教育への権利を日本に住む外国籍の子どもたちにも保障しなければいけない: パネル発言

 こんにちは。小貫大輔と申します。
 海外の生活が長くて、よく日本人らしくないと言われますが、私は日本人です。ブラジル人との間にハーフの娘がいて、日本に戻ってきたばかりのとき、娘はあるとき学校で「外人」と呼ばれたので、「わたし外人じゃないもん」とこたえたそうです。日本国籍もあるし、日本で生まれた子どもだったので、「わたし外人じゃないもん」とこたえた。相手の男の子は私を見たことがあって、「でもおまえの父ちゃん外人だろう」と言ったので、娘は「お父さん外人じゃないもん」と言って…、男の子は何だか訳が分からなくなっちゃったそうです。
 20年ほど前にブラジルに渡って、長く向こうで暮らしました。5年、5年、3年と3回ブラジルで暮らしました。その間、向こうでは教育や保健医療のプロジェクトをして生活していました。10年間ぐらいエイズの仕事に関わって、10年間ぐらい自然分娩のプロジェクトをやりました。
 エイズのプロジェクトの中では、ブラジルの国でコンドームの値段を安くするという目標を立てて、10年ぐらい一生懸命やって、本当に安くなるところまでいったという思い出があります。ブラジルでは、日本人よりも一人当たりで使うコンドームの数が多くなるところまできました。その次のプロジェクトでは、助産師という職種を作って自然分娩率を上げるということをやりました。そういうことをやった後、4年前に日本に戻って、今、東海大学で教えています。
 日本に帰ってきてからは、外国から来た子どもたちの教育に取り組んでいるんですが、その中でも一つ明確に自分が意識している役割があって、それは法律の上で日本に来ている子どもたちの教育の権利が差別されないことを明確にすること。そのことが大切だと考えて、いろんな角度から取り組んでいます。
 自分はソーシャルワーカーのバックグラウンドがあって、世の中を変えるためにはこっちからもあっちからも、いろんな角度からアプローチしなきゃいけないということをさんざんたたき込まれているので、そういうつもりで仕事をしています。
 東海大学に入ってすぐに、ある偶然からブラジルの政府と連絡を取るようになりました。ブラジルの教育省が、日本にあるブラジル学校のサポートをしたいという話があって、私の大学がそのお手伝いをすることになったのです。サポートの仕方にもいろいろあるだろうけれど、ブラジルの政府として意識しているのは、ブラジル学校で働いている先生たちの質を向上させたいということでした。まずは、教員免許を取らせたい。そうじゃないと、もちろん学校の質が上がらないし、ブラジル学校で教える先生たちが教員免許を持っていないと、ブラジル政府としても学校を認可できない。認可というか、単位認証というか、就学歴を認証する制度があって、そういう認証のできる学校として認められない。
 ブラジルは大きな国なので、オンラインによるインターネットを使った大学講座がたくさん開かれていて、遠隔教育の先進国なんですね。特に、教員養成で遠隔教育に力を入れているので、オンラインの教員養成講座というのは、そばで見ていて立派なものだと分かります。そのやり方を使って、日本のブラジル学校に勤めている先生方の教員免許を取らせたいということで、そのためには日本側の協力者が必要ということで、東海大学がやりましょうということになりました。
 結局、ブラジル学校だけでなく、公立学校に勤めている人あるいは地域でボランティアをやっている人、誰でもブラジル人の子どもの教育に携わる教育者なら受講できることになって、今300人が4年間かけてオンラインの講座を受けています。ブラジルの政府のプロジェクトなので全員受講料が免除されています。
この講座では、年6回スクーリングがあって、オンラインで勉強したことを顔を見せ合いながら勉強するチャンスがあるんですね。6回を全国の6都市でやるんですが、6都市一遍にできないので2回に分けます。つまり、年に12回スクーリング授業があって、私の週末は年に12回、スクーリング授業でつぶれてしまいます。でも、すごく面白い集まりで、どこに行っても楽しい授業になります、とにかく。僕もブラジルが長かったわけですが、ブラジルの人たちのあの楽しさというのは日本にない楽しさで、日本にいながらにして、年に12回ブラジルを体験できるのはラッキーと思っています。それが、大学の授業のほかに力を入れている私の仕事です。
 今日は、お配りした資料の中に毎日新聞(中部版)の「学びたい」という記事があるので、ちらっと見てください。中部版なので東京に住んでいる方々はなかなか見ることがないと思って持ってきました。記事で扱っているのは、豊田市で、ブラジル人の子どもが、親の失業でブラジル学校に行くお金が払えなくなって公立学校に移動した話です。ブラジル学校では学力が追い付ついていなかったので中学1年生のクラスにいたんだけど、公立学校では年齢に合わせて中学3年に入れられてしまって、しかも中学3年生並みの学力があると認めてもらえないために、卒業はさせてもらえずに、そして留年もさせてもらえずに放りだされてしまったという話です。
