(損害計算のための鑑定)実意商
第一〇五条の二
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当事者の申立てにより、裁判所が当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な事項について鑑定を命じたときは、当事者は、鑑定人に対し、当該鑑定をするため必要な事項について説明しなければならない。
(本条追加、平一一法律四一)
旧法との関係 該当条文なし
趣旨
本条は、特許権侵害訴訟における損害計算のための鑑定について規定したものである。
特許権侵害による損害額の立証のために必要な事項は、侵害品の販売数量等、侵害者が所持する証拠によらなければ立証できないものであるため、一〇五条において、民事訴訟法の文書提出命令の特則として、損害の計算に必要な書類の提出を求めることができるよう制度上担保していた。しかし、①損害計算のために提出される書類の量は膨大であり、経理・会計の専門家ではない者にとっては、書類の内容を正確かつ迅速に理解することは困難であるとともに、②提出書類が略号表記を含んでいたり、コンピュータ管理された帳簿類の打ち出しデータである場合には、説明を受けることなしにその意味を理解できず、③当事者照会(民事訴訟法一六三条)や鑑定人の発問(民事訴訟規定一三三条)等の制度を活用しても、当事者が説明に応じなければ、書類の内容を理解することは困難である。こうした問題を解決するためには、経理・会計の知識を持った専門家を活用するとともに、当事者を損害の計算に協力させることを有効と考えられることから、当事者は、鑑定に必要な事項の説明義務を負うことにした。
なお、本条において特段の定めがない手続や効果等については、民事訴訟における通常の鑑定と同様であり、民事訴訟法及び民事訴訟規則の規定が適用される。例えば、当事者の申出から、鑑定命令に至るまでの手続は、通常の鑑定と同様に当事者の申出により行い、申出を採用して鑑定を命じるかどうかは裁判所の裁量による。
また、当事者が説明義務に応じなかった場合の制裁措置は設けられていないが、鑑定人より、当事者の説明が得られなかったため十分な鑑定をすることができなかった旨の報告がなされた場合には、最終的には裁判官の心証に影響を与えることもあると考えられる。
[字句の解釈]
1 <損害の計算をするため必要な事項>侵害の行為による損害の計算に必要な相手方当事者の販売数量、販売単価、利益率等であり、当事者双方の意見を考慮したうえで裁判所が決定する。また、鑑定などの基礎となる資料の範囲は、訴訟に任意で訴訟された資料、鑑定に際し当事者より任意で提出された資料等が考えられる。
2 <鑑定をするため必要な事項>鑑定事項の調査に必要な資料の管理状況や当該資料の内容を理解するために必要な事項であり、必要に応じて、関連する補助的な資料を提示することも包含されるものと考えられる。
[参考]
<民事訴訟一般における鑑定との関係>民事訴訟一般における鑑定では、当事者も第三者も鑑定人の鑑定調査を受忍して、これに協力する義務はないとされている。また、鑑定人が裁判所外において鑑定に必要な資料を収集することについて、民事訴訟法及び民事訴訟規則上、明文の規則はない。
平成八年の民事訴訟法の改正において、鑑定人の発問権について新たに規定が設けられ、鑑定人の証拠収集手段の拡充が図られているが、本条の規定は、こうした民事訴訟一般における鑑定の改正と軌を一にするものと位置づけることができる。(青本第17版)
最終更新:2009年11月28日 03:04