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BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN 56-6 - (2008/05/04 (日) 22:21:50) の1つ前との変更点
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山崎と斗貴子が左右に散ると、
「ここで油断してガリマに全てを任せ、逆転されるのが三流悪役のパターンですよね!」
鈴木の声と共に、山崎が弾き飛ばされた。吹っ飛んだ山崎は建築中のビルのコンクリート
壁に激突、背中で大きなクレーターを穿つ。
その前に立つ鈴木の踵と膝裏と肘に小さな穴が開いていて、そこから煙が立っていた。
「ロケットパンチならぬ、ジェットパンチです。踵と膝裏からの超小型ジェット推進によって
わたしの全身をミサイルと化して飛ばし、肘のジェットでパンチを超音速まで加速する。
無論、普通の人間がそんなことをすれば、自分の体が壊れます。ですが我々は、ねえ?」
言われた山崎が、壁に埋まった背中をはがして、よろめきながらも何とか立った。
普通の人間なら即死か、間違いなく瀕死となる衝撃のはずなのに、と斗貴子は
思ったが山崎を心配する余裕などない。空中に幾条もの闇の軌跡を描くガリマの剣、
『空間断裂』の特性を持つリントジェノサイドをかわすのに必死なのだ。
なにしろ、受け止めて防御することができない。弾くのも危険だ。攻撃に転じようとしても、
ガリマが剣を防御に回すと、それに触れるわけにはいかないから寸止めになり、そこから
すぐに引かないと反撃を受けてしまう。バルキリースカートの刃は残り三本、これ以上
減らされたらもう戦えない。
「津村さん……」
鈴木と対峙する山崎の声。
「すぐにお手伝いしますから、しばしお待ち下さい」
「ほう、随分な自信ですな。言っておきますが、わたしの武器はジェットだけではありません。
文武両道がわたしのモットーですからね、例えばこのように!」
鈴木の踵がジェット噴射で加速し、音速を超えた右のハイキックが山崎を襲った。山崎が
しゃがみ込んでかわす、と、キックの勢いそのままでコマのように回転した鈴木の
左後ろ回し蹴りが山崎の足を払い、転倒させた。
倒れた山崎は起き上がりながら懐に手を入れ、数十枚連続の名刺スラッシュを放つ。だが
それも、肘のジェット噴射で加速した鈴木の両手が全て叩き落していく。
「ムダですよ山崎さん! あなたはこれまで、華々しく勝利し過ぎました! わたしはあなたの、
これまでの数多い戦闘データを詳細に分析させて頂いたのです! あなたのどんな技も、
武器も、戦術も、対応パターンは作成済みです! そして、」
雨あられと投げられる名刺スラッシュを叩き落しながら、鈴木はジェット加速で山崎に向かう。
「このジェットがある限り、対山崎さん必勝パターンは正確に完璧に実行される! 理論上、
あなたはわたしに絶対勝てません!」
間合いに入った鈴木のジェットパンチが山崎の顔面を襲う。山崎がそれをブロックする、と
同時に鈴木のジェット膝蹴りが山崎の胸に命中、派手な音を立てて打ち飛ばした。
強制的に後退させられる山崎に、鈴木が追撃をかける。
「終わりです山崎さん! あなたはここで死に、津村さんも死に、我々パレットは武装錬金
もホムンクルスも手中とし、遥かに越え、いずれ錬金戦団さえも潰し……いや買収して、
パレット傘下のグループ企業にしてご覧に入れましょう!」
「……鈴木さん。一つお尋ねしますが」
山崎がネクタイを解き、白熱・硬質化させた。ネクタイ=ブレードだ。
「アナタに、信頼できるビジネスパートナーはいますか?」
「は? この期に及んで何を! ご覧の通り、わたしは一人でも充分戦える! パートナー
など不要です! 他人を糧として己の利益を追求することこそ私の、いや、真のビジネス!
