SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「永遠の扉004-2」で検索した結果
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永遠の扉004-2
第004話 「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ」 (2) 有無をいわさず一足飛びに斬り込む秋水を、総角はひらりと避ける。 そして胸の認識票に手を当て、斗貴子へまとわりついていた霧を拡散。 「確か、千歳さんだったか…… 俺を追ってきた女戦士とお前が顔見知りだと戦略上困る。 先ほどと同じようにレーダーを遮断させてもらうぞ。別にだな、悪夢を見せるのが嫌になった とかそういう訳ではなく、戦略的に仕方なくだぞ」 霧の正体はチャフの武装錬金、アリスインワンダーランド。 密集状態での特性は、対象の持つ忌まわしい記憶を見せるコト。 つまり。それが部屋一面に拡散した以上…… 「戦術級最強レベルの相手が復活する」 斗貴子の瞳に光が灯り、彼女は手負いの獣のような哀愁入り混じる壮烈な叫びを上げ、突撃。 狙われたのはシルクハットの刀傷を押さえつつ、斗貴子に背を向けドタドタと窓際まで... -
永遠の扉007-4
第007話 「みんなでお食事」 (4) 「見るな」 「う、うん」 まひろの切り替えは早い。すぐさま指示に従い秋水の後ろへ隠れる。ただ、 (何が起こったんだろう) 純粋な子どもじみた恐怖と心配を抱いて、眼前にそびえる逞しい背中に頼りたくなる。 秋水は頼られるとも知らず、名にこもった「切れ味の良い刀剣」じみた目線で総角を見る。 ただのホムンクルス同士のいざこざであったのならばこうはならなかっただろうし、事実、逆 向はL・X・E所属のホムンクルスである。 ただしその装束はなぜか銀成学園の制服。ゆえに誤解が生じた。 つまり、総角が一般生徒を殺害したという単純極まる誤解が。 単純極まるといえば日本刀という兵器の機能もそうであり、殺傷能力を追求する過程で期せ ずして美術品へと昇華してしまうように、切れ長の瞳に湛えられた蒼き冷光は、一種凄然な 色気を秋水に与えている。 ... -
永遠の扉004-1
第004話 「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ」 (1) 彼女は知った。 いかに気をつけて行動していても、偶然や他者の恣意、あずかり知らぬ慣習がそれを打ち 崩すコトがままあると。 失敗。 綿密に練った計画ですら状況の如何によってはそちらへ触れる。 反射的にとった言動ならば、なお。 幸い大きな綻びには至らなかったが……軽挙妄動は慎むべき。 彼女は、潜入生活の始めにそう学習した。 「全く。まひろといいあなたといい、門限を破るなんて」 「ごめん千里ちゃん」 「? 珍しい。私をあだ名で呼ばないなんて」 「あ、えと。あちこち歩き回って疲れてるせいかな。あはは。まひろみたいについ忘れてて」 「ホントに疲れてるみたいね。まひろまであだ名で呼ばないなんて…… ブラボーさんに謝っ たらすぐ寝なさい。夏休みだってもうすぐ終わるんだから、そろそろ生活のペースを戻さな... -
永遠の扉005-1
第005話 「総ての序章 その1」 (1) 1850年(嘉永3年)6月28日。 というから「怪談」で知られる小泉八雲に1日遅れた事になる。 ともかくも、彼は生まれた。 生まれた当時は他の人間がそうであるように、ただ泣き喚き乳を欲し、排泄物の処理を他 者に委任していた彼であるから、後年起こる数多の出来事──… 1853年 (03) 黒船来襲 ※()内は年齢 1854年 (04) 日米和親条約締結 1858年 (08) 安政の大獄 1860年 (10) 桜田門外の変 1863年 (13) 新撰組結成 1864年 (14) 池田屋事件 禁門の変 1866年 (16) 薩長同盟成立 1867年 (17) 大政奉還 1868年 (18) 明治元年 鳥羽・伏見の戦い 1869年 (19) 東京遷都 鳥羽・伏見の戦い終結 1777年... -
永遠の扉007-2
第007話 「みんなでお食事」 (2) どぎまぎする少女はそこはかとなくまひろに似ている。 リスのように丸っこい瞳が特にそうであり、前髪を中央から三つ又に分けているのも類似点。 違うとすれば、セーラー服をまとったなめらかな肌。まるで日光を知らぬ永久凍土のごとく白 くひんやりと透き通り、あたかも名工が心血をこめて作り上げた人形のようだ。 人形といえば、発達途上の胸の中ほどまで伸びた髪も多分にその要素を含んでいる。 幾筋もの太い束に分けて大きな円筒状のアクセサリーを被せたヘアスタイルは全くに。 「ね、ね、助けたらお礼代わりにメルアドちょーだい。女ともだち、あやちゃん位なのよね」 「たかが人間の女に何ができる」 少女の回答を待たずして、男たちの横槍が入った。 「あたしホムンクルスよ。まー、ぶそーれんきんはご主人と違ってつかえないけど」 その一瞬、少女の瞳が細まり冷えた... -
永遠の扉006-2
第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (2) 「が、奴らとコトは構えない。昨晩の戦闘にしたって、アレは最後の1つが懸かっていたからだ。 まぁ結局、侘び代わりとかじゃなく、当面の目的を果たす時間稼ぎのためにくれてやったが」 小札はにぱぁっと笑った。総角の物言いが面白いらしい。 「当面の目的は『もう1つの調整体』が眠っている場所だ。突き止めしだい、最後の割符を奪 還し起動。入手して逃げる」 呟きながら認識票を一撫で。 ヘルメスドライブを発現し、その六角の筺体を頼もしげにぽんぽん叩く。 小札はそんな挙措を楽しそうに眺め続けている。 昨日総角が、「入手したはいいが盗撮はいかん!」と悩んでいたのを知っているからだ。 まぁ、結局彼は3秒ルールを突発的に提唱し、相手をちょっと見て戦闘ないしはそれに準ず る(ミーティングを除く。プライベートの話が出てきたら困るらしい)... -
