part.8
津波が収まると、如何なる奇術か、貴鬼も水銀燈を抱えたアドニスも、ポセイドン同様水の上に立つことができた。
まるで波紋だな、と馬鹿なことを考える余裕は今のアドニスはなく、一挙手一投足はすべて目の前の男、
海皇ポセイドンの対応へと振り分けられていた。
まるで波紋だな、と馬鹿なことを考える余裕は今のアドニスはなく、一挙手一投足はすべて目の前の男、
海皇ポセイドンの対応へと振り分けられていた。
「さて、力ずくと言ってもこのままでは只の弱いもの虐めでしかないね。
私は地下の墓守の如き愚物とは違う」
私は地下の墓守の如き愚物とは違う」
パチンと指を鳴らすポセイドン、彼の一挙手一投足をけして見逃すまいとアドニスも貴鬼も、そして水銀燈も臨戦態勢だ。
「ハンディキャップマッチ、といこうか」
鳴らした指の音が三人の耳に入ったとき、アドニスと貴鬼の目の前には、見慣れた黄金色の櫃があった。
「黄金…聖衣だと!」
怒りを滲ませた声色でアドニスは叫ぶ。
水銀燈の鞄があった部屋に置いてきた筈の自分たちの聖衣が忽然とあらわれた。
かつての聖戦の際、タナトスとの戦いにおいてポセイドンは助勢として黄金聖衣を星矢たち五人の元へと送り届けた事がある。
それと同じことをやってのけたのだと、貴鬼は思い至った。
水銀燈の鞄があった部屋に置いてきた筈の自分たちの聖衣が忽然とあらわれた。
かつての聖戦の際、タナトスとの戦いにおいてポセイドンは助勢として黄金聖衣を星矢たち五人の元へと送り届けた事がある。
それと同じことをやってのけたのだと、貴鬼は思い至った。
「聖衣が無ければ、などと泣き言を言われても困るからね。
全力で来なさい。
ああ、そうそう、もし私に一撃入れることが出来たら、ここはおとなしく引いて差し上げよう。
安心したまえ、私は素手だ。鱗衣も纏わぬ」
全力で来なさい。
ああ、そうそう、もし私に一撃入れることが出来たら、ここはおとなしく引いて差し上げよう。
安心したまえ、私は素手だ。鱗衣も纏わぬ」
ゲームだよ、ほんの気まぐれの、ね。
そういいながらも、小宇宙と波濤は収まることすらなく、ますます巨大さを増していく。
そして、その一言に貴鬼はキレた。
そういいながらも、小宇宙と波濤は収まることすらなく、ますます巨大さを増していく。
そして、その一言に貴鬼はキレた。
「アドニィイイイスッ!
オイラたちは何だ!」
オイラたちは何だ!」
雄叫びに似た勇壮な声音、先ほどまで震えていた少年の声だと言われて一体誰が信じるだろうか。
まさしく、戦士の声だ。
如何なる敵にも怯まず、退かず、ただ勝利のみを渇望する戦士の声だ。
黄金の魂が燃え上がっていた。
水銀燈を開放したアドニスは、覚醒した。
まさしく、戦士の声だ。
如何なる敵にも怯まず、退かず、ただ勝利のみを渇望する戦士の声だ。
黄金の魂が燃え上がっていた。
水銀燈を開放したアドニスは、覚醒した。
「僕たちは聖闘士だ!」
貴鬼の声に、アドニスは覚醒した。
この聖衣聖櫃を最初に開けた日の誓いを思い出した。
あの茨の魔人の様にはならぬと、母を見捨てた裏切り者の叔父のようにはならぬという誓いを呼び起こした。
この聖衣聖櫃を最初に開けた日の誓いを思い出した。
あの茨の魔人の様にはならぬと、母を見捨てた裏切り者の叔父のようにはならぬという誓いを呼び起こした。
「青銅か!?」
貴鬼は叫ぶ。
己の本分と共に。
己の本分と共に。
「否ッ!」
アドニスは叫ぶ。
己の意思と共に。
己の意思と共に。
「白銀か!?」
貴鬼は叫ぶ。
師を越えるべく。
血統を越えるべく。
師を越えるべく。
血統を越えるべく。
「否ッ!」
アドニスは叫ぶ。
師を越えるべく。
叔父を越えるべく。
師を越えるべく。
叔父を越えるべく。
「黄金だ!天地不撓の黄金聖闘士だ!
