旧法との関係 該当条文なし
趣旨
本条は、平成一六年の裁判所法等の一部改正に伴って新設された規定であり、秘密保持命令の発令の要件等について規定したものである。秘密保持命令は、特許権等の侵害に係る訴訟において、営業秘密を含む準備書面や証拠について、当該訴訟の追行の目的以外の目的への使用や訴訟関係人以外の者への開示を禁ずることにより、営業秘密を訴訟手続に顕出することを容易にし、営業秘密の保護及び侵害行為の立証の容易化を図り、併せて審理の充実を図るものである。
一項本文は、秘密保持命令は、当該営業秘密の当該訴訟の追行の目的以外の目的への使用及び当該営業秘密に係る秘密保持命令を受けた者以外への開示を禁止するものであることを規定している。訴訟の追行の目的以外の目的への使用により当該営業秘密に基づく事業活動に支障が生ずる場合としては、例えば、営業秘密を自社の工場で使用し、不特定多数の者がその営業秘密を知り得る状態に置くことにより、その営業秘密の秘密管理性が失われる場合等が考えられる。他方、訴訟追行の目的への使用については、訴訟当事者の防御権を確保するためにこのような使用を認める必要があり、また、正当行為として違法性が阻却されること及び訴訟手続の中で営業秘密が保持されることにより、この行為により営業秘密がその要件を欠く危険性は極めて低いと考えられることから、これを秘密保持命令の対象から除外している。
なお、平成一七年の不正競争防止法等の一部改正に伴って、本項本文に形式的な修正が加えられた。
本項ただし書は、秘密保持命令の申立ての時までに秘密保持命令の名宛人が当該準備書面又は証拠以外の方法で当該営業秘密を取得し又は保有していたものである場合は、秘密保持命令の発令対象とはならないことを規定している。秘密保持命令は、訴訟手続に顕出された営業秘密の保護を目的とするものであり、秘密保持命令の申立て以前に訴訟手続と無関係に取得され又は保有されていた営業秘密については、その知るに至った法律関係の規律するべきところであって、営業秘密を訴訟手続に顕出することを容易にすることは無関係であるから、秘密保持命令の対象とする必要はない。
本項一号及び二号は、秘密保持命令が発令され得るために疎明を要する事項を規定している。
二項は、秘密保持命令の申立てについては、その重要性にかんがみ、所定の事項を記載した書面で行わなければならないことを規定している。
そして、秘密保持命令が発せられた場合には、名宛人の手続保障の観点から、三項の規定により、その決定書を名宛人に送達し、四項の規定により、秘密保持命令は当該決定書が送達された時からその効力を生ずることになる。
また、五項に規定するように、秘密保持命令を却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができるが、秘密保持命令を発令した決定は直ちに確定する。
[参考]
営業秘密が類型的に問題となる訴訟としては、特許権等の侵害又は不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟があるところに、これらの訴訟においては、営業秘密の内容が審理に現れる訴訟の各段階において、自己の営業秘密の保護のための訴訟活動自体によって営業秘密の非公知性・秘匿性が失われ、その価値を失う危険に直面することになる。仮にこのような危険を放置するとすれば、営業秘密が問題となる知的財産の侵害に係る訴訟において、当事者の訴訟活動はこれによる制約を受け、適正な裁判が実現できなくなるおそれがある。このような観点から、平成一六年の裁判所法等の一部改正においては、本条を含めた以下の各手段を導入し、これらの手段の組合せにより、営業秘密の保護及び適正な審理の確保を図ることとした。
(1)秘密保持命令の整備(一〇五条の四から一〇五条の六)
(2)インカメラ審理手続の整備(一〇五条三項)
(3)公開停止規定の整備(一〇五条の七)
(1)及び(2)については、
特許法のほか、
実用新案法、
意匠法及び
商標法(特許法の準用)に加え、不正競争防止法及び著作権法に所要の手当てを行った。また、(3)については、特許法及び実用新案法(特許法の準用)に加え、及び不正競争防止法に所要の手当てを行った。(青本第17版)