じゃ、2年生に入れろよ、1年生に入れろよという話が出たんだけれども、豊田市は日本の学校は学齢主義だということでそんなことは認めないというんです。そんなことで、一人の男の子が中学校を卒業できずに放りだされてしまったというケースがここに載っているんですね。これは絶対許せないと思ってこの記事を紹介しました。
 このことを、僕がどうしても許せないと思うのには個人的な理由もあります。うちでは長女だけがブラジル国籍しか持っていなくて、彼女が15歳で日本に帰ったときに、世田谷区で中学校に入れてもらえないということがありました。彼女は、もともと1年遅れで小学校にあげたので、15歳になってから中学3年に上がるはずだったのですが、それでは学齢超過だからと断られてしまいました。
別の資料を見てください。「義務教育とは満15歳に達する年の学年の終わりまで教育を受けてなきゃいけないことだ」と書いていある学校教育法の一文です。それを世田谷の方に見せられて、おたくのお嬢さんはもう勉強できませんと言われてしまったんです。でも冷静に考えて、世田谷区とけんかしていてもらちがあかないと思ったので、中野区に住んでいるおばがいたので中野区に聞いてみました。そうしたら中野区では学校に入れてくれるというので、中野に住んでいることにしてもらって問題を解決しました。
 私が日本人で、なんとかやりくりできたからよかったようなものの、普通のブラジル人だったら、中野区におばさんがいるわけでもないだろうし、どうにもならなくてあきらめてしまったかもしれないと思うんですね。あのとき、僕は本当に頭にきたので、世田谷区と闘いたいと思いました。でも、それでは娘にとっては迷惑なことだと思って、中野区のおばを頼って問題を避けて通りました。
当時、私は、ただでさえ娘に申し訳ないと思っていました。ブラジルで幸せに、楽しく、友達がいっぱいいて暮らしていた娘を、親の都合で日本に連れてきたということに、正直言って負い目がありました。でも娘には日本で日本の言葉をちゃんと覚えてもらって、日本のことを好きになってもらいたいと思って連れてきている。その子どもに、いきなりああいうことが起きて、何て間違ったことをしてしまったんだろう、何て大失敗をしでかしてしまったんだろうと思って、正直言ってそのときの世田谷区の先生の前でひざが震えたのを覚えています。
 その震えているひざを震えたままにして、自分は中野区という出口を見つけた。それでそのまま来てしまったけれども、こんなことが全国のどこかでいつも不運な家族の上に訪れているんだと思いましたよね。すでに15歳になっているから駄目だということで、1年下げて入れてもらえない、2年下げて入れてもらえないということが、いつもどこかで起こっているわけですよ。しかもおそらくだれも知らないところで起こっているんですよね。そういう場面に遭遇して、あきらめちゃっているケースがほとんどだと思うんです。数は全然わからないですよ。何百人もいるのか、年に一人とか二人のことなのかも分からないけれども、たった一人に起こっても絶対許されるべきことじゃないと思うんですね。
そのことを書いてある中部版の毎日新聞、もしかしたら会場に記者の方がお見えなのかもしれないんですが、とてもいい記事だと思ったので、みなさんに読んでいただこうと思ってコピーして持ってまいりました。
 外国から来た子どもが、義務教育という意味で小学校の年齢、中学校の年齢で、日本人の子どもと差別されてはいけないことは、どんな人にも簡単に理解できることだと思いますよ。外国人だから小学校、中学校に入るときの権利が違うんだと思っている日本人はいないですよ。いたらよっぽど変わっている人だと思いますね、私は。
 だけれども、いま述べたようなことが実際に起こってしまっているんです。これを防ぐためには、僕は法律を改正しないといけないと思うんですね。文部科学省は、実は今年の3月に通知を出して、「年齢を下げて入れてもいいですよと、入れた方がいいですよ」ということを各都道府県の教育委員会に伝えてもいるんです。そのこともこの記事に出ていることですが、通知で出していてもその通知を見ない自治体はあるし、見ないどころか、岐阜県の場合は、その通知を追いかけて、そういうことはしないようにという通知をさらに送っていることがこの記事に出ています。ですから法律を変えないといけない。
 この記事によると、岐阜県の方は、外国人にだけそういうことを認めると日本人に不公平だと言っているんですね。不公平? その言葉が出たときはすごいなと思いました。この記事だけを読んでの話で詳しいことは知りませんが、誰か日本人が「不公平」だと言ったんだったら、それは誰だか、誰の意見を代弁しているのか聞きたいと思いますよ。