永遠の扉005-2
第005話 「総ての序章 その1」 (2) 山の中腹で最初に見たのは、顔の右半分が破裂した西洋人の死体。 まだ死臭は薄く、飛び散った歯も唾液と血液に濡れ光っていた。 熊にやられたとかそういう類の傷ではない。 打撃点に向かって一気に、まるでねじ込まれる様な…… 同様の死体が他にも2つ転がっている。 首から上が破裂している者、肩口を抉られたまま恐怖の表情で事切れている者。 皆総て、紺地に幾何学模様をあしらった制服を着用していた。 それが錬金戦団における再殺部隊の制服だとは、爆爵は死ぬまで知らなかった。 目を引いたのは、躯の傍らに落ちている六角形の金属片。 爆爵は文献で読んだからそれが何か知っている。 核鉄。 だが欲し続けたそれをも凌ぐ昂揚感が爆爵を突き抜けた。 未知への震えに口腔が乾く。少年時代、錬金術の本を見つけた時のように。 ……視線の先。 切り開かれ... -
永遠の扉 第001話 ~ 第009話
ここより前の話 永遠の扉 第003話 「探しものはなんですか?」 (1)(2) 第004話 「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ」 (1)(2) 第005話 「総ての序章 その1」 (1)(2) 第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (1)(2) (3) 第007話 「みんなでお食事」 (1)(2) (3) (4)(5)(6) 第008話「総ての序章 その2」 (1)(2) 第009話「例えばどんな風に悲しみを越えてきたの?」 (1)(2) 第010話 ~ 第019話 登場人物一覧 偽キャラクターファイル №2 小札零 №3 栴檀香美 -
永遠の扉007-5
第007話 「みんなでお食事」 (5) 「──という訳で、二学期からの転入となる一年、ヴィクトリア=パワードだ」 防人の紹介が終わると食堂全体から歓声が上がった。 さもあらん。紹介されたのは金髪で透き通るような白い肌を持つ、外国人の少女だ。 緊張しているようだが、声はなめらかで日本語も流暢で、とかく聞くものの耳に心地よい。 生徒達は思い思いに誕生日から星座からなんでもかんでも聞きまくり、果てはスリーサイズ を知りたがる不逞の輩や罵倒を期待するマゾ気質のブタ野郎(いやに声が低い。マジに)ま でもが出現し、食堂はお祭り状態になった。 少女はそれらに、間延びしたどこかとろくさい声で答えたり、時にはクスクス笑ったり ひどく慌てたりと、表情豊かに反応を返すから、生徒達の印象はますます良くなる。 さて、紹介を終えた防人は斗貴子を連れて部屋の片隅にこっそり移動した。 斗... -
永遠の扉007-3
第007話 「みんなでお食事」 (3) 「ところで転校生してくるコってどんな名前?」 秋水と並んで寄宿舎へ歩くまひろは、ようやく触れるべき話題を思い出した。 昨晩、彼女は桜花から転校生の世話を頼まれたのだ。 ただし生来の性格から、ついつい聞き忘れていたのだ。 「名前は……」 言いよどむ声の半ばで、乾いた爆音が響いた。 「わ。花火かな? まだそんなに暗くないのに珍しいね」 まひろは水平にした掌を額へ当てて、遠くを見た。 総角の放ったニアデスパピネスの音は、まひろのみならず寄宿舎にも届いた。 距離的には秋水たちよりも近いので、当たり前といえば当たり前だが。 (いまのは一体……?) 食堂にいた斗貴子はとっさに飛び出しかけたが、すぐに何らかの陽動を疑い踏みとどまる。 現在、彼女を含めた戦士勢は「寄宿舎に内通者がいるかどうか見極める」べく行動中。 千歳と斗貴子... -
永遠の扉007-1
第007話 「みんなでお食事」 (1) 客足が遠のいたとはいえそれなりに忙しいお昼時をすぎると、バイト少女は一息ついた。 銀成市にはある意味でとても有名なハンバーガーショップが存在する。 名をロッテリや。 一時期、銀ピカの全身コートや蝶マスクのタイツ男、中国風の巨漢2人などなど、筆舌に尽く し難い変態どもの巣窟となっていたため、「変人バーガー」という蔑称の方が市民になじみ深い。 さて、お昼をすぎたとはいえやらねばならんコトはたくさんある。 例えばハンバーガーを入れる袋。 これは大きさに応じて4号袋(たい)、6号袋、10号袋とそれぞれ分かれているが、この内6 号袋はかなりの頻度で使用されるので、消耗が激しい。 うっかりしていると折角ハンバーガーができても入れる袋がないという事態を招き、お客様へ の円滑な商品引渡しが不可となるので補充はこまめに行わなければならない。... -
永遠の扉006-1
第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (1) ──8月28日。昼。 やっぱ変わっている。 居並ぶ剣道具の一団からそんな声が漏れると、みなひそひそながらに同意を示した。 彼らの前で展開される打ち合いは、実に濃淡鮮やかだ。 片や紺の剣道着にオーソドックスな黒の防具。 片や白の剣道着に気障ったらしくすらある白篭手と白面。 早坂秋水その人だ。 彼は面金の奥から鋭い叱責を飛ばす。 「動く時も左手はヘソの辺りに固定する事! 左手のブレは足にも響く!」 「は、はいっ!」 対する黒い防具の部員はまだ1年と年若い。 おたおたと必死に左手を直して、容赦なく注ぐ竹刀の雨に応戦する。 打ち合う竹刀がぱちぱち鳴るたび、彼の足取りは徐々に徐々に押されていく。 退き方も実にぎこちなく、一歩後ろへいくごとに体がブレてますます体勢が崩れていく。 それでもまだ、打ち込まれて... -
