SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「やさぐれ獅子 ~二十二日目~ 53-1」で検索した結果
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やさぐれ獅子 ~二十二日目~ 53-1
昼飯の最中に来客があった。 口の中に入れたばかりの果肉を吐き捨て、向き直る加藤。 「変なタイミングで来やがって……さっさと終わらせてやる」 「安心しな。嫌でも短期決戦にならァ」 「……なに?」 来客は明るい金髪にラフな格好をした未成年らしき少年だった。指には輪が、首には鎖 が、口にはガムが当たり前のように装備されている。 「勝負は必ず十発で決まる。今日はそういうルールだ」 「十発?」 「アンタ、テレビゲームとかやる? ……やりそうもねェな。あれってライフがゼロにな れば、トドメがなんであろうと死ぬわけよ。今回の試練もあれに近い。最後の攻撃が何で あろうと、決められたライフが全部なくなったら死ぬ」 「おい、ゲームとかじゃ全然分からねぇよ。もっとストレートに話せや」 「オーケー、オーケー。いいか、今日は先に十発もらった方が“死ぬ”」 ... -
やさぐれ獅子 ~二十四日目~ 53-1
「ちくしょう、なんてぇ火力だ!」 燃え盛る火炎を前に、加藤は怒りの混じった大声を吐き出す。炎の侵攻は恐るべき速度 で進み、熱帯林が次々に炭と化していく。 業火の主は、右手に持ったステッキから炎を召喚しながら加藤を追い詰める。虫かごに 閉じ込めた昆虫に殺虫剤を浴びせかけるように陰湿で、効果的な戦法だった。すでに島全 体の樹木のうち、五パーセントが失われていた。 逃げれば逃げるほど不利になる。かといって、真っ向から挑んでどうにかなる相手でも ない。 試練『魔法使い』が加藤の前に現れたのは、まだ空が白んでいる早朝のことであった。 もはや日課となった砂浜でのロードワークを終え、食料調達に森に入ろうとした時、背 後に気配を感じた。 「──誰だッ!」 「おぉっ、あまり大きな声を出さないでくれないか。やかましくてかなわん」 「んだと……」 ... -
やさぐれ獅子 ~二十三日目~ 53-1
深層意識よりも更に深い深い暗闇。永遠に封印されるべき領域で、満たされぬ欲望に苦 しみ蠢く魔獣。 加藤は試練を乗り越える過程で、奥底に潜む魔獣に気づき始めていた。 初めて体感したのは自らの偽者に打ち勝った瞬間である。明らかに空手では上回ってい た偽者を葬り去った一撃。あれが始まりであった。 一流と呼ばれる格闘士は皆、心に餓えた獣を宿しているが、加藤はそうではない。凶器 をためらわず使用し、人生を捧げた空手さえ道具と断じた男に、獣などという高貴な象徴 が棲みつくわけがなかった。 加藤が宿していたのは魔獣。不規則に生えた牙、猛毒を含んだ爪、異常に肥大した眼球、 醜悪としか評しようがない手足、誰もが目を背ける下賤な存在。ただひたすらに殺傷能力 しか取り柄がない魔獣であった。 今までは無意識に魔獣の出現を抑えていた。もしこれが外に飛び出したら、... -
:やさぐれ獅子 ~二十四日目~ 53-2
「けっ、タネが分かりゃどうってこたァねぇ。ギリギリで避けなきゃいい話だ」 猪突猛進。神経を研ぎ澄まし、つららを早めに見切り、一気に魔法使いに迫る加藤。 「やはり原始人。学習能力に乏しいようだ」 瞬間移動。文字通り一瞬で背後に回った魔法使いは、加藤の背中に数万ボルトの雷撃を 炸裂させた。 「がっ!」 たまらずダウンし、のたうち回る加藤。 「あれで気絶しないとはさすが無駄に鍛え込んでいるな。魔法の試しがいがあるよ」 「この……ッ」 「さてそろそろリクエストタイムだ。どんな魔法で死にたい?」 「死ぬのはてめぇだッ!」 立ち上がって魔法使いに飛びかかるが、案の定直前で瞬間移動される。傷ついた足では 踏ん張りが利かず、まだ焼けている木の残骸に手をついてしまった。 「熱ッ! ぐわあぁぁっ!」 「──よし決まった。焼き殺すことにしよう」 ... -
やさぐれ獅子 ~二十六日目~ 54-1