海皇如きに屈するものか!」
海皇如きに屈するものか!」
二人の聖闘士は声を併せて叫び、ふたり同時に聖衣聖櫃を開くべく手をかけた。
取っ手を掴み、握り締め、闘志と共にひくと、閃光とともに聖衣が表れる。
気高き羊の原種・ムフロンを模した牡羊座・アリエスの黄金聖衣。
怪魚の王者たる甲冑魚を模した魚座・ピスケスの黄金聖衣。
黄金の小宇宙に応じ、オブジェ形態を解いた二つの聖衣は、主に向かって流星群のようになだれ込む。
新星の煌きのような、若々しい小宇宙。
小宇宙という魂の讃歌を高らかに歌い上げながら、黄金の聖闘士が姿を現した。
取っ手を掴み、握り締め、闘志と共にひくと、閃光とともに聖衣が表れる。
気高き羊の原種・ムフロンを模した牡羊座・アリエスの黄金聖衣。
怪魚の王者たる甲冑魚を模した魚座・ピスケスの黄金聖衣。
黄金の小宇宙に応じ、オブジェ形態を解いた二つの聖衣は、主に向かって流星群のようになだれ込む。
新星の煌きのような、若々しい小宇宙。
小宇宙という魂の讃歌を高らかに歌い上げながら、黄金の聖闘士が姿を現した。
「この地上にアテナがある限り!」
貴鬼は、アドニスは叫ぶ。
「黄金聖闘士に!」
聖闘士の証を纏って。
「敗北の二文字は存在しない!」
誇りと共に、彼らは叫んだ。
「黄金聖闘士は!」
貴鬼は叫ぶ。
闘志を込めて。
闘志を込めて。
「地上最強!」
アドニスは叫ぶ。
闘志と共に。
闘志と共に。
「良くぞ吼えた。
この私の小宇宙に震え、怯えながらも良くぞ吼えた…。
あのペガサスのように、不屈の魂の煌き、見せてみたまえ」
この私の小宇宙に震え、怯えながらも良くぞ吼えた…。
あのペガサスのように、不屈の魂の煌き、見せてみたまえ」
かつて、ゴルゴーンと呼ばれるようになってしまった三姉妹がいた。
神話の昔、アテナの八つ当たりで化け物に身を変えられてしまったという悲劇の美人三姉妹だ。
姉ふたりには不死身であったが、末の妹は死ぬ身であったことが更に悲劇を産む。
三姉妹は人目を避けて隠れ住んでいたが、アテナはそんな彼女たちを許さず、
ペルセウスという英雄志望の若人を差し向け、末の妹を殺させてしまう。
アテナは、死んだ後でも末の妹を許さなかったのか、
切り落としたその首を自分の盾・イージスにはめてしまった。
これに激怒してアテナに戦争を吹っかけたのはアテナの伯父にあたる海皇・ポセイドンである。
自分の愛人の一人がそんな目に遭わされたのだ、怒り心頭で地震は起こす、津波は起こすで大騒ぎとなってしまった。
これがポセイドンとアテナの最初の聖戦の因である。
神話の昔、アテナの八つ当たりで化け物に身を変えられてしまったという悲劇の美人三姉妹だ。
姉ふたりには不死身であったが、末の妹は死ぬ身であったことが更に悲劇を産む。
三姉妹は人目を避けて隠れ住んでいたが、アテナはそんな彼女たちを許さず、
ペルセウスという英雄志望の若人を差し向け、末の妹を殺させてしまう。
アテナは、死んだ後でも末の妹を許さなかったのか、
切り落としたその首を自分の盾・イージスにはめてしまった。
これに激怒してアテナに戦争を吹っかけたのはアテナの伯父にあたる海皇・ポセイドンである。
自分の愛人の一人がそんな目に遭わされたのだ、怒り心頭で地震は起こす、津波は起こすで大騒ぎとなってしまった。
これがポセイドンとアテナの最初の聖戦の因である。
戦果は言うまでも無い。
ポセイドンは敗れ、メドゥーサの雪辱どころか自分の肉体も失うという惨澹たる結果になったのだ。
アテナイの支配権を巡る戦い、と後世伝えられる神話の真相はこういうことである。
それでもポセイドンはめげず、地上の領地であるアトランティスを要塞化し、
ポセイドンを奉る神官の体を使って尚も戦いを挑むが、
逆にアテナの誇る最大戦力である聖闘士により、アトランティスをも失う破目になり
遂にはその魂を封印されてしまうという結末に終った。
大陸すら吹き飛ばすという聖闘士の恐ろしさよ。
