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DBIF50-1 - (2007/06/23 (土) 11:51:58) のソース
意識を失ったベジータを床に横たえ、トランクスは改めて周囲の面々を見渡した。 あの3人を迎え撃った場所から遠く離れた、神の住居に一同は場所を移していた。ベジータを起こさなかったのは、余裕の笑みを浮かべる ターブルを前にして、例え一時的にでも撤退することを彼が選ぶとは思えなかったからである。 「・・・最悪の事態になったな。まさか連中の実力があれ程とは」 「しかも、あの神聖樹まで持ち出して来やがって。クソ!」 歯噛みして悔しがるクリリンに、トランクスが疑問をぶつけた。 「その神聖樹というのはどういうものなんですか?確か連中の仲間らしいターレスとかいう奴のことも悟飯さん達は知っているようでしたが」 「時間がないんで簡潔に話そう。神聖樹というのは本来神だけがその実を食べることを許された樹だそうだ。俺と融合した神の奴はこの 地球ではよそ者のせいか、その存在は知らなかったがな。そいつは食べる者に絶大な力を与える実を付ける代わりに、一度星の地に根付くと、 大地の全ての滋養を吸い尽くし、その星を死の星に変えてしまう」 「何ですって?!」 「以前そんな物騒なものをターレスというサイヤ人が持って来たんだ。その時は孫悟空が撃退したが、奴は神であるターブルに種を与えられた、 単なる使用人に過ぎなかったわけだ。あの時は何故奴がそんなものを持っていたのか、考えもしなかったがな」 言いながらピッコロは悔しそうに顔を歪めた。今となっては仕方ないこととはいえ、ターブルを撃破した後、その後ろに黒幕がいることも考慮に いれず、彼の宇宙船を処分してしまったのは、他ならぬピッコロ、いや彼と融合した神自身なのだ。そのことが今、彼に身を灼(や)くような 後悔として押し寄せていた。 「神聖樹が育ち切ってしまうのはいつなんですか?その前に何とかしなくては」 「・・・神聖樹が育つスピードは恐ろしく早い。恐らく24時間、たった1日でこの星は死の星に変わる」 「な・・・!」 余りに絶望的なピッコロの言葉に、トランクスは絶句した。 たった1日では、例え『精神と時の部屋』を使用しても、まともに修行できるのは二人が限界。それも、あの3人との戦闘する時間を 考えれば、引き伸ばされた時間にしても半年間できるかどうか。 「・・・・・・!」 トランクスの固く固く握り締められた指が手の平の皮を指が突き破り、拳から血が流れ出す。それでも彼は必死になって冷静さを 取り戻そうとしていた。 「・・・それなら、部屋には俺が入ります。後のことは、皆さんで話し合って決めて下さい」 と、それだけ言い残してトランクスは悟飯達に背を向けた。 「お、おい待てよトランクス」 クリリンが慌てて掛けた声に、トランクスは足を止め、そのまま振り返ることなく言った。 「タイムマシンのパワーを充填するには、どんなに早くてもあと三日はかかります。まして、資源が枯渇するとなれば、充填できるか どうかも怪しいでしょう。それでも皆さんにはまだ希望はありますが、俺には・・・今、強くなるしか道がないんです!」 トランクスの背を向けたままの叫びに、誰もかける言葉を失っていた。 切羽詰った状況とはいえ、自分達は過去から来た存在である分、ある意味で時間があると言えないこともない。資源枯渇の問題は あるが、非常用の備蓄エネルギーをかき集めるなどすればエネルギーを確保できる可能性はかなりあるだろう。一度過去に戻ること さえ出来れば、最悪自分達の世界にやがて訪れる危機に備えることは出来る。 しかしトランクスはこの未来世界の住人である。猶予はターブルの言葉通り、神聖樹の実が熟すまでの時間しかない。それを考えれば、 そんなわずかな時間でどうするのかなどと言うこともできなかった。 「ピッコロさん・・・僕、悔しいです」 トランクスが部屋へと消えるまで、うつむいたままだった悟飯の口から、搾り出すようにそんな言葉が漏れた。自分がターブルに かなわないこと、そして今トランクスに何の言葉もかけてやれないことが、悟飯の身を震わせていた。 「悔しいのは皆同じだ。だが、悔しがっているだけでは何も解決しない」 「取り合えず、そこのベジータを起こして、部屋に入るもう一人を誰にするかも含めてこれからのことを話し合おう」 スパッツの意見に異論を挟む者はいなかった。 意識を取り戻したベジータにこれまでのいきさつを説明すると、当然自分も部屋に入るといきり立つという皆の予想に反して、ベジータは無言で 座っていた。 「あと1日。いや、もう後20時間もないかもしれんが、残されたわずかな時間、それでも『精神と時の部屋』でならばある程度の修行は出来る。 問題は誰が入るかだが」 「・・・・・・」 いよいよピッコロが核心の話題に入っても、何故かベジータの口は開かない。 「あの・・・僕が、行っていいんでしょうか」 「待て」 試しにおずおずと悟飯が名乗り出ると、そこで初めて制止の言葉をかけたものの、その後はまた沈黙する。 どうしていいか分からず、皆が注目する中、うつむき加減だったベジータの顔が上がった。 「いいだろう。お前が行け」 「え・・・・・・?」 「ええええええ?!」 その口から出た言葉に、呆けた声を上げる悟飯や、当然とも言うべき驚きの声を上げるクリリンばかりでなく、全員が眼を見開いてベジータを見た。 「何だ?!さっさと行け!」 