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ファイナルバトル - (2007/02/11 (日) 14:33:53) のソース
門下百万人総出で死刑囚ドリアンに(トドメを刺したのは烈海王だが)敗北を与えてか らというもの──神心会ではある変革がなされた。 「神心会に敵対する者はだれであろうと潰す」 という愚地克己の信念のもと、彼らの結束力、組織力はより高められた。 神心会は武道団体。すなわち戦う団体。 喧嘩に強いことなど緊急時くらいでしか使えない現代社会において、彼らはあえて素手 でわがままを貫く道を選んだ。 某日、とある神心会門下生が出世争いに敗れた。 同期との一騎打ち。どちらか一方が課長になれるという局面だったが、ほんの紙一重の 差で彼は昇進することができなかった。 克己が創り上げたシステムにより、この報はすぐさま神心会全体に行き渡る。 そして──数日経った深夜。 昇進祝いをかねて派手に飲み明かしたサラリーマンが一人、夜道を歩いていた。先に述 べた出世争いで勝利した男である。 ちどり足でまっすぐ歩くことはできないが、道すじだけはまっすぐ家に向かっていた。 すると突然、彼を囲むように複数の人影が現れた。 「秋田株式会社係長、板枕氏ですね? いえ、今度課長になられるそうですが」 酔いが体から逃げていく。これが噂の“オヤジ狩り”かと内心舌打ちしながら、男は半 ば条件反射でバッグから財布を取り出す。 しかし、彼らの狙いは金銭ではなかった。 「我々はお金などいりません。ただ、あなたを痛めつけるだけです」 「ち、ちょっと、私が一体なにを……」 「覚悟ッ!」 いびつな拳が一斉に彼に飛びかかった。 秒針が一回りもすると、全ては終わっていた。 ついさっきまで平凡なサラリーマンだった男は、かろうじて呼吸だけを行う無残な屍と なっていた。 「よし行くぞ」 敵を討った神心会の男たちは、証拠をなにひとつ残さぬまま夜の闇に行方をくらました。 ──以上の調子である。 今挙げたのは、ほんの一例でしかない。 神心会百万人に少しでも害をなす者があれば、すぐさま討伐隊が組まれ、実行に移され る。 一日に多くて五人、最低でも一人は彼らの拳によって再起不能となった。 そして報告を聞くたび、 「これこそが神心会空手だッ!」 と克己は高笑いするのだった。 ところが、隆盛極める神心会に突如として壁が立ちはだかる。 深夜、神心会本部道場。正座で精神を養っていた克己に、門下生である寺田が外から駆 け込んだきた。 息を切らしながら、克己を呼びつける寺田。 「し、師範ッ!」 「どうした寺田、今日は討伐メンバーだったはずだろ?」 「大変です! 神心会最後の敵を倒すチャンスが来たんです! ぜひ師範もお出向きを!」 「最後の敵? ──どういうことだ」 「と、とにかく、来てください! 近くの空き地ですっ!」 どうやら説明する時間も惜しいようだ。少し訝ったが、寺田から発せられる『是が非で も師範に来て欲しい』という熱意に押され克己は出陣を決意した。 「分かった、空き地だな」 このとき克己は心の奥底で、一人の人物を思い浮かべる。 ──まさか、範馬勇次郎か。 寺田に案内され、夜の空き地を訪れた克己。周囲には電灯がない上、まだ暗がりに目が 追いついていないが、三十人近くが集まっていることは把握できた。 これで克己はおおよその状況を飲み込む。 「なるほどな、とりあえず多勢で空き地に追いつめたってわけか。……で、最後の敵って のはどいつだ?」 首を動かす克己に、集団内でも小さな部類に入る影がひょいとおどり出た。 はっきりとは目に映らない。だがたとえ暗くとも、克己にはすぐに分かった。 「おっ、親父ィッ!」 立っているのは紛れもなく愚地独歩。姿形、気配、体格、全てが偉大なる空手家を示す データと一致していた。 理由は分からないが、独歩は臨戦態勢だ。戦わねばなるまい。 「なるほど、あんたが最後の敵ってわけかよ。たしかに俺じゃなきゃキツいかもしれねぇ な」 偉大な父を相手に、余裕を演じる克己。経験を除けば父を上回る自信はあるし、なによ り今は数で圧倒している。が、独歩は薄く微笑むだけ。 「………?」 この反応に異様な不気味さを覚えた克己は、気を紛らわせるために視線を他へ移す。 さらに狼狽する克己。なんと独歩と克己を囲う黒帯たちもまた、独歩と似たような笑み を浮かべていた。近くにいる寺田も同様だった。 克己は神心会最後の敵がだれであるか、ようやく理解した。 お わ り