今思えば、狡猾なアテナの術中に嵌ったのだろう。
その後、何度も司祭の血筋の者の肉体を使って聖戦を引き起こすが、その度に封印されてしまう。
つい四年前の聖戦では、海底神殿すら聖闘士によって壊滅してしまうという事態に陥った。
だが、封印に抗う術を身に着けたポセイドンは、聖戦で敗北しても魂の完全封印に抗う事に成功。
封印の壷をカプセルホテル代わりに使用するのは、神多けど言えど、ポセイドンだけだろう。
四年前の聖戦は当のポセイドン自身としては最大の汚点だった。
いきなり額に黄金の矢を打ち込まれて眠りから起こされたわ、
気が付いたらアテナが目の前に居て壷に封印されそうになるわ、
折角あつめた海闘士と海将軍と安住の地であるはずの海底神殿すら失うわ
挙句の果てには自分を謀ったシードラゴンはアテナに寝返るという始末。
散々な結果だった。
アテナイの支配権を巡る戦い、と後世伝えられる神話の真相はこういうことである。
それでもポセイドンはめげず、地上の領地であるアトランティスを要塞化し、
ポセイドンを奉る神官の体を使って尚も戦いを挑むが、
逆にアテナの誇る最大戦力である聖闘士により、アトランティスをも失う破目になり
遂にはその魂を封印されてしまうという結末に終った。
大陸すら吹き飛ばすという聖闘士の恐ろしさよ。
今思えば、狡猾なアテナの術中に嵌ったのだろう。
その後、何度も司祭の血筋の者の肉体を使って聖戦を引き起こすが、その度に封印されてしまう。
つい四年前の聖戦では、海底神殿すら聖闘士によって壊滅してしまうという事態に陥った。
だが、封印に抗う術を身に着けたポセイドンは、聖戦で敗北しても魂の完全封印に抗う事に成功。
封印の壷をカプセルホテル代わりに使用するのは、神多けど言えど、ポセイドンだけだろう。
四年前の聖戦は当のポセイドン自身としては最大の汚点だった。
いきなり額に黄金の矢を打ち込まれて眠りから起こされたわ、
気が付いたらアテナが目の前に居て壷に封印されそうになるわ、
折角あつめた海闘士と海将軍と安住の地であるはずの海底神殿すら失うわ
挙句の果てには自分を謀ったシードラゴンはアテナに寝返るという始末。
散々な結果だった。
その後、ハーデスと一戦構えたアテナに協力してやったのは、あの陰気な引篭もりの兄貴を心底嫌っていたからに過ぎない
ハーデス如きに地上をくれてやるなら小娘に任せたままのほうがまだマシだという判断だ。
デメテルの愛した地上をハーデス如きに穢されるわけには行かなかった
ポセイドンの、意地だ。
自分の意地と女の為だけにポセイドンは今まで戦争を吹っかけてきた。
その結果人間がどうなろうが知ったことではない、人間は放って置けばまた増えるだろうから。
そう思っていた時期もたしかに彼にはあった。
だが、敗北したからといって怨嗟を抱くことは無く、更には人という存在その物へ向ける目すら変わった。
優勝劣敗は兵家の常、戦闘という契約を履行する際には敗北は覚悟の上だ。喩えそれが望まぬ戦闘であったとしても。
望まぬ形ではあった、だが、しかし、神話の昔より至強を誇った海将軍七将のうち六将を討ち取り、
不落を謳った大洋七柱をへし折り、
遥かな太古より傷一つ付くことなく存在し続けたメインブレドウィナをも打ち砕いた者たちの存在は事実だ。
むしろ、ただの人間がそこまで遣って退けた事に対して賛辞を送らずになんとするものか。
ギリシア神話のほかの神々の例に漏れず、ポセイドンは英雄が好きだ。
神と人との調和たる黄金時代が終わり、神と人とが離れた白銀時代も終わり、神が人を見限った青銅時代もおわり、
人と人が手に武器を持って争いあう鉄の時代の現在において、彼らのような英雄が現れた事がポセイドンには嬉しかった。
たとえ敗北に打ちのめされようとも、その只一つの歓喜が彼の脚を支えた。
故に、ジュリアン・ソロと混ざり合った現状ですら好ましく思えるのだ。
