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2-190 - (2006/03/29 (水) 11:50:58) のソース
190.あの世だよ全員集合リターンズ ---- ──ここは、一体どこなのだろう? 解らなかった。手のひらを目の前に翳し見ても、それが自分のものだと理解出来る。 その癖、周囲は真っ黒だ。それらと、それから目を覚ましていた時の最後の記憶を総合して。 ♀Wizは今、己は夢めいたものを恐らく見ているのだろうと理解した。 あの時、私は。♂クルセイダーを殺す為に一人で走った。 悪夢を終わらせる為に、償う為に一人で走らなければならなかった。 少なくとも、そう思い込んでいたらしかった。 ──自嘲したい様な気分だった。 勝手に意気込んで、一人背負い込んで。それでこの様だ。 誰がそうしろと彼女に言ったろう。致命的な周囲に対する注意散漫。 解りやすく言い換えれば、その償いはただの自己満足だ。 何をすべきかも、どうやるべきだったかも見失っていた。 このまま私は死ぬのかもしれない。だが、不思議と怖くなかった。 全ての殺された者達は私を馬鹿だと笑っているだろう。 笑え。笑って。お前はそんなな癖に殺したのかと罵倒して。 そうすれば、せめてほんの少しは楽になれる。 ──夢の中、だからだろうか♀Wizは知らぬ間に幻の如くにも見える何人かの姿が見えた。 見る間に人影は増えていく。その全員が彼女を見ていた。 見覚えがある、と♀Wizは思った。どれもこれもが、かつて見た悪夢の参加者達だったからだ。 構図を述べるならば、衆人監視の中に引きずりだされた死刑囚。 ──言いたい事は、解っている。恨み言に違いない。どうせ私は罪人なのだ。 仕方無い事であった。殺した以上は、殺されても仕方が無い。死者に法は及ばない。 残念だ。どうせ、こうやって死ぬのなら。 せめて貴方達に殺されたかった。 この重い荷物を降ろし終えてから息を引き取りたかった。 彼女は思う。 ──不意に、一人の男が彼らから歩み出た。 思考が途切れる。ぼんやりとしていた目で、♀wizはその男を捕らえた。 赤毛の逆毛。ローグの衣装を纏い、腰にツルギを提げた彼は、進む度不思議と衣装を変転し。 何時しか、真っ黒い衣装と赤い髭を供えた壮年の男に代わっていた。 彼女の現実的な知識は彼が♂チェイサーだと告げ。 夢から得た知識は彼が自分が殺した殺した者達の一人だと理解した。 「──貴方達……」 ♀Wizは呟く。見れば、その背後から更に何人かがやって来る姿が見えた。 パラディンの女、ロードナイトの女、プロフェッサーの女、高位司祭の男。 かつかつと、靴が床を叩く硬い音。 一番遅れて──、一際年寄りの詩人の男が現れる。その姿だけは彼女は見ていない筈なのだけれど。 「ごめんなさい──また、殺されてしまった」 これは全て幻影の筈で。ならば、多少愚痴になっても構うまい。♀Wizは言う。 不意に、♂チェイサーが顔を歪めるのが見えた。それから、少しして口を開く。 「こうして──お前に会うのも久しぶりだけどよ」 そこで一旦言葉を区切ると、思い切り顔を歪ませて息を吐いた。煙草があったのなら、咥えていただろう。 なんとなく、見ていて♀Wizにはそんな気がした。 「手前ぇは相変わらず嫌な女だな。シケた面しやがって」 ぺっ、と唾を地面に吐き捨てる。彼の言うことは最もだ。彼らには本当にすまない事をした。 萎縮して肩を縮ませる。♂チェイサーは、赤い顎髭をさすり眉根を寄せる。 「──手前、今でも俺達の事をすまなかったと思ってんのか、ええ?」 「───!!」 当然じゃないか。彼らは。彼らは私が殺してしまったのだ。