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ヘヴィー・アーマー - (2012/09/09 (日) 09:41:35) のソース
重い。 正式にこの射手座の黄金聖衣を受継ぎ、聖闘士としての称号もまた天馬星座から射手座へと変わり、 黄金聖衣を纏った時、星矢はかつてない重さを感じていた。 先代・アイオロスの意思故か。 それとも、歴代の射手座の聖闘士の遺志故か。 過去に幾度ともなくアテナの、星矢の危機を救ってくれたこの射手座の黄金聖衣を、 彼が正式に受継ぐことが決まったのは、実はかなり早い。 サガの乱終結後、老師・童虎が議長となって催された黄金結集-黄金聖闘士のみが参加を許される厳粛な会合-において、 半減した黄金聖闘士たちの中に危機感を抱かなかった者はいない。 数とは純粋に戦力だ。 いまや地上最強の戦力たる黄金聖闘士はわずかに6人、否、老師童虎は動けぬ身ゆえに、実働戦力は5人しかないのだ。 故に、戦力再編は急務とされたが、黄金の責務を負うに相応しい聖闘士は、 サガの乱にて文字通り身を削るようにしてアテナの命を守り通した青銅5人をおいて他になかった。 だが、彼らとて若年極まりない。 よしんば、彼ら全員を黄金へと格上げしたところで彼らを先導すべき存在の不在。 なによりも、聖闘士本来の怨敵・冥王ハーデスとの戦いは迫っている。 先の聖戦では、老師童虎と教皇シオンのただ二人しか生き残らなかったのだ。 黄金聖闘士であるとしても、聖戦の先があるとは限らない。 いや、確実に命を落とすのだろう。 故に、聖戦の後。新たな世代の旗頭となるべき存在となってほしい、 青銅5人は当時の黄金聖闘士たちからそう認められていたのだ。 それは聖戦における老師童虎から青銅5人への不可解な命令からも証明されるだろう。 余談ながら、この時点でまだ在位にあった獅子座レオのアイオリアと乙女座バルゴのシャカもまた、 次期黄金として鳳凰座フェニックスの一輝とアンドロメダ瞬への継承を承認している。 星矢自身の血をもって再びその黄金の輝きを取り戻した射手座の黄金聖衣は、 射手座サジタリウスの黄金聖闘士は、かつての聖戦以来にアテナの隣に帰ってきたのだ。 故に、その重さ星矢はひしひしと感じていた。 だからだろう。星矢が思い返してその日城戸沙織は、アテナとしてでなく、城戸沙織としての顔で彼女と相対していた。 「ずいぶんと疲れた顔をしていますね、星矢」という城戸沙織の言葉に、星矢は文字通り苦笑した。 「星矢、あなたに渡したいものがあります」 言うと、彼女は包みをそっと星矢に手渡した。 沙織の返事をまって開封すると、中にあったのはスカーフだった。 ペガサスの神聖衣の翼のごとく、純白のスカーフ。穢れなき輝きを放つそれは、 驚くべきことにアテナの小宇宙を内包していた。 「久々の機織でしたので、どこかおかしい所があるかもしれませんが」 そういたずらっぽくいう彼女の顔は、アテナではなく星矢のみてきた城戸沙織という少女のそれだ。 戦闘女神としての姿が聖闘士には印象深いが、彼女は機織の神という面ももっている。 城戸光政が彼女に沙織という名をつけたことは、 おそらく戦女神としての面よりもそういった面を忘れないでいてほしいという願いがあったのではないかと、 そう思うときもある星矢だ。 だが、今の今まで戦女神としての面しか見ていなかったという事もあり、彼は面食らった顔をしていたらしい。 「ひどいわ星矢、そんな顔をするだなんて」と言う彼女だが、言葉にこめられているのは親愛の笑みだった。 そんな彼を不快に思うことなく、ころころと年相応に笑う城戸沙織の笑顔が星矢には愛おしかった。 「少し、顔を」といわれて星矢がかがみ込むと、沙織は星矢の手からスカーフを受け取り、そっと彼の首に巻く。 「前の私にも、前の前の私にも、そして神話の昔の私にも、ずっと供にいてくれた貴方」語る沙織の言葉は 「傷つき、倒れ、それでも立ち上がって…」スカーフを巻き終えた彼女は、そのまま星矢の頬を包み込む 「私の隣にいてくれた…」そして、胸に抱きしめる。 しばし、沈黙があたりをつつむ。 「…前世とか、そんな事をいわれてもさ、俺は俺なんだよ、沙織さん」 どちらともなく離れ、それでも星矢は沙織から目をそらさない。 沙織もまた、星矢から目をそらさない。 「だからさ、きっとどんなになっても俺は沙織さんを守るよ」言うと、星矢は彼女を抱きしめる。 ありがとう、という声が被る。 不思議と、星矢は黄金聖衣の重さを感じなくなっていた。まるで身体の一部になったかのような一体感を感じていた。