「という夢を見たんだ」
卵焼きを飲み干した早坂秋水がぽつりと呟いた。剛太は思う。この店に来ていったい何時間経ったのだろう。ふと眺めた
窓はもう夕闇を削っていて、すみれ色の枠内を会社帰りのサラリーマンがぽつぽつと行き過ぎている。
ラタン椅子を軋ませながら行儀悪く背伸びをする。背筋が小気味よく鳴り、筋肉のほぐれる心地よさが細長い体を貫いた。
そうして乾いた口内をオレンジジュースで潤し置いた透き通った円柱の中では、透明な氷が4つカラカラ打ち合い回っている。
それを垂れ目でチェイスしつつ深く長く盛大な溜息を洩らしてからようやく、ようやく剛太は頷いた。
「夢なら、しょうがないな」
返答は来なかった。頷かれたような気もするが、それはどうでもよかった。夢? どこからが夢? 秋水を嵌めまひろのあだ
名を呼ばせたあたりか。人間離れしたオートバイメーカー社長が登場した辺りか。それとも彼が変身した辺りか。
どうでもいいや、剛太はそう思った。
すっかり冷めた卵焼きに手を伸ばす。モサモサと食べるそれは何とも気だるい味がした。氷水で嚥下すべくグラスに手を
伸ばす。すっと現れた半笑いのヴィクトリアが天然水をなみなみと注ぎ足し帰っていく。笑いたくもなるだろう。喧噪の戻りつ
つあるメイドカフェでどうして男2人が連れだって沈黙せねばならぬのか。侘しさに浸る剛太の気分を和らげたのは意外にも
秋水の言葉だった。
「全てが、夢だった。白昼夢というべきだ。でなければ幻として捉える他、俺たちに道は残されていない」
「そうだな。いま俺たちの周りに壊れたイスやテーブルが散乱して床板もぶっ壊れて、向こうであの店長が丸っこい亀裂まみ
れの壁の前で業者と修理費用の見積もりやっててあの禿のオーナーの頭にまだ粘液残ってるけど」
「全ては夢だ。夢……だったんだ」
「ふふ……ふふふ」
「ハハハ」
乾いた笑いをひとしきり漏らすと、彼らはまったく同じタイミングでコキンとうな垂れた。
「あり得ない」
「俺も、そう思う」
オーナーや桜花たちが片づけに追われる中、剛太たちはしばらくずっとうな垂れていた。
卵焼きを飲み干した早坂秋水がぽつりと呟いた。剛太は思う。この店に来ていったい何時間経ったのだろう。ふと眺めた
窓はもう夕闇を削っていて、すみれ色の枠内を会社帰りのサラリーマンがぽつぽつと行き過ぎている。
ラタン椅子を軋ませながら行儀悪く背伸びをする。背筋が小気味よく鳴り、筋肉のほぐれる心地よさが細長い体を貫いた。
そうして乾いた口内をオレンジジュースで潤し置いた透き通った円柱の中では、透明な氷が4つカラカラ打ち合い回っている。
それを垂れ目でチェイスしつつ深く長く盛大な溜息を洩らしてからようやく、ようやく剛太は頷いた。
「夢なら、しょうがないな」
返答は来なかった。頷かれたような気もするが、それはどうでもよかった。夢? どこからが夢? 秋水を嵌めまひろのあだ
名を呼ばせたあたりか。人間離れしたオートバイメーカー社長が登場した辺りか。それとも彼が変身した辺りか。
どうでもいいや、剛太はそう思った。
すっかり冷めた卵焼きに手を伸ばす。モサモサと食べるそれは何とも気だるい味がした。氷水で嚥下すべくグラスに手を
伸ばす。すっと現れた半笑いのヴィクトリアが天然水をなみなみと注ぎ足し帰っていく。笑いたくもなるだろう。喧噪の戻りつ
つあるメイドカフェでどうして男2人が連れだって沈黙せねばならぬのか。侘しさに浸る剛太の気分を和らげたのは意外にも
秋水の言葉だった。
「全てが、夢だった。白昼夢というべきだ。でなければ幻として捉える他、俺たちに道は残されていない」
「そうだな。いま俺たちの周りに壊れたイスやテーブルが散乱して床板もぶっ壊れて、向こうであの店長が丸っこい亀裂まみ
れの壁の前で業者と修理費用の見積もりやっててあの禿のオーナーの頭にまだ粘液残ってるけど」
「全ては夢だ。夢……だったんだ」
「ふふ……ふふふ」
「ハハハ」