この大地から英雄たちが消え果てた星霜の彼方に、こうして神々すら討ち果たす英雄が居るという事実が彼には、
とても、とても嬉しかったのだ。
人の身でありながら、強大な神に挑み、神から勝利をもぎ取る。
素晴らしいと、思った。
ハーデス如きに地上をくれてやるなら小娘に任せたままのほうがまだマシだという判断だ。
デメテルの愛した地上をハーデス如きに穢されるわけには行かなかった
ポセイドンの、意地だ。
自分の意地と女の為だけにポセイドンは今まで戦争を吹っかけてきた。
その結果人間がどうなろうが知ったことではない、人間は放って置けばまた増えるだろうから。
そう思っていた時期もたしかに彼にはあった。
だが、敗北したからといって怨嗟を抱くことは無く、更には人という存在その物へ向ける目すら変わった。
優勝劣敗は兵家の常、戦闘という契約を履行する際には敗北は覚悟の上だ。喩えそれが望まぬ戦闘であったとしても。
望まぬ形ではあった、だが、しかし、神話の昔より至強を誇った海将軍七将のうち六将を討ち取り、
不落を謳った大洋七柱をへし折り、
遥かな太古より傷一つ付くことなく存在し続けたメインブレドウィナをも打ち砕いた者たちの存在は事実だ。
むしろ、ただの人間がそこまで遣って退けた事に対して賛辞を送らずになんとするものか。
ギリシア神話のほかの神々の例に漏れず、ポセイドンは英雄が好きだ。
神と人との調和たる黄金時代が終わり、神と人とが離れた白銀時代も終わり、神が人を見限った青銅時代もおわり、
人と人が手に武器を持って争いあう鉄の時代の現在において、彼らのような英雄が現れた事がポセイドンには嬉しかった。
たとえ敗北に打ちのめされようとも、その只一つの歓喜が彼の脚を支えた。
故に、ジュリアン・ソロと混ざり合った現状ですら好ましく思えるのだ。
この大地から英雄たちが消え果てた星霜の彼方に、こうして神々すら討ち果たす英雄が居るという事実が彼には、
とても、とても嬉しかったのだ。
人の身でありながら、強大な神に挑み、神から勝利をもぎ取る。
素晴らしいと、思った。
黄金色の暴風がポセイドンに襲い掛かる。
アドニスの脚払い、というか足刀とでもいうべき蹴りをバックステップで避ける、
と、狙いすました貴鬼の光速拳の雨がふる。
しかしポセイドン、それの全てを裁く。
あげく、最後の一撃を放った貴鬼の腕を掴んで技のモーションに入っていたアドニスに投げつける。
もんどりうって転がる無様と追撃をアドニスごと巻き込んだ空間転移で避けつつ、
置き土産とばかりにアドニスが無数の薔薇を撃ち出す。
雪のように白い薔薇は、血を呑んでその花弁を真紅に染め上げる。
彼の叔父はこの技に絶大な自信をもっており、敵一人に対し一撃しか放たなかったが、
未熟なアドニスにはそこまでの自負はなく、無数にばら撒いて牽制打としか使えない。
その好血の薔薇の群れは、しかし束ねられていた。
アドニスの脚払い、というか足刀とでもいうべき蹴りをバックステップで避ける、
と、狙いすました貴鬼の光速拳の雨がふる。
しかしポセイドン、それの全てを裁く。
あげく、最後の一撃を放った貴鬼の腕を掴んで技のモーションに入っていたアドニスに投げつける。
もんどりうって転がる無様と追撃をアドニスごと巻き込んだ空間転移で避けつつ、
置き土産とばかりにアドニスが無数の薔薇を撃ち出す。
雪のように白い薔薇は、血を呑んでその花弁を真紅に染め上げる。
彼の叔父はこの技に絶大な自信をもっており、敵一人に対し一撃しか放たなかったが、
未熟なアドニスにはそこまでの自負はなく、無数にばら撒いて牽制打としか使えない。
その好血の薔薇の群れは、しかし束ねられていた。
「薔薇は愛でるものだ」
そう、海皇の右掌の中で束ねられていた。
光速で打ち出された白薔薇全ては、花束と化していた。
光速で打ち出された白薔薇全ては、花束と化していた。
「贈る宛てはあるのかね?ピスケス」
すべるようにして水面に着地し、二人が体勢を整える。