だから、それを償うのは── 「正直な。んなのじゃ迷惑なんだよ。ほれ、こいつらも──後ろの連中もだ。見てみろ」 はっ、として顔を上げる。目。目目目目目目………無数の目が、♀Wizを見ていた。 思わず喉が引きつる。上げ様とした悲鳴さえ、途中で詰まって上ってこない。 いやいやと、子供の様にがぶりを振って後ずさる。 自らを責め苛んでいるだろうそれらが恐ろしかった。 フラッシュバックする。殺した殺した。私が殺した!!剣で矢で炎でもっともっと醜いモノで!! 当然だ!!自分は何を勘違いしていた!?許される!?今、こうやっていた事で償いでもしていた積もりか!? お前は許される筈など無いのだ!!所詮、自慰にも似た卑しい行為だ!! あの突進だって。何処か、後ろめたい思いからだったじゃないか!! かつりかつり。 顔を上げる。そこには♀プロフェッサーが、冷たい目をたたえて立っていた。 「逃げるな」 「───!?」 がしり、と肩を捕まれる。悲鳴の代わりにヒュウ、と掠れた様な音だけが漏れた。 喉が乾いてヒリヒリする。その癖目頭は酷く熱くて、今にも泣き出してしまいそうだった。 睨み付ける様な、目が彼女を見ている。 一目瞭然だった。♀プロフェッサーは怒っている。 「解らないか?私は、逃げるなと言ったんだ」 足がまるで動かなくなる。体は木偶みたいだ。今にでも滅茶苦茶に暴れだしてしまいたいのに。 嫌だ。私を見るな!!そんな目でそんな目で私を見るな!! そんな強い目で私を見るな!!そんな……そんなまっすぐな目で、そんなまっすぐな目で私をみるなぁっ!! ♀Wizは怯えた子供の様に、ただ目だけで目の前の女をにらみつける。 「解らないなら言ってやろう」 少し、変わった──長いスカートの♀ロードナイトが、子供に言い聞かせるように、言う。 背に提げた巨(おおき)な剣と、黒を基調とした服装。真っ赤な目が特徴的だった。 「貴様には覚悟が──『これから』を生きる意志が足りん。だから、我等への償いをするなどと戯けた事が未だに言えるのだ」 「あああああ……」 呆然とした顔の♀Wizは、言葉にもならぬ言葉を発しながら聞いていた。 これからを生きる意志?それを私に与えなかったのはこの夢じゃないか。 それに夢の主が本当に私だとは。ああ、けれど私であるのかもしれない。 意思が定まらない。思考がめちゃくちゃに暴走して、少しも落ち着かない。 「──そして、その甘えは。自覚していなかったとしてもそれは、危うく共に歩く者を殺す所だった。 『そんな者』は何も成さぬし、何もなせぬよ。私がそうだったようにな」 酷く厳しい声で、女騎士はそう断言した。 「でも──だって、私はっ!!貴方達を、貴方達を殺して──」 「──ああ、確かに」 高位司祭が口を開く。 「確かに、俺達は殺されたよ。けど、それはあんたがこれからする事とは別の事だ」 「──えっ?」 「貴方には、その覚悟が無い。何より、これからを生きようと言う意志が無い。 生きているんだ。なら、償うにしてもやり方を選べるだろう」 ♀パラディンが歩み出て、♂ハイプリーストの言葉を引き継いだ。 「これからを生きる意志──?それに、やり方なんて……」 ♀Wizは呟く。自分などに、これからを生きる権利など無い。ならば、そんなものは持つ権利など無いだろう。 そして、償う方法などわからない。どうすればいいと言うのか。 何も、答えることなど出来はしない。彼女は、口を閉ざす。 「──お嬢さん。恐れてはいけない。口をお開きなさい」 静かな、されど歌う様な声で年老いた詩人が彼女に言った。 「で、でもっ!!私は……私はっ!!」 そうだ。♀Wizは繰り返す。 「殺したんですよ!?何人も、何十何百人も!!