「…ん…ここは…」
眠りから覚めるような感覚。気付けば遊戯と城之内、そして海馬は、古ぼけた遺跡の中にいた。
「どうやら、戻ってこれたか…あの神殿だ」
辺りを見回した海馬は、そう断ずる。
「本当かよ?」
「間違いない。あの部屋に覚えがある…例の石像があった部屋だ」
「どれどれ…」
部屋を覗き込んだ遊戯達は、思いもよらぬ光景にぎょっとした。
眠りから覚めるような感覚。気付けば遊戯と城之内、そして海馬は、古ぼけた遺跡の中にいた。
「どうやら、戻ってこれたか…あの神殿だ」
辺りを見回した海馬は、そう断ずる。
「本当かよ?」
「間違いない。あの部屋に覚えがある…例の石像があった部屋だ」
「どれどれ…」
部屋を覗き込んだ遊戯達は、思いもよらぬ光景にぎょっとした。
その部屋の中では、三人の少年が石像を前にして何やら騒いでいた。
「こ、これって…ボクたち三人に、そっくりじゃないか!」
「ほ、ホントだ…おい海馬、どういうこった!?」
「オレに聞いてどうする。ちっ…なんだ、これは…また下らんオカルト話でも始めるつもりか?」
何となく聞き覚えのある会話―――
「こ、これって…ボクたち三人に、そっくりじゃないか!」
「ほ、ホントだ…おい海馬、どういうこった!?」
「オレに聞いてどうする。ちっ…なんだ、これは…また下らんオカルト話でも始めるつもりか?」
何となく聞き覚えのある会話―――
そこにいたのは、まさしく自分達三人だ。遊戯と城之内は訳が分からず、互いに顔を見合わせる。
「フン…そういう事か」
海馬だけは状況を理解し、鼻を鳴らした。
「一人で分かってんじゃねえよ、海馬」
「見ていれば貴様のようなバカにも分かる…もうじき、あそこにいるオレ達が光と共に消えるはずだ」
「え?」
果たして、海馬の言葉通りに、部屋にいる方の遊戯達が光に包まれる。そして、そのまま消え去っていった。
「…あ!そうか!そういう事か!」
遊戯も得心して、手をポンと叩いた。
「いや、だからさ遊戯。どういうことなのよ?」
この期に及んでも城之内の頭ではチンプンカンプンだ。海馬は小馬鹿にして解説を始めた。
「要するに、オレ達があの時代に飛ばされる寸前へと帰ってきたのさ。そして入れ違いで、現代のオレ達が過去へと
飛ばされた…」
「それで帰ってきたボクらは、神話の時代へと旅立つボクらをこうして見送ったって訳だよ」
「…一応分かったけど、なんか、ややこしいな…」
城之内は何となく分かったような、煙に巻かれたような気分だったが<まあ分かんなくても問題ねーや>と楽天的に
考えて、話題を変える。
「しかしまあ、見たかよ、オレらのビビった顔…ヒヒヒ、これからどんな大冒険が待ってるか知ったら、あんなもんじゃ
ないぜ、きっと」
「ホントに…あの時は、あんな闘いを繰り広げるなんて思ってもなかったよ」
「そうだよな…へへっ。頑張れよ、オレ達!」
先輩として、古代へと旅立った自分達にエールを送り、三人はしばし過ぎ去ったあの時代に想いを馳せた。
「おー、キミ達!こんな所に突っ立ってどうしたのです?」
妙に耳に残る、特徴的な声。振り向くと、そこにはあの謎の大富豪。
「あ、ズヴォリンスキーのオッサン。お久しぶりっす!相変わらず胡散臭いっすね!」
「ふむ?久しぶりという程じゃないはずですが…まあいいでしょう」
胡散臭いという部分はスルーした。自分でも分かっているのだろう。
「いやはや、しかし、素晴らしい大発見ですよ、これは!ああ…やはり<エレフセイア>は間違ってはいなかった…
アルカディアは本当にあったんだ!」
「パズーですか、アンタは」
ツッコミを入れながら、城之内は気になっていた事を尋ねる。
「あのー…<エレフセイア>って、どんな話でしたっけ。もう一度聞かせてもらえたら、ありがたいんすけど」
勿論、その内容は覚えている。古代ギリシャを舞台にした、一大悲劇の物語―――
けれど、ズヴォリンスキーは悲劇を語るには似つかわしくない、明るい笑みを浮かべた。
「はっはっは、いくらでもお聞かせしましょう。叙事詩<エレフセイア>―――それは―――」
「フン…そういう事か」
海馬だけは状況を理解し、鼻を鳴らした。