だが、二人の黄金聖闘士の顔に諦観はなく、むしろ猛り狂う闘志が見て取れた。
だが、二人の黄金聖闘士の顔に諦観はなく、むしろ猛り狂う闘志が見て取れた。
「そうだ、そうこなくては面白くない。
闘争の本懐だよ」
闘争の本懐だよ」
海皇の言葉が水銀燈の耳に届いた瞬間、閃光一閃。
光速突撃である。
黄金聖闘士は皆、光速の行動を可能とする。その光速拳の中でも最も単純な技だ。
しかし、単純であるが故に避けられやすい。
ポセイドンは何の苦もなくかわして見せた。水面に舞う一片の葉のように。
だが文字通り光速で敵に向かって突撃するだけのこの技は、その単純さ故に、聖闘士固有の技へと繋ぎやすいのだ。
なにより、貴鬼もアドニスもポセイドンに遠距離攻撃は効かない事を戦訓として知っていた為、
超近接戦闘を選択せざるを得なかったのだ。
光速突撃である。
黄金聖闘士は皆、光速の行動を可能とする。その光速拳の中でも最も単純な技だ。
しかし、単純であるが故に避けられやすい。
ポセイドンは何の苦もなくかわして見せた。水面に舞う一片の葉のように。
だが文字通り光速で敵に向かって突撃するだけのこの技は、その単純さ故に、聖闘士固有の技へと繋ぎやすいのだ。
なにより、貴鬼もアドニスもポセイドンに遠距離攻撃は効かない事を戦訓として知っていた為、
超近接戦闘を選択せざるを得なかったのだ。
「スターダスト・レボリューションッッ!」
大いなる星屑の群れが海皇に襲い掛かるのと、ポセイドンの手中の薔薇が茨の鞭へと変化するのは同時だった。
先代ピスケスも小宇宙で強化した薔薇を変幻自在に操ったが、アドニスも先代同様自在に薔薇を操ることが出来る。
無機物に比べて有機物は小宇宙の伝導率が高いとはいえ、それでも変幻自在に操ることは難しい。
小宇宙の伝導させる事に特化した聖衣や、その装身具といえども鍛錬が必須なことを鑑みれば自ずと分かるだろう。
こういった操作術の才は、事実上遺伝に寄るものが大きいのだ。
先代ピスケスも小宇宙で強化した薔薇を変幻自在に操ったが、アドニスも先代同様自在に薔薇を操ることが出来る。
無機物に比べて有機物は小宇宙の伝導率が高いとはいえ、それでも変幻自在に操ることは難しい。
小宇宙の伝導させる事に特化した聖衣や、その装身具といえども鍛錬が必須なことを鑑みれば自ずと分かるだろう。
こういった操作術の才は、事実上遺伝に寄るものが大きいのだ。
「ほぉ…。考えたな」
茨の鞭は手錠のように変化し、ポセイドンの両手を封じる。
如何なる達人といえども、両手を封じられれば戦闘力は激減する。
そして、彼の教皇シオンが編み出し、聖戦を戦い抜いた必殺の拳撃、光速の流星群は並ではない。
天翔る金羊の蹄は、あらゆる冥闘士を冥府へ逆葬させてきた。
後の世代の聖闘士は、シャカやデスマスクなどの突然変異を覗けばシオンと童虎二人の技に起源を求めることが出来る。
光速拳の打撃、という点をとれば、シオンのスターダスト・レボリューションはまさしくオリジナル・始祖なのだ。
故に貴鬼は怒りに駆られていた。
かつて星矢たちに、アテナに打倒され封じられた者がこうして目の前に立っているという事に。
そして何より、その敗者に震え慄く己に。
如何なる達人といえども、両手を封じられれば戦闘力は激減する。
そして、彼の教皇シオンが編み出し、聖戦を戦い抜いた必殺の拳撃、光速の流星群は並ではない。
天翔る金羊の蹄は、あらゆる冥闘士を冥府へ逆葬させてきた。
後の世代の聖闘士は、シャカやデスマスクなどの突然変異を覗けばシオンと童虎二人の技に起源を求めることが出来る。
光速拳の打撃、という点をとれば、シオンのスターダスト・レボリューションはまさしくオリジナル・始祖なのだ。
故に貴鬼は怒りに駆られていた。
かつて星矢たちに、アテナに打倒され封じられた者がこうして目の前に立っているという事に。
そして何より、その敗者に震え慄く己に。
シオンの、ムウの弟子の己がこの程度で震え慄いてどうする?