 ただ、外国から来た子どもたちに日本人と同じに義務教育を課すという議論になると、それはそれで賛否両論出てくると思います。現実に、長いこと朝鮮学校に通っている子どもたちは、日本の法律で認められない学校に通っていても何もとがめられなかったわけですし、同じようにブラジル学校に通っている子どもたちのことも問題とならないできた。そういう状況が変わるわけですよね。しかし小中学校の基礎教育を受けるー基礎教育に相当する学びを得る権利と言い換えた方がいいと思うんですが、どこで教育を受けるかは別にして、場合によってはホームスクーリングのように家庭で受ける場合もあるかと思うのでー基礎教育に相当する学びを得る権利、それは国籍によらず、差別があってはならない。
 教育基本法の中では、人種によって差別してはならないと書いてあるんですよね。日本人でなければいけないんだけれども、日本人同士だったら人種で差別してはいけない。日本人だったら黒人でも白人でも差別されないと書いているのは何と不思議な法律かと思うんですが、そこのところは、読み方によっては、人種とはつまり国籍だと読むべきだとは思いながら、でも実際に国籍による差別が行われているので、これは変えなければいけないと思います。
 ただ、その中で、教育に関する権利というのは、実は教育を受ける権利だけではなくて、教育を選ぶ権利とワンセットで述べられなければいけないんですね。こちらの資料に人権規約からの抜粋が出ていますが、世界人権宣言にも国際人権規約にも明確に書かれていますが、教育は「受けること」ができることが保障されていることと、教育の種類は、自分が「選ぶこと」ができること、自分とはこの場合は保護者ですが、保護者が選ぶことができることが「教育への権利(ライト・ツー・エデュケーション)」だと、国際法上はっきり述べられています。
 というのは、「国が決めた教育」を受けなければいけないというだけであれば、それは教育を受ける権利が保障されたとは言えないからです。元々はヨーロッパで生まれた感覚なのでしょう。たとえば、カトリックの国に住むプロテスタントが、みなカトリックの教育を受けなければいけないんだったら、その国に住む何パーセントかのプロテスタントの人にとっては教育を受ける権利は保障されてないのと同じことなのです。ある国に住んでいてどんな教育を受けるかは、それは保護者が選ぶことができなければいけない。学校を選べるということは、つまり、信じるところに従って学校を設置する権利も認められていなければいけないわけです。そのことも人権規約に明確に書かれていますね。
 ところが、日本の場合は、朝鮮学校をつくろうが、そして外国人だけじゃなくて、日本人のためにつくられている学校でも、シュタイナー学校ですとか、いろいろなフリースクールですとか、政府がこれが学校だと言う学校以外は学校として認められていないんですね。そういう意味で、日本では選択の権利、そして自分の信じるところに従って教育を実践する権利が認められていないという問題があります。そのことをちゃんと明確にして訴えていきたい。つまり教育を選ぶ権利、そして受ける権利がすべての人に認められる社会を作るためにはどんなことができるかを一生懸命考えているところです。
 最後に一つだけ資料の説明をすると、資料の最後の方に幾つか教育特区の例が出ています。これは日本で下の2人の娘たちをシュタイナー学校にやっていたときに、シュタイナー学校の親御さんたちとみんなで取り組んだテーマでした。そのときの努力のかいがあって、教育特区という制度を使って、シュタイナー学校は今は普通の学校として認められるようになったんですよ。学習指導要領によらない柔軟な教育をすることが法律で認められたんです。もう一つ、学校の校地・校舎は借り物でいいということもそのときに認められるようになりました。別の学校のケースですが、同じように教育特区の法律で、外国語で授業をやってもいいということにもなりました。
 校地・校舎も借り物でよくて、学習指導要領も柔軟に応用できて、しかも外国語で授業していいんだったら、ブラジル学校だって朝鮮学校だって法律的には学校として認められるときが来たと思うんです。たった一つ気がかりなのは、「専修学校」の要件という法律の中で、外国人を専ら相手にしている学校は専修学校になれないと書いてあることです。専修学校になれないんだったら普通の学校にもなれないだろうと読まれちゃう法律ですが、そういうところが本当に問題になるなら、やっぱり国籍による教育上の差別を許す法律があるからいけないわけで、国籍で差別してはいけないという法律が根源的に必要だなということを繰り返して述べたいと思います。

最終更新:2010年05月27日 13:02
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