僅か一日にして島の様相は一変した。立っている木は一本もなく、執拗な雷によってあ ちこちが焼け焦げている。住んでいた獣や昆虫も壊滅した。土壌も同様だ。雨降って地固 まる、の諺の如く、かえって固く引き締まった。 環境ばかりではない。天災と正面からぶつかったダメージは大きく、体中にガタがきて いる。 これまでの主食であった果実も失われた。グチャグチャに潰れ、土と混ざった実を加藤 は淡々と食する。もちろん不味い。 廃墟と化した島を見渡し、加藤はやはり井上を帰しておいて良かったと安堵する。 今日を含めあと五日、あと五日間を生き延びれば元の世界に帰れる。こんな殺風景では ない、豊かな日常に戻ることができる。 とはいえ、今の加藤にそれを想像するほどの余力はなかった。彼に必要なのは今日とい う日を生き抜くための力だけなのだから。 ひとまず空腹は... -
やさぐれ獅子 二十一日目 53-1
気づけば、上下のない空間に閉じ込められていた。 目の前には漆黒が広がる。明かり一つない、正真正銘の闇。だが、不思議と恐怖はなか った。 手足をばたばた動かしても、まるで手応えがない。前に進んでいるのか、同じ座標で徒 労を演じているのかすら判断がつかない。 泳ぐ、休む、泳ぐ、休む。これをどれだけ繰り返しただろうか。突然、ある一点に光が 灯った。光はみるみるうちに大きくなり、やがて人の形を取った。 「誰だ、てめぇは!」 「私は武神」 「ぶ、武神だと?!」 「丁度いいところに来てくれた。君には私の手伝いをしてもらおう。もし彼に君と戦う資 格があったならば、とても素晴らしいものとなるはずだ」 武神を名乗る光がまっすぐに飛んできた。 逆らう暇もなく、その光に呑まれた──。 一人ぼっちの朝。井上はもういない。 自分でも... -
やさぐれ獅子 ~二十八日目~ 54-1
「ククク、いいのかよぉ、この俺様を試練にだとぉ? てめぇ、おかしくなっちまったん じゃねぇのかぁ?」 「かまわん。方法は君に任せる」 「本当かよぉ。ただし、てめぇの期待する成果になるとは限らんがなぁ、ケケッ」 「………」 武神が拘束具を解くと、猫背の男は嬉しそうに去っていった。みるみる小さくなってい く後姿を横目に、背後に控える巨漢が心配そうに話しかける。 「オイ、いいのかよ。あんな奴にやらせちまってよ」 「はっきりいって結果はまったく予想がつかん。あるいは、取り返しがつかない事態にな るかもしれない。なにせ奴の唯一にして最大の生きがいは他人の嫌がることを実行するこ とだからな」 「だったらよぉ」 「だからこそ必要なのだ。急速に成長している彼に試練らしい試練を与えてやれそうなの は、もう奴くらいしか残っていないのだから」 猫背がい... -
やさぐれ獅子 ~二十五日目~ 54-1
疲れ果てた形相で、乾いた星空と向き合う加藤。数億光年の彼方にある天体たちは、加 藤の苦労など眼中にないかのように一心不乱に瞬いている。 「くそっ!」 悔しさから、拳を空に突き上げる。が、まるで届かない。 「さすがに星は殴れねぇか……」 自嘲を含んだ口ぶりで加藤は寝そべる。 「まだ……五日」 夢と現の狭間で呟くと、加藤は睡眠という形で一日を終えた。 二十五日目の試練、クリアーである。 バケツどころか、プールがひっくり返った。 巨大な水の塊が絶えず加藤を打ちつける。異常なまでの重さと痛みに、しばらく水であ ることに気付かなかったほどだ。 雨というには余りにも非情な雨。スコールなどと呼べる次元ではない。空襲といった方 が正しい。 生命(いのち)を育むはずの水が、加藤の命を削っていく。時間と共に、肉体が右肩下 がり... -
やさぐれ獅子 ~二十七日目~ 54-1
首から上は獅子と大蛇の混合、首から下はティラノサウルスのフォルム、標高五メート ル。十センチを超える牙が規則正しく生え揃い、絶えず生温かいよだれを垂れ流している。 二つある胃袋には、それぞれ火と氷を貯蔵しており、いつでも外に吐き出すことが可能だ。 むろん、人語など一切通じない。 巨躯に殺気を詰め合わせただけの、正真正銘のケダモノ。 魔法を打ち砕き、天災を耐え忍び、死をも乗り越えた加藤に送り込まれたのは、竜神の しもべであった。 「でかっ」 加藤の第一声がこれだ。 冷静に規模(スケール)だけを比較すれば、島全体を巻き込んだ風神と雷神の方が上だ が、眼前に五メートルが居座るとやはり迫力が違う。 ファーストアタックは加藤。 勢いよく飛び出し、竜の腹に正拳をめり込ませると、跳び蹴り、前蹴りを突き刺す。さ らに肥えた腹を駆け上り... -
やさぐれ獅子 ~二十九日目~ 54-1