「一人で分かってんじゃねえよ、海馬」
「見ていれば貴様のようなバカにも分かる…もうじき、あそこにいるオレ達が光と共に消えるはずだ」
「え?」
果たして、海馬の言葉通りに、部屋にいる方の遊戯達が光に包まれる。そして、そのまま消え去っていった。
「…あ!そうか!そういう事か!」
遊戯も得心して、手をポンと叩いた。
「いや、だからさ遊戯。どういうことなのよ?」
この期に及んでも城之内の頭ではチンプンカンプンだ。海馬は小馬鹿にして解説を始めた。
「要するに、オレ達があの時代に飛ばされる寸前へと帰ってきたのさ。そして入れ違いで、現代のオレ達が過去へと
飛ばされた…」
「それで帰ってきたボクらは、神話の時代へと旅立つボクらをこうして見送ったって訳だよ」
「…一応分かったけど、なんか、ややこしいな…」
城之内は何となく分かったような、煙に巻かれたような気分だったが<まあ分かんなくても問題ねーや>と楽天的に
考えて、話題を変える。
「しかしまあ、見たかよ、オレらのビビった顔…ヒヒヒ、これからどんな大冒険が待ってるか知ったら、あんなもんじゃ
ないぜ、きっと」
「ホントに…あの時は、あんな闘いを繰り広げるなんて思ってもなかったよ」
「そうだよな…へへっ。頑張れよ、オレ達!」
先輩として、古代へと旅立った自分達にエールを送り、三人はしばし過ぎ去ったあの時代に想いを馳せた。
「おー、キミ達!こんな所に突っ立ってどうしたのです?」
妙に耳に残る、特徴的な声。振り向くと、そこにはあの謎の大富豪。
「あ、ズヴォリンスキーのオッサン。お久しぶりっす!相変わらず胡散臭いっすね!」
「ふむ?久しぶりという程じゃないはずですが…まあいいでしょう」
胡散臭いという部分はスルーした。自分でも分かっているのだろう。
「いやはや、しかし、素晴らしい大発見ですよ、これは!ああ…やはり<エレフセイア>は間違ってはいなかった…
アルカディアは本当にあったんだ!」
「パズーですか、アンタは」
ツッコミを入れながら、城之内は気になっていた事を尋ねる。
「あのー…<エレフセイア>って、どんな話でしたっけ。もう一度聞かせてもらえたら、ありがたいんすけど」
勿論、その内容は覚えている。古代ギリシャを舞台にした、一大悲劇の物語―――
けれど、ズヴォリンスキーは悲劇を語るには似つかわしくない、明るい笑みを浮かべた。
「はっはっは、いくらでもお聞かせしましょう。叙事詩<エレフセイア>―――それは―――」
それは―――神話を生きた英雄達と、天から降り立ったとされる三人の少年の物語。
彼等は手を取り合い、時には敵対し、時には共に闘い、遂には神をも撃ち破る―――
彼等は手を取り合い、時には敵対し、時には共に闘い、遂には神をも撃ち破る―――
「そんな―――波瀾万丈大冒険の御伽噺ですよ」
「へへ…そっすか」
城之内は堂々と胸を張った。
遊戯もにっこり笑って城之内に倣い、胸を反り返らせる。己の中で闇遊戯も同じようにしているのが分かった。
海馬は興味なさそうに目を閉じていたが、よく見れば少しだが笑っている。
自分達のやった事は無駄なんかじゃない。そう示されたようで、嬉しくて少し照れくさくて、とても誇らしかった。
「ちなみにこの神話<エレフセイア>には、姉妹作ともいうべきものが存在します」
「へえ、どんなんっすか?」
「<カイバセイア>といって、<白龍皇帝>と呼ばれた英雄の視点から描かれた物語です。とある吟遊詩人の兄妹が
綴ったとされるものでして」
「あ、もういいっす」
城之内は露骨に<訊かなきゃよかった>という顔をした。横で得意げに笑う海馬をぶん殴ってやろうかとすら思う。
「全く…しかし、遊戯。どうしても気になるんだけどよ」
「なにが?」
「いや。オレ達は結局、どうしてあの時代に行っちまったのかなってさ…」
「ボクだって分からない。けれど…そんなことはもう、どうでもいいんだ」
遊戯は、微笑みながら城之内に向き直る。
そう。説明しようとすればいくらだって出来る。
運命の女神様が本当にいて、悲しい運命を変えるために自分達をあの時代に呼んだとか、そういう風に奇麗に纏める