永遠の扉006-3
第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (3) なぜ、こういう状況に置かれているのか。 正直理解に苦しむ。 けれど苛烈であろうと馬鹿げていようと、処して目的を果たすのが自分という存在に許された たった一つの在り方だ。 そう。 迷い込んだのは夢なんかじゃなくて現実。 自分を変えたいのなら動き出すしかないから…… 「司令…!! もはやこれまで!! 私はゾンビになどなるのは御免です。……お先に!!」 教壇の上で河合沙織がこめかみにつきつけた銃を弾くと、傍らのまひろは手にしたジッポラ イター(設定上は起爆スイッチ)のフタを開けた。 声に出すなら「むむむ……」といった面持ちをする彼女は、七三分けのカツラやつけヒゲと あいまってなかなかにコミカルである。 そしてその眼前へジッポライター入りの握りこぶしを荘重に掲げた後、下唇をかみしめてや や寂しげな目をし... -
永遠の扉007-6
第007話 「みんなでお食事」 (6) 「私、武藤まひろ! まっぴーって呼んで!」 細身にまとわりつく元気いっぱいの少女に、ヴィクトリアはひどく嫌気が指してきた。 生徒たちからの質問攻めが終ったと思ったら今度はコレだ。 「すごい、びっきーがもう来てるー!」と叫びながら飛びついてきたと思えば、背後から抱きつ いたり髪をいじりまわしたり、人差し指と親指で作ったリングを目の前にかざして「79」と意味 不明の断定を下したり、「ね、ね、斗貴子さんと同じ制服だけどどういうカンケイ? ああでも いいなー斗貴子さんとペアルック。私も着たいー!」と好き勝手に騒ぎ散らしている。 (次から次へと鬱陶しいわね。どこがいい学校よ) だが、わざわざ猫をかぶって反応する自分のちぐはぐさにも腹が立つ。 イヤならば本性を露にし、楽しくて光に満ちた暖かな空間を壊して立ち去る方が良いのだ。 だがそれ... -
永遠の扉 第051話
蝶野邸から地上へ長々と続く階段を降り切ると、ヴィクトリアは「ほう」と目を丸くした。 「ご苦労なコトね。それとも私が逃げ出した時の備えかしら?」 「いいえ。あなたの武装錬金ならヘルメスドライブの追跡を遮断できる筈。それに彼と彼女なら 必ずあなたを説得できるからその件について私の出る幕はないわ。違う?」 「見れば分かるでしょ」 誰用かは不明の皮肉を表情に織り交ぜて、ヴィクトリアは軽く肩をすくめた。 「そうね。だから私の役目は今からよ」 塀にしだれかかっていた女性はひどく事務的な言葉で応答すると、右手に装着した六角形 の楯とヴィクトリアの右肩にいる桜花を順に確認し、最後にその背後で鮮やかな影が動くのを 見ると片眉をぴくりと動かした。無表情な美貌に生じた変化はそれだけだった。 「びっき~ もうちょっとゆっくり歩いて~」 「まったく。人一人抱えてる私... -
永遠の扉 第012話 2
河原近く。土手の頂。道路。 すえた暑気を十数mばかり挟んで相対する3つの影がそこにある。 斗貴子・剛太。栴檀香美。 『もう1つの調整体』起動に不可欠な割符をめぐる攻防は、これより佳境に差し掛かるだろう。 「行くぞ剛太!」 ハスキーな声をあらん限り振り絞ったのは斗貴子! 闇をつんざき住宅街に轟く声の中。 亡者を打ちのめす閻魔よりも傲然とッ! 獲物に向かう断食8日目の狂犬よりも早くッ! 「おおおおおおおおおおおおッ!!」 両手を腰の辺りで後ろに垂らし、斗貴子は再特攻を試みる。 周囲で銀の光を撒き散らす処刑鎌をすらりと避けて、緑の影も前へ行く。 風と振動に揺すられる鋭角的なショートボブを流し目でニヘラと盗み見たのは中村剛太。 「了解ッ!」 スケーターのようにシャッシャッなめらかに足で地を掃き、蛇行しながら向かっていく。 両者とも火中より... -
永遠の扉 51-2
第021話 「環境の変化(中編)」 「俺のシルバースキンは精神状態によって硬度が大きく左右される。戦闘時には例えミサイル が直撃しても爆ぜない……というのは既に何度も聞かせたな」 シルバースキンを解除し、脇腹の辺りを確認した防人はちょっと顔をしかめた。 つなぎが破られ、一文字の朱線から血のしずくがこぽこぽとこぼれている。 「ええ」 秋水はうなずくと、「それに倣ってみました」と言葉少なにつぶやいた。 表情は暗い。防人の傷を深刻そうに眺め、持っていた核鉄を差し出した。 シルバースキンが砕けた瞬間、あわや刃が肉に食い込む寸前で秋水は武装錬金を解除し たのだ。 「気にするな。そうやって咄嗟に止められただけでも偉い」 秋水を手で制して笑って見せる防人だが、もっとも内心はけして穏やかではない。 心中の彼は髪や瞳や不精ひげや肌の色素すべて... -
永遠の扉 第075話
「ダブル武装錬……」 「させません」 鐶の口から伸びたキツツキの舌が核鉄に張り付き、凄まじい速度で手元へと回収した。 (この舌……! そうか、根来や千歳さんの核鉄を奪ったのはコレか。恐らく戦士長のもう一つ の核鉄はストレイトネット解除時に素手で奪っているだろうが) 鐶は核鉄をポシェットにしまった。斗貴子は核鉄の奪還も考えたがかぶりを振った。 (欲目をかくな。今は章印への攻撃を集中するのが先決) 「……そういえば、割符……あの人が持っているかと思いましたが」 「ああ。貴様らが狙う割符は私たちのうち誰かが持っている。だが易々とは奪わせない!」 銀成学園玄関前で雷光のごとき斬撃がぶつかり合った。 現在の状況 津村斗貴子 … 銀成学園にて鐶光と交戦中 中村剛太&早坂桜花&エンゼル御前 … 銀成学園へ移動中。 防人衛 … 戦闘不能(年齢... -
永遠の扉 過去編
