(特許権者等の権利行使の制限)実意商
第一〇四条の三
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
(本条追加、平一六法律一二〇)
旧法との関係 該当条文なし
趣旨
本条は、平成一六年の裁判所法等の一部改正により新設された規定であり、特許権者等の権利行使の制限について規定したものである。
一項は、特許を無効にすべき旨の審決が確定するまでは、特許権は有効に存続することを前提(一二五条)としつつも、特許無効審判が請求されたならば、当該特許権はその特許無効審判では無効にされることになる旨の抗弁等が侵害訴訟において提出され、その抗弁等の理由があると認められた場合には、そのような特許権に基づく差止請求権等の行使は認めないこととしたものである。
二項は、前述の抗弁の乱用防止の観点から、一項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で却下することができる旨を定めたものである。この規定は、民事訴訟法一五七条と異なり、時機に後れたものでなくても、二、三〇もの明らかに理由のない無効理由を挙げる等して主張される攻撃又は防御の方法については、それが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められる場合には、却下することができることとしたものである。このような特則を設けた理由は、紛争の合理的解決の観点から侵害訴訟において特別に認めることとされた一項の規定に基づく攻撃又は防御の方法について、その濫用的な提出を認めることは紛争の合理的解決という制度趣旨の相反することとなるからである。
なお、この却下決定に対して、独立に抗告するこてゃできない。これは、民事訴訟法一五七条と同様である。
[参考]
<無効審判との関係>特許の有効・無効の対世的な判断は、特許無効審判手続の専権事項であり、特許無効審判の無効判決が確定されるまでは特許は有効として扱われ、裁判所も特許権等の場面ではその有効性を対世的に否定することはできない。他方で、いわゆるキルビー判決(平成一二年四月一一日最高裁判決)は、特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権等の侵害訴訟を審理する裁判所は、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであると認められるときは、その特許権に基づく差止め・損害賠償等の請求は、特段の事項がない限り、権利の濫用に当たり許されない旨判示し、特許権に基づく差止め・損害賠償等の請求を訴訟物とする侵害訴訟における理由中の判断において、無効理由の存在の明白性を判断する限度において、特許の無効理由の存否に冠する裁判所の間接的・相対的な判断の余地を例外的に承認した。
そこで、平成一六年の裁判所法等の一部改正により、特許の有効・無効の対世的な判断は無効審判手続の専用事項であり、裁判所は侵害訴訟の場面では特許の無効理由そのものを直截に判断する権能を有しないという従前の法制の基本原理を前提としつつ、特許制度の特殊性も踏まえ、キルビー判決がその根拠とした衝平の理念及び紛争解決の実効性・訴訟経済等の趣旨に則してその判例法理を更に推し進め、無効理由の存在の明白性の要件に代えて、侵害訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、当該訴訟におけるその特許権の行使は許されない旨の明文の規定で定めることにより、紛争のより実効的な解決等を求める実務界のニーズを立法的に実現することとした。(青本第17版)
最終更新:2009年11月28日 03:02