ことも出来るだろう。けど―――そんな説明付けたって、それは蛇足というものだ。
それよりも、本当に大切な事は。
「ボクたちは確かに、あの神話の時代を駆け抜けた―――素晴らしい仲間達と共に、あの世界を闘い抜いた。それで
いいんだよ、城之内くん」
「…ああ、そうだな」
城之内も、笑い返す。そう―――きっと、それでいい。
残った謎は謎のまま、張った伏線は張ったまま。投げっぱなしの放りっぱなし。
物語としては失格だけど、それでもいいと思えるから。
そんな謎は、胸の中に息づく絆に比べたら―――全然、気にしなくてもいい事だ。
そしてようやく思い至った。冒険の始まりの合図だった、あの謎の声の正体に―――
(エレフ、ミーシャ、オリオン…それに皆。お前らは、いた。確かに、オレ達と一緒にいたんだ)
忘れてなんかいない。忘れやしない。城之内は、袖でぐいっと目元を拭った。
「へへ…そっすか」
城之内は堂々と胸を張った。
遊戯もにっこり笑って城之内に倣い、胸を反り返らせる。己の中で闇遊戯も同じようにしているのが分かった。
海馬は興味なさそうに目を閉じていたが、よく見れば少しだが笑っている。
自分達のやった事は無駄なんかじゃない。そう示されたようで、嬉しくて少し照れくさくて、とても誇らしかった。
「ちなみにこの神話<エレフセイア>には、姉妹作ともいうべきものが存在します」
「へえ、どんなんっすか?」
「<カイバセイア>といって、<白龍皇帝>と呼ばれた英雄の視点から描かれた物語です。とある吟遊詩人の兄妹が
綴ったとされるものでして」
「あ、もういいっす」
城之内は露骨に<訊かなきゃよかった>という顔をした。横で得意げに笑う海馬をぶん殴ってやろうかとすら思う。
「全く…しかし、遊戯。どうしても気になるんだけどよ」
「なにが?」
「いや。オレ達は結局、どうしてあの時代に行っちまったのかなってさ…」
「ボクだって分からない。けれど…そんなことはもう、どうでもいいんだ」
遊戯は、微笑みながら城之内に向き直る。
そう。説明しようとすればいくらだって出来る。
運命の女神様が本当にいて、悲しい運命を変えるために自分達をあの時代に呼んだとか、そういう風に奇麗に纏める
ことも出来るだろう。けど―――そんな説明付けたって、それは蛇足というものだ。
それよりも、本当に大切な事は。
「ボクたちは確かに、あの神話の時代を駆け抜けた―――素晴らしい仲間達と共に、あの世界を闘い抜いた。それで
いいんだよ、城之内くん」
「…ああ、そうだな」
城之内も、笑い返す。そう―――きっと、それでいい。
残った謎は謎のまま、張った伏線は張ったまま。投げっぱなしの放りっぱなし。
物語としては失格だけど、それでもいいと思えるから。
そんな謎は、胸の中に息づく絆に比べたら―――全然、気にしなくてもいい事だ。
そしてようやく思い至った。冒険の始まりの合図だった、あの謎の声の正体に―――
(エレフ、ミーシャ、オリオン…それに皆。お前らは、いた。確かに、オレ達と一緒にいたんだ)
忘れてなんかいない。忘れやしない。城之内は、袖でぐいっと目元を拭った。
「―――おっしゃ!地底脱出ってね!くぅー、陽の光よー!オレを暖かく包みやがれー!」
「うーん、現代の空気も久しぶりだね!」
「フン…これで胡散臭い古代妄想ツアーも本当に終わりか」
地上から降ろされた救助用の縄梯子によじ登り、やっとこ戻ってきた遊戯達は、三者三様の感想を漏らした。そんな
彼らに、杏子達が駆け寄ってくる。
「大丈夫だったの…って、アンタ達、穴に落ちただけにしてはなんか妙に服が薄汚れてない?」
「ああ、まあ、なんつったらいいのか、色々あってよ…」
「そう!色々あったのです、色々!いや、もう、これから忙しくなりますよ!ハハハ、嬉しい悲鳴ってヤツです!」
ブンブン腕を振り回して力説するズヴォリンスキー。そのハイテンションは天井というものを知らないようだ。
―――そこへ。
「あなた!あーなーた!」
と呼びかけながら、こちらへ駆けてくる婦人の姿が目に入った。
「お?おお、エイレーヌ!」
対してズヴォリンスキーは両手を大きく広げ、満面の笑みを浮かべた。