なのに……っ、なのにどうして私にそんな辛い事を言うんですか!?」 老人は、激昂する彼女に軽く息を吐く。 「落ち着きなさい。そんなじゃ、出来る事だって出来はしないよ」 柔和な笑み。周囲を見れば、歩みでた者達は、その詩人と♀Wizを苦笑しながら見ている。 彼女は、まるで自分がだだをこねる子供にでもなってしまった気がした。 目元を軽くこする。それで、自分が泣いていた事に気づいた。 いや、これは夢の中だから。気づいて初めて涙が流れたのかもしれなかった。 「あ、貴方は──?」 「ふむ──説明すれば長くなる。だから、自己紹介は簡便してくれないか?」 「──別に、構いませんが」 「有難う──」 ふと、♀Wizには老人の雰囲気が変わった気がした。 「これも何かの因果か。まさか、貴方がこんな事になるとは」 「……因果応報、ですかね」 「かもしれんね」 「───」 詩人の返答に、♀Wizは口をつぐむ。 「ですがね。私はこうも思う」 「──?」 「罪とは許される為にあるもの──私が、いいえ。私達が貴方に求める罰は一体何だと思う?」 「───」 解らない。♀Wizには、彼らが一体何を求めているのかが理解できなかった。 自らの死ではない、と彼らは示した。申し訳ないと思う事が償いでは無いと彼らは言った。 「───私は誰にも忘れられた時が人が本当に死ぬ時だ、と思ってる」 「貴方は一体何を──」 しぃっ、と人差し指を立てて口に当てた♂チェイサーが、彼女に静かにする様に示す。 話の飛躍に戸惑いながらも、♀Wizは詩人の話の続きをじっと待つ。 「貴方が死んでしまったら、『私達』を覚えている者は誰も居なくなるんじゃないか?それに──」 「幾つになっても回りくどいな、君は」 苦笑しながら、♀プロフェッサーが言う。貴方には敵いませんよ、と詩人も笑った。 「それにね。罪が許されるべきものなら、許された先も貴方は紡いでいかきゃいけない。 いいや。貴方が死ぬなどもう私達には償いにならない。 生きるんだ。仲間がいるだろう?私達の事よりも、まず彼らの事を考えなさい」 「で、でも……」 「まだ気にしているようだね。でも、私達は───」 詩人は、しわくちゃの顔を更にしわくちゃにして笑った。 とても、とても穏やかな笑み。不思議と、♀Wizは瞳を見開いていた。 「もう、いいんだ。その事で貴方を責めてはいない」 「え──!!?」 「確かに貴方の事が憎かったし、怒りを感じてもいた。 だがね。貴方にも、今はあの時の私たちと同じように『やらなければならない事』がある筈だ。 なら、自分の命を粗末にしてはいけないよ。それに固執してもいけないけれどね」 「やるべき……事?それに、矛盾しています……粗末にしてはいけないのに、固執するなだなんて」 「──良く考えなさい。それは両方とも極論に過ぎないから。貴方にもきっと答えは解る筈だ」 じっと、彼らは♀Wizを見ている。 「ま、解らねぇならそれまでだし、適当に言われても困るんだけどよ」 ♂チェイサーが軽口を叩く。二人の騎士は腕を組み、♂ハイプリーストはじっと彼女を見ている。 簡単に答えなど出る筈も無い。だが、酷く詩人の言葉が胸にひっかかる。 考える。先ず、最初に浮かんだ事は愛していた人の事。 次に浮かんだのは、一緒にここまで歩んできた仲間達の事。 ──そういえば、彼らは今頃どうしているのだろう? 私が居なくなって、どうしてるのだろう? 「貴方が再び、今度は参加者としてゲームを終わらせる為舞台に立つ──」 ♀クルセイダーが口を開く。 「これも定め、かな?」 黒衣の♀ロードナイトが、答える様に呟いた。 「死ぬ事って言うのはさ。あれだよ。どんな事があっても恐れていいんだ。