乾いた笑いをひとしきり漏らすと、彼らはまったく同じタイミングでコキンとうな垂れた。
「あり得ない」
「俺も、そう思う」
オーナーや桜花たちが片づけに追われる中、剛太たちはしばらくずっとうな垂れていた。
やる夫社長とやらない夫専務が変身した直後──…
銃を突き出したその戦士は「柱まみれ」だと剛太は思った。シアンを基調とした顔、そして胸から肩を覆うプロテクターを
黒い柱でびっしりと覆っている姿はつくづく神経質だ。角張り過ぎ。常軌を逸した几帳面。見ているだけで胃痛がする。その
くせ腹から下は無特徴な全身スーツに多少アクセントを加えたという態で、ややもすると興味のない分野にはとことん無関
心で冷淡な気分屋かも──そう思う剛太めがけて大口径の銃が電子音声と光輝く文字を発した。身を竦ませる剛太。絹を
裂くような叫びをあげる桜花。超高速の気配が走る。振り返る。半裸の大男が肉薄している。やる夫社長に投げ飛ばされ
壁にめり込んでいた筈なのに、態勢を立て直し、なぜか最も遠い剛太を狙っている。そしてもう遅い。鼻先に礒岩のような拳
が迫っていた──…
黒い柱でびっしりと覆っている姿はつくづく神経質だ。角張り過ぎ。常軌を逸した几帳面。見ているだけで胃痛がする。その
くせ腹から下は無特徴な全身スーツに多少アクセントを加えたという態で、ややもすると興味のない分野にはとことん無関
心で冷淡な気分屋かも──そう思う剛太めがけて大口径の銃が電子音声と光輝く文字を発した。身を竦ませる剛太。絹を
裂くような叫びをあげる桜花。超高速の気配が走る。振り返る。半裸の大男が肉薄している。やる夫社長に投げ飛ばされ
壁にめり込んでいた筈なのに、態勢を立て直し、なぜか最も遠い剛太を狙っている。そしてもう遅い。鼻先に礒岩のような拳
が迫っていた──…
【FINAL ATTACK RIDE】
DIDIDIDIEND!
流暢なスクラッチとともに銃口より放たれた光の波がスロウスの上半身に直撃。だが怠惰の巨体は従う事を良しとせず
──使命感ではなく、”面倒くさい”という理由だけで。だがそれを矜持とすれば彼は明らかに確固たる矜持に従っていた──
胸全体を灼く 錐にも似た奔流を抱き抱え、踏みとどまった。
光熱と膂力がせめぎ合う震動がメイドカフェを揺るがした。
窓が震え、20メ ートル先の額縁が安いガラスを張り裂きながら落下した。乱痴気騒ぎを経てなお倒れてないテーブルか
ら皿やコップがず り落ちて破砕の音をばら撒いた。それでなお両者は相譲らず押し合いへしあいを続けるかに見えた。
が。
「あ……れ?」
スロウスが異変に気付いたのは、横一文字の剣閃がイノシシのような足をすでに薙ぎ斬った後である。秋水。いつしか
彼は怠惰の権化の傍に走り寄り、息もつかさず両足を切断していた。
ふわりと浮く巨体。
それをすかさず光 の収束が押し流した。果たしてヒの字に曲がって流されるスロウス。そんな彼の前に──…
──使命感ではなく、”面倒くさい”という理由だけで。だがそれを矜持とすれば彼は明らかに確固たる矜持に従っていた──
胸全体を灼く 錐にも似た奔流を抱き抱え、踏みとどまった。
光熱と膂力がせめぎ合う震動がメイドカフェを揺るがした。
窓が震え、20メ ートル先の額縁が安いガラスを張り裂きながら落下した。乱痴気騒ぎを経てなお倒れてないテーブルか
ら皿やコップがず り落ちて破砕の音をばら撒いた。それでなお両者は相譲らず押し合いへしあいを続けるかに見えた。
が。
「あ……れ?」
スロウスが異変に気付いたのは、横一文字の剣閃がイノシシのような足をすでに薙ぎ斬った後である。秋水。いつしか
彼は怠惰の権化の傍に走り寄り、息もつかさず両足を切断していた。
ふわりと浮く巨体。
それをすかさず光 の収束が押し流した。果たしてヒの字に曲がって流されるスロウス。そんな彼の前に──…
【FINAL ATTACK RIDE】
DEDEDEDECADE!