昨日、邪神改めバカの神のおかげで戦わずに済んだのは、加藤にとってラッキーだった。 丸一日を休息に当てることで、完全ではないにせよ体力を回復させることが出来た。 今日は早朝から、加藤はストレッチとランニングで軽く汗を流す。後に末堂との試合を 控えているが、緊張している様子はない。むしろ感謝すらしていた。 武神から入手した情報をまとめると次の通りだ。 加藤が出会った末堂は、紛れもない本物であり、しかも現実での記憶を失っていた。実 際に話しかけてみたが、 「末堂、なんでてめぇまでこんなとこにいやがる!」 「あァ? 俺はおまえなんて知らねぇよ。寝ぼけてるんじゃねぇか」 「まさか忘れちまったのか? 俺だよ、加藤だよ!」 「だから知らねぇって」 まったく噛み合わない。武神に記憶を操作でもされたのだろうか。 さらにこの十日間で、武神は末堂に強化... -
やさぐれ獅子 二十一日目 53-2
今の攻防で加藤は悟った。 (こいつら──逆だ) 試練である二人組。若者と老人という、体格も雰囲気も対極なタッグ。 (若い方が技、ジジイが力、だったんだ。……参ったぜ) ここは常識が通じない世界。女性よりも細い腕にパワーショベル級の力が備わっていた としても何ら問題はない。二十日間を過ぎてなお、加藤は常識に縛られていたのだ。 砂を掴み、再度加藤が立ち上がる。二人も加藤の顔つきから、自分たちの秘密が解き明 かされたことを悟る。 「ふぉふぉ、どうやら気づいたようじゃの」 「ええ……ですが遅すぎました」 「勝負は先手必勝が常、野球やサッカーでも一回表に十点取られたり、前半で三点差もつ けば、嫌でも選手の心は折れる。あのダメージではもう奴に成す術はあるまいて」 「はい。グラブを着用しない野試合では初動が特に重要です。一撃かニ撃、短時間で回復 ... -
やさぐれ獅子 二十日目 43-1
『香取大明神』『鹿島大明神』 掛け軸となりて神心会本部道場を守護する神々。 長年通っていた聖地とはいえ、ところどころがぼやけてしまっている。加藤は最大トー ナメントが終わってからは、再び闇社会に堕ちていたためだ。 しかし、この人だけはぼやけることがない。たとえ何年会わなかろうと。 耳を澄ませば、声すら聞こえてくる。 「……ぇな」 「……だとッ!」 「──ったく、おめぇといい末堂といい、分かっちゃいねぇな」 「なんだとッ!」 「これが三戦ってんだよ……。攻守に長け、なによりバランスがいい」 「バランス……」 「船の上で考案された代物だからな。あいつにもいったが、電車の中で喧嘩売られたら試 してみな」 回想を終える。と、加藤はごく自然に三戦立ちの体勢となっていた。 「館長、ありがとう。俺はもうこれに賭けるしかねぇ」 背水の陣。もし三戦が通用し... -
やさぐれ獅子 二十日目 43-2
武神と井上。憎むべき敵と愛した後輩。ふたつの姿が薄れていく。 はっきりと目に映っていた輪郭は徐々にぼやけ、極めて透明に近い濃度となる。 「じゃあな、井上……」 そっと微笑み、加藤が別れを告げる。 次に会えるとしたら、試練を全て耐えた後。十日後、自分は生きているだろうか。もは や死に対してはさほど恐れはないが、井上に会えなくなることはとても恐ろしかった。 もうまもなく、武神と井上が完全に消える。 「………」 いなくなる瞬間は目にすまいと、加藤が背を向ける。と、後ろからだれかがのしかかっ てきた。 「──なっ?!」試練か、と拳を握る加藤。 しかし、柔らかいこの感触──女のボディだ。 「待ってください!」 「え……えっ? い、井上!?」 背中には井上が泣きながら張りついており、姿もくっきりと映っている。振り返ると、 武神が立っていた。 「空間転移す... -
永遠の扉 第066話
ややあって。 交差点の一角で、もはや買い替え時期の見えた消しゴムよろしく縮んだ千歳が、天を向いて 滝のような涙を飛ばしていた。 「ああもう~! どうして私ばっかり~!!」 (狙いやすいからだ) (一番狙いやすいからだな) (貴殿はまったく以て判じ難い) 以上は防人、斗貴子、根来の順である。 群衆が行き過ぎるたび、戦士一行の平均年齢は低下の一途をたどっていた。 (以下は本来の年齢 → 現在の年齢) 防人 27 → 27 根来 20 → 16 斗貴子 18 → 15 千歳 26 → 10 ※ 斗貴子の年齢は一巻ライナノートでは「17」。 ただし年齢発表時の作中時間が春先のため、誕生日(8/7)後の9/4は「18」とした。 防人が無事なのはシルバースキンあらばこそ。 「例え群衆に... - @wiki全体から「やさぐれ獅子 ~二十二日目~ 53-1」で調べる