<br>
====================================================================<br>
<br>
私はいつもと同じように、自分の部屋にいた。<br>
一人と一匹になってからは、並べられたぬいぐるみの数も減っている気がする。<br>
最近では、二人と一匹になるような事もしばしばある。<br>
今日もそうだ。<br>
床に座り込んでいる彼女も、いつも通り床にあぐらをかいて座っていたのだ。<br>
<br>
私はただ、神楽の話を聞いていた。<br>
 「なあ。 それでさ」<br>
ただ、首を縦に振って、時々鼻で軽い返事をするだけだった。<br>
 「この話、聞いたか?<br>
  ―― ともに、彼氏ができたんだとよ」<br>
ただただ、耳から入った音声を受け流すように、青空を泳ぐ雲たちを窓から眺めていた。<br>
 「おい、榊」<br>
 「良かった」<br>
<br>
高校を卒業してしまい、一番大切だった人たちと離れ離れになった。<br>
その代わり、三年間、六人で培ってきた結束がどこかに消えてしまう前に、<br>
ちよちゃんのお父さん、私はそう信じている、彼は、幸せの使い……マヤーを贈ってくれた。<br>
たった今、私のひざの上で丸まっている。<br>
 「……良かった」<br>
 「なんだ、さっきからボケっとしてんな。 聞いてんのか?」<br>
太陽が厚い雲を隔てて見え隠れする空と、天使の猫にそれぞれ視線を送りつつ、<br>
私は聴覚の対象をなんとか神楽の方に向けていた。<br>
 「気に、しないで」<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:686" name="686"><font color=
"#0000FF">686</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:15:45<a target="_top" href="id:686"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
お父さんが贈ってくれたのは、マヤーだけではない。<br>
唯一、時間にかき消されずに友情を交わしあえる人間が、私の隣にいる。<br>
対話能力がなく、存在感の薄い自分は、中学まで周囲に理解されることがなかった。<br>
もし誰かと友達になれたとしても、その人は私を憐れみや好奇心の目で見ているだろうと思っていた。<br>
 「榊、最近おかしいぞ」<br>
<br>
神楽 ―― この子は違ったし、今も違う。<br>
もちろん、ちよちゃんや他の四人も本当に大切な友達になってくれたのだけれど、<br>
彼女は、何も主張できなかった私の心に、最初から思い切って足を踏み入れてくれた。<br>
 「もしかして、お前も誰かとできてたりするんじゃないか?」<br>
自分自身のコミュニケーション不足を動物への依存で解消していた私にとって、<br>
高校で知り合った五人は、初めてまともに心を通わせることができた人間であった。<br>
その中でも、神楽は一番積極的に私との距離を縮めてきた。<br>
他愛もない会話と、彼女が仕掛けてくる単純な勝負を繰り返す中で、<br>
いつしか、互いの家を、互いの部屋を知るようになった。<br>
 「ホントさー。 スタイルぶっちぎりで、顔もキレイだし、カッコいいしな、モテるだろ?」<br>
 「知らない」<br>
<br>
彼女は私に対して、話に耳を傾けていないと苛立っているかもしれないけれど、<br>
本当はしっかり聞いている。<br>
頭の中で答えが整理できない、ただそれだけのこと。<br>
 「おーい、榊よぉ。 さっきからマヤーばっかり見てんじゃねえか、たまにはこっち向けよな」<br>
 「あの、……神楽。<br>
  君は、誰かから……告白、されたこと、あるか」<br>
彼女は、問いに対して長くのどをうならせ、目を泳がせていた。<br>
 「ああ。 まあ、あるっちゃあるな。<br>
  部活の後輩に多かったぜ。 文化祭の時とかにはナンパもあったし」<br>
飾り気のない答えは、良く言えば純粋、悪く言えば愚直なこの子らしいものだった。<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:687" name="687"><font color=
"#0000FF">687</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:17:31<a target="_top" href="id:687"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
 「榊はどうなんだ?」<br>
彼女の問いかけに応じて、数年間の記憶を呼び起こしてみる。<br>
 「……結構、手紙が。<br>
  机の中に入ってたり、体育館の裏で渡されたり。 女の子も、多かった」<br>
 「あはは、お前らしいぜ」<br>
二人で向き合ったまま、しばらくの間、静寂が周りを包み込む。<br>
昼も近づき、空腹になったマヤーの甘い鳴き声だけが部屋に響く。<br>
次に出てきた言葉は、どちらもほとんど同じ時刻に聞こえた。<br>
