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その名はキャプテン52-1 - (2008/02/10 (日) 22:34:45) のソース
~メルビル宮殿~ 歴史あるメルビル王国で、異例の事態が起こっていた。 街を襲ったサルーインの僕と凶悪なドラゴンを追い出し、平和を取り戻した者。 その偉大な勇者に褒美を取らせるため、玉座の前に呼び出した。 それは当然の名誉である、巨大な魔物との戦いを経験した兵士は少ない。 各地で戦争が起こっている今では、大半の兵士は対人用の訓練しか受けていないのだ。 こうして裏目に出るのは必然だったのかもしれない。 では何が問題なのかと言うと、その失態を救ったのが犯罪者なのが問題なのだ。 何故、王は面会を許可したのだろうか、気が気でない、 しかも悪名高いサンゴ海の荒くれ者、つまりは海賊である。 家臣達が目をギラつかせながら睨みつけるのは、海賊の頭領キャプテン・ホークだった。 帽子を取り、溜まりに溜まったシラミをボリボリとかき落とす。 何か言いたそうな奴が居たがガン飛ばして視線を無理やり逸らさせて無視する。 「おい、褒美ってのはまだか?さっさと船に戻りてぇ。」 無礼にも褒美を催促するホークの態度を戒めるべく兵士が前へ出る。 だが、王の手によってそれを遮られ、引き下がってしまった。 威厳ある態度、だが相手を見下すような眼はしていない。自惚れの無さが器の大きさを表している。 しかし椅子から立とうとはしない、作法の面を欠いているかとも思ったがそれは無いだろう。 贅沢を極めるであろう生活にも関らず痩せた体、疲れが溜まっているのだろうか顔色も冴えない。 「民を守ってくれたこと、感謝している。 海賊であっても善行には等しく恩恵が与えられる。褒美は何が欲しいのだ?」 等しく?これは素晴らしい発言だ。 武器か防具でも悪くないと思ったが、これは英雄と同じ待遇で迎えると言ってるも同然。 実際に街も救った訳だしもっと高額の物を頼ませてもらうとしよう。 王の発言は絶対である、それは逆に軽々しく取り消すなど出来ないということ。 家臣の見守る中で「失言だった」で済ませれば威厳は地に落ちる。 無論、そんな無粋な真似はしそうにない。これは一世一代、最大のチャンスだ。 「帝国の造船技師を集結して最強の海賊船を作ってくれ。」 家臣達が無礼だなんだと抜かしているが、上品な海賊がいてたまるか。 王に断る様に申告している奴も居るが、兵の前で言い訳など出来る筈もない。 器の大きさを見せる為にも、ここはYESと答えなければならないのだ。 王が右手を掲げ、発言の意を示すとピタリと騒ぎは収まった。 「国の命とも言える民を恐怖から救ってくれた者に、 感謝の言葉もなく無礼者呼ばわりしたことを家臣に代わって謝ろう。すまなかった。」 これには流石に驚いた、海賊如きに謝罪の言葉を漏らすとは。 家臣は信じられないといった顔で見ているが兵の目は違う。 これが本来あるべき人の姿だと学び、尊敬の眼差しを向けている。 謝罪の言葉一つで大袈裟だと思うかもしれないが、メルビルの王とはそれ程に民から尊敬と敬意を集める。 「だが、君は我が国の船を奪ってここまで来たのだろう?」 バレた?紋章は外した、原因があるとすれば・・・。 突然、何者かの気配が現れた。 扉の方へ振り返ると、一人の男が物音一つ立てず王室に侵入していた。 「すまない、勝手だとは思ったが船の事は話しておいたぞ。」 やはりケンシロウだったか、こいつの気真面目な所が災いしてしまった。 見慣れぬ服装、そしていつも手ぶらの癖に何故かデカイ袋を背負っていて怪しさ倍増である。 不審者に衛兵が槍を向けた瞬間、指先一つでそれをへし折りジロリと兵士を睨みつける。 怯える兵士を前に特に何をする訳でもなく、そこに立ち尽くす。 一斉に武器を手に取る兵士達だったが、前へ出ることは出来なかった。 眼前の相手に触れられてはならない、危険を通り越した男。 例えるなら存在そのものが災厄。 死を持ち込む種、死神。 「皆、剣を納めよ。その方も街を救った者の一人だ。」 言われた通り剣を納め、ケンシロウから離れる。 ケンシロウを恨めしそうに睨みつけるホーク。 黙ってれば罪人にもならず、褒美だけ頂いて立ち去れたのに。 涼しい顔で視線を合わせると、まるで当然とでも言うように平然としている。 本来海賊ではないケンシロウには当然のことだから仕方ないのだが。 