至強の黄金聖闘士、その長たるシオン最後の直弟子ムウの、最初で最後の弟子である自分。それがこの体たらくでどうする?
激情が貴鬼を突き動かしていた。
至強の黄金聖闘士、その長たるシオン最後の直弟子ムウの、最初で最後の弟子である自分。それがこの体たらくでどうする?
激情が貴鬼を突き動かしていた。
「しかし、無駄だ」
薄い無精ひげに覆われたポセイドンの美貌が、笑みに歪む。
黄金の小宇宙によって強化された茨の蔦の強度は、少なく見積もっても白銀聖衣級だろう。
だが貴鬼もアドニスも失念していた。
ギリシア神話世界において三貴神のうちの一柱である海皇を。
かつて天の主たるゼウスと争い、その支配権をもぎ取る手前まで行った海神の皇を。
ギガントマキアの終止符というべき冥府の門を築き、巨人をタルタロスの最奥へ封じた貴き神を。
茨の鞭は霧散した。紙ほどの障害にもならず。
金羊の雄雄しき蹄は虚しく宙を蹴った。波濤に崩される砂城の如く。
そして、海神の掌は貴鬼の首を掴んでいた。獣が得物に食らい付くように。
黄金の小宇宙によって強化された茨の蔦の強度は、少なく見積もっても白銀聖衣級だろう。
だが貴鬼もアドニスも失念していた。
ギリシア神話世界において三貴神のうちの一柱である海皇を。
かつて天の主たるゼウスと争い、その支配権をもぎ取る手前まで行った海神の皇を。
ギガントマキアの終止符というべき冥府の門を築き、巨人をタルタロスの最奥へ封じた貴き神を。
茨の鞭は霧散した。紙ほどの障害にもならず。
金羊の雄雄しき蹄は虚しく宙を蹴った。波濤に崩される砂城の如く。
そして、海神の掌は貴鬼の首を掴んでいた。獣が得物に食らい付くように。
「無駄と言われて…ッ!」
だが、黄金聖闘士にそこで死を甘受する愚か者は居ない。
零距離だ。
喩え死んでも一矢報いる。その覚悟を貴鬼の目に、声に見た海神の皇は、
死ぬな、生きて戦え、そう言うなり貴鬼を拘束から解放した。
零距離だ。
喩え死んでも一矢報いる。その覚悟を貴鬼の目に、声に見た海神の皇は、
死ぬな、生きて戦え、そう言うなり貴鬼を拘束から解放した。
「貴様ぁあああああああああ!」
激情迸る叫びはアドニスのものであり、貴鬼のものだ
空間転移でもって離脱した貴鬼と対なすかのような光速突撃。
誇りを穢された。
黄金の誇りを穢された。
親友の誇りを穢された。
感情がただ一つ、嚇怒に塗りつぶされたアドニスに、最早先ほどの瓢げ者の気配は読み取れない。
空間転移でもって離脱した貴鬼と対なすかのような光速突撃。
誇りを穢された。
黄金の誇りを穢された。
親友の誇りを穢された。
感情がただ一つ、嚇怒に塗りつぶされたアドニスに、最早先ほどの瓢げ者の気配は読み取れない。
「その激情、危険だぞ?ピスケス」
しかしアドニスの光速突撃は当たらない。
当然だ、海皇は貴鬼の光速突撃を見切っている。
だがアドニスは近づければ良かったのだ。
海皇のうち懐へと飛び込んだアドニスは、絶対の自信を持つ一撃を放つ。
当然だ、海皇は貴鬼の光速突撃を見切っている。
だがアドニスは近づければ良かったのだ。
海皇のうち懐へと飛び込んだアドニスは、絶対の自信を持つ一撃を放つ。
「リヴァイアサン・スクリームッ!」
怪魚の雄叫びが水面を震わせ、空間を軋ませた。
