<会場>
ブラジル学校の教員養成の機関の関係のお話だったんですが、例えば埼玉県の越谷の例では、ブラジル学校が実際に閉校されまして、そこを修了したないしは修了できなかった子たちをどうするかという課題が出てはいるんですが、日本におけるブラジル人学校自体をそもそもブラジルの政府というのはどのように扱おうとしているんだろうかというところを。
現に、過去、涙を飲んだ子どもたちがたくさんいますので、恐らく将来の話というのは非常に夢があって希望もあるんだなというのはお話聞いて分かったんですが、その移行期間はまだ数年あると思うんですね。ですので、そこの間、ブラジル政府として各諸外国にもし位置付いている、諸外国にある外国人学校自体をどうしたいのかを、ありましたら教えてください。
<小貫>
よく話題になるのが、日本以外の国にはブラジル学校がないというやつですよね。アメリカに80万人ブラジル人が住んでいて、日本に30万人。アメリカにはブラジル学校がおそらく1校ぐらいしかなくて、日本には100校ぐらい生まれた。なぜだろう、日本の公立学校に問題があるんじゃないかとよく話題になります。
日本にいるブラジルの子どもたちのうちの多くの子どもたちがブラジル学校にも日本の学校にも通っていない。その数は分からないんですよ。何人行っていないかが分からない状態になってしまっているんですね。私は数千人が不就学・不登校だといつも言うんですが、小中学校年齢のブラジル人の子どもが3万人日本にいる中で、数千人の子どもがどこの学校にも行っていない。数千人の子どもがブラジル学校に通っていて、そして2万人弱の子どもが公立の学校に通っている。しかも、公立の学校に通う子どもたちのうちの1万人はちゃんと勉強ができていないと、文部科学省も言っているわけですよね。日本語が分からないために特別な指導がないと授業に付いていけないと。でも、ついていけないけれども、日本の学校では落第がないので、毎年学年がぽこぽこ上がっていっちゃって、ただ無駄に時間がたっていってしまう。どこにいる子どもの状況も、みんな大変なんですよね。
ブラジルの政府は何を考えているかというと、ブラジルの政府は、幾ら自国民のためでもよその国の教育政策に影響を及ぼす力は持っていないし、そういう権利も持っていないことはよく認識していると思います。ブラジルの政府が日本に来て何かができるというわけではない。何かができるわけでない中で、じゃ何ができるかなって考えたときに、日本にいるブラジル人が何か行動を起こしていなければ支援できないだろうと考えますよ。個人でやっていることではなかなか支援できない。グループでやっていることじゃないと支援できない。誰がグループで何かをやっているのかって見たときに、日本には教育に関してはブラジル学校という形で組織的な行動を取っている人たちがいるんだから、そこを何とかしなきゃいけないというのがブラジルの政府の発想だったと思うんです。
日本の国の中でブラジル学校の地位を向上させる。そのためには、それらの学校がブラジルの制度にのっとった教育をやっていることを認証するというところから始めた。認可を始めてみたところ、そこで教えている先生たちに教員資格がないからこれ以上認可が進められないという問題につきあたった。あるいは、認可をしたはいいけれども、先生たちはコロコロと変わっていくから、教育の質が保証ができない。教師の質を向上させなけらばいけないということで、先ほど申し上げたようなプロジェクトが生まれたわけですね。
ただ、実際問題として、ブラジル学校、今80校ぐらいあるんですが、そのうちの多くの学校は安定していないし、そこに子どもが通っていても、いつ何が起こるか分からない、学校がつぶれてしまうかもしれない。あるいは、4年生まで行ったけれども、5年生はないような学校ばかりなわけですよね。
だから、どこかで本当は日本の学校に移らなきゃいけない。でも、そのことを考えたくない。なぜかというと、いつかブラジルに帰るからという気持ちでそこに子どもを通わせているから。でも、実際には帰らないままいつか時間がたっていって、子どもがポルトガル語では教育を続けられないときがやってくる。日本の学校とブラジル学校の二つのシステムが何の整合性もなく連携もなく並立しているんです。
