三騎士のうち、すでに二人を倒した。残りの騎士は一人。
ボロボロになった螺旋階段を進んでいき、遥か頂上につく前の部屋に人影を見つけた。
「どうも、ミッドナイト三騎士の一人。
さぐれだ」
さぐれ。この男、見た目こそみすぼらしく、他の騎士と比べると普通の男だ。
「横綱を退治しに行こうと思ったら他にも侵入者さんですか。いやあ、今日はあわただしいね。全く、横綱だから招きいれたけど暴れるなんてきいてないぜ。しかも、あの強さ。銃も刃物も効かないとなると、とんでもないぜ。っと、侵入者さんにこんな愚痴を零してもしかたないか。まあ、横綱と戦う前のウォーミングアップでもさせてくれよ」
さぐれがステップをとんとんと、二、三回踏むとそこに誰もいなかった。
「
朧月夜、守りを頼む!」
「もうやっておる!」
「妙な力を使うね、
ミュータみたいだ」
さぐれは急な侵入者との遭遇にもまるで動揺していなかった。いうなれば、だるい。男から感じ取れたのはその感情だけだった。
さぐれが姿を見せると、守りが粉々に砕け散っていた。
「俺の力、破壊によりゃあこんな盾は紙くずだな
触れた、それも一瞬のことでさぐれが軽く触れただけで弾丸すら跳ね返す守りは意味をなすものとなくなっていた。
「いくかあ、しゃあねえ」
床にぼこりと穴があいた。そして、
おいらに目掛けてゆるりとした動きから目に見えない素早い動き。フェイントや躊躇など何もそこには存在なく、その動きにあるのはただ破壊を求めるに理想的な暴力だった。拳を振り下ろす。踏み出しの足からもっともスピードが載る瞬間に腰を捻り、膝から体重を乗せた矛のような拳の一撃。
軌道がまるで変わらずに振り下ろされた拳を交わせないおいらではない。だが、おいらはあえてその攻撃を受けていた。右手のガードを上にあげ、その矛のような一撃をまともにうける。
衝動。あの、闘技場で感じたおいらの一撃を殺丸が受けたような、いやあれよりもずっと大きな衝動だった。建物全体が揺れ、ボロボロになった階段は抜け落ち、タワーが崩れてしまいそうなほど。
「う、うひゃあ。やめときゃよかったぜ。いってえ!」
おいらの腕は赤く腫上がり、妙な方向に腕が曲がっていた。
「ははん、さてはあんた馬鹿だね」
さぐれはゆらりとゆれながら、おいらに近寄る。そして、今度はくるりと回り、遠心力を利用した回し蹴り。どこから、どの軌道にそってその攻撃がくるのか分かる。しかも、そこにあるのは思い切りの良すぎる一撃であり、それを急に止めるようなことはできない。よって、その大きすぎる一撃にフェイントを組み込ませたコンビネーションは存在しない。だから、避ければ良い。それだけだ。なのに、おいらはあえてそれを受けた。
ミシミシといった音が聞こえてくるほど、さぐれのつま先がおいらの腹筋にめりこんでいる。
「思ったり、いや、あんた。いい男なんだね。時間やるよ、ねえちゃん。そいつの体治してやんな」
「なぬ?」
朧月夜の目にはさきほどの行動の全てが謎に映っていた。
まさに、訳が分からない。攻撃を受けて、いい男で傷を治す。分からないが、おいらの折れた腕を治すにはチャンスだった。
「よく、分からんが、治させてもらうぞ」
朧月夜は疑い深い目で注意しながらおいらに近寄り、その折れた腕に触れた。
「大丈夫かの、なんであんな殺人的な攻撃を受けたんじゃ?」
「性だ」
「ぬ? 性じゃと?」
「ああ、あんな攻撃、俺の人生で一度も受けてねえ。あんなに凄い殺気で、あまるほどの攻撃だ。もう、受けることができないかもしれない。そう考えたら、避けるのがもったいなくてよ」
バシっとおいらのつるつる頭を叩いておく。
「馬鹿じゃ! 死んだら、どうするんじゃ!」
「いてて」と言いながらおいらは朧月夜を見て微笑む。
「死ぬような攻撃だったら、避けてんよ。実際、俺は顔で受けなかったぜ。あれを顔面で受けてたら死んでるからな」
強さに貪欲なだけじゃない。この男、馬鹿なのだ。その結果、腕を折られ、内臓はきっと破裂している。このままさぐれが続けていたら、おいらは確実にやられていた。やはり、この男は脆い。自分がいなければ、何度も死んでいるところだ。今までの人生、生きてこられたのは奇跡か、それとも、その強い動物的勘が働いていたのか。もしくは、今
自分がいるから甘えているのか。詳しい理由など、おいら本人しか分からないのだ。
「よし、終わったみたいだな。じゃあ、どいてもらおうか、ねえちゃん」
「ぬ?」
あぐらをかいていたさぐれが体を曲げもせずに消え、目の前に立っていた。
「すまねえな。俺の為だ」
「な、なんじゃ?」