後事など一切合財考えない、文字通り死力を振り絞った一撃だ。
アドニスの超光速衝撃波は、空間を打ち抜いていた。
何も無い空間を。
後事など一切合財考えない、文字通り死力を振り絞った一撃だ。
アドニスの超光速衝撃波は、空間を打ち抜いていた。
何も無い空間を。
「技を過信しすぎだぞ?ピスケス」
水がまるで鞭の如く変化し、アドニスの右足に絡みつき、彼を天高く放り上げていた。
空中でさらに無数の水の弾丸に打ち抜かれ、アドニスは赤い血を撒き散らしながら落下した。
壊れた人形のように落下するアドニスを、貴鬼な敢えて意識下から弾き出して再度突撃を敢行する。
ただの突撃ではない、今度は無数に分身を繰り返しながらの乱打突撃だ。
サイコキネシスで生み出し、または純粋な体術で作った分身を交えての光速突撃に、流石の海皇も感嘆の声を漏らした。
だが、それで手打ちだった。
今の貴鬼にスターダスト・レボリューションを越える技はない。
スターライト・エクスティンクションは貯めの時間が僅かにかかる上に、
この技本来の使い手である師・ムウであっても確実に仕留めるには相手の動きを封じなければ成らなかった。
海皇を留めるには、それこそゼウスの雷かハーデスの命を刈り取る剣でも持ち出さねば成らないだろう。
ならば、最期の手段だ。
空中でさらに無数の水の弾丸に打ち抜かれ、アドニスは赤い血を撒き散らしながら落下した。
壊れた人形のように落下するアドニスを、貴鬼な敢えて意識下から弾き出して再度突撃を敢行する。
ただの突撃ではない、今度は無数に分身を繰り返しながらの乱打突撃だ。
サイコキネシスで生み出し、または純粋な体術で作った分身を交えての光速突撃に、流石の海皇も感嘆の声を漏らした。
だが、それで手打ちだった。
今の貴鬼にスターダスト・レボリューションを越える技はない。
スターライト・エクスティンクションは貯めの時間が僅かにかかる上に、
この技本来の使い手である師・ムウであっても確実に仕留めるには相手の動きを封じなければ成らなかった。
海皇を留めるには、それこそゼウスの雷かハーデスの命を刈り取る剣でも持ち出さねば成らないだろう。
ならば、最期の手段だ。
「容易く命を掛札に使うなと言っただろう、小僧」
命を弾丸と化す技を見切られたのだろう。
息子を叱り飛ばす親父のような声色と共に、海皇は貴鬼を殴り飛ばし、
水面に叩きつけられる寸前だったアドニスに彼をぶち当てた。
息子を叱り飛ばす親父のような声色と共に、海皇は貴鬼を殴り飛ばし、
水面に叩きつけられる寸前だったアドニスに彼をぶち当てた。
子ども扱いどころではない。
実力が違いすぎた。
実力が違いすぎた。
「さて、お嬢さん。
私と一緒に来てはくれないかな?」
私と一緒に来てはくれないかな?」
この間、五秒。
海皇相手に良くやったといえるだろう。
聖闘士ではない水銀燈には、まさしく閃光が瞬いたようにしか見えなかった。
黄金聖闘士二人がかりで、手も足も出ない。それが神の領域だった。
海皇相手に良くやったといえるだろう。
聖闘士ではない水銀燈には、まさしく閃光が瞬いたようにしか見えなかった。
黄金聖闘士二人がかりで、手も足も出ない。それが神の領域だった。
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