お題:リアルとリアリティとは……?
「これはとっても簡単な事だよな」
「もう言っちゃうんですか?」
「ああ。だって、問題はこの先だからな。ここでまごついてるわけにはいかないんだ。
世の中にはこの2つの意味を間違って使ってる人も結構いるんだが……実のところ意味は同じだ。辞書的に言えば、リアルが形容詞でリアリティは名詞。『real,reality』こう書くとわかりやすいだろ? それで肝心の意味だが、『現実』とは別に『迫真』という意味があるんだ。真に迫るってのは、いかにもそれっぽいと言い換えられる。ただ、小説などの分野では、リアルとリアリティーを差別化していることが多いよな。リアルを求める、みたいにリアルという言葉が『現実』という意味の名詞と化してるわけだ。それに伴いリアリティは『いかにもそれっぽい』という意味に狭義化されてるみたいだが」
「つまり、リアリティは人の認識ということですよね」
「まぁそういうことだ。なんか本物っぽいぞ! なんか説得力があるぞ! と受け手が感じたものはリアリティがある、と評価される。逆に、『リアルだorリアルじゃない』ってのは、現実との比較が常につきまとう評価だな。ただし、この現実ってのは人の中にある現実だ。だから、飛行機の操縦なんて当然やったこともないようなヤツでもフライトシミュレーターを平気で『リアルじゃない』と切り捨てられるわけだ」
「勝手ですね、現代っ子は。人生の大半をバーチャルの中で過ごしてるくせに」
「おう、毒舌だな。まぁ、そもそもフィクションに現実も何もないわけだから、リアルがどうのって評価がどれだけ意味の無いものかは言うまでもないだろ? それでもあくまで現実にこだわる人は、さくらももこのエッセイを読んでいればよろしい。なんだか心が豊かになるぞ」
「豊かな心を育むのが読書ですからね。でも豊かな心が無いと読めないのがジレンマです」
音響のACT2 〜リアリティ(本当っぽさ)のリアル〜
「さて、門前払いはすんだ。ここからが本題だ。ちょいと長くなるぞ〜」
「要するに、リアリティを出す方法、ですよね?」
「ああ。ところでさっき私は、いかにもそれっぽいこと、って表現したよな。つまり現実的でなくても何ら問題はないんだ。
私は、リアリティってのは説得力であり、整合性、そして実感のことだと思ってる。ゲームでもCGがよくできてるとグラフィックがリアルと評価されるし、なんだか画面に引き込まれるような気分になるよな。ただ、人物の思考とか動きが適当なせいで一気に冷めることってないか? それがリアリティの欠如を感じた瞬間だな。そいつが本物っぽくないと感じてしまったせいで、作品にのめり込んでいた心が現実に引き戻されたんだ。キラ=ヤ○トにみんなが冷静なつっこみを入れるのは、現実側から作品を見ちゃってるからだろうよ」
「その点、MGS3とモンハンのムービーの完成度はすごいですよね」
「あれは演技の極致だろうな。よく見れば画像が荒い部分もあるが、その動きは真に迫るもので、本物の役者がとんでもないアクションを演じているように感じられるわけだ。ザ・フューリーのムービーのかっこよさは鳥肌が立つぞ。手抜きを感じさせないのがミソだ」
「モンハンでも、ボスモンスターの動きには恐怖を感じますからね」
「動きという面以外にも、龍が如くみたいに舞台を本物そっくりに作っちゃった場合、恐ろしいほどリアリティがある作品になるんだよな。ただし、この舞台というのは道行く酔っぱらいも含めての話だぞ。書き割りや小道具、エキストラのような細部をしっかり作ることでもリアリティを生み出せるわけだ」
「でも、ハウステンボスのように本物の街みたいに作った場所でも違和感を感じません?」
「たしかあそこって電柱がないだろ?」
「あ、なるほど……」
「ただし、小説という土壌だと話は変わってくる。当然だが、小説には絵がないんだよな」
「ということは、まさかッ!?」
「その通り。美麗なグラフィックや迫真の演技は使えない! もとい、使わなくていい! それどころか、細部まで再現した映像も使えない、もとい使わなくていい!