日本にある80校ぐらいのブラジル学校のうち、今6校が朝鮮学校と同じ立場の「各種学校」に認可されました。比較的しっかりした学校です、この6校は。そのほかに何校かが各種学校になろうとしているから、十数校はしっかりした学校として存続できるレベルの経営をしていると思うんです。そういった学校は、本当は各種学校じゃなくて、本当の学校にしなきゃいけない。各種学校になっても日本人の学校のように私学助成が下りるわけじゃないから、全然やっていけないんですよね、経済的に。学校にしてちゃんと支援して、本当にいい教育がされる場所にしなければいけない。他方、80校のうちの70校近くの学校については、ちょっと考え方をどこかで整理しないといけないと思います。
役割は続くと思うんですよ。就学前の教育はそれらの学校が担える重要な部分だし、あと放課後のサポートだとか母語教室だとか別の役割を担って、公立の学校と連携して相補う仕組みをつくることが必要になると私は思います。そういう仕組みをつくって、多くのブラジル学校の役割が整理される移行期が必要と思います。うちの大学でやっている教員養成コースでも、ちょうど3月のスクーリングのときにそういったテーマについて話し合うことになっているので、今いろいろとブラジル学校やその他の関係者の意見を聞いたりしているところです。
移行期といいましたが、そのときに手伝ってあげなきゃいけないんですよね。今まで4年生までブラジル学校で勉強していた子が、その学校には5年生がないから日本の学校に入らなきゃいけない。あるいは、その学校そのものが経営が成り立たなくなってきているので、就学前教育に集中することになるという方針転換がありうる。そういうときに、今までブラジルの学校の仕組みの中で勉強してきた子どもたちが日本の教育に移動するときに手伝ってあげなきゃいけないというのは、これはかなり本格的に力を入れてやらなきゃいけないことだと思うんです。
今年、文科省は「虹の架け橋教室」という、学校に全然行けていない子どもたちをサポートする活動をしている人たちにお金を出しますという事業を期限付きでやっているんですが。実はうちの大学がその事業に申請を出して、ちょっと今回は通らなかったんですが、そういったたぐいの事業をもっと本格的に長い期間にわたって実施することも必要になると思います。
お答えになっていたでしょうか。
<会場>
一つ分からない点は、先ほど10校が教育がしっかりした学校であるから認可をしてきたのがあるということですが、その認可というのはブラジル政府が認可していくんですか。
<小貫>
そうではなくて、日本の制度で各種学校になった学校の数が6校、これから数校増えそうだ、という話をしたのでした。多くのブラジル学校はブラジルの政府の認証は受けているので、その学校で勉強したということはブラジルの学校で勉強したと同じ扱いを受けられるようになっているんですね。それとは別に日本の制度でも各種学校になったということは、日本の国の中で、学校ではないけれども朝鮮学校と同じような意味での法的位置づけが得られているということですね。ただ、私学助成のようなものは受けられない。私学助成を受けられないで子どもたちの月謝だけで学校を運営するというのは、実は不可能に近いぐらい大変なことなんですよ。
<会場>
それじゃ、ブラジル政府は各地で関与したりする気はない。
<小貫>
国外にある学校について私学助成のようなものをブラジルがするかというと、それはあり得ないです。ブラジルの国は私立の学校に対する私学助成はないですし、公立学校だけが無料で保障されているだけで、私立の学校はブラジルの中では基本的にはお金のある人たちが子どもの月謝を払ってそれで成り立たせているので、それを助成することを国外でやることはあり得ないです。
<会場>
在日の日系の方がしているブラジル学校というのを政府の方では支持するつもりはない、今のところはちょっとできない?