【過去編 ──接続章── 】 「”代数学の浮かす” ~法衣の女・羸砲ヌヌ行の場合~」 1 2-1 2-2 3-1 3-2 3-3 4 5 ──接続章── 「”過去は過去でなく輪廻して今”~音楽隊副長・鐶光の場合~」 1 【過去編第001話 「動き始めていた時間の真ん中で(前編)」】(1-1) (1-2) 【過去編第002話 「動き始めていた時間の真ん中で(中編)」】(1-1) (1-2) (1-3) (1-4) (1-5) 【過去編第003話 「動き始めていた時間の真ん中で(後編)」】(1-1) (1-2) (1-3) (1-4) (1-5) (1-6) (1-7) (1-8) (1-9) 【過去編第004話 「探した答えは変わり続けていく」】(1-1) (1-2) (1-3) (1-4) (1-5) (1-6) (1-7) ... -
永遠の扉 第030話
第030話 「斜陽の刻 其の弐」 下水道処理施設は現役ではあるが、古い。 真赤な煉瓦造りといえばさも洒脱な雰囲気が漂っており現に銀成市の 発行する観光案内のパンフなどにも同様の事柄が記載されてはいるが その実、建物自体の煉瓦はあちこちにヒビが入っており、日当たりの 悪い場所では浮き出た岩塩がほこりと混じって不快な黒ずみすら浮か べている。大体にして下水処理施設だ。務める者は平素嗅覚を苛む 悪臭によって汚いものへの抵抗を日々奪われ掃除の意欲を勤続年数 と反比例して低下させていると思われた。 さて、その務める者の一人に信奉者がいた。信奉者とは自らの財産を 捧げる代わりにホムンクルスへの格上げを望む者である。 彼がL・X・E残党の集結場所として職場を提供するに到った経緯はさ ておき、ほどよく人家から離れた場所にある故、実に円滑に怪物ども が... -
永遠の扉 第059話
無銘を倒した秋水が小札の部屋へ到着するまで……およそ十五分。 それ即ち──… 「桜花どのの件については本当に申し訳ありませぬ! さりとてそれを理由にここを通せぬ不 肖でもあるコト、ご理解頂きたく存じます! 何故ならば香美どの貴信どの無銘くんはそれぞ れ約一時間ほど不肖の回復の時間稼ぎをしてくれたのです! ちなみに無銘くんの戦闘時間 の内訳についてはこの通り! でででん!」 約15分 … 部屋に到着されるまで約10分。回想や装備のご確認に約5分。 約05分 … 入室後の座さがしを経て一気に無銘くん人形1が真っ二つ。 約03分 … あらゆる忍法と無銘くん人形2、敵対特性発動すらも破られ無理する無銘くん…… 不肖はココでタオルを投げいれたくありました…… 約04分 … しかし無銘くん、大・変・身っ! 龕灯も発動! ... -
永遠の扉 第044話
「……分かった。でもこれだけは聞いて欲しい」 ヴィクトリアの拒絶を察したのか、秋水は手を離した。 「君は俺や姉さんと似ているんだ。ホムンクルスになって二人だけの世界で生きていたい…… そう願っていた俺や姉さんと」 秋水はアレキサンドリアのコトを引き合いにだした。 彼女とヴィクトリアが地下で百年も二人だけで生きていた姿は、桜花と秋水の目指していた 物とほとんど同じだったと指摘し、そしてそれが崩壊するコトをどれだけ恐れていたかを告げた。 「だから無関係とは思いたくないんだ。力になりたいと思っている」 せっかくの解放にも関わらずヴィクトリアはその場にとどまっている。ただし俯いたまま表情 を見せないのは彼女なりの『説得』への抵抗なのだろう。 「…………」 握られていた左手首を腰の横で一撫でしたきり、ひたすらに黙っている。 「今の君は錬金術... -
永遠の扉 第048話
「君にどうしても話すべきコトがある。寄宿舎に戻ったら……聞いて欲しい」 アンダーグラウンドサーチライトのそれほど長くない梯子を上り地上に出ると、秋水はひどく 真剣な面持ちでまひろに囁いた。 場所は蔵の中だろう。うっすらと明かりが差しこんでいるのは、上の方で不自然に開いた穴の せいかも知れない。そんなコトを目を思わず秋水から逸らしたまひろは逃げるように思った。 「う、うん。寄宿舎に帰ったらね」 もはや秋水の要件は見当がついている。カズキを刺したコトへの謝罪だ。だが、分かってい ても秋水自身の口からそれを聞くのはいいようもなく恐ろしい。 気まずい秋水とまひろから、ヴィクトリアにも大体の事情が伝わったらしい。彼女はいつもの ような皮肉じみた表情で「ふーん」と薄く呟いて、蔵の扉の前へと歩み寄った。 (どうせ黙ってても何も進展しないし、歩けば二人とも勝... -
永遠の扉 第024話
第024話 「演じるというコト」 『彼女』は寄宿舎での生活を不思議そうに眺めている。 共に行動する機会の多い少女たちは、まさか自分が友人を演じている とは思ってもいないのだろう。 眼鏡を掛けた理知的な少女も、いつもほんわか笑っている栗毛の少 女も、どこか自分と似ている幼げな少女も、きっと。 時間がきた。 『彼女』は日常を演じるための必要事項を実行するコトにした。 衛生上の必要はない。 信ずる者も命じてはいない。 焦がれる者もまた同じく。 それでも『演じる』コトには不可欠だから、行くコトにした。 ヴィクトリアは浴場につくと、とりあえず中を見渡してみた。 幸い誰もいない。ホッとした心持になるのは百年来の地下生活のもた らした厭世ゆえか。 地下の静謐に比べればこの地上はうるさくて仕方ない。始めてココに 案内され... -
永遠の扉 第087話