王へ視線を戻すと監獄行きにされるかと思ったが、そうでもないらしい。 側近の一人が王に寄り添い、何か話している。 光術法の魔導師だろうか、煌びやかな装束に身を包んでいる。 やはり病気か何かだろう、付き添っている術師は全員が水か光をシンボルとした装束をしている。 どちらの術も身体の回復に長けている術法である。 休息を取る指示だったのだろうか、それを押し退けると話を続ける。 「だが、罪を帳消しにすれば褒美は思うがままだ。 城下の者たちの悩みを解決してくれれば条件を呑もう。」 イマイチ気が乗らないが仕方ないだろう。 それに住民の悩みの一つや二つで帳消しに出来るなら安い物だ。 家臣たちも刑罰だの、磔刑だーッ!だの叫んでいる。 何か条件を追加されないうちに立ち去るとしよう。 衛兵に若干追い出されるようにして、宮殿の入口まで来て立ち止まる。 「ケンの奴、何しにきたんだ?」 王室では、そのケンシロウと王が話を続けていた。 「腕のいい鍛冶屋に、こいつで上等な斧を作ってくれるよう話をつけてくれ。」 そういって袋からリオレウスの尻尾を取り出す。 船上での戦いの際に千切れた奴だ。 「これは・・・中に紅玉まで、それがお前の望みだな?」 「ああ、友に送ってやる物だ。」 そう言い残すとさっさと背中を向けて出て行ってしまった。 「今日は無礼な者ばかり謁見に来ますな・・・。」 王は不機嫌そうな家臣を無視し、身体を休める為に部屋へと戻っていった。 ~メルビル図書館~ 巨大な棚にずらりと並ぶ膨大な書物、知識の宝庫。 一生を賭けねば全てを頭に入れる事は不可能であろう。 いつもは術師たちが飽くなき探求心を静かに追及しているのだが、 その探求心が静寂を切り裂く鎧の音、そして恐竜の様な顔をした人型の生物に向けられた。 「すげぇな、この世界の武具は原始さを追及しててシンプルで強い。 神秘的で妙な能力を持った魔具も多いみたいだな、是非とも知識を持ち帰りたかった。」 そういって伝承や武器に関連する書物を片っ端から取って行く。 「この世界・・・?やはり、あなたも別の世界から来たのですか?」 ベアの本を半分受け取ると、それを受付まで持っていき荷車に乗せるように頼む。 もう半分を持ったベアが満足気な表情で外の荷車へと持っていく。 「ほぉ、別世界の奴等ってのは・・・やっぱ他にもいるのかい? ってことはホークの使ってた奇妙な剣、あれもその一つか。 炎を分解してた様に見えたがすげえ技術だ、真似できるのかね?」 王、直筆の勅命書を受け付けに渡すと、兵士が荷車を引いて街を出た。 「これで仲間の所に届くだろう。お前さんは王様から何を貰ったんだ?」 「ジュエルを少々、替えの武器を買う余裕も出来てきたのでスキルを学ぼうと思いまして。」 武術関連の書籍も持ち出していたようですぐにジュエルに反応を示す。 「ほぉー槍術か、お前さんいい腕してたしな、俺でよければ技を教えてやるぜ。 我が帝国に伝承されてきた技は記憶している、真似ろと言われても出来んがやり方は分かるぜ。 それに加えて俺は全ての技を正確に見切ってるし、正確に出来てるかなんて一発うちこんでみりゃ判るもんよ。」 意気揚揚と話しかけてくるベア、知っているのに出来ないとはどういうことだろうか。 だが技には興味がある、ゲッコ族でも腕利きのゲラ=ハ、力には自信があるが閃きや発想が弱い気がする。 後々、聞いてみるとして今はスキルを学ぶ事にしよう。 「興味深いですね、修練が終わったら是非とも御教授させてもらいます。」 任せとけ、と言って笑いながら背を叩くとゲラ=ハが修練所に行ってる間に、 自分は自己流の修行をすると言って街の外へと出て行った。 ~メルビルから少し離れた岩場~ 魔物が増える時期の旅人は、人間の手で生み出された道を外れる事はない。 人が作ったということは人通りが多いということだ、魔物もそれを理解して攻撃を控える。 とはいっても、徒歩で行動するのは金のない貧乏人か自殺志願者くらいである。 あらゆる物体には魂が宿っている、生き物を始めとして、道端の石から植物まで。 周囲のすべてが敵なのだ、少し大きめの草、色の違う石、よく見れば一部だけ粒子が細かい、または粗い砂。 それを魔物だと気付けない者は死ぬしかない。 一部の例外を除いて。 「んー?珍しい植物だな、薬草辞典なら手元に残してたような・・・。」 そういって荷物袋に手を伸ばした瞬間、腕に触手が絡みつく。 