光輝くカードが残影描きつつ規則正しく整列した。カードというより世界選手権用に並べられたドミノ牌。事態を茫然と眺め
るほかない剛太にそう思わせるほど整然と並んでいた10枚近くのカードの先……スロウスの寸前が終点なら『始点』の辺り
でブラックとマゼンタ に彩られた異形の戦士が飛び上がる。牢獄の前で輝く碧眼。陳腐な修辞を施すとすればそんな顔つ
きに成り果てた50間近 のオートバイメーカー社長の動きにつられカードたちが舞い上がる。彼とスロウスを結ぶ斜めの軌
道にピタリと並ぶカードたち。
バーコード状の紋様が刻まれたそれらを飛び蹴りで突っ切る社長が大男に激突するまでさほどの時間は要さなかった。
ディメンションキック。カード通過によってエネルギーを収束した飛び蹴りは重機でさえ手間取りそうな巨体を壁目がけ轟
然と弾き飛ばし、大爆発さえ引き起こした。
洒脱な天井が吹き飛ばされ、付近を往くものの耳目を嫌というほど集めた。そしてやる夫社長──ディケイドはパンパン
と手を打りながらゆっくりとフェルト帽の男に視線を移した。
「馬鹿な! スロウスが!」
やる夫社長。やらない夫専務。この2人が身を変じて以降気死したように立ちすくんでいた鳴滝がようやく言葉を発した。
「そもそもディケイドは『奴』だけの筈! それはディエンドとて同じ事! それが何故、存在しているのだ!!」
「並行世界を渡り歩けるのは『奴』だけじゃない……って事だろ役割的に考えて」
ぞんざいな口調で踏み出たのは今や柱まみれのシアンと化したやらない夫専務である。
「俺たちもまた様々な世界を渡り歩いてきた。時にゲームの世界を、時には漫画の世界を。歴史上の偉人をなぞる事もあ
れば金融とかの講座を開く事もある」
「詭弁だぞそれは!」
「そうかな。世界はスレ主の数だけあるだろ。時に何かを壊し時に何かを繋ぎ、忘れ去られそうになっている物を再構成し
様々な人間に伝え直す……それが俺たちの役目だろ?」
「だったらそれこそまさにディケイドの真髄じゃねーかお! だからやる夫がディケイドやってても何ら問題ねーお!」
「黙れ!! 黙れ黙れ黙れ! 『奴』以外のディケイドなど私は認めん! 認めんぞ!」
必死に声を張り上げる鳴滝を見て剛太は思った。こいつもしかして本家本元を密かに好きなんじゃないかと。
「破壊者は1人のみで十分なのだ!! なぜそれが分からん! あっちこっちから第2第3のディケイドが現れ、適当な破
壊と再構築を行ってしまえば全く収拾がつかないのだぞ! 分かっているのかディケイド! こんな幕間の話やるのに
4回も5回も投下していてはいつまで経っても完結しないのだぞ! 100話近くやった挙句エターになったら目も当てられ
ないしそもそもいつまで貴様のいるべきスレを放置するつもりなのだ! だからディケイド! 貴様は登場すべきではなかっ
たのだ!」
いよいよ熱を帯びた鳴滝をまぁまぁとなだめつつ、ディケイドは反論した。
「でもまあ、本編でもクウガとかリ・イマジネーションって名目で色々変えられていたじゃないかお!! だったらやる夫がデ
ィケイドでやらない夫がディエンドでもいいじゃないかお! 全てはリ・イマジネーションだお! どうせまた10年経ったらデ
ィケイドだって別の役者さんがやるに決まってるお! やる夫スレ自体リ・イマジネーションの塊だし!!」
鳴滝はとうとうキレたようだった。
るほかない剛太にそう思わせるほど整然と並んでいた10枚近くのカードの先……スロウスの寸前が終点なら『始点』の辺り
でブラックとマゼンタ に彩られた異形の戦士が飛び上がる。牢獄の前で輝く碧眼。陳腐な修辞を施すとすればそんな顔つ
きに成り果てた50間近 のオートバイメーカー社長の動きにつられカードたちが舞い上がる。彼とスロウスを結ぶ斜めの軌
道にピタリと並ぶカードたち。
バーコード状の紋様が刻まれたそれらを飛び蹴りで突っ切る社長が大男に激突するまでさほどの時間は要さなかった。
ディメンションキック。カード通過によってエネルギーを収束した飛び蹴りは重機でさえ手間取りそうな巨体を壁目がけ轟
然と弾き飛ばし、大爆発さえ引き起こした。
洒脱な天井が吹き飛ばされ、付近を往くものの耳目を嫌というほど集めた。そしてやる夫社長──ディケイドはパンパン
と手を打りながらゆっくりとフェルト帽の男に視線を移した。