9月4日二度目の朝。 津村斗貴子は銀成学園の屋上の給水塔の上で蒼空を眺めると、予鈴とともに立ち去った。 久しぶりの教室に座る凛とした横顔には何の変化もなく、如何なる揺らぎもなく……。 その瞳に強い決意の光が宿っているのに気づいたのは、彼女と……いや、彼女の想い人と 親交の深い三名の男子のみであった。 岡倉英之、六舛孝二、大浜真史。 リーゼントを決めた不良風の少年と眼鏡の奥で瞳を醒ましている短髪の少年と、気弱そうで 体格のいいスクール水着好きの少年たちはここしばらくの異変や斗貴子の入院から何かを察 したような雰囲気を漂わせているが、何があったかまでは聞かずごくごく日常的な会話を二、 三交わしただけである。 斗貴子もそれでいいと思っている。 (カズキがいない今、私と必要以上に接点を持っても得にはならない。少なくてももうキミたち ... -
永遠の扉 第084話
踊り場から跳ねる月明かりしかない暗い階段を上り詰めると、消え入りそうな儚い鼓動ととも にどこか懐かしい花の匂いが鼻孔を通り過ぎた。 その時目の前にあったのは扉。 何の変哲もない、どこにでもありそうな扉。 開けるのに一瞬戸惑った理由は今になっても分からない。 薄れゆく意識の中で秋水は思った。 総ての始まりはその扉を開いた瞬間だったのではないかと。 ……ただ寒々とした暗い意識を声が撫でる。 「ま、今となっては継承者がいるかどうかさえ定かではない流派だが、一応明治期にはまだ 存在していたらしい。人斬り抜刀斉という継承者ともどもな。彼は不思議なコトに幕末が終わ ると同時に全国を流浪し始め、明治十一年に入って京都や東京で活動した後はどういう訳か ぷつりと闘いをやめている。島原へもう一人の継承者を倒しに行ったとか北海道でも活躍... -
永遠の扉 第026話
第026話 「変調(後編)」 一部を除けば意外に片付いた部屋だ。 人の部屋をあれこれ詮索する癖のない秋水でも、素直に感じた。 ここにはひどく清浄な空気が漂っているようにも思われた。 部屋の右手には寄宿舎備え付けの木製ベッドが壁と平行に横づけさ れており、淡い無地のピンクで統一された寝具一式が、柔らかそうな 感触を放っている。秋水はそれに見覚えがある。寄宿舎転入後ほど なくして千歳がつきつけてきたブ厚いカタログだ。 新鮮なインクの匂いもすがすがしいカタログには、色とりどりの寝具が 幅やら長さやら価格やらの羅列とともに載っていた。 聞けば布団や枕などの安い備品については各自好きなモノを選べる らしい。 きっとその時、寝具のついでに選んだのだろう。 少なくても秋水の殺風景な自室にはない、余裕ある物体がベッドボー ドの間に挟まれている。 ... -
永遠の扉 第063話
河合沙織という名の少女は悩んでいた。 「……えーと。オバケ工場を歩いてた筈なのになんでこんな所に?」」 幼い顔が皺くちゃになるんじゃないかと思えるほど微苦笑しtつつグルリと周囲を見回した。 暗く湿った空気は人気とは無縁だ。ひたすらに澱んでいる。何故か照明はついているが、そ こに群がる名称不明の小さな虫たちや蛾の姿はそぞろに戦慄を禁じ得ない。 「う」、と思わず鼻をつまんだ沙織の足元には、干からびた大きな溝が続いている。 照明のない暗い彼方まで伸びているそれは下水道だろう。ならばココは。 「地下なのかな。でもなんで私こんなトコにいるの? 服も何かヘンだし」 とりあえず、沙織は微苦笑を止めた。 「あまり皺寄せてると一気におばあちゃんになりそうだし、やめとこ」 防人はそろそろ受話器を叩きつけたい気分になり始めていた。 「やあ何度もすまな... -
永遠の扉 第085話
「ここが『もう一つの調整体』の眠る場所」 戦士たちが長く狭い通路を抜けると、蒼然たる光に満ちる地下施設に出た。 四角くくり抜かれた空間は軍隊一つが丸々と入りそうである。至る所から豆の木のようにパイ プが床から天井目がけて伸びて時折どくどくと脈打っている。何かの保冷剤だろうか。戦士たち の足もとには白い煙が立ち込め、十六本の足が八つのペースで歩みを進めるたびもわもわと 鋲打たれた鉄板の床を露にする。 (良く歩けるものだ) 部屋について防人へあれこれ説明しながら歩く総角を秋水は半ば呆れる思いで見た。 もっとも全身を血に濡らし自分と千歳の核鉄(斗貴子の物も使っていたが、秋水の出血の勢 いが弱まると同時に返却された。斗貴子自身にもまだ回復が必要なのだ)で止血処理しつつ 大儀そうにふらふら歩いてる秋水こそ「良く歩けるもの」だが。 先ほどの決着後、... -
永遠の扉 第090話
「秋水先輩、空気ってどう読めばいいのかなあ?」 「君はいきなり何をいっているんだ?」 ゆらっと扉を開けてしょんぼり佇んでいる。 秋水の病室へやってきたまひろは正にそんな状態だった。 幽鬼のごとく部屋に入るなり、閉じたての扉の前で一歩も動かず秋水を眺めている。 グっと太眉の下がった困惑満面はもはや見慣れた感がある。何かといえばこの顔だ。.しかしどうであろうこの眉毛の明瞭 さは。古来「目は口ほどに物をいう」というが、まひろの場合「眉毛は目ほどに物をいう」のかも知れない。 (というか、そういう話の切り出し方は困る) 病室へ見舞いにくるなり「空気ってどう読めばいいのかなあ?」は如何なものか。質問それ自体がすでに空気を読めてお らぬ。ヴィクトリアがこの場にいれば「いきなりそういう質問をしなければいいのよ」と冷笑混じりに茶化すだろう。秋水はた だ... -
永遠の扉 第078話
話は斗貴子がダブル武装錬金を発動する前に遡る。 倉庫のあちこちで紅蓮の炎がくすぶり、焦げたダンボールがいくつも中身をブチ撒けている。 それらを一瞥した斗貴子は壁際の三列四段のロッカーの群れへと足を進め、バルキリースカー トで総ての扉を吹き飛ばした。するとひしゃげた扉が36枚、壮烈な音を立てて床に転がった。 ロッカーを素早く見まわすと、果たしてこういう張り紙をされた衣装ケースを発見。 『所有者:演劇部。品目:ドレス。用途:文化祭の演劇用!』 開ける。取り出す。出てきたのはピンクと赤を基調としたドレスだ。全体的にひらひらとし、翼 のような形をした半袖にある銀糸の刺繍は瀟洒な光をキラキラ放っている。 ドレスの胸元に花開いたヒマワリの飾りへ手を当て、捩る。 (これはあくまで推測だが、その昔、舞台の上でよほどの熱演をした者がいて、その演技に反 ... -