「おお~…愛しの我が妻よ!わたくし、キミの魅力に、ズヴォリンスキ~!」
「何をバカなこと仰ってるんですか、もう…あら、そちらの方々は?」
婦人―――エイレーヌは、不思議そうに遊戯達を見つめる。遊戯達はというと、ポカンと口を開けていた。
「ズ…ズヴォリンスキーさん、結婚してたんだ…」
「よく相手がいたな…」
ナチュラルに酷い言い方である。しかし、ズヴォリンスキーは勿論聞いちゃいない。
「ああ、彼等は日本から修学旅行中の高校生でして。先程お友達になったばかりなんですよ、はっはっは」
「あら、そうなの。ごめんなさいね、この人ったらバカなことばっかり言ってたでしょう?」
「いやあ、そんな。ははは…」
と。愛想笑いを浮かべていた遊戯と城之内は、エイレーヌの顔を見てそのまま固まった。
―――驚くほど美しいわけではないが、品よく整った顔立ち。深い知性を感じさせる物静かな笑み。
それは、まさしく―――
「ソ…ソフィア先生ー!?こんなとこで何やってんすか、アンタ!」
「ソフィア?いえいえ、彼女は我が妻エイレーヌですぞ」
「え?あ、そ、そうなんですか!すいません、知ってる人によく似てたもんで…」
城之内は頭をポリポリしながらヘラヘラするしかなかった。隣で同じように口を開けっぱなしの遊戯に小声で囁く。
「しかし…ホント、似てるよなあ。ほとんど本人じゃねえか」
「うん…不思議な事ってあるよね…」
二人とも、ただただ嘆息するばかりである。
「それはそうとして、愛しの我が妻よ!わたくし、ついに大発見です!ハラショー…ハラショォォォォッ!」
そんな彼らを尻目に、ズヴォリンスキーは大はしゃぎでエイレーヌに話しかけている。
「あらあら、そんなに喜ぶなんて、よっぽど素敵な事があったんですね…けど、私からも嬉しい報せがありますわ」
エイレーヌも満面の笑顔で、そんな事をのたまう。
「おお、では先にエイレーヌ、キミから話してください。なに、如何にキミが凄い話題を持ってきた所で、わたくしの大発見
に勝る驚きではないでしょうからね。お楽しみは後にとっときましょう、はっはっは!」
「あら、そんな大きな事を言っていいのかしら?うふふ…実はですね…」
一拍置いて、エイレーヌは微笑みながら告げる。
「ついに、私のお腹に、私達の愛の結晶が宿りましたわ!」
「……………………は……………………」
ズヴォリンスキーが口をあんぐりと開ける。構わずに、エイレーヌは続けた。
「お医者様のお話では、男の子と女の子の双子かもしれないのですって!」
「……………………お……………………おお~~~~……………………おおおおおおお~っ!」
そしてズヴォリンスキーは歓喜の雄叫びを上げて、その場から垂直に10mほどジャンプした。
いくらギャグ描写にしても飛び過ぎである。彼もまた神の眷属なのやもしれない。
「おおお~~~エイレーヌ…愛しの我が妻よぉ~~~っ!ハラショー…ハァァァラショォォォ~~~~ッ!生まれて
くる子供の名前は、遠い昔にもう決めてあるのですぞー!」
もう古代遺跡を発見したことなんざ忘却の彼方のようだ。遊戯達は呆れながらも、ちょっとおかしな夫婦のやりとり
を微笑ましい想いで見守っていた(海馬はもう興味もないのか、鼻を鳴らすだけだったが)。
「で?遠い昔にもう決めてあるって、どういう名前なんすか?双子なんだから、二人分いるでしょ」
「はっはっは。男女の双子ならむしろ理想的なんですよ!何故ならその名前は―――」
城之内の問いに対して、ズヴォリンスキーは得意げに大きく手を広げて、その名を告げた―――
「うーん、現代の空気も久しぶりだね!」
「フン…これで胡散臭い古代妄想ツアーも本当に終わりか」
地上から降ろされた救助用の縄梯子によじ登り、やっとこ戻ってきた遊戯達は、三者三様の感想を漏らした。そんな
彼らに、杏子達が駆け寄ってくる。
「大丈夫だったの…って、アンタ達、穴に落ちただけにしてはなんか妙に服が薄汚れてない?」
「ああ、まあ、なんつったらいいのか、色々あってよ…」
「そう!色々あったのです、色々!いや、もう、これから忙しくなりますよ!ハハハ、嬉しい悲鳴ってヤツです!」