 「いいよ、って、言ったこと……ある?」<br>
 「それで、付き合ったことはあんのかよ」<br>
再び場が静かになって、<br>
 「それはねえな」<br>
 「ない」<br>
等しい意味を持つ返事が交わされた。<br>
また時が止まってしまわないかと心配になり、私は続きの会話を取り繕おうとした。<br>
 「それなら。 今、好きな人は」<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
不安は……見事に、的中してしまった。<br>
明るさと正直さを極めた性格の神楽も、この手の話題には弱いらしい。<br>
―― もう少し、どんな話題でもいいから、話していたかった。<br>
寂しさに襲われないように、彼女の声で心を満たしていたかったのに ――<br>
ほんの少し、そう後悔を覚えた。<br>
いたたまれない空気に私は耐えられず、<br>
マヤーの食事を作るという口実のもと、静かに立ち上がり台所へ向かった。<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:688" name="688"><font color=
"#0000FF">688</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:20:24<a target="_top" href="id:688"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
この作業は、未だに試行錯誤の連続だ。<br>
イリオモテヤマネコを個人的に飼ったことがある人はいないはずだ。<br>
いや、いてはいけない。<br>
本当は、私が軽々しく扱ってはならない存在だとは分かっているし、<br>
軽々しく扱おうとも思ったこともない。<br>
罪悪感は確実に、日に日に強くなっている。<br>
ここ数ヶ月、夢に現れるちよちゃんのお父さんが、「自然へ返せ」と私を責めるようになった。<br>
……そんなわけで、マヤーを誰の頼りもなく育てるのにはさすがに苦労が要る。<br>
食生活がはっきりとしていないので、大学で文献を集め回り、<br>
鳥のささ身や豚のひき肉を、家で育てた、農薬のまかれていない野草と混ぜることにした。<br>
今のところ、あの子の体調に問題はない。<br>
<br>
誰の頼りもなく、と言ったけれど、神楽は重要だった。<br>
持ち前の体力と乗りの良さで、私の家に訪れるたび、マヤーの良い遊び相手になっていた。<br>
ふと思うと、彼女とあの子は似ている気がする。<br>
鋭いけれどよく見るとつぶらな目や、獲物を狙うようなすばしっこい動きは共通しているし、<br>
どちらも野性的なものを感じる。<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:689" name="689"><font color=
"#0000FF">689</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:22:59<a target="_top" href="id:689"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
混ぜ合わせた生肉と草を皿に盛り、神楽のいる部屋に戻る。<br>
少しくらい時間が経てば、彼女は暇を持て余して適当なところに寝転がるだろうと思っていた。<br>
今日は違った。<br>
私が部屋を出る前から、ずっと座り込んだまま。<br>
うつむいて見えない彼女の顔を密かにのぞき込むと、<br>
そこにはいつもの明るい表情も、私が猫の話を夢中でする時に見せる無関心な表情もなかった。<br>
沈んだ目をしている。<br>
私に視線を合わせようとしない。<br>
口元が小さく、本当に小さく動いて、かすかに声が聞き取れた。<br>
手に持っていた皿はマヤーのそばに、耳は神楽の口に寄せた。<br>
「……だ」<br>
できる限り明瞭に、彼女の漏らす言葉を拾い取ろうとした。<br>
「……だめ、だめだ、だめ、なんだ」<br>
確かに、そうとしか聞こえなかった。<br>
ほんの数分間、何が神楽を変えたのだろうか。<br>
―― まさか、自分が悪いことを言ってしまったのではないか。<br>
思い当たるものがあった。<br>
私が最後に発した一言 ―― 「好きな人は」。<br>
<br>
もしかして、神楽にもその手の悩みがあるのか。<br>
そうだとしたら、私は助けてあげなければいけない。<br>
今まで、どれだけ彼女が支えになってくれたことだろう。<br>
他の誰にも、彼女自身にも気づかれていないかもしれないけれど、<br>
私の閉ざされた心を解いてくれたことに限りなく感謝している。<br>
「大丈夫か」<br>
声を掛けても、答えはなかった。<br>
「何か、あるのなら」<br>
「……」<br>
「相談に、乗ろう」<br>
「やめろよ」<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:690" name="690"><font color=