永遠の扉 第062話
(不肖がこれより始めまする攻撃はっ!) 光線を避けていた秋水は、異変に気づいた。 (倒せればよし、倒せずとも距離を縮められる撒き餌のような攻撃!) 部屋を床や壁に展開していた銀の線は、いつしか白く半透明な『面』を形成している。 (かつて金城を退け、廃墟でも使ったホワイトリフレクション──…) 転瞬、極太の光線がバリアーと化した壁へ激突。反射。 それに引きつけた刀が当たらぬよう左半身の輪郭をちりちりと焦がしつつ避けた秋水だが、 しかし彼は同時に腰部右側面に灼熱を感じ、俄かに硬直した。 うなだれるように視線を下げた彼は見た。 右手から右大腿部に引きつけた刀身に、光線が命中しているのを。 (極太の方は囮なのであります! 本命はこちら!) 壁や床や天を繋ぐ斜線の連続──ブロック崩しの玉のように何度も何度も反射を繰り返し ついに秋水へたど... -
永遠の扉 第088話
早坂秋水。 武藤まひろ。 二人は病室で息を潜めてじっと対峙していた。 なお秋水については例のハズオブラブを既に一度使われていたため総角からの傷は平癒 せず、しばらく入院するコトになった。いまベッドの上で上体を起こしているのはそのせいだ。 一方のまひろは柔らかな頬を緊張に硬くし、パイプ椅子に腰かけたまま身じろぎもしない。 「君に話しておきたい事がある」 見舞いの花束を持って入室するなり秋水は間髪入れずに……しかし機先を制したにしては 戸惑いと恐れが色濃い声音で呼びかけた。 「…………時間は大丈夫だろうか?」 念を押しながらも澄んだ瞳の奥ではまひろが首を横に振るのを期待しているような光がほん の少しだけ見えた。ずるい……とはまひろは思わない。なぜなら彼女は罪科を人に曝け出す 恐ろしさというものを理... -
永遠の扉 第066話
ややあって。 交差点の一角で、もはや買い替え時期の見えた消しゴムよろしく縮んだ千歳が、天を向いて 滝のような涙を飛ばしていた。 「ああもう~! どうして私ばっかり~!!」 (狙いやすいからだ) (一番狙いやすいからだな) (貴殿はまったく以て判じ難い) 以上は防人、斗貴子、根来の順である。 群衆が行き過ぎるたび、戦士一行の平均年齢は低下の一途をたどっていた。 (以下は本来の年齢 → 現在の年齢) 防人 27 → 27 根来 20 → 16 斗貴子 18 → 15 千歳 26 → 10 ※ 斗貴子の年齢は一巻ライナノートでは「17」。 ただし年齢発表時の作中時間が春先のため、誕生日(8/7)後の9/4は「18」とした。 防人が無事なのはシルバースキンあらばこそ。 「例え群衆に... -
永遠の扉 第036話
どこまでも続く闇の回廊をただ一人で歩いた。 歩いて、歩いて、歩き続けた。 熱で頭が眩み、無音の通路に風吹く幻聴すら運んでくる。 ツと足を留め、ヴィクトリアは振り返った。 煉瓦が闇を囲いどこまでも伸びていく虚ろな通路に、変哲はまるで見 当たらない。 そう、自分以外の者が生息する気配はない。 人が追ってくる気配は、ない。 (そんなものよ) 再び前を向き、歩みを進め始める。 百年以上生きているから、かすかに芽生えた期待を分析し、文章体裁 のある感情論へ昇華するなど容易い。 『秋水がこの地下をひた走り、もう一度止めに来るのを望んでいた』 と。 けれど彼は来ない。 再び前を向いて歩きだしたとき、その事実に深い失意が生じた。 ……いうまでもないがこの時、秋水はL・X・Eの残党を殲滅する必要 があり、苦渋の思いでヴィクトリア... -
永遠の扉 第080話
剣道場に横たわる青年がいた。 仰向けのまま床に背を預ける彼はまんじりとも動く気配がない。かすかな呼吸と共に胸を起 伏させていなければ死体と見まごうほどである。 剣道場は明るくもなく、また暗くもない。天井に照明の類はなく、どこからか差し込む光が屈 折の限りを尽くして青く変色して部屋を照らしている。光源にいかなる都合があるか不明だが とにもかくにも蒼然たる光波は所在なげに揺れ動き、横たわる青年の影を黒い炎(ほむら)の ごとくチロチロとあぶっている。 部屋にある明確な動きは先ほどからこれだけである。 あとはただ静寂に包まれ、あたかも純粋透明な氷柱に部屋を封じたように冷気ばかりが占 めている。 やがて──… それまで倒れ伏していた青年の口から痙攣を声にしただけの小さな呻きが漏れた。彼が瞑 目をむずがらせながら開眼するまでさほどの時間は要... -
永遠の扉 第055話
産科医療の定義では。 人間は妊娠第八週目から「胎児」と呼ばれる。 そう。人間は個人差こそあれ大体その頃になれば「胎児」という「人間らしい」形態になる。 ではそれ以前……妊娠第七週目まではどうか? 受精後二十四時間以内に受精卵は二つに分裂し、二日目には四つ、三日目には八つと分 裂しつつ卵管を移動しやがて子宮に着床する。 そして妊娠第三週目に入る頃に、心臓と主要な血管ならびに脳や脊髄の元たる「神経管」が 発達を始めるが、この頃はまだ「タツノオトシゴ」のような形状であり、つまりはおよそ妊娠第八 週目までは(徐々に人間に近づくとはいえ)、「人間とはやや異なる形状」である。 鳩尾無銘が人間の形態になれないのは、上記の「人間とはやや異なる形状」の頃にホムン クルス幼体を埋め込まれたからである。 よって彼はチワワをやらざるを得ないのだ。 ... -
永遠の扉 第040話