珍しい、という事は目立つという事。 この植物は擬態が下手で警戒されがちだったのだ。 そのため、魔物も、人間も食うことが出来ず日光と土中の水分で細々と生きながらえていた。 だが、何かを喰らって強くならなければいずれ食われる、それが弱肉強食の世界。 知識のない人間が近づくことを、神に感謝すべきだろうがそんな知能も持ち合わせていない。 食欲という本能と知識不足は、彼から折角のチャンスを奪ってしまった。 道を外れるということは危険を避けない人間、それなりの腕か余程の馬鹿。 そして金属というものを理解せず鎧の上から攻撃したこと。 高位植物モンスターは良質な土で育ち、地中深く根を張って触れる物を学習する。 そして地中に含まれる金属性の物質までも学習するが、彼は土の感触しか知らなかった。 触手を引っぱって植物を引っこ抜く、未熟な彼には根を張らずに生き延びる方法は無かった。 「なんかピクピクしてるな、念の為に縛り上げてから袋に入れて・・・。 それにしても迂闊すぎたな、久しぶりの旅で気分が浮かれてるのかね。」 ベアが浮かれているのは旅のせいではなかった。 周囲を取り巻く静寂と闘気、今排除された植物以外の魔物は全て危険を察知して逃げ出していた。 その原因を作り出した男へと話しかけるべく、後ろの岩を振り向く。 「待ってたぜ、ケンシロウ。」 岩陰から姿を覗かせるケンシロウ、二人の視線が合うと周囲の静寂が一層強くなった気がした。 「お前、酒場で俺に言ったこと覚えてるか?あの情けない戦いぶりは見てられなかったぜ。」 「そうだな・・・デカいだけのトカゲに手も足もでなかった男ではあるが、お前の言うことは正しい。」 お互いに口の端を引きつらせてニヤリと笑う、獲物を狙う鷹の眼差しのまま。 「中々・・・挑発的な態度だ、闘争心は徐々に芽生えてるみたいだな。 だがよ、闘う力はあっても足りない物が多すぎるぜぇ~お前はよぉ。」 剣を引き抜き、構えるベア。 それに対してなんの構えも取らず、自然体のままベアを見つめるケンシロウ。 「観察力も悪くないな、確かにこれは戦闘用の構えじゃない。もしお前が、 引き抜かれた剣と、俺の敵意に誘われて攻めてたらパリィで弾いて胴体を真っ二つにしてやったのになぁ。」 スゥ、っと音を立てずに構えを解いて剣を握る腕をブラブラと脱力させ宙づりにする。 闘争の意思は隠していないが、攻撃の意思は隠しつつもチラチラと見せつけてくる。 基本的にパワーで押してくるタイプだが、パリィと呼ばれる防御剣技、そして場の空気を読む力。 攻めか守りか、闘いの組み立てがハッキリしないため、手の内が読みづらい。 見た目の斜め上をいった、パワーで押してくる技巧者だ。 ケンシロウが探りを入れていると急にブンッ、という音が耳に響いた。 「音速剣。言っておくがこんな技ならどの構えからでも出せるぜ。 だが間合いをしくじったかな、浅いみてーだ。」 胴体から腹部にかけて裂傷が駆け抜け、血が噴き出る。 深い傷ではないが出血のため、ガックリと地面に膝をつくケンシロウ。 走り出すベア、身につけた鎧のせいで速くはないが、確実に一般男性の平均ダッシュ速度以上は出している。 「こんな程度で終わるなら・・・お前が『愛』ってのを取り戻す事はこの先無い。 お前は戦いの中でしか自分を見つめられないからな。」 振り下ろされた剣、今度は音速なんて生易しいスピードではなかった。 剣が光り輝き一筋の軌跡を残す、その光は太陽光の反射で出来た物ではない。 光速を超えた剣から生まれる波動、音速剣を上回るスピードと破壊力。 広範囲に照りつける陽射しの様に、剣から衝撃波を撒き散らす究極の剣技。 周囲に拡散する光の破壊を、近距離で当てるとどうなるのか。 頭にピッタリと密着させたショットガンの引き金を引いてみると答えが出るだろう。 「さぁ、見せてみろ!お前の肉体の奥深くから感じた力。 今、ここで引き出せなければ頭が粉々に吹っ飛ぶ!」 切先がケンシロウの頭頂部に達した、それでも剣を止める気は全くない。 ベアの持つ最高の剣技、これを受け止められなくては皇帝の代役は務まらない。 キィン、と得体のしれない音が響き渡る。音の壁を切り裂く光の剣、『光速剣』。 そして異変に気づいたのは音と同時だった。 「強いな、だがこの距離なのが問題だった。この距離でなければかわせなかった。 音速剣の衝撃波は扇状だった、違いが速度と破壊力だけならその剣も広がり方は同じだ。」 