"#0000FF">690</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:25:51<a target="_top" href="id:690"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
不意に投げられる冷たい言葉。<br>
私が神楽を軽くあしらうことは ――意図的にやっているわけではない、<br>
自分に返答する能力が足りないから―― 時々あるけれども、<br>
立場が逆になると、急に、見たことのない態度に対して戸惑いを隠せなくなった。<br>
「どうして」<br>
「うるせえ。 お前に言うことじゃないんだよ」<br>
人間に近づかれて逃げようとする野良猫のように、神楽は目をそらしている。<br>
「私と、君は、友達だ、だから」<br>
慎重に単語を選ぶとすれば、<br>
今の私たちは、友達よりも、むしろ親友と言った方が正しいかもしれない。<br>
ただ、普通は女の人同士で使う表現ではない。<br>
しかも、互いの家を一週間に何度も行き来しているのだから、親友でも言い足りない気がする。<br>
そうだとしたら、他にどう言えばいいのだろう。<br>
<br>
「話は、聞く」<br>
「……お前だから、言えないんだ」<br>
あまりにも意外な返答。<br>
―― 私、だから?<br>
    私に、隠し事?<br>
    私だけに、何を? ――<br>
疎外感よりも先に、果てしない不安が渦巻いた。<br>
「お前じゃ、榊じゃ……一番、だめなんだ」<br>
繰り返される拒否の声は、次第に震え上がっていた。<br>
私を避け、窓に視線を送る。<br>
純粋な瞳の輝きは、重苦しい空気を消し去ろうとする日の光を反射して、ますます強くなった。<br>
「大丈夫。 私と神楽は、一番の、友達」<br>
言葉にした瞬間、彼女は突然立ち上がり、私を正面から見据えた。<br>
瞳に留まっていた輝きは、薄赤く色づいた肌を伝って、細い川筋を作っていた。<br>
――彼女が流しているものが涙だと気づくのに、時間はかからなかった。<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:691" name="691"><font color=
"#0000FF">691</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:28:03<a target="_top" href="id:691"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
「だから!<br>
 友達だから、お前が、友達だって思ってるから、言えないんだよ!」<br>
沸点に達した人間の感情に、意を決して向き合う方法。<br>
「そう、か。<br>
 ……それでも、私は、教えてほしい」<br>
「うるさい、何もしゃべんな!」<br>
「大丈夫」<br>
私は神楽に一歩詰め寄った。<br>
「全部、どんな内容でも……聞く、用意がある」<br>
言葉に合わせて肩に手を当ててあげると、彼女は少し落ち着きを取り戻した。<br>
<br>
「さ、榊が、そう言うなら、話してやるよ」<br>
声は一瞬途切れたが、すぐに次の内容を示した。<br>
「でも。 これで、私が、友達じゃなくなっても、知らないからな」<br>
好きな人はいるか、と、自分は尋ねたはず。<br>
これから耳にすることになるのは、きっとその答え。<br>
ゆっくりと、とらえ所のない寂しさが身をよぎりはじめる。<br>
それでも、私は彼女を支えてあげないといけない。<br>
「心配ない。 行けばいい」<br>
泣くほどに苦しみを感じているなら、心の重荷を代わりに背負わなければいけない。<br>
「想っている、人の、所に」<br>
一方で、会話の流れを先読みして私が紡ぎだした言葉は、<br>
神楽と共にいたい、という思いの裏返しでもあった。<br>
「分かんねえのか?」<br>
「もう少し、話を」<br>
震える顔面が、真っすぐに私を見つめる。<br>
「さかきが……榊が、そんな風に言うなら。 私は、ここにいなきゃ、だめなんだ」<br>
正しい意味を理解するには、次の発言を待つ必要があった。<br>
「おかしいか? まだ、分かってないのか?<br>
 言ってやる、言ってやるよ。 私が、好きなのは」<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:692" name="692"><font color=
"#0000FF">692</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:31:13<a target="_top" href="id:692"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
次の瞬間、周りの時が一切動くのをやめた。<br>
私の意識が、一点に――神楽そのものに、凝縮された。<br>
<br>
<br>
<br>
「私が、好きなのは。<br>
 ……榊、お前しか、いないんだよ」<br>
<br>
<br>
<br>
何もかもが、解かれた。<br>
彼女に対する意識の変化と、ふと感じた寂しさ、どちらの理由も分かった。<br>
友達や親友でない関係、それに当てはまる単語も見つかった。<br>