剛太は幼い頃に家族全員をホムンクルスに殺された。 といっても物心つく前の出来事だからホムンクルスに対する明確な憎悪はない。 会えば容赦なく殺そうとするのは、自分の立場に対する現実的思考と、尊敬する斗貴子への 同調がそうさせているだけなのだ。 信奉者、というホムンクルスにつき従って彼らが人を喰いやすいよう裏工作をする人種に対 する悪感情もまた同じく。 そんな彼が最近、元・信奉者の女性に付きまとわれている。 客観的にいえば彼女は美人だ。黒い髪を腰まで伸ばした清楚な雰囲気漂う和風美人。肢体 も隅々まで豊麗で、初対面の時は斗貴子一筋の剛太ですら不覚にも目を奪われかけたほどだ が、しかし元・信奉者というコトに変わりはない。 何しろ彼女の一面が投影された武装錬金はヒドい造りの毒舌人形。 その一時だけでもいかに「元・信奉者」に相応しい性質かが分... -
永遠の扉 第068話
(羽根が) (やんだ!) 路上を覆い尽くすミサイルとベアリングの合わせ技。 その静止に戦士一同は身を固くし、一方の鐶はクジャクの羽根を畳んだ。 「……あ」 鐶の無表情の中で、スターサファイアの瞳だけがゆっくりと下を向いた。 「ダメージを……受けています) 腹部には蜘蛛の巣のようなヒビ割れが入り、一の腕やのびやかな足といった部分には無数 の創傷ができている。 (当然だ。戦士長の攻撃を受けて無事でいられるホムンクルスなどまずいない。しかも私たち が追撃したからな。つまり、考えるまでもないが) 斗貴子の見るところ、少なくても絡め手さえ使われねばダメージを与えられる相手。 そう、傷ついた戦士たちでも一斉に攻撃をしかければ攻略は可能。彼女はそう判断した。 「『命に関わるケガ』…………でしょうか」 すくりと面を上げて虚ろな瞳を投げか... -
永遠の扉 第071話
御前は次から次から出来(しゅったい)する異様な光景に呆れかえっていた。 「無茶苦茶だアイツ。何でもアリじゃねーか」 「……なんで俺との戦いで忍法使わなかったんだ?」 それはともかく、と桜花は瞳を薄桃の光にさらっと輝かせた。 「これで勝負の瞬間までこちらが攻撃されるコトはなさそうね」 「で、でも、どうするの?」 千歳は半泣きで路上を指さした。 見れば辺りに満ちた鏡のせいで、鐶の姿が十も二十も蠢いている。 「これじゃどこに向かえばいいか分からないよ!」 「いや、お前のヘルメスドライブならば本体のところへ俺達を運べるだろう」 「あ」 「後は彼が瀕死直前に追い込むのを待つだけだ」 斗貴子の期待を読んだかの如く、根来はいま一つの核鉄を突き出した。 それはシリアルナンバーLXXXIII(83)。元は貴信の物である。 「ダブル武装... -
永遠の扉 第043話
(あのバリアーを破らないコトには私の攻撃は届かない) 桜花は小札を冷静に観察する余裕がある。この辺りも対象的だ。のみならず小札がテンショ ンを上げて騒いでる間にも、実はある程度の思考の手がかりをまとめていた。 それは。 (なぜ、紙吹雪を媒介に使う必要があるのかしら?) そういえば以前、廃墟で小札が総角とともに秋水たちと戦った時もそうだったという。 (しかも崩落した壁の跡も使っていたとか) 牽制も兼ねて小札に矢を撃つ。状況は特に変化がない。矢が反射され、それを避ける。 (……ヒントはその辺りにありそうね) もし無制限かつ無条件にバリアーを作れるのなら、紙吹雪なり壁の崩落跡なりを使わずとも 良いのだ。例えば桜花の矢のように自分の好きなタイミングで好きな場所へ放てばいい。 (ま、どっちみちバリアーしか作れないなら適当に攻めながら考えればいいだ... -
永遠の扉 第023話
第023話 「人(?)それぞれ」 この三日間(斗貴子・剛太敗北から秋水が演劇やるまで)について。 Case.01 中村剛太 敗北後、桜花とともに下山。彼女の呼んだタクシーでサンジェルマン病院へ運ばれた。 その際に目を丸くしたのはかつて打ち破った根来が待合室にいて、しかも生々しい傷を浮か べていたコトだ。 根来は根来で敵と戦ったとは後で聞いた話だが、あまりに意外な場所での再会に血液不足 の頭が不可解さでさらに眩む思いをした。 しかもそばには千歳がいて、以心伝心というか。会話はなけれど妙に息があっていた。 (アイツ、戦友いたのか?) 入院生活でヒマな剛太は、ベッドの上で時々そういう疑問を考えてみるが特に答えは出ない。 斗貴子には会っていない。 まさか彼女が負けて、剛太に一拍遅れて入院する羽目になろうとは。 斗貴子の強さ... -
永遠の扉 第046話
「帰って」 冷然たる眼差しを浴びたまひろは、「ふぇ?」と目をしぱぱたかせた。 「ココに来たってコトは大体の事情は知ってるでしょ。でもあなたにどうこう……」 「あ、大丈夫だよびっきー!」 ヴィクトリアは肩に異様な外圧が加わるのを感じた。見ればまひろがいつの間にやら正面に 回り込み、細い肩を砕けんばかりの力で握っている。ヴィクトリアがホムンクルスでなければ 痣の一つか二つは平気でつくのではないかと面喰ったのも無理はない。傍にいた秋水でさえ 「もうちょっと加減するんだ、骨が少し軋んでいる」 と制止に入ったほど、まひろは加減がなかった。 「あ、ゴメン」 ひとまず手を肩から剥がされたヴィクトリア、 「痛いわね。いきなり何するのよ」 と、目を吊り上げて抗議すると、まひろはちょっと頭に疑問符を浮かべた。どうやら寄宿舎 生活におけるヴィクトリア... -
永遠の扉 第064話
話は、八月二十七日の夜──屋上で空を見上げて泣くまひろを秋水が見た頃──に遡る。 銀成学園の職員室で鐶は生徒手帳を広げ、沙織の写真と、それそっくりの顔を並べていた。 「……似てますか?」 「カッコは似てるけどさ、そのタルい話しかたは何とかならんワケ?」 「やっぱり? 私このコの喋ってるとこを無銘くんの忍法で見たけど、すぐ覚えるの無理みたい」 「……うーんとさ。うまいかもしれんけど、キャラかわりすぎじゃん」 突然の豹変に香美は鼻の頭にシワさえ寄せて困惑した。 「はぁ……でも……まだ定着しないというか……友達の呼び方を間違えてバレそうな……」 『ふはは!! その不備を補うべく僕たちはココにいる!! まぁ僕は人間関係について努力 しようとして挫折したクチだが!!』 「ところでさひかりふくちょー。あたしのマネとかできる?」 沙織に扮した鐶の口が明... -