今、あなたと津村さんがわたしの糧となるように!」
山崎の剣術も、そこから派生する格闘技も全て対応済みの鈴木は何も恐れない。山崎が
ブレードを振るが、余裕でかわしながら踏み込んで……と思ったその時、山崎は蹴り上げた。
地面に転がっていたものを。
「っ!」
さっき切り落とされたバルキリースカートの刃だ、と気付いた時にはもう、それは鈴木の
眼前に迫っていた。咄嗟に叩き落した鈴木と山崎がすれ違う瞬間、ネクタイ=ブレード
が一閃! その一撃で鈴木の動きが止まった。
一拍遅れて、鈴木が両膝をつく。振り向きもせず山崎は言った。
「人を活かすことによって自分も活きることがビジネスの本道。そのことを忘れたアナタは、
もはやビジネスマンではない。ただのサラリーマン(月給人間)と成り下がった。それが
敗因です」
山崎が振り向かないのは、既に走り出していたから。ガリマに向かって。
山崎の参戦に気付いたガリマが振り向き、牽制するようにリントジェノサイドを振る。この世
の全てを切り裂く無敵の刃が、中空に闇の軌跡を描いた。
後退してかわした山崎をガリマが追う。その背後から斗貴子が切りかかった。
「隙ありっ!」
バルキリースカートの刃が左右からハサミのように振られ、ガリマの首を切断した。が、
切断面から触手が伸び合って絡みつき、引き寄せて、あっという間に元通りになってしまう。
既に何度かこれを繰り返している斗貴子が舌打ちして、ガリマ越しに山崎へ声を飛ばした。
「こういうことだ! そいつを倒すには、章印に攻撃をブチ込むしかないらしいが……」
「それを百も承知の本人は、章印だけをあの剣で徹底ガード。だから手も足も出ない、と
いうことですか。ならば、」
ガリマと、その手のリントジェノサイドを睨みつけて、
「取るべき手段は一つですね」
山崎はガリマに向かって駆け、勢いをつけてジャンプ! ガリマの頭上を越えて、
斗貴子側に着地した。
ガリマと山崎が同時に振り向き、互いに突進した。ガリマの剣、リントジェノサイドが山崎に
向かって振られる。どうやって防ぐのか、いや防ぎようなんかない、武装錬金がないのでは
有効な攻撃もできない、などと斗貴子が思っていると山崎は攻撃も防御もしようとせず、
何のタネも仕掛けも策もなくガリマの間合いに入った。当然、
「! や、山崎さんっ!」
山崎は真っ二つに切られた。腹の辺りで横一文字、下半身は切り倒されて上半身は、
「今です、早くっ! 津村さんっっ!」
残っていた。右手の指をガリマの両目に突っ込んで、左手はガリマの右手の肘の内側を
掴み、押さえている。
こうなると、さすがのリントジェノサイドも山崎に触れることができない。潰された目は
即座に修復していくのだが、そこに山崎の指がある以上、目隠しされているという状況は
変わらない。つまりガリマは何も見えず、そしてリントジェノサイドによる攻撃も防御も
封じられてしまったのだ。上半身だけの山崎によって。
もがくガリマは左手で山崎を突き放そうとするが、そこへ斗貴子が駆け込んでくる、
その足音だけはガリマに聞こえる。
「グ、グッ!」
咄嗟にガリマは、山崎に押さえられている右腕を何とかズラして、刃で章印をガードした。
が、その腕を肩口からバルキリースカートが切り落とす。切られたそれを、山崎が放り投げる。
遠くへ飛んだ腕を、肩口から生えた触手が追いかける。だが触手が届いた時にはもう、
バルキリースカートの三本の刃が、山崎の下から潜り込むようにして、腹部から胸部の章印
まで深々と突き刺さっていた。そして、
「臓物をブチ撒けろおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!」
斗貴子の裂帛の気合いが轟き、章印は胸中の血肉ごと豪快に切り開かれ、切り裂かれた。
ガリマの肉体が、ガリマの断末魔と共に、消滅していく。
支えを失った山崎の上半身が地に落ちた。斗貴子が駆け寄るが、胴体真っ二つと
あっては流石に、核鉄を二つ使っても助かる見込みは皆無だ。それでも斗貴子は叫んだ。
「死ぬな、山崎さん! あんた自身が戦士として、死ぬ覚悟で戦うのは勝手だ!
だが遺された娘はどうなる! 父親を喪った娘の……」
山崎を抱き起こした斗貴子の言葉が止まった。
山崎の体、真っ二つになった胴体の切断面から、一滴の血も出ていないことに今更ながら
気付いたのだ。その代わりに出ているのは、火花とコードといろいろな部品……人間の
肉体ではない。
それは一度死んだ後、『企業戦士計画』によって造られた、サイボーグ戦士の機体であった。
戦団の医療部に連絡した。間もなくここに到着して、女の子を搬送してくれるだろう。
NS社にも連絡した。間もなくここに到着して、山崎を搬送……というか回収というか……
「…………周囲にホムンクルスらしき反応はなし。やはり、あのガリマで打ち止め
だったようですね……安心していいですよ」
上半身だけの山崎が、切断面をバチバチとスパークさせながら、斗貴子の膝枕で言った。
今なら斗貴子は全て納得できる。山崎には(鈴木にも)気配が全くなかったこと。斗貴子
が察知できなかったグムンの存在に気付いたこと。山崎の戦闘能力の高さ。そして、
山崎が長いこと家に帰っていないということも。
「ワタクシは、既に死亡したことになっておりますし……脳の一部と顔面皮膚以外は
全て機械となってしまったこの体で、妻や娘に会うわけにも……っ、ぅぐ……」
「い、痛むのか?」
「いいえ。この体に、痛覚というものはないのです。ないはず、なのですが……生前の
イメージがどうしても残っていて……っ……戦闘に不必要な感覚は、全て削られている
はずなのですが、ね……」
感覚を削られている、という言葉に斗貴子は少しゾッとした。が、同時に気付いた。
「山崎さん。痛覚がないのなら、味覚や嗅覚は?」
「それらもありません……ですから、例えば香水や食料品などの開発時などには、
成分表から推測するしかなくていつも苦労……あ」
山崎も気付いた。斗貴子が何に気付いたのかを。
「そ、その、料理というものは……作ってくれた人の心がこもるから、美味しいのであって、
ですね……つまり、ワタクシは、アナタの作ってくださったおにぎりに、込められた心が、」
「……」
山崎は弁明しているようだが、斗貴子は少し違うことを考えていた。
ほどなくして、戦団からとNS社からとの車が到着。それぞれ女の子と山崎を連れて行った。
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