<br>
<br>
全身の力が抜け、私は床に座り込んだ。<br>
薄く涙を流していた神楽が、唐突に上から笑いを込めて話した。<br>
「ああ、おかしいだろうな。 意味不明だろ。<br>
 私って、本当に馬鹿だな。 冗談だと思えよ。<br>
 でもな、好きだってのは、しょうがないんだ」<br>
解放感を味わっていた私は、言葉の上ではまだ冷静さを保っていた。<br>
<br>
「どうして」<br>
「……女じゃ、いけないよな。<br>
 ついでに、別にお前を男だと思ってるってこともない。<br>
 頭の悪い私と、ずっと一緒になって、支えになってくれた、ってことだよ」<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:693" name="693"><font color=
"#0000FF">693</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:33:13<a target="_top" href="id:693"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
「それは、私も」<br>
「最初の運動会の時、すげー悔しかった。<br>
 あの時から、榊を意識して水泳以外にもいろいろとやった。<br>
 初めて会ったとき、私は勝負しかしなかったよな。<br>
 けどさ、ちゃんと話を聞いて、帰り道にも付き合ってくれるお前は、超良い奴だと思った」<br>
「別に、そんな」<br>
「それに、水泳の公式戦も、運動会も、受験の時も応援してくれたろ。<br>
 私が分からない所を教えてくれたり、ノートを貸してくれたり、<br>
 トレーニングが苦しくなった時も、愚痴を聞いてくれたりさ」<br>
<br>
想いを伝えたことで心を縛っていた鎖が切れたのか、<br>
神楽は普段よりもはるかに多くの言葉を私に降らせてきた。<br>
<br>
「一番初めに、榊んち来た時にはびっくりしたよ。<br>
 ぬいぐるみだらけで、猫ばっかりだったもんな。<br>
 けっこう意外だったけど、面白かった。<br>
 榊も、私に猫の話、たくさんするようになったし」<br>
彼女が一生懸命浮かべている笑顔は、けれども、表面上の物に過ぎないように見えた。<br>
「お前さ、本当、もったいないって。<br>
 すっごく良い奴なんだからさ、もうちょっと、他に友達作れよ?<br>
 そしたら。 好きな人、できるかも、しれないだろ。 カッコいいんだし、な?」<br>
<br>
そう。<br>
明らかに、神楽は感情を隠している。<br>
もしここで、私が想いを汲み取らなければ、<br>
彼女は再び涙を流し、そのまま泣き崩れてしまうだろう。<br>
<br>
けれども、心配はいらない。<br>
神楽を泣かすことには、絶対にならない。<br>
なぜなら、私も……。<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:694" name="694"><font color=
"#0000FF">694</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:35:15<a target="_top" href="id:694"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
「他には、いらない」<br>
「お前も結構頑固だなぁ。 外に出れば、こんな私以外にもいろんな人がいるだろ」<br>
「……君だけしか、好きになれない」<br>
「えっ」<br>
<br>
私は立ち上がる。<br>
話を止めた神楽を抱き寄せ、頭を下げて身長差を詰め、耳元でささやく。<br>
「その言葉を……待っていたと、今日、ようやく、気づいた」<br>
返ってきたのは、当然の反応。<br>
「うそ、だろ」<br>
「今まで、寂しかった」<br>
目を見開いた彼女を強く抱き締め、少し長く語った。<br>
「ちよちゃんたちと過ごしていても、猫を追っていても、マヤーを見つけたあの時でも、<br>
 何か、最後の何かが埋まらなかった、けれど」<br>
次に来るのは、最も伝えたいこと。<br>
「君といたおかげで、ようやく、心が満たされた」<br>
自然と、彼女を包む腕の力が強くなる。<br>
「本当に、良かった。 ……好きだよ」<br>
<br>
ふと神楽の顔に目を向けると、予想に反して、再び涙が流れていた。<br>
けれども、それは、笑顔と一緒に流れていたものだった。<br>
ほんの少し前のと違って、全く飾り気のない、笑顔。<br>
「あ、ありがとう、榊!」<br>
声の震えも、不安ではなく、喜びからなのだろう。<br>
「ありがとう、は……私が、言うこと」<br>
「今、めちゃくちゃ、超、あのさ、すっげー、嬉しい」<br>
どこまでも素直な言葉に、幸せを感じ取らずにはいられなかった。<br>
感情に裏表のないこの神楽が、一番好きだ。<br>
無表情を貫き通している自分とは正反対、だからこそ、心引かれるのかもしれない。<br>
きっと私も、今ばかりは笑顔を浮かべているだろう。<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:695" name="695"><font color=