永遠の扉 第074話
桜花はここぞとばかり桃のような甘い声をあげた。 「正確には『換羽』の年齢版じゃないかしら? 瀕死をきっかけに、すり切れた年齢へと新しい 年齢を上書きして、元の状態に戻しているとか」 『換羽』とは鳥における重要な生理現象の一種である。 元来、羽根(羽毛)は摩擦や寒風などの様々な刺激から身を守っているが、その役割上、絶 えず摩耗を強いられてしまい、およそ一年もあればボロボロになってしまう。 『換羽』とはそんな古い羽根を定期的に抜き落とし、新たな羽根へと換える鳥の一大行事だ。 鐶は頷いた。 「これは偶然の産物……です。種子さえ巨木にし……街の時間さえも進められるクロムクレイ ドルトゥグレイヴと……あらゆる人や鳥に変形できる特異体質……そしてその副作用による 五倍速の加齢に……鳥に備わる換羽の機能と、人としての生存本能。それらが合わさった結 果……... -
永遠の扉 第082話
対峙。 剣を振りかざせばすぐにでも口火が切られそうな距離で、剣士二人が睨み合っている。 鋭く山を睨めつけるような目つきのまま、秋水は右足を軽く前方に滑らせ、上半身をわずか に傾斜させた。剣道における相手の出方を見る方法である。「ためる」ともいう。そのままでは 攻めるという気配を相手に見せ、何らかの変化を及ぼし、それによって打突をどうするかを決 定する。 「フ」 しかし総角は面頬へ深い皺を湛えるばかりで微動だにしない。 剣道において最初の一撃は「初太刀(はつだち)」と呼ばれ、趨勢を決する重要な要素の一 つである。 まして二人の握るは真剣。迂闊に攻めればどうなるかは明白。 (どう攻める?) 熱気とも寒気ともつかぬひりついた空気の中、そればかりが秋水の脳髄を支配している。 空転、という方が正しいかもしれない。 相手か自分が... -
永遠の扉 第057話
遠い記憶。 十年前の記憶。 「名前ですか?」 「連れてくなら無ければ不便だろ? さっさとしろ。俺は急ぐ」 「じゃあ、無銘くん。刀に『銘』が『無』い時の呼び名のごとく、無銘くん」 「……なんでそういう名前をつけるんだお前は?」 「え、えーとですね。本名も必ずありましょう。されどいまは不肖にこの子の名前を知る術があ りませぬゆえ、暫定措置として名づける次第。とはいえ『名無しの権兵衛』では呼び名として はいささか可哀想。それに、その」 「なんだ。お前はもっと実況をするようにハキハキと喋れないのか?」 「えと、……見たところ男の子…………ですし。カッコよくないと……」 「だから無銘か。なら姓は俺が名づけてやる。俺が総角、お前が小札と大鎧の部位が揃って いるから、鳩尾。鳩尾だ。大鎧の左胸を保護する板の名前を呉れてやろう」 「というしだ……... -
永遠の扉 第032話
第032話 「斜陽の刻 其の肆」 その瞬間の秋水の行動は、逆向の想像を遙かに上回っていた。 タラップと水面の境界にある柵へ猛然と走りつつそれを瞬間のうちに 三斬。 鳥居の形でしぶきあげつつ倒れる鉄策を学生服が飛び越えた。 着水した処理施設の深さは脛の中ほどまで。だが日々鍛えた健脚は 水圧を感じさせぬ速度で風すら呼び──… 一気に逆向へと肉薄した。 口火を切ったのは大上段のソードサムライX。 十分に加速の乗ったそれはチェーンソーの高速回転する刃に巻き込ま れみるまに威勢を失し、弾かれはしたが、すぐさま右切上に転じた。 驚いたのは逆向である。チェーンソーの刃先をまっすぐ下に向けて刀 を受け止めるも力が爆発して押し切られそうな錯覚がある。 それが去った。 秋水が手を引いた。と知ったのは逆胴迫る瞬間だ。 (おおお! 放胆にも秋水殿、刀... -
永遠の扉 第089話
「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」 時系列不明。 坂口照星に振りかかった一つの出来事をここに記す。 まず目覚めた彼の眼前に一人の女性が居たという所からそれは始まった。 年の頃は20前後だろうか。肢体は細く優雅に椅子へ腰かけている。 彼女は照星の覚醒を認めると白磁のティーカップから口を離し、静かな笑顔で今一度問い かけた。傍らのテーブルにはソーサーがあり、そこにカップがカチリと小気味よく乗った。 「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」 その問いかけを照星が半ば無視したのは彼自身の置かれている状況にある。 彼はシーツの匂いもまだ瑞々しいベッドに寝かされていたようだ。 ただ不思議なコトに掛け布団は二枚あった。上にあるのはシーツを掛けられた薄手の羽毛 布団。だが下にあるのは……つまり... -
永遠の扉 第033話
第033話 「斜陽の刻 其の伍」 一瞬、場にいた全ての者の動きが硬直した。 まず、L・X・E残党。 処理施設のタラップや水面に点在する彼らは、幹部たる逆向の負傷に 息を呑んだ。 いうまでもなくこの場で最も強いのは逆向だ。 だからこそ彼を旗印に寄宿舎襲撃をやろうとし、集結した。 だがその末に見た光景は彼の、偶然でない、力量的な必然による負傷。 ──逆向が敵わぬのなら戦っても死ぬだけではないか? 動揺は緩やかに残党どもの中に広がりつつある。 一方の管制室の中でも沈黙する者がいた。 動揺ではなくむしろ歓喜を以て沈黙を選んだコトは、開きかけた口を両 手でマスクのように覆ったコトから見て明らかだ。 (ぬぅぅぅ! 声を上げて実況したいっ!! なんというジレンマ! 声に 乗せて表現すべき事象状態が眼前にありながら実現できないもどかし... - @wiki全体から「永遠の扉004-2」で調べる