「あ、はい・・・」 不機嫌そうに睨みつけながらそう言うベジータの勢いに呑まれるように、悟飯は慌てて立ち上がると部屋に向かって走り出した。 「どういう風の吹き回しだ?俺はてっきりお前が入るものだと思っていたが」 「入る入らんは俺が決めることだ。勝手に俺の行動を決めつけるな」 突き放すようなベジータの言葉に、しかしピッコロは食い下がった。 「まさか貴様、ブロリーの時のように相手がサイヤ人の神だからと怖気付い・・・」 「黙れ!!」 火を吹くような眼で睨みながら、ベジータが叫んだ。 「二度とそんな口をききやがったら、瞬時に粉々にしてバラまくぞ!」 かつて彼こそが伝説で語られる真の超サイヤ人と目された、ブロリーという名のサイヤ人との対決の際、その余りに圧倒的な戦闘力を前にして、 戦う前に戦意を喪失してしまったことは、ベジータにとって恥ずべき過去であった。 「ならば理由を言え。何故自分でなく、悟飯に部屋に行かせた」 しかし激昂したベジータを前にしても臆さず、ピッコロは冷静に訊ねた。理由もなしにこのプライドの高いサイヤ人の王子が、例えほぼ 不可能とはいえ、憎い相手を倒すことを他人の手に任せるはずがない。 「・・・ふん。神聖樹とやらが育ち切るまで時間がないなら、その前に破壊すればいいと思ったまでのことだ」 「そんなことを連中が許すわけもあるまい。先程の反応を見る限り、奴らの要求を呑むわけでもないだろう。どうやって破壊するつもりだ?」 「・・・奴らの要求を呑む振りをする。もし信じるならそれが一番だが、もし試すようなことを言い出してもそれはそれでいい。その時は奴らと 話し合う奴以外の人間が、交渉の場から離れた違う場所から神聖樹を破壊するだけだ」 ピッコロはベジータの言葉にしばし黙考した。要求を呑むと見せかけ、3人の気を引いた隙に神聖樹を破壊する。出来ないこともないが、もし 要求を呑むことが「振り」であることを疑われれば、もし破壊が成功しても奴らはすぐに神聖樹を育て直すだろう。そうなれば稼げるのは 精々1日。しかもその場にいる者は恐らく殺される- 「ベジータ、貴様まさか」 「あのガキは、例えドラゴンボールで復活は出来るとわかってても反対しそうだからな」 ピッコロは、信じられないものを見るような顔でベジータを見ていた。確かにドラゴンボールを復活させる際、万が一を考えて始めは3つ願いを 叶え、複数人をまとめて生き返らせることは出来ないが、何度でも生き返らせるタイプにしてはいる。しかし生き返るがあるとはいえ、犠牲を 必要とする無謀な延命策の中心とも言うべき役を買って出るなど、彼の性格を考えれば想像の遥か外だったのである。 3人の来訪者と会う前の行動といい、明らかにベジータの心に変化が生まれている。そのわけを聞こうとして、しかしピッコロは思い留まった。 かつて彼も、悪に浸りきった心を一人の子供に変えられた存在なのである。だからこそ、おぼろげにだがその理由に見当はついていた。 「いいだろう。もしもの時の破壊役は俺がやる」 質問の代わりにそう言いながら、ピッコロは微かに笑った。ベジータは嫌がるだろうが、それは同じような道を辿った同志に向ける笑みだった。 その頃、まだ地球からかなり離れた宙域を、サイヤ人の乗っている宇宙船とは違うものの、やはり巨大な宇宙船が地球へと向かって飛んでいた。 その中の一室。中央奥に巨大な何かの装置が置かれた広間の扉が開き、一人の人間が現れた。 その顔を見れば地球の戦士達は驚いただろう。以前ゾレというフリーザタイプの異星人に会ってはいるが、今現れた異星人はフリーザに余りにも 似ていた。違う所といえば、胸に硬質的な輝きを見せる部分がないくらいである。 「どうした、スノウ?」 そのフリーザ似の異星人に向かって、奥の装置のある場所から重苦しい声がかけられた。装置の中央には入り口らしき扉があり、大きなガラスの ようなものがはめ込まれている。その内部から光が漏れているにもかかわらず、中の状態は良くわからない。時々気泡らしきものが上っている所から、 中には液体が詰まっているのだろう。 スノウと呼ばれたフリーザ似の異星人は、その装置の扉に向かって一礼した。 「あのサイヤ人共の目的地と思われる宙域に、神聖樹の反応が現れました」 「ふん、やはりな」 装置の中にいると思われる人物が、その報告を聞いて吐き捨てるような声で言った。 「だが、これで連中の足は止まる。後は追いつくだけだな」 「はい」 応じながら、スノウは口の端を吊り上げた。 「今頃は奴らも異常に首を傾げているでしょう」 「妙だな」 悟飯がトランクスの後を追って部屋に入ってから3時間余りが経った頃、スパッツがそんな言葉をつぶやいた。 「どうした?何が妙なんだ?」 「神聖樹の成長のスピードが遅い。1日で育つ樹とは思えんスピードだ」 スパッツの言葉に、質問したピッコロが下界を眺めてみると、確かにターレスが植えた時に比べてはるかに成長が遅い。これは一度ターレスがこの 星で神聖樹を育てたことが関係しているのだろうか。 「あくまでこの地球全土の面積から土地の枯死スピードを基に計算した結果だが、このスピードならば、地球全土の滋養が神聖樹に吸い尽くされるまで 7日はかかる」 「ということは・・・」 「どういう理由かは知らんが、まだ望みはあると言うことだ」 クリリンの言葉に合わせて、ピッコロがにやりと笑いながら言った。 正しく運命のイタズラによって、悟飯達は犠牲を強いる時間稼ぎをすることもなく、貴重な時間を得ることが出来た。しかしこれが更に最悪な事態の 呼び水となることを、この時点で知る由もなかった。