「馬鹿な! スロウスが!」
やる夫社長。やらない夫専務。この2人が身を変じて以降気死したように立ちすくんでいた鳴滝がようやく言葉を発した。
「そもそもディケイドは『奴』だけの筈! それはディエンドとて同じ事! それが何故、存在しているのだ!!」
「並行世界を渡り歩けるのは『奴』だけじゃない……って事だろ役割的に考えて」
ぞんざいな口調で踏み出たのは今や柱まみれのシアンと化したやらない夫専務である。
「俺たちもまた様々な世界を渡り歩いてきた。時にゲームの世界を、時には漫画の世界を。歴史上の偉人をなぞる事もあ
れば金融とかの講座を開く事もある」
「詭弁だぞそれは!」
「そうかな。世界はスレ主の数だけあるだろ。時に何かを壊し時に何かを繋ぎ、忘れ去られそうになっている物を再構成し
様々な人間に伝え直す……それが俺たちの役目だろ?」
「だったらそれこそまさにディケイドの真髄じゃねーかお! だからやる夫がディケイドやってても何ら問題ねーお!」
「黙れ!! 黙れ黙れ黙れ! 『奴』以外のディケイドなど私は認めん! 認めんぞ!」
必死に声を張り上げる鳴滝を見て剛太は思った。こいつもしかして本家本元を密かに好きなんじゃないかと。
「破壊者は1人のみで十分なのだ!! なぜそれが分からん! あっちこっちから第2第3のディケイドが現れ、適当な破
壊と再構築を行ってしまえば全く収拾がつかないのだぞ! 分かっているのかディケイド! こんな幕間の話やるのに
4回も5回も投下していてはいつまで経っても完結しないのだぞ! 100話近くやった挙句エターになったら目も当てられ
ないしそもそもいつまで貴様のいるべきスレを放置するつもりなのだ! だからディケイド! 貴様は登場すべきではなかっ
たのだ!」
いよいよ熱を帯びた鳴滝をまぁまぁとなだめつつ、ディケイドは反論した。
「でもまあ、本編でもクウガとかリ・イマジネーションって名目で色々変えられていたじゃないかお!! だったらやる夫がデ
ィケイドでやらない夫がディエンドでもいいじゃないかお! 全てはリ・イマジネーションだお! どうせまた10年経ったらデ
ィケイドだって別の役者さんがやるに決まってるお! やる夫スレ自体リ・イマジネーションの塊だし!!」
鳴滝はとうとうキレたようだった。
「おのれえディケイド! 貴 様 は 設 定 さ え 破 壊 す る の か ! !」
転瞬、黒いオーロラが一団を包み込んだ! 汚水のように煤けたそれがメイドカフェから消え去った後、桜花はただ
彼らの居た場所を見て慄然とした。
彼らの居た場所を見て慄然とした。
そこには誰もいない。ディケイドもディエンドも鳴滝も、そして秋水さえも忽然と消え去っていた。
「一体……どこへ……?」
採石場。切り立った崖に囲まれる砂利だらけの場所。
砂塵が舞い木枯らしがヒョウヒョウ吹き上がる殺風景な所に彼らはいた。
「んー、どうやらあいつの能力で飛ばされたようだお」
「だな」
醒めた様子で頷くディエンドを秋水は黙然と眺めた。
「ん? ああ。何が起こったか分からないって様子だな」
「ええ」
「端的にいうと俺らは別の世界に飛ばされたって所だ。っと。安心しろ。帰ろうと思えば割と何とかなるだろ」
「そうかな?」
笑みを含んだ声に3人が振り返ると、そこには化石状のUSBメモリを携えほくそ笑む鳴滝が居た。
「残念だよディケイド。私としてもコイツだけは使いたくなかった」
いかにも勿体つけた様子にディケイドは大仰に肩をすくめて見せた。
「ハッ! 今さら何ができるっていうんだおお前に! だいたいお前むかし変身音叉持っていかにも変身できるよーな素振り
見せてたけどいざ蓋を開けてみりゃ特に何もなかったじゃねーかお!」
「フハハ! それはもはや過ぎた事だよディケイド! 世界は常に新しくなっている! 私の運命は必ず10度目に立ちあがっ
たその時に新しい風通り抜ける道が開くのだろうディケイド?」
「聞かれても……。大体、なんでいつも2番の歌詞は微妙に意味不明なんだお」
鳴滝の手の中でUSBメモリが翻った。
「!!! やる夫! さっさとケータッチ出して遺え……コンプリートフォームになれ!」
「あん? 近所のサティじゃ1500円で叩き売られてるあの残念玩具を? 鳴滝ごときにかお? いらねーおwwww こんな