<小貫>
ブラジル学校の方々は、いつもブラジル政府に支援を要請してはいるけれども、でもそれは絶対にできないということはブラジル政府から何回も回答が来ています。
<会場>
ありがとうございました。
<司会>
ありがとうございます。もっと長くお話になりたいことはひしひしと分かっているんですが、ちょっとほかの方にも御意見を伺いたいので、ほかの方にお話を伺います。
<会場>
江東区から来ましたマエダと申します。江東区で区議会議員をしています。今年の夏、フィリピン人のご家族から生活保護の相談を受けて、聞いているうちにいろんな問題が見えてきました。4人いるお子さんのうちの一番上の娘さんは中学校2年生の途中までしか行かないで、学校を途中で除籍になっていました。お母さんがフィリピンに里帰り出産でいったん帰った時に一緒に帰りまた江東区に戻ってきたんですけれども、中学には戻らなかった。友だちと一緒の学校に行きたい、と本人はいうのですが中学を出ていないから高校には入れない。そしてフィリピン人のお母さんは、日本語は、会話は不自由ないんですけれども読み書きはできず、お父さんはほとんど日本語が話せない。一方で、子どもたちはどんどん学校で日本語の勉強をしていって、家庭ではタガログ語でやり取りしているんですよね。お父さんは日本語でやり取りになるともうその会話の中に入っていけなくて、まだ言葉の出ない2歳の子だけはすごくかわいがるんだけれども、ほかの子とは余り話さないのです。
子どもたちの学ぶ権利を進めていくというのはとても大切なことだと思いますが、それと同時に子どもが成長すればするほど日本語が話せない親御さんは、家族でのコミュニケーション上で複雑な問題を抱えていくことになると思うのですが、何かいい策はないのか、それは避けられない問題なのかなと非常に複雑に感じていまして、何かお考えがあればお聞きしたいと思います。
<司会>
はい、ありがとうございます。
親御さんの日本語が上達していかないということで、親子の間でのコミュニケーションが成立しない、これはよく言われることですが、そのことを回避するために親がうまく学べる何か方法はないだろうか、そういう質問だと思いますが、パネリストの方でこういう方法はいかがでしょうかというのはありますか。それとも、会場でこうやられてはどうかという御意見がありますか。どなたでも。じゃ、小貫先生。
<小貫>
日本語を学ぶためのサポートをされておられる方たちを前にして言うのは言いづらいんですが、外国から人が来ると、みんな日本語を学べ学べと言われるんですよね。それで、そのための支援があったり勉強しろ勉強しろという支援がいっぱいあったりして。でも、それって、努力ばかり要求される感じがするんですよね。
自分自身、今までいつも外国語を学びながら生きてきた立場から思うんですが、学べ学べと言われたから学べるものでもなくて、楽しいから学ぶというのが本当だと思います。僕はブラジルに行って、すごい楽しかったから一生懸命言葉を勉強したし、覚えたんです。日本語教育のことを言うとき、楽しいかどうかを考えないで、日本に来るんだったら、努力するのが当たり前でしょと押し付けている感じがする。
自分の子どもについて思いますよ。自分の子どもに日本語を覚えてもらいたい。国際結婚している家庭の中では非常に重大な問題ですよね。二つの文化が闘っているんです、家の中で。どっちが勝つかということをやっているんです、実は。僕は一生懸命日本を弁護して、日本を好きになってもらいたい、日本語をたくさん覚えてもらいたいと思うんですが、それを、覚えなきゃいけないんだぞと強制しても絶対駄目ですよね。いかに楽しくするか、いかに日本はいいな、日本語はおもしろいなという気分を味わわせるかというのが何しろ大切ですよね。
話はちょっとずれちゃうんですが、娘が中学校3年生、結局卒業することになったときに、日本の卒業式というのは中学校で国歌と国旗が出てきますよね。すごいなと思ったのは、そのときまでスクリーンで隠れているんですよね、国旗が。国歌斉唱になるとそのスクリーンがぐっと上がって、国旗が出てくるんですよ。そうすると、先生たちびしっと緊張するんですよね。何か起こらないかな、何もおこらないといいなって。無事に国家を歌い終わると、「スライド鑑賞」とアナウンスされて、またスクリーンが下りてくるんですよね。そうすると、みんなすうっとほっとするんですよね。
ああいう形で日本の国を好きになれと言うのは逆効果じゃないですか。嫌な思い出しか残らなくて、僕は自分が日本を弁護する立場からして、何と下手くそなことをしてくれたと、学校のやり方は困ったものだなと思ったことがあります。
言語の教育については、僕は、子どもに母語をきちっと身に付けることを保障することがとても大切だと思っています。6歳までは少なくとも、幼児教育の部分でもっとしっかりと支援をして、何とか母語を充実させることがとても大切。そうでないと、親と子が会話できない家庭がたくさん生まれてしまう。親が教育に参加しないでは、子どもがしっかり育たないでしょ。母語を身に付けさせた上で、それから今度は日本の公立学校に入るための移転、移行のサポートが必要だと思うんですよね。そのためには、外国から来た子どもが小学校入学を1年遅らせることを選ぶことを認めることも必要と思います。我が家ではその作戦が成功しました。そういう、母語での教育から日本語での教育へ移行することのサポートを制度化することが必要と思っています。
小さいときには母語をしっかり身に付けさせて、小学校に上がるときにバイリンガルにしていく。バイリンガルの子どもを育てた経験からいって、バイリンガルの子どもを育てるのが大変であることはよくわかっています。ただ、大人になってから来た方に、つまり親たちに日本語を覚えてもらうことがとても難しいことを考えると、子どもたちを支援することが大切と思います。
最終更新:2010年05月27日 13:01