先に説明したショットガンを例とすれば、ピッタリくっつけた位置とは反対側の方が大きく砕ける。 つまりは攻撃範囲が狭いので、『見切れる』相手には確実に当てる事は出来ないのだ。 もっとも、光の速さを見切ることなど本来は不可能なので気に留める必要もないのだが、今回は相手が悪かった。 「夢想転生、無より転じて生を拾う奥義。 光には時の概念があるが無には存在しない。」 動けなかった、ケンシロウの声が聞こえているのは背後。 少なくとも後ろを振り向きながら斬るという発想は確実に無い。 背後を取った側の気になれば判る筈だ、後ろを振り向くという動作が如何に無駄が多いか。 足を90度捻り、腰を90度捻り、手を90度捻る。 向こうは手刀一閃、手を振り下ろすだけで全てを終わらせられる。 「何故、殺さない?」 「殺すのが目的なら遠距離から光速剣を繰り出した筈だ・・・敵ではない、俺はそう思っている。」 剣を地面に突き刺して両手を上げる 「流石、まいったねこりゃ・・・。」 地面に突き立てた剣を、鞘に納める。 それと同時にケンシロウも自身から発する闘気を納めた。 「手加減してこれか・・・アンタに本気をださせるには俺じゃ力不足かな?」 「加減ではない、アミバの非道、皮肉にも奴のおかげでこの体に『怒り』は戻った・・・。」 そう言って拳を握りしめるケンシロウ、人々に対する絶望を拭えてはいない。 彼が一番『怒り』を感じていたのは、その己自身の弱さだった。 「フッ、この先どんな敵が待ち受けるかも分からん。 嫌でも取り戻せるだろう、出来なきゃ死ぬだけだ。 ・・・おっと、ゲラ=ハに技を教えるんだった。」 ベアは荷袋を背負い、メルビルへと戻ることにした。 帰りの道中、自分から話すことの少ないケンシロウが不意に話を持ちかけてきた。 「お前が技を教えるのはゲラ=ハだけか?」 「んん?そりゃ教師が本職じゃねーからな、ゲラ=ハだけだ。」 そうか、と答えると再び黙って街へと歩き出す。 どうかしたのだろうか、先程からキョロキョロと周囲を見渡している。 「なんだ、岩山なんて珍しくないだろう。ドラゴンでも見かけたのか?」 一応、剣柄に手をかけ戦闘態勢を取っておく。 周りに巨大な気配など感じないが、ケンシロウなら気配を消した魔物を見破れるのかもしれない。 「いや・・・ちょっとホークのことで相談がある。」 「なんだ?立派にリーダーシップも取ってる、信頼できる奴だと思うぞ?」 「指揮に問題はないが・・・実力が伴っていない。 回復術しか取り柄がないし、斧が壊れれば苦手な剣を振り回す。」 そりゃ、御もっともな意見だ。という事でダブルコーチがここに誕生した。 ~街 出入り口~ 「おや、かなり手強い獲物だったみたいですね。」 「ん?よく分かったな・・・鎧に新しい傷はつけられなかったが。」 自分の鎧を確認する、この世界の技術師では相当な腕でなければこの鎧は直せない。 リオレウスとの戦いでも、へこんだだけで済むほど強固な材質と造りである。 「なんとなくですよ、私の準備はできました。」 そういって槍を構える、確かに基礎的な部分が全体的に向上している。 短時間で見違えるほど上達したように見える。 「それじゃあ、俺が手解きしてやるよ。」 「お手柔らかにお願いします。」 「裸の大将についてるコーチと比べたら、ずっと優しいと思うぜ?」 普段は寡黙なゲラ=ハもプッ、と吹き出してしまった。 この一言で、今ホークにどれだけの災難が降り注いでいるか想像してしまったのだ。 「アイツ『愛』は取り戻せなくとも、『愛のムチ』を振るうことになるだろうよ。」 ~製造中の北斗練気闘座~ 「拳のみで石像を造り上げるのだ、気の入っていない像は叩き壊す。」 「あー・・・質問なんだが、これは岩じゃなくて山、もしくは崖じゃないのか?」 眼の前にそびえる岩壁を前に、ささやかなクエスチョンを投げかける。 当然の反応である、誰だってそーする、俺もそーする。 「高低差が100メートルあれば認めるが、この岩は80メートルの高さだ。問題ない。」 大ありだ馬鹿、そう言ってやりたかったが一番に取った行動は逃走だった。 「北斗神拳に『闘争』はあっても『逃走』は無い、性根から叩き直すか・・・。」 冗談を言う眼ではなかったし、冗談を言う相手でもない。 仕方がないので斬り伏せて突破することを選ぶホークだった。 「どきやがれぇッ!」 「そうか・・・岩を砕く方法を教えてなかった。では体に叩きこむとしよう。」