雑魚、カブトになってクロックアップすりゃ終わりだおwwwwwwwwwwwwwww」
「馬鹿! さっさとしろ! あれは! あれは──!!」
「もう手遅れだよディケイド!」
鳴滝はそのメモリのボタンを押した。
声が、響いた。
ひたすら低く、おぞましい、恐怖を孕んだ声が。
「だな」
醒めた様子で頷くディエンドを秋水は黙然と眺めた。
「ん? ああ。何が起こったか分からないって様子だな」
「ええ」
「端的にいうと俺らは別の世界に飛ばされたって所だ。っと。安心しろ。帰ろうと思えば割と何とかなるだろ」
「そうかな?」
笑みを含んだ声に3人が振り返ると、そこには化石状のUSBメモリを携えほくそ笑む鳴滝が居た。
「残念だよディケイド。私としてもコイツだけは使いたくなかった」
いかにも勿体つけた様子にディケイドは大仰に肩をすくめて見せた。
「ハッ! 今さら何ができるっていうんだおお前に! だいたいお前むかし変身音叉持っていかにも変身できるよーな素振り
見せてたけどいざ蓋を開けてみりゃ特に何もなかったじゃねーかお!」
「フハハ! それはもはや過ぎた事だよディケイド! 世界は常に新しくなっている! 私の運命は必ず10度目に立ちあがっ
たその時に新しい風通り抜ける道が開くのだろうディケイド?」
「聞かれても……。大体、なんでいつも2番の歌詞は微妙に意味不明なんだお」
鳴滝の手の中でUSBメモリが翻った。
「!!! やる夫! さっさとケータッチ出して遺え……コンプリートフォームになれ!」
「あん? 近所のサティじゃ1500円で叩き売られてるあの残念玩具を? 鳴滝ごときにかお? いらねーおwwww こんな
雑魚、カブトになってクロックアップすりゃ終わりだおwwwwwwwwwwwwwww」
「馬鹿! さっさとしろ! あれは! あれは──!!」
「もう手遅れだよディケイド!」
鳴滝はそのメモリのボタンを押した。
声が、響いた。
ひたすら低く、おぞましい、恐怖を孕んだ声が。
「テラー」
それは、いつの間にか腰に装着された貞操帯風の金属の器具──正確にはバックル部分にある長方形のくぼみへ──
挿入された。
変貌する鳴滝。
同時に、彼を中心に闇が広がった。砂利の広がっていた殺風景な地面は瞬く間に蒼黒い空間へと変じた。
挿入された。
変貌する鳴滝。
同時に、彼を中心に闇が広がった。砂利の広がっていた殺風景な地面は瞬く間に蒼黒い空間へと変じた。
「はははは! メモリもガイアドライバーも客が屋台に忘れていった代物なのだよ! MOVIE大戦2010の時にパクっておいた!」
闇に呑まれ火花を散らすディエンドから振り絞るような声が立ち上った。
「てめえ! 泥棒すんな!!」
「いや、そのナリでいわれても説得力ねーお」
白けたようなディケイドの声を哄笑がかき消した。
「ハハハハハハ!! 安心しろ! この戦いが終わったら交番に届けるさ! お前たちを、この逃げ場のない世界で始末
してからじっくりとな!!」
「! まさか!」
秋水はここでようやく気付いた。彼らを囲むように黒いオーロラが展開しているのを。闇に呑まれる足元から立ち上る
言語化不能の感覚に顔を歪めながらオーロラめがけ刀を振るう。突破できる手ごたえは、ない。
(……しまった。閉じ込められた! 逃げ場を断たれた上にこの攻撃──…望みはあるのか?)
視認できる場所はもはや全て暗黒に侵食されている。冷たい汗が端正な顎を伝い落ち、闇の中へと吸い込まれた。
闇に呑まれ火花を散らすディエンドから振り絞るような声が立ち上った。
「てめえ! 泥棒すんな!!」
「いや、そのナリでいわれても説得力ねーお」
白けたようなディケイドの声を哄笑がかき消した。
「ハハハハハハ!! 安心しろ! この戦いが終わったら交番に届けるさ! お前たちを、この逃げ場のない世界で始末
してからじっくりとな!!」
「! まさか!」
秋水はここでようやく気付いた。彼らを囲むように黒いオーロラが展開しているのを。闇に呑まれる足元から立ち上る
言語化不能の感覚に顔を歪めながらオーロラめがけ刀を振るう。突破できる手ごたえは、ない。
(……しまった。閉じ込められた! 逃げ場を断たれた上にこの攻撃──…望みはあるのか?)
視認できる場所はもはや全て暗黒に侵食されている。冷たい汗が端正な顎を伝い落ち、闇の中へと吸い込まれた。