でも、死ぬ事を当然と思っちゃいけない」 ♂ハイプリーストが言う。 「そりゃそうさね。その言い方だと、手前ぇの命もそれに連なる俺達の命もつまんねー理由で失われた事になっちまう。 そう簡単に投げ捨ててもらっちゃ困るわな」 ♂チェイサーは又、赤髭を弄っている。 口々に告げられる言葉に、♀Wizは瞳を閉ざし俯く。 その目からは涙が零れていた。 私は──どうすればいい?思う。 死にたくは無い。本当は、彼女だって死にたくなんかない。 だけど、自分が許せず、目の前の者達が理解出来ない。 じっ、と。彼女を見ていた詩人が不意に目を閉じる。 ───ぱぁん。 そして、次の瞬間に乾いた音が響き渡っていた。 ひりひりとした痛みに、♀Wizは閉じていた瞳を開ける。 詩人が、酷く厳しい目で彼女を見ていた。 「逃げるな、目を逸らすな──アンタはまだ生きているんだ!!全てを──逃げて全て無駄にしてしまうつもりか!?」 「ぁ───」 彼女が発した声は、その実意味ある言葉ですらない。だが。 その瞬間。確かに、確かに♀Wizはかちり、と。パズルのピースが嵌る音を聞いた。 そう──だ。 死ぬわけには。死ぬ事なんて出来ない。だって、無駄になってしまうから。 いいや、無駄になんかする訳にはいかない。♀Wizは思う。 だって──そんな事したくない。そんな事は、出来ない。 それじゃあ。そんなのじゃあ。幾ら償ったとしても、自分自身を許せない!! つまりは、そういう事。 彼女は、償う為に今も又罪を重ねてはならない。 「私──は」 顔を持ち上げる。はっきりと詩人を見据える。古い歌の一節が聞こえた。 ──贖いは遥かに。例え、死者の道を往くとしても迷わず。嘆かず。 「もう迷わない。貴方達に、そして生きている限り誓います。私は、その罪深さの故にこの命、粗末には扱わないと」 気高くあれ。例え傷つくとも、勝ち取るべきものがある故に。捨てべからざるものがある故に。 ♀Wizは一礼する。彼の英雄とでも呼ぶべき者達への敬意と感謝を込めて。 「──答えは得たかい?」 「はい──もう、迷いはありません」 紅く。紅く。命燃え、見事に散り逝くとも忘れぬ限り星の如くに。 「その顔なら、安心だ。何時か又会おう」 戦う友よ。定めの人よ。その涙を堪(こら)え給え。祈りを紡ぐ命を絶やさぬ為に。時を越え、その名を胸に刻む為に。 詩人は言う。彼らは♀Wizに背を向けた。♂チェイサーが片手を挙げて、♀パラディンに小突かれる。 「ありがとう──ございました」 立ち上がれ。雄雄しくあれ。定めを受けた者。運命に抗うべく、その身を堅き覚悟で鎧い給え。 礼を言う。やがて、光が見える。目が覚めるのだろうな、と何故か解った。 背を向け、歩いていく者達には微笑みのみを。 彼女も又、自ら進むべき場所に向かって歩き出した。 余談だが──或る名前の、歌詞の無い歌がある。 それが示すのは即ち、「Battle Royale」である。 <♀WIZ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ロザリオ(カードは刺さっていない)、クローキングマフラー 案内要員の鞄(DCカタール入) 島の秘密を書いた聖書、口紅 外見特徴:WIZデフォの銀色 備考:LV99のAGIWIZ、GMに復讐、♂プリ、♂シーフと同行 ♂クルセイダーを殺そうと、彼を追う 状態:昏睡から復帰。ただし、完全治癒では無い。 瀕死=>最大限治癒したとしても歩行に支障程度。運が悪ければ、死亡もあり得る。> ---- | [[戻る>2-189]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-191]] |