この、使わなくてもいいってのは小説の利点だ。文章で表現する場合、細々と書く必要がない。そんなのはくどい文章として敬遠されがちだからな。どうしても読み手にある程度の部分を任せることになる。だから小説の場合、読者の想像力をいかに引き出すか。それがリアリティに繋がっていくわけだ」
「情景描写も、読者がイメージしやすいようにするためのものですしね」
「そういうこと。読んでいて作品世界に思いを馳せられるような記述、要素、小道具。それを合わせたものを私は『におい』『奥行き』って呼んでるんだが、伝奇物やSFはまさに『におい』を感じさせるギミックの宝庫だ」
「また曖昧な言葉を使いますね。わかりにくいじゃないですか」
「仕方ないだろ。こればかりは感性の問題なんだから。においってのは、言っちゃえば気配だ。何かが起きる。何か楽しいことが。何か悲惨なことが。何か不思議なことが。そんな非日常の気配だよ。フィクション作品の中は当然ながら架空の世界で、非現実的なことが起こるだろ? 私たちは当然それを期待して読むわけだ。で、その非現実性をひしひしと感じさせる部分を私は『におい』って呼ぶんだ」
「たしかに、現実では感じられないものを求めて小説を読むことは確かですよね」
「ちなみに伝奇みたいな、作品中でも非現実的なファンタジー要素に感じる高揚感を私は『秘密基地効果』と呼んでるよ。ほら、小さい頃に一度はやったろ。なんでもないとこを『ひみつきち』にして、仲間内の秘密にするんだ。そういう秘密って、わくわくするよな? だから、主人公の抱える非現実=秘密を、読者だけは真っ先に共有できるようにすると、秘密を共有したことで一体感というか仲間意識を得られるし、それでリアリティ(親近感)も増す。実際、自分が秘密を話すと相手も心を開いてくれて、幾分か親密になれるだろ」
「ほうほう。でも、また用語を勝手に増やしましたね」
「たとえるのが私のちょっとした趣味なんだよ。小説以外にもあるから今度教えてやる。で、秘密を共有させる、非現実を予感させる。ってのが目標だが、そのために必要なのは三つの常識を制定することだと思うんだ。『誰にとっても現実的、主人公を含めた主要人物にとっての現実、誰にとっても非現実的』みたいに。これで状況が読者にも推測できるだろ? 他にもあるが、これは適宜自分で考えればいい。要はリアリティある作品を作るには、作品内でのリアルを明示する必要があるって事だな」
「それだと、人物はちゃんとその常識に沿って動かないとダメですよね」
「その通りだな。それぞれ所属する現実(常識)に沿って行動することで、世界の輪郭が読者にも自然と見えてくる。小説ってのは基本的になんらかの事件を描くわけだが『日常=背景』と『事件=舞台』の差別化にも、行動の一貫性は必要になってくるわけだ」
「東方風に言うと、空が飛べるか、飛べないか。妖怪を恐れるか否か。対抗手段の有無。妖怪がいて当然と考えるか否か。みたいな感じでしょうね。オリキャラを出す場合は必須の項目ですよ。ただの高校生がいきなり弾幕を撃つなんてのは、不自然ですから。そこに理由がないと誰も納得しませんよね」
「いいこと言ったッ! 要はリアリティって自然かどうかなんだよな。小説の中は、考えてみれば不自然な物事でいっぱいだ。でも、もっともらしい理屈をくっつけることで自然だと思わせることができるんだな、これが」
「なんだか詐欺っぽいですよね」
「ものは言いようだな。ガンダムだって、アムロの予知じみた反応をニュータイプという架空の概念でもっともらしく説明してるだろ。さらにそれは重力から解放された結果、人間に起きる変化らしい。どうだ、現実味がぐんと増しただろ? 科学的な思考に聞こえるだろ?」
「つまり、架空の法則を作ればいい……ということですね。理由ある行動をとれと」
「まぁ、そんなとこだと思うよ。そして、リアリティに大きく関わってくるのが小説最大の利点、心情の描写だと思うんだ。ここが不自然な流れだと文字通りお話にならない。桃太郎が十何人もいる学芸会じゃないんだからさ。キャラの人格は統一しないと。だから、主要キャラのアイデンティティは絶対に固めておく必要があるな」
「……ところで、『奥行き』ってどうなりました?」
「ああ、それか? うまいこと世界を作ると自然と構成されるんだよ、シムシティの市長の家みたいに」
「……はい?」
「細部まで気を配ったり、常識を設定したり、別の場所・時間での事件や地理などをほのめかすような記述を入れると、読む側は物語に登場しない部分まで想像できるんだ。タイプムーンの月姫なんて、出てこない死徒27祖の設定が存在してるだろ? そういった物語に出てこない部分は読み手の想像力をくすぐるわけだ。それが『奥行き』だよ。一部の人にはどうでも良くて、一部の人にはとても大切なことだ。
曖昧さ。とも言い換えられるけど、要は作品世界の中で、読者が自由に想像できる部分ってこと」
「つまり東方ですよね、それ。大量の二次作品が出回ってますし、大半は明記されてない設定を勝手に作って書いてますしね。それが暗黙の了解になってたりして、すごく大きな世界を作っている気がします」
「書かれている実際よりも大きく感じる。奥行きそのものだろ? 奥行きがあると、平面から立体になって現実味が増すんだよ」
「それにしても、人物に関する部分も相変わらず多かったですね」
「そりゃあそうだ。どれだけ非現実的な話でも、『人』という部分は現実にも存在してるし、読み手と作品をつなぐ唯一の接点だろ? 大切に決まってる」
「なるほど。つまり、この長々としたコーナーを読んでくれるかどうかは、私たちのリアリティにかかっていたんですね!?」
「いや、それは作者の腕次第だろ。私たちは関係ないね」
最終更新:2009年10月11日 02:24