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最強伝説の戦士 黒沢 51-8 - (2007/09/18 (火) 22:10:13) のソース
天国なのか地獄なのか。川の流れる音が聞こえるし、背中に当たってるのは河原の石 らしい。じゃあ三途の川か。それにしちゃ、妙に寝心地がいいような……などと寝ぼけた 黒沢が、ぐったりとした自分の体を重く感じながら瞼だけ動かし開けてみると、 「……あ」 真上から見下ろしている野明と目が合った。体勢から考えると、後頭部に感じる温かさは どうやら野明の腿。つまり、いわゆる膝枕をされているらしい。 黒沢にとっては憧れも憧れ、本来ならこれだけで鼻血を出しててもおかしくない状況だ。が、 流石に今はそれどころではない。 ゴオマに咬まれた肩も、痛みはあるが出血は止まっている。相変わらずバケモノ級の治癒力、 非人間的肉体だ。 それを自分の目で見ているからだろう、野明の口からはこういう時の 社交辞令級定番セリフである「大丈夫ですか?」が出てこない。 「……ま……そういうことだ」 未確認生命体への変身、人外の力を発揮しての戦い。その全てを目撃した野明に、 黒沢は言った。 「オレはもう、人間じゃなくなった……未確認生命体第2号……いや、赤い方は4号って 勘定になるか……多分、オレはまた、奴らと戦うことになる……つまり変身する…… バケモノの姿にな……そしたら、また警察が……物騒なものを持って駆けつける……」 語りながら黒沢は、そして聞きながら野明も、思い出していた。二人一緒に 警官隊に銃を向けられ、包囲されたことを。 「だから、もう……オレには近づかないでくれ……オレのせいで、またあんなことになったら ……オレのせいで、関係ないあんたまで巻き込んじまったら……オレは……オレは……っ」 ボロ……ボロ……と涙をこぼし始めた黒沢。野明はそんな黒沢に、 「黒沢さん。今の黒沢さんは、あんっっまりにも当たり前すぎて、本来言うまでもないことを 忘れてしまっていますよ」 優しく諭すように応えた。 「思い出して下さい。正義のヒーローが、正体を隠して戦うのは当たり前じゃないですか」 「……え」 「あたしもそういうのに憧れて、警察官になりました。イングラムが空を飛べないって 知ったのは第二小隊に配属される直前のことでしてね。そりゃあがっかりさせられ ましたよ。そんなあたしですから、知ってます。ヒーローたちは人知れず戦うものだって。 その正体が、どこの誰なのかは秘密にして。それと、」 野明は変わらず優しく、けど少しだけ語調を強めて言った。 「『関係ないあんた』なんて……言わないで下さい。あたしは、ただ逃げるだけの一般人A とか囚われのお姫様とかをやる気はありませんよ。断固として、ヒーローと一緒に戦います」 「? ちょ、ちょっと、まて、戦うって、その」 「言ったでしょう。あたしはそういうのに憧れて警察官になりましたって。……なのに、」 野明の声が沈んだ。黒沢から目を逸らす。 「今度の事件で、あたしは何もできなかった。たくさんの人が目の前で殺されたのに。 黒沢さんの体だって、あたしが最初に1号を倒してさえいれば……こんなことには……」 今度は野明がボロ……ボロ……と涙を溢れさせたところで、黒沢の指が持ち上がった。 野明の頬に触れ、熱い雫を受け止める。擦り傷だらけの野明の頬に、涙が染みたのと 同時だった。 「ぅ……っく……黒沢さん……」 野明が黒沢に視線を戻す。再び二人の目が合った。 黒沢は緊張して、少々もごもご口ごもって。それから意を決して、言葉を紡いでいった。 「なあ。最初に会ったのは事件の聞き込みだったな。ピシッと敬礼して、お堅い顔してた。 で、その後はもう、いつ会っても怒ってたり、泣いてたり、悔しがってたり、歯を食い縛って たりで。オレ、まだ自分の妄想の中でしか見たことないんだよな。あんたの笑顔をさ」 「……えっ…………が、お?」 黒沢は、ほりほりと頭を掻きながら、野明を見上げて言う。 「浅井からあんたの伝言は聞いたけど、オレに謝ることなんてないぜ。オレが勝手にやった ことだから。けど、礼を言ってくれるんなら聞かせてほしいな。さっき、お姫様は嫌だって 言ったけど……その……オレの中では……あ~……結構、お姫様……してるんだ、実は。 だから今だけ、ちょっとだけ、ヒーローに助けられたお姫様、してくれると……嬉しいな、 なんて……思ったりして…………だな、その……」 しどろもどろ、赤面しながら語る黒沢。年齢半分以下の小娘を相手に、汗かきまくりで。 言われた野明は、 『……ぷっ』 言われるまでもなく、いや、言われたからこそ、笑顔を見せた。 もう溢れてこない涙を拭いて。膝枕している黒沢の頬を両手でそっと包み込んで。 黒沢の目を見つめて、心からの感謝を込めて言った。 「……黒沢さん……ありがとう」 差し込み始めた朝日が照らす、実はまだ少し涙が残っていた野明の笑顔。 それは、負傷と疲労に埋もれた黒沢の心身を優しさ暖かさで包み……というより何より、 とにかく可愛かった。黒沢の妄想の中で描かれていたそれより、何百万倍も可愛かった。 黒沢は、そんな野明の笑顔が眩しすぎて正視できないのと、永遠に心に焼き付けたい という思いとで、静かに目を閉じた。 そして、思った。 『…………一生の…………殊勲だ……』 この後。人間社会に紛れ込んだ未確認生命体たちは、仲間内でルールを定めて ゲームを開始した。殺害人数を丁寧にカウントし、その得点を競い合うというもの。 警察の必死の捜査にも関わらず、その警察官たちをも含めて、増加の一途を辿る 犠牲者数。それをテレビや新聞で見て、誰が何人殺せたと語り合い、勝負を楽しむ 未確認たち。毒を注入され内臓が腐敗した男、大型トラックで何往復も轢き潰された女、 予告殺人の恐怖に追い詰められ自殺してしまった子、何もできずに泣き叫ぶ家族……。 「だぁかぁらぁ、ただのゲームだ。それ以外に意味はない」 「君たちが苦しむほど……楽しいから(自殺された分は得点にならないんだよなぁ)」 「私は、どうでもいい殺しはさっさと終わらせたい……っと。で『送信』をクリックね」 だがそんな中で、赤い体の『未確認生命体第4号』が傷つきながらも他の未確認たち を次々と撃破していった。自身が、未確認生命体として警察に危険視されながらも。 「せんせい! 4号はミカクニンタイセイメイだけど、いいやつなんだよね? ママがよんでた本にね、かいてあったの!」 「……娘が言ってたんだ。パパを助けてくれたんだから、4号は絶対いい人だよ、って。 俺はあいつに……4号に銃を向けちまったのに……」 やがてそれが、第2号と同一個体であるということも判明。時が経つにつれて 世間の、マスコミの、そして警察の、彼を見る目が少しずつ変わっていく。 殺人ゲームの犠牲者数が三桁から四桁に達し、警察と未確認生命体との 熾烈を極める戦場(街中)にて、上層部の疑念をよそに現場の刑事たちが…… 「! まて、撃つな! あれは4号だ!」 「4号が戦ってる……………………援護だ! 援護しろおおおおぉぉっ!」 現代に蘇った伝説の戦士・二代目クウガの戦いを語るのは、また別の機会に 譲ることとする。↓ ttp://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/furari/kobusi/01.htm