ブンブン腕を振り回して力説するズヴォリンスキー。そのハイテンションは天井というものを知らないようだ。
―――そこへ。
「あなた!あーなーた!」
と呼びかけながら、こちらへ駆けてくる婦人の姿が目に入った。
「お?おお、エイレーヌ!」
対してズヴォリンスキーは両手を大きく広げ、満面の笑みを浮かべた。
「おお~…愛しの我が妻よ!わたくし、キミの魅力に、ズヴォリンスキ~!」
「何をバカなこと仰ってるんですか、もう…あら、そちらの方々は?」
婦人―――エイレーヌは、不思議そうに遊戯達を見つめる。遊戯達はというと、ポカンと口を開けていた。
「ズ…ズヴォリンスキーさん、結婚してたんだ…」
「よく相手がいたな…」
ナチュラルに酷い言い方である。しかし、ズヴォリンスキーは勿論聞いちゃいない。
「ああ、彼等は日本から修学旅行中の高校生でして。先程お友達になったばかりなんですよ、はっはっは」
「あら、そうなの。ごめんなさいね、この人ったらバカなことばっかり言ってたでしょう?」
「いやあ、そんな。ははは…」
と。愛想笑いを浮かべていた遊戯と城之内は、エイレーヌの顔を見てそのまま固まった。
―――驚くほど美しいわけではないが、品よく整った顔立ち。深い知性を感じさせる物静かな笑み。
それは、まさしく―――
「ソ…ソフィア先生ー!?こんなとこで何やってんすか、アンタ!」
「ソフィア?いえいえ、彼女は我が妻エイレーヌですぞ」
「え?あ、そ、そうなんですか!すいません、知ってる人によく似てたもんで…」
城之内は頭をポリポリしながらヘラヘラするしかなかった。隣で同じように口を開けっぱなしの遊戯に小声で囁く。
「しかし…ホント、似てるよなあ。ほとんど本人じゃねえか」
「うん…不思議な事ってあるよね…」
二人とも、ただただ嘆息するばかりである。
「それはそうとして、愛しの我が妻よ!わたくし、ついに大発見です!ハラショー…ハラショォォォォッ!」
そんな彼らを尻目に、ズヴォリンスキーは大はしゃぎでエイレーヌに話しかけている。
「あらあら、そんなに喜ぶなんて、よっぽど素敵な事があったんですね…けど、私からも嬉しい報せがありますわ」
エイレーヌも満面の笑顔で、そんな事をのたまう。
「おお、では先にエイレーヌ、キミから話してください。なに、如何にキミが凄い話題を持ってきた所で、わたくしの大発見
に勝る驚きではないでしょうからね。お楽しみは後にとっときましょう、はっはっは!」
「あら、そんな大きな事を言っていいのかしら?うふふ…実はですね…」
一拍置いて、エイレーヌは微笑みながら告げる。
「ついに、私のお腹に、私達の愛の結晶が宿りましたわ!」
「……………………は……………………」
ズヴォリンスキーが口をあんぐりと開ける。構わずに、エイレーヌは続けた。
「お医者様のお話では、男の子と女の子の双子かもしれないのですって!」
「……………………お……………………おお~~~~……………………おおおおおおお~っ!」
そしてズヴォリンスキーは歓喜の雄叫びを上げて、その場から垂直に10mほどジャンプした。
いくらギャグ描写にしても飛び過ぎである。彼もまた神の眷属なのやもしれない。
「おおお~~~エイレーヌ…愛しの我が妻よぉ~~~っ!ハラショー…ハァァァラショォォォ~~~~ッ!生まれて
くる子供の名前は、遠い昔にもう決めてあるのですぞー!」
もう古代遺跡を発見したことなんざ忘却の彼方のようだ。遊戯達は呆れながらも、ちょっとおかしな夫婦のやりとり
を微笑ましい想いで見守っていた(海馬はもう興味もないのか、鼻を鳴らすだけだったが)。
「で?遠い昔にもう決めてあるって、どういう名前なんすか?双子なんだから、二人分いるでしょ」
「はっはっは。男女の双子ならむしろ理想的なんですよ!何故ならその名前は―――」
城之内の問いに対して、ズヴォリンスキーは得意げに大きく手を広げて、その名を告げた―――
此処に、永き神話の物語はページを閉じる。
最後に、神話を駆け抜けた者達の、それからの物語を少しだけ―――
最後に、神話を駆け抜けた者達の、それからの物語を少しだけ―――