旧法との関係 三八条一項及び三項
趣旨
本条は、付与された特許に無効理由があることを知らないで、その発明の実施の事業又は事業の準備をしている者を保護する、いわゆる中用権について規定したものである。その保護が与えられるのは、自己の特許は無効にされたが、他方に同一の発明について特許権が存在する場合であり、実施の事業又は事業の準備をしていた者はこれらの権利について通常実施権を有するものである。
一項柱書中の「事業の準備」「発明及び事業の目的の範囲内」等の字句の意義については前条と同様である。また、専用実施権について通常実施権を有することについて通常実施権を有することについても規定しているのは、本条の規定による通常実施権が発生する時点においては専用実施権が発生している事態もあり(この点、前条の場合と異なる)、このような場合には特許権について通常実施権があるとうのみでは通常実施権に対抗することができず、また三号にも規定するように専用実施権から通常実施権が流出している場合もあるからである。
一号は、同一の発明について二以上の特許がされ、その一を無効にした場合である。子の場合の無効理由は主として二九条一項違反又は三九条違反ということになろう。原特許権者とは無効にされる直前に特許権者であった者をいう。
二号は、一号の場合と異なり、ある特許を無効にして、その後に別の権利者(正当権利者)に特許を付与する場合である。たとえば、同一発明について、二つの特許出願が先後してされた場合に誤って後願がされ、先願はなお特許出願が係属中であるとする。この場合に先願者は後願者の特許を無効にし、自己の特許出願について特許を受けることができる。この無効にされた後願者が本条の規定による通常実施権を有するわけである。
三号は、一号及び二号の原権利又はその権利について専用実施権若しくは通常実施権を得ていた場合である。この場合の通常実施権は許諾によるものについては登録をしていなければならない。
二項は、一項の規定により通常実施権を有することとされた者の対価の支払義務について規定する。前条の規定による法廷実施権については、対価を支払う必要はないが、本条の立法趣旨には公平の概念というようなものはなく事業設備の保護ということにほかならないので、相当の対価を支払わしめることとしたのである。
また、平成五年の一部改正において、
実用新案法が実態用件についての審査を経ることなく登録を行う制度に改正されたため、従来、本条において規定されていた実用新案登録が無効理由を有することを知らずに当該考案を実施していた場合に中用権が認められていた、無効理由を有していた実用新案権の権利者(旧二号、四号)、専用実施権者又は登録した通常実施権者(旧五号)に対しては中用権を認めないこととし、当該箇所を削除するとともに、特許権を無効とされた原特許権者等が中用権(通常実施権)を有するのは、その特許を無効とした場合に残された有効な特許権またはその専用実施権者に対してである旨を明確にするための改正を行った。
さらに、平成六年の一部改正により、国際特許出願固有の理由に基づく特許の無効の審判(昭和五三年の一部改正により導入)が廃止されることに伴い、当該箇所が削除された。
なお、平成六年の一部改正において、特許後の異議申立制度が導入されたことにより、付与された特許がその後取り消される場合が生じることとなったが、特許異議の申立ては特許掲載公報の発行から六月という短い期間に行われる手続であり、そのような期間内に本条において保護する必要が生じるほどの事業設備が形成されるという事態は想定しがたいことから、特許後の異議申立てにより特許が取り消された場合における原特許権者に対しては、本条に規定する中用権を認めないこととした(なお、特許後の異議申立制度は、平成一五年の一部改正によって廃止された。)
また、平成一五年の一部改正によって、一二三条一項の審判を特許無効審判と規定する修正を行った。趣旨については一二一条を参照されたい。
[字句の解釈]
1 <審判の請求の登録>いわゆる予約登録である。
2 <特許が一二三条一項各号の一に規定する要件に該当することを知らないで>旧法においては「善意ニシテ」と規定されていたものを現行法においてはこのように改めた。実態は旧法と違うものではない。一二三条は無効審判に関する規定であり、したがって、この語の意味は無効理由に該当することを知らないでという程のものである。(青本第17版)