"#0000FF">695</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:37:40<a target="_top" href="id:695"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
神楽の輝く瞳を直視して、さらに顔を近づける。<br>
彼女を抱く手は離れていない。<br>
もう一度、私からの告白を繰り返して……。<br>
「好きだよ」<br>
――初めての、口付けをした。<br>
触れていたのは、一秒を満たしているかいないか。<br>
それでも、互いの愛情と充足感は確かめ合えた。<br>
「私も。 すごく、好きだ、榊」<br>
「良かった」<br>
彼女の涙は途切れ、後には安らぎの表情だけが残っていた。<br>
<br>
「……それなら、今日、友達……卒業、だ」<br>
<br>
「そうだな!」<br>
次の段階はただ一つ。<br>
恋人、それ以外にはない。<br>
互いに目をとらえて、求めあうかのように ――再び、唇を合わせた。<br>
神楽自身の体温をいっぱいに受け取ると、<br>
無垢な彼女が持ちつづける愛しさやかわいさがますます輝いて見えた。<br>
<br>
「榊、あったかい」<br>
「……神楽、も」<br>
<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:696" name="696"><font color=
"#0000FF">696</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:40:00<a target="_top" href="id:696"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
<br>
<br>
<br>
<br>
幸いな形で一件落着して。<br>
私は空になったマヤーの食器を洗いに台所へ戻ろうとした。<br>
いつの間にか、<br>
すると、新しい流れを作るかのように、神楽が伝えた。<br>
「ともの所にも、報告しに行こうぜ」<br>
「別に……わざわざ」<br>
そう言えば、滝野さんが付きあいはじめたとか何か、些細な話が、<br>
ここまで大きなことになったのではないか。<br>
「っつーか、あっちはもうお祝いムードみたいだぞ。<br>
 大阪と二人で赤飯食べるらしい」<br>
滝野さんと春日さんは、同じ大学に入っている。<br>
お金のためだろうか、同じ部屋にも住んでいる。<br>
赤飯という物の時代錯誤に不思議さを感じつつも、私も嬉しさは隠せなかった。<br>
「本当に、良かった」<br>
「一緒に行ってさ、今日の話もしてやろうぜ!」<br>
「いや、それは。 さすがに」<br>
「大丈夫! あいつらなら、別に女同士でも変だって思わないだろ!」<br>
<br>
そう、これが、いつも通りの神楽。<br>
私の近くについていてくれる、神楽。<br>
私の心をほぐしてくれる、神楽。<br>
私が一番好きな、神楽。<br>
<br>
「君が、言いたいんなら……行こう、か」<br>
「よし、決まった!」<br>
<br>
至福の時。<br>
<br></dd>
<dt><a target="_top" href="menu:697" name="697"><font color=
"#0000FF">697</font></a>名前:<font color=
"#228B22"><strong>コドモ、カラの、ソツギョウ。 ―榊・神楽篇―</strong></font>[sage]
投稿日:2007/06/11(月) 02:46:30<a target="_top" href="id:697"><font color=
"#0000FF">ID:</font></a>m0tH+E8G</dt>
<dd><br>
――けれども、私と神楽、春日さんと滝野さん、海外に行ったちよちゃん。<br>
関わりのある人の名前を順列してみたところで、気づいてしまった。<br>
<br>
「どうせなら、よみも呼ぶか?」<br>
<br>
気づいてしまった。<br>
「待って。 携帯の、番号は」<br>
「あ……ともに聞けば、分かるかもな」<br>
<br>
水原、みずはら……こよみ、あの人とは、唯一連絡が取れていない。<br>
メールアドレスも交換していないし、家の近くにも大学に入って以来寄っていない。<br>
<br>
「あ、もしもし? 神楽だけど。<br>
 あのさー、よみの番号って知らない?<br>
 うん。 携帯の方。<br>
 ……え? かからないって……本当かよ!<br>
 ともなら何か知ってるだろーよ。<br>
 何……全然、分からない? いつから」<br>
<br>
<br>
<br>
晴れて友達を、さらには親友を卒業した私たちに。<br>
思いも寄らない事件が起こったのは、二週間ほど後の話になる。<br>
<br>
<br>
(「よみ・とも